人事評価制度を専門に取り扱っている会社から、「今の中小企業は五重苦の状態」と教えていただきました。①人手不足、②賃上げ、③時間外労働の規制、④労使紛争の激化、⑤社会保険料の負担増の5つとのことです。
目次
人手不足
最近、顧問会社様とお話をしていると「人手不足」の話がよく出ます。
「採用の段階で見極めるのが大事なんだけど、うちの業界は人手不足なのでどうにもならない」という話です。
日本は人口減少社会ですし、また、外国人が働くことにも一定の規制がありますので、今後も人手不足の問題が解決する見通しはありません。
深刻な問題です。特に、日本の法律は一度採用した従業員を辞めさせることは非常にハードルが高いので、会社にとって一層問題は深刻になってきます。
当事務所でも、様々なシステムの導入をしたりすることにより生産性の向上に取り組んでいます。
具体的には、キントーン、チャットワーク、ラインワークス、BOXなどを導入し業務効率を上げる努力を継続しています。
中堅企業・中小企業の人手不足の問題は今後解決する見通しはありません。各企業が努力するしかない問題なのかもしれません。
賃上げ
同じく、顧問会社から「賃上げ」の話がよくされることがあります。
賃上げをしないと採用できない、辞めてしまうというご相談です。賃上げをしても商品・サービスの値上げができないと会社がつぶれてしまいます。
この前、「商品の値上げ交渉がうまくいった」話を顧問会社の社長から聞きました。様々な業界でも値上げの話が出てきています。
今後、「便利さ」「安価」「スピード」等に過度にこだわる社会の風潮が変わっていくとよいと思います。
なお、一度上げた給与を下げることは法律上極めて困難です。給与を上げる場合には「今後下げることはない」という覚悟を持って上げましょう。
時間外労働の規制
時間外労働については、残業代の支給、残業の上限規制、労災対策など様々な対策が求められます。
「そんなことやっていたら会社がつぶれてしまう」というのが本音の経営者の方もいるかとは思いますが、法規制がある以上、法律を守るしか会社には選択肢はありません。
特に、長時間労働に支えられていた業種・業界の方には厳しいところです。
特に、2020年4月以降は残業代の時効が2年から3年に変更となっています。そのため未払残業代請求をされた場合、今まで以上に高額の支払を会社は支払うこととなってしまいますので要注意です。
労使紛争の激化
私が弁護士になった2001年当時、今のように残業代・解雇・セクハラ・パワハラ・長時間労働を原因とする労災という事件は今ほど多くなかったのではないかと思います。
今は、個別の請求をめぐる労使紛争が増えていますし、すぐに裁判・労働審判という流れになってきています。「信頼関係」「家族のような関係」は通用しなくなってきています。
例えば、解雇をめぐるトラブルだと、裁判で2年位争った結果会社が負けた事案の場合、2年分の給与を会社は支払うこととなってしまう確率が高いです。月給40万円の社員だった場合、40万円×24カ月=960万円の支払義務が発生してしまいます。
また、多数の従業員が労働組合に加入し団体交渉を申入れしてくるような場合、会社の存続すら危ぶまれる状態となってしまうこともあります。
いずれにしても、会社・経営者と社員が一丸となって会社を正しい方向に進めていくことが重要となってきます。
社会保険料の負担
本来社会保険料を負担する義務がある場合であっても以前であればある程度甘めに役所が見てくれた時期もありました。
しかし、今はそのような時代ではありません。社会保険料の負担は企業規模や業態にもよりますが、会社を倒産させかねない金額となってきます。
まとめ
立場によって意見は変わってきますので、「人手不足で採用されやすくなった」「賃上げで給与が適正水準になった」「サービス残業させないのが当たり前」「労使紛争の激化と言ってもルールを守っていなかった会社が悪いに決まっている」「社会保険に加入するのは当たり前」という意見も当然あるとは思います。
私が弁護士として強く思うのは、従業員の問題を経営者が相談する場合には、経営者の立場をよく理解した弁護士に頼まないと全く的外れな答えが返ってきてしまうということです。皆様の弁護士選びの参考にしていただければと思います。
(文責:大澤一郎)