従業員メンタルヘルス不調それに関わる法律問題について

食欲の秋ですが、私は最近食べすぎてしまっているようで、つい先日スーツを購入しようと買い物に出たところ、採寸をしてくれた店員さんにお腹周りがきついので、生地の限界ギリギリまでウエストを広げるよう勧められてしまいました。猛省です。他方、秋になると、何となく物寂しい気分になり食欲などが落ちてしまう方がいるようです。季節の移り変わりによって日照時間が減ることが原因のひとつとも言われているようですね。

そこで、今回はメンタルヘルスの不調とそれに関わる法律問題についてお話しさせて頂こうと思います。

1. 精神疾患と労災

長時間労働や職場のパワハラなどが原因で労働者の方が精神疾患を抱えてしまった場合、一定の基準を満たすことで、いわゆる「労災」となることがあります。 労災であると認められると、会社としては以下のようなリスクが発生してしまいます。

  1. 原則、治療のために休業する期間及びその後30日間は解雇することができなくなる。
    • ※治療が長期間にわたる場合には、一定期間経過後、労災から特別の給付が出たことや会社が一定の補償(「打切り補償」)を支払うことで解雇が出来るようになる場合があります。
  2. 精神疾患となったことについて、労働者が会社に責任があるとして損害賠償請求をする可能性やそれが訴訟となった場合に会社側が敗訴する可能性が高まる。
    • ※労災が認定されると国から一定の給付があります。しかしながら、多くの場合、その給付だけでは法律上労働者が補償されるべき金員全額までには及ばないため、その不足額について、労働者やその遺族が会社へ損害賠償を請求してくることがあります。
    • もっとも、労災認定された場合には必ず会社が損害賠償をしなければならないわけではなく、会社がその義務を負うには、労災の認定に加えて、精神疾患を発症したことについての会社の落ち度(恒常的な長時間残業をさせていたなど)が必要にはなります。

厚生労働省のHPなどをご覧頂くとわかるのですが、ここ数年、精神疾患の労災申請や労災認定件数が飛躍的に増加しております。会社で精神疾患の労災が出た場合の会社への金銭的、時間的、社会的ダメージは計り知れませんので、このリスクは無視できません。

中でも、長時間労働により精神疾患を発症したと主張されている場合は、タイムカードなどの証拠が残りやすく、労災の認定基準も労働時間を計算する方式の比較的客観的なものであるため、パワハラなどが原因と主張されている場合よりも、より認定のリスクが高いと一般的にはいえると思います。

2. メンタルヘルスの不調と休職・復職

労災の申請件数等が増加傾向にあることは事実なのですが、実際のところ、他の労災と比べると、精神疾患の労災認定基準はまだまだ厳しい部分も多いので、精神疾患になったからといって必ずしも労災認定されるわけではありません。また、労働者が会社との関係悪化などをおそれ、労災申請を断念してしまうこともあると思います。そのような場合、会社の休職制度を利用して治療に専念することが多いでしょう(「私傷病休職」)。

休職制度の内容が就業規則などできちんと決まっていれば良いのですが、実際は不明確な場合も多く、体調が回復して元気になってきた休職中の従業員と会社が休職期間や休職中の待遇(賃金・社会保険料負担・復職方法等)などを巡ってトラブルとなることも多いです。

休職に入る前にきちんと書面で条件などを取り決めておく必要があります。

また、労働者から精神疾患が治ったとして復職を可とする主治医の診断書が出てきた場合、復職を認めるか、そして、どのような手順で復職してもらうかも悩ましいところです。

法律上は、主治医が復職可と判断したからといって必ず直ちに復職をさせなければいけないわけではありません。会社としても主治医の判断に疑問を感じるのであれば、その判断理由を医師に直接確認したり、他の医師の意見を聴くなどして慎重に検討する必要があります。ここの判断を誤って復職を認めないと労働者から働けない分損害賠償請求をされるリスクがありますし、他方で、安易に復職を認めれば、復帰先の職場をかえって混乱させてしまうリスクもあります。復職の判断は極めて専門的かつ難解ですので、顧問の社労士や弁護士などに相談の上、会社の実態に応じて適切に判断する必要性が高いといえるでしょう。

3. まとめ

一定の事業規模の会社には「ストレスチェック制度」が始まりますし、「ブラック企業」の報道が連日なされ、世間の注目を集めています。昨今の状況からすると、会社として労働者の精神疾患にどう対応するかをきちんと決めておかなければ、いざというときに対応を誤り、会社が重大な危機に陥る可能性も否定できません。関与先や自社においてこの点の検討を改めてして頂けると幸いです。
(文責:弁護士 三井伸容)