こんにちは!! よつば総合法律事務所の根來です。
弊所は以前から比較的多くの労働事件(会社と従業員の方との間のお仕事に関するトラブル)を常時扱っております。

そこで、今日は、「お釣りを多く渡されてしまった」についてお話しさせて頂こうと思います。ご参考になれば幸いです。


スーパーやコンビニで、500円の物を買うために1000円札で支払ったところ、レジ係の方が5000円札と勘違いし、4500円をお釣りとして渡されてしまった・・・。損保代理店の皆さまでしたら、当然、「お釣り間違ってますよ」と告げて、正しいお釣りを受け取っているものと思います。

しかし、「ラッキー♪♪」と受け取ってしまう方も世の中にはいらっしゃるようです。「これって、釣銭詐欺って言うんじゃなかったかな?犯罪じゃないかな?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

釣銭詐欺とはどんな犯罪なのでしょうか。損保代理店の皆さまが釣銭詐欺に巻き込まれることのないよう、確認をしてみたいと思います。

1. そもそも詐欺罪とは?

刑法246条1項は、詐欺罪について、「人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。」と定めています。「人を欺いて財物を交付させた」とは、「欺罔行為により、相手方が錯誤に陥り、錯誤によって相手方が処分行為を行い、それによって財物が交付され、財産的損害が生じた場合」を意味しています。

つまり詐欺罪は、相手を騙した結果、相手が勘違いし、財産を交付させた行為を罰する犯罪なのです。

そして「騙す行為(欺罔行為)」とは、「取引の相手方が真実を知っていれば財産的処分行為を行わないような重要な事実を偽ること」を言うとされています。

2. 不作為による騙す行為(欺罔行為)

「ただ黙ってお釣りを持って帰っただけなのであり、積極的に騙していないのだから、相手を騙す行為(欺罔行為)というものを行っていないのではないか?」と感じた鋭い方もいらっしゃるかもしれません。釣銭詐欺において、「騙す行為(欺罔行為)」は行われているのでしょうか?

確かに、釣銭詐欺では、多く受け取ったお釣りを黙って持ち去っただけなので、なんら「騙す行為(欺罔行為)」は行われていないとも思えます。しかし、「騙す行為(欺罔行為)」には、言葉による方法や動作による方法だけでなく、不作為(社会的に期待された行為を行わないこと)による方法も考えられます。

「不作為による騙す行為(欺罔行為)」を行ったと認められるためには、既に相手方が錯誤に陥っていることを知り、法律上の告知義務があることを知りながら、真実を告知しないことが必要です。

つまり、相手に勘違いが生じており、勘違いを指摘する義務があることを知りながら、勘違いを指摘しなかったことが必要となります。

3. 信義則上の告知義務

では、釣銭詐欺において、「不作為による騙す行為(欺罔行為)」は認められるのでしょうか。

レジ係の方は、支払われた金額やお釣りの額を勘違いしてしまっています。

受け取った側は、信義則上、お釣りが多いことを告知する義務を負っています。「信義則」とは、相互に相手の信頼を裏切らないようにすることを求めるものです。お釣りを多く受けった人は、レジ係の方に対し、信義則から、お釣りが多い旨を告知する義務を負うのです。

すると、「お釣り間違ってますよ」と指摘をしなかった場合、勘違いを指摘する義務があるのに、勘違いを指摘しなかったこととなります。

よって、「不作為による騙す行為(欺罔行為)」を行ったこととなります。そのため、詐欺罪が成立することになります。

4. お釣りを受け取ってしばらくしてからお釣りが多いことに気付いた場合は?

では、お釣りを受け取った時点ではお釣りが多いことに気付かず、店を出るなど、お釣りを受け取ってしばらくしてからお釣りが多いことに気付いたが、指摘に戻るのも面倒なのでそのまま貰ってしまった場合、詐欺罪は成立するのでしょうか。

お釣りを受け取った時点ではお釣りが多いことに気付いていない以上、受け取った側が、信義則上、お釣りが多いことを告知する義務を負うことはありません。すると、「騙す行為(欺罔行為)」によりお釣りを取得したわけではありませんので、詐欺罪は成立しません。

では、なんの罪にも該当しないのでしょうか。そんなことはありません。多く渡されたお釣りを自分のものにしてしまったとして、占有離脱物横領罪(刑法254条)に該当することとなります。

5. 最後に

「たかがお釣りくらいで」と、侮ることはできません。釣銭詐欺で逮捕された事例も存在します。損保代理店の皆さまであればなんら心配はないと思いますが、念のため注意をいただきたいと思います。

釣銭詐欺、電気窃盗等、世の中にはたくさんの犯罪に関する言葉が流布しています。分からない言葉があれば、お気軽に弁護士までご相談をいただければと思います。

(文責:弁護士 根來真一郎