Q. 最近、1年前に採用した従業員と職場内でトラブルになりました。

今後は、採用した後のトラブルを避けるためにも、採用面接でいろいろ質問したいと思っていますが、聞いてはダメなことはあるのでしょうか?

A. 企業には、誰を採用するかについて採用の自由があります。そのため、採用の可否を判断するために質問等をすることは許されています。

ただし、無制限に質問等ができるわけではなく、採用の可否を判断するため必要といえない質問は、違法となることがあります。


1. 採用の自由と調査の自由

人を採用することは、企業経営にとって最も重要な事項の一つです。

そのため、企業は労働者を採用するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件で雇うかについて、原則として自由に決定できます(採用の自由)。

そして、採用の可否を判断するため、求職者に関する情報についても、広い範囲での収集が認められます(調査の自由)。

2. 調査の制限

(1) 採用の可否を判断するために、企業には調査の自由はありますが、求職者に採用と関係のない事項まで無制約に質問等をしてよいわけではありません。

法律の諸規定も踏まえたうえで、採用の可否を判断するために必要とはいえない質問は控える必要があります。

(2) 職業安定法

職業安定法では、求職者の個人情報を収集するにあたっては、原則としてその業務の目的達成に必要な範囲内で情報収集・保管・使用しなければならないと規定されています。

また、職業安定法指針では、①人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項、②思想及び信条、③労働組合への加入状況といった事項については、業務の目的達成に必要不可欠であり、収集目的を示して本人から収集する場合を除き、原則として収集してはならないとされています。

(3) 男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法では、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならないとされています。

そして、指針では、採用面接に際し、女性に対してのみ、結婚の予定の有無、子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無等一定の事項について質問することは、男女雇用機会均等法5条により禁止されるとされています。

また,このような事項を質問することは、就業上の能力というよりも個人的なプライバシーにかかわるものと言える可能性が高いため,男女限らず質問自体を控える必要もあるかと思います。

3. 具体的な質問事項

では、求職者に対して健康状態・病歴・既往症や経歴・職歴・前職の退職理由等は質問してもよいのでしょうか。

個人情報保護法の関係では、利用目的を公表等し、本人の同意を得ておけば、聞くこと自体が違法となるわけではありません。

そして、健康状態・病歴・既往症については、入社後の就労に耐えうるかどうかを判断するために必要なことがあります。

特にメンタルヘルスの既往症がある場合、入社後に、仕事の内容によっては様々なトラブル(労災、休職、他の従業員との衝突等)が発生して業務遂行が困難になってしまうこともあるでしょう。

また、経歴・職歴・前職の退職理由については、入社後の仕事遂行のために必要な能力、経験を把握するのに必要であり、当該求職者の職場への定着可能性を把握するのにも重要なこともあります。

ただし、病歴・既往症等は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当するような特にセンシティブな情報ですので、その取得に際しては、業務の目的達成に必要不可欠であることを前提に、収集目的を示して本人から任意に提供を受けるのがよいでしょう。

4. まとめ:事前に社内での精査をおすすめ

企業にとって、誰を採用するかということは非常に重要な問題です。一方、求職者にとっても合わない業務内容を行うことは好ましいことではありません。

そのため、ミスマッチを防ぐためにも企業が様々な質問等を行ったうえで採用の可否を判断することは重要です。

しかし、採用の可否に必要とはいえないことまで質問してしまうことは違法となるおそれがあります。

また、現在の情報社会では、採用面接で聞かれたことがSNS等でアップされて拡散され、企業の評判が下がり、採用活動に支障が出てしまうおそれもあります。

そのため、採用でどのような事項を調査するのか、事前によく社内で精査することが重要です。

(監修者:弁護士 小林義和

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