Q. 先月、夫が亡くなりました。夫は、会社を経営していたため、会社の債務を連帯保証していると思いますが、私は会社のことはわからないため夫の債務がどのくらいあるのかわかりません。

そこで、相続放棄も検討しているのですが、何か気を付けるべきことはありますでしょうか?.

A. 民法921条では、相続人が相続することを承認する意思をもっていなくても、相続することを承認したとみなされる行為が列挙されています。

本条にあたる行為をしてしまうと、たとえ相続放棄をしたいと思っても、相続放棄が認められなくなってしまいますので注意が必要です。

また、相続放棄が認められた場合でも、不動産等がある場合は、その管理義務を負い続ける可能性もありますので、その点も注意もが必要です。


1. 相続放棄とは

民法915条では、相続人は自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、相続について単純もしくは限定承認または放棄をしなければならないと規定しています。

そして、相続放棄については、同938条で家庭裁判所に申述しなければならないと規定されています。

そのため、相続財産・債務の調査をした結果、相続放棄することを決断された場合は、原則として被相続人の死亡を知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。

ただし、調査に時間がかかる場合等は、3か月の期間を延長も家庭裁判所を通じて認められることがあります。相続放棄をすることで、プラスの財産は承継できませんが、負債等のマイナスの財産も免れることができることとなります。

2. 相続放棄が認められないとき

相続人が相続放棄することを希望しても認められない場合があります。例えば、被相続人が死亡したことを知ってから3か月経過してしまうと、原則として相続放棄は認められません。

ただし、3か月以内に相続放棄をしなかった理由が、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、3か月が経過しても相続放棄が認められる可能性があります。

また、民法921条では相続放棄が認められなくなる一定の行為が列挙されています(法定単純承認)。例えば、遺産分割協議をする、売掛金などの請求をするといった相続財産についての処分行為をすると、相続することを承認したとみなされてしまい、相続放棄を希望してもできなくなってしまいます。

3. 相続財産の管理義務

民法940条では、相続放棄をした人も、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならないと規定されています。

相続人全員が相続放棄をした場合で、例えば被相続人名義の不動産があり、その不動産の庭の草木や家の塀等が周囲に迷惑をかけていたり危険な状態になっている場合には、その管理責任を相続放棄した相続人が負わなければならない可能性もあります。

4. まとめ

家庭裁判所に相続放棄の申述をすると、家庭裁判所が一定の要件を満たしていると考える場合は、その申述を受理します。

ただ、家庭裁判所に受理された場合でも、家庭裁判所が行う審理には限界があるため、相続放棄が無効だとして争われる可能性は残ります。

また、上述しました法定単純承認とされる処分行為については、例えば、相続放棄をする人が、生命保険や死亡退職金を受け取ってもよいのか、葬儀費用や法事の費用を遺産から支出してもよいのかどうか等、行為やその金額等によっては見解が分かれる行為もあります。

そのため、相続放棄をされる可能性がある場合は、まずは遺産に一切手をつけずに、相続財産・債務の調査を先行して行うことが安全です。また、もし迷われたら弁護士に早めにご相談に行かれることも有用かと思います。

(監修者:弁護士 小林義和

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