Q. さきほど当社に取引先の社長が来ました。取引先の社長からは、当社の営業担当と通常の取引と思って契約をして入金したのに、実際は商品を受け取っていなかったことがわかったと言われました。そして、その従業員から金銭をだまし取られたので賠償して欲しいと言われました。当社としてはどうすればよいのでしょうか?また、取引先の社長がおっしゃることが事実だった場合、当社は責任を負うのでしょうか?

A.事実であれば、当該従業員が責任を負うことはもちろんですが、会社や取締役も民事上の損害賠償責任を負う可能性も出てきます。また、関与者は刑事上の責任も負う可能性があります。そのため、まずは事実かどうかの調壺を慎重にすすめる必要があります。


1. 調査方法

調査については無用な混乱を防止し、証拠隠滅をされないようにするため、調査担当者を限定するなど可能な限り秘密裏かつ迅速に行う必要があります。

そのため、まず当該従業員の業務内容や実際の行動を具体的に把握し十分に理解することが重要です。

その上で、証拠の収集を開始しますが、まずは契約書等の関連資料やサーバー上の電子メールデータ等、当該従業員に認識されずに確保できる証拠から収集をすべきです。

その後、当該従業員が業務上使用しているパソコン、携帯電話、手帳、メモ等の調査を検討することになります。

またタイミングをみて関係者のヒアリングも開始しますが、その際には、陳述書など書面の形で残しておくことが重要です。

そして、嫌疑が相当程度固まった段階で、当該従業員自身へのヒアリングを行うことになります。その際に陳述書を作成し、その場で署名を求めることが望ましいです。

その場で署名を求めないと後で連絡がとれなくなったりする場合もありますので、注意が必要です。

なお、従業員のプライバシーの問題については、調査の必要性があり、最小限の範囲に調査をとどめるなど相当な態様でなされたものである場合は、企業に不法行為が成立しないとした裁判例もあります。

また、あらかじめ社内規定等で決めておくことも有用です。

2. 会社・取締役の民事上の責任

まず、会社は民法715条1項の使用者責任に基づき損害賠償義務を負う可能性があります。

使用者責任の趣旨は、会社が従業員の事業活動によって利益をあげている以上従業員が第三者へ損害を与えた場合も責任を負担すべきであるという点にあります。

そして要件としては、従業員の不正行為が会社の事業の範囲内であり、かつ、当該従業員の職務の範囲内に含まれることとされています。

この職務の範囲内かどうかは、その行為の外形からみてその範囲内にあたるような行為であれば、要件を満たす可能性が高いです。

また、取締役については、故意に計画・指示等をした場合は当然責任を負いますが、過失がある場合も、取締役は善管注意義務を負っていますので、個人で損害賠償責任を負う可能性もでてきます。

3. 刑事上の責任

当該従業員は詐欺罪(刑法246条1項)で刑事責任を負う可能性がありますがそれを計画・指示等をした上司等も共謀共同正犯や教唆犯として刑事責任を負う可能性があります。
さらに、パワハラ等により当該従業員を追いこみ、従業員に不法行為を事実上強要したといえる場合にも同様に刑事責任を負う可能性があります。

4. まとめ

従業員による不正・違法行為が疑われる場合は事実関係を把握した上で、当該行為を辞めさせ、内部的・外部的に適切な対応をとることは、損害拡大を防ぐだけでなく、 企業としての信用を維持する上でも極めて重要です。

最近ではアメリカンフットボールの事件が紙面を賑わしていますが、会社におきかえると、従業員が不法行為をした場合として、他人事には聞こえないかもしれません。

きちんとした初期対応をとるためにも、日頃から不正・違法行為がなされないように企業風土を含んだ対策をとるだけでなく、専門家と相談しながら実際に発覚したときの対応方法についても事前に決めておくことが有用です。

(監修者:弁護士 小林義和

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