皆様こんにちは!弁護士の三井です。
新年度に入り、いかにも新入社員と思われる雰囲気の方を通勤時間によく目にしていましたが、最近はそのような方を見ることも減ったような気がします。
そろそろ入社してしばらく経つことから、良くも悪くも新入社員の方々の緊張が和らいでくる時期であり、色々と問題が出てくる時期ともいえるかもしれません。多くの企業では,入社後数か月程度の試用期間を設けていることが多いと思いますが、今回はしばしば問題となる「試用期間と本採用拒否」の問題についてお話したいと思います。
1. 試用期間中と本採用の拒否について
「試用期間中に問題が生じても、本採用を拒否すればよいだけなので簡単にやめさせられる。」といった誤解をされていることが間々あります。実務上、確かに試用期間における本採用の拒否は、通常の「解雇」よりはハードルが低いとされてはいるのですが、性質上は解雇とほぼ同様のものであり、単なる不採用のように比較的自由にできるものではないとされていますので注意が必要です。
通常の場合、「試用期間」は、採用段階では採用者の適格性などを十分に判断することが困難なため、後日の調査などによる最終の採用決定を留保するという趣旨の制度であると考えられています。
そして、本採用の拒否が許されるには、採用決定後における調査の結果により、または試用期間中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らし、その者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが、解約権留保の上記趣旨目的に照らして、客観的に相当であることが必要とされています(三菱樹脂事件・最高裁昭和48年12月12日判決)。
試用期間における本採用拒否のハードルは、解雇より低いとされていますが、後述するとおり、実際はそこまで容易でなく、有効かどうかの判断が非常に難しいものとなっています。
2. 入社後に社員の能力不足が発覚!?
実は、試用期間中に社員の能力不足がわかったとしても、簡単には本採用の拒否はできません。一般的には、今後教育訓練、指導を続けてもなお改善する見込みがないといえる客観的な根拠が必要となります。通常の解雇の場合でも、能力不足を理由とする解雇はハードルが高く、その効力が裁判所で否定される事案も多いので、それに近いかたちになります。
十分な客観的根拠がないにもかかわらず安易に本採用拒否を強行してしまえば、拒否された社員からその効力を裁判などで争われる可能性があります。最悪の場合には、本採用拒否が無効と判断され雇用関係が継続していたことになる結果、給与の何年分もの金銭の支払いを命じられるリスクがあるのです。
3. 入社後に経歴詐称が発覚!?
それでは、入社後に経歴詐称が判明した場合はどうでしょうか?
参考として過去の裁判では、以下のような事例があります。
経歴詐称のケース(大学中退の経歴を詐称して高卒として入社)
上記のように経歴を詐称した港の作業員の事例では、募集段階で大卒者は排除される旨の明確な記載がなく、また業務の性質上、学歴がさほど関連しないこと等から、会社の解雇は無効とされました。
前の会社とのトラブルを抱えていることを秘匿したケース
以前退職した会社から解雇され、その会社と訴訟中であること秘匿していたことを理由に本採用拒否をされた事案です。この事案で裁判所は、本採用拒否の場面では通常の解雇よりその有効性を緩やかに判断すべきだとしたうえで、前の会社の勤務の事実や解雇の事実を隠したことは、重大な経歴詐称にあたるとして、本採用拒否を有効としました。
これらの事例からわかるのは、業務の内容との関係で、その適性や能力に疑問が生じる経歴や、社内の秩序維持や信頼関係の構築に照らして重大な支障が生じうるような経歴の詐称が発覚した場合であれば、本採用拒否が有効とされる可能性があることです。 したがって、「経歴詐称すなわち即解雇」とするのではなく、募集の際の条件や詐称した内容に照らして慎重な判断をすることが必要となります。
4. 最後に
最近は、一般の方が法律知識を得る機会も増え、弁護士への依頼のハードルも低くなっています。新入社員との関係では、信頼関係の構築もまだ不十分な場合も多いと思われますので、本採用拒否に会社の落ち度があれば徹底的に争われる可能性もあります。
経験上、従業員の退職の場面は非常にトラブルが生じやすいタイミングのひとつになりますので、慎重にご検討及びご対応頂けると幸いです。
(文責:弁護士 三井伸容)