こんにちは!! 弁護士の三井です。
弊所は以前から比較的多くの労働事件(会社と従業員の方との間のお仕事に関するトラブル)を常時扱っております。
そこで、今日は、過労死の問題と基礎知識についてお話しさせて頂こうと思います。ご参考になれば幸いです。
平成28年10月、大手広告代理店において再び過労死の事件が起き 大きなニュースになりました。この広告代理店では過去にも過労死事 件が起きており、労働事件を扱う弁護士なら知らない人がいないような有名な裁判所の判決があります。私自身も同種の事件で遺族の方のお話を伺うことなどもありましたので、このニュースを聴いたときは「またこのような事件が起きてしまったのか。」と非常に悲しい気持ちになりました。過労死の問題は、皆様がお仕事で取り扱われている労災事故に関する保険とも関連するものであり、今後お客様からの問い合わせやご質問などがあるかもしれません。今回は少々重いお話にはなってしまいますが、「過労死」についての少々詳しいお話をさせて頂きたいと思います。
1. そもそも「過労死」って何?
組織や団体などによって定義に差はありますが、一般に「過労死」というと、長時間労働や他の原因による心理的・身体的負荷の多い業務により、①労働者が脳・心臓疾患で突然死することや、②過労のあまり精神疾患を発症して自死に至るケースを呼ぶことが多いです(前者との区別のため、後者については「過労自殺」などと呼ぶことも多いです。)。
法律の世界で「過労死」と呼ぶには、基本的に「労災」であること、すなわち業務上の負荷が原因といえることが前提になります。
一般的には、「労災」というと、建設作業中の落下事故や、工場での機械操作中の事故によるケガなどが比較的イメージしやすいとは思いますが、上記のような疾患であっても一定の基準を満たせば「労災」として取り扱われることがあるのです。
労働者が亡くなられたことについて、その遺族が過労死であると考えれば、労働基準監督署に様々な労災保険給付の申請をし、同署が過労死であると認定すれば、葬儀費用や遺族の生活補償などの労災保険給付が受けられることになります。
2. 過労死・過労自殺の近時の傾向
過労死等の労災の申請件数と認定件数について、厚生労働省は毎年統計を発表しています。平成27年の直近のデータは概要以下のような内容です。
- (1)脳・心臓疾患(うち死亡の件数)申請件数283件 うち認定件数96件
- ※認定が多い業種が道路貨物運送業、認定が多い世代が40代~50代。
- ※1か月平均の時間外労働時間数別の認定件数をみてみると「80~100時間」が49件と1番多く、また「100時間以上」の合計は40件となる。
- (2)精神疾患(うち未遂も含む自殺案件)申請件数199件 うち認定件数93件
- ※認定件数が多い業種は道路貨物運送業。認定が多い世代は20代~40代。
3. 過労死が起きた場合の会社のリスク
過労死について労災認定が下りた場合、必ずしもそれだけで問題は解決しません。事業者側に何らかの落ち度(長時間労働やパワハラを知りながら適切な対策をしなかったことなど。もちろん、具体的な状況や程度により結論は変わります)がある場合、労災からの給付だけでまかなわれない損害(慰謝料など)を、事業者がさらに損害賠償しなければならない場合があるからです。
この場合に事業者が請求される損害額は、数千万円以上になることが多く、総額1億円を超えることも決して珍しくはありません(事案によっては、会社のみならず、社長や直属の上司などの個人も被告に加えられて損害賠償請求がなされることがあります)。
このような請求が遺族からあった場合、労災保険とは別に、上記のような事業者の損害賠償責任を補償してくれる民間の保険に加入しているかどうかで大きな違いが出ます(支給の条件や支給内容が保険によって異なりますので、保険に加入する際にはその内容をきちんと確認することが必要です)。
4. 最後に
有名企業などで痛ましい過労死事件が頻発していることから、現在、国を挙げて過重労働対策が行われています。また、全国各地で過労死に係る裁判も起こされています。この度の事件で、よりこの流れは加速するはずです。もちろん、過労死が起こらない職場環境にすることが何より重要ですが、万が一に備えて上記のような保険に入ることも重要です。このような保険は会社を守るという意味だけではなく、むしろ会社の資力に関わらず遺族にきちんとした補償を支払い得るところにも大きな意味があると思います。
可能であれば、既存顧客の事業者様や、これから新規事業を始められる事業者様に対し、このようなご保険を一度ご検討頂けると幸いです。
(文責:弁護士 三井伸容)