Q. 当社は、資本金一億円の機械メーカーです。当社では、部品の一部をA社に委託していますが、昨今の原材料費の高騰のため、外注コストの削減を図らざるをえない状況です。
そこで、A社に対して値下げの要請をしようと思いますが、何か問題が生じる可能性はありますでしょうか。
A. 値下げ要請をすること自体がただちに問題となることはありません。しかし、A社の資本金額、A社との値下げ交渉の経緯、値下げの理由、値下げの金額などによっては、下請法違反となる可能性があります。
1. 下請法とは
正式には下請代金支払遅延等防止法といい、優越的な地位を有する親事業者と取引をする下請事業者の正当な利益を保護する趣旨で制定されています。
同法が適用されるのは、資本金で区分されており、例えば親事業者の資本金が1千万円超3億円以下の場合は下請事業者は資本金1千万以下の場合が適用対象とされています。
そして、その対象は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託等に適用されます。
なお、建設業の下請取引については、建設業法において下請事業者を保護する同種の規定が定められています。
2. 同法で禁止されている行為および不利益
同法では下請代金の支払期日について親事業者が下請事業者の給付を受領した日から60日以内でできる限り短い期間内に定めることや、親事業者において委託時の書面交付義務等が定められています。
また、親事業者に対して、下請業者からの給付を不当に受領拒否することの禁止、代金支払遅延禁止、代金減額禁止、不当な返品や買いたたきの禁止、下請事業者に対する物の購入強制・利用強制・報復行為等などを禁止ししています。
これらは、仮に下請事業者の合意があったとしても、その内容が同法に抵触していると判断される場合には、違反行為とされる可能性が高くなります。
そして、同法違反が疑われる行為については、公正取引委員会が、事業者に報告をさせたり、事業者に立ち入り帳簿書類等を検査したりします。
そして、公正取引委員会が違反があると判断した場合には、事業者に対して是正するよう指導したり勧告・公表したりすることができます。そして、違反行為については、50万円以下の罰金刑も規定されており、違反した事業者に対して様々な不利益が課せられる可能性があります。
3. 対処方法
本件において違法な買いたたきとされるのは、値下げ後の代金が通常支払われる対価と比べて著しく低い金額とされる場合等です。
そして、それは、代金の金額決定にあたり、双方で十分な協議が行われたかどうか、当該取引地域において一般に支払われる対価との乖離状況、原材料費の高騰の程度や推移、価格決定が一方的意思になされていないかどうか等の各事情を総合考慮して判断されることとなります。
そのため、例えば、親事業者の予算単価のみを基準としてほぼ一方的に値下げ決定がなされたり、一部の下請業者のみを差別的に扱い価格を下げたような場合は、違法とされる可能性が高いと思われます。
一方、値下げ要請が合理的な範囲内のもので、かつ妥当な方法で下請事業者の合意のもと値下げ決定された場合は、問題となる可能性は低いと考えられます。
4. まとめ
このように、下請法違反とされないためには、複数の事情を考慮しながら下請事業者にとって不当な取引とならないように十分に配慮しながら取引を行う必要があります。
そのため、社内においても、一部の方だけでなく担当者の方にも下請法の内容を周知するなど下請法について十分に理解をしていくことが重要です。
また、個別具体的な場面では、微妙な判断をしなければならない場面も想定されますので、下請取引について社内で責任者を置いたり、定期的に内部監査を行うなどの対応をとることも有用です。
親事業者と下請事業者は、共同して仕事をする関係にありますので、日ごろからコミュニケーションを密にして、互いに協力しあいながら仕事をしていく関係づくりを日々していくことが、長期的にみると双方にとって一番メリットがあると思います。
(監修者:弁護士 小林義和)