Q. 数か月前に、母が亡くなりました。私には兄弟がおりますので、母の遺産分割について49日法要が終わってから兄弟で話し合いましたが、うまくいっていません。葬儀等の費用は私が負担しましたが、相続債務の弁済もありますし。10か月の相続税申告期限もしばらくすると来てしまいます。このまま話し合いがうまくいきませんと母の預貯金をおろすことができす資金面が心配ですが、どうすればよいでしょうか?

A. 相続税申告期限までに遺産分割の話がまとまり預貯金をおろすことができればよいですが、兄弟間で遺産分割の話がまとまらない可能性もあります。今回の民法相続分野の改正では、他の相続人の同意がなくても、単独で一定金額の預貯金については払戻しを受けることができるようになりました。今回は、預貯金の仮払い制度について解説させて頂きます。


1.改正の趣旨

平成28年12月19日の最高裁判決で、預貯金も遺産分割の対象になるとされました。そのため、遺産分割が成立するまでの間は、相続人全員の同意がない限り、相続人が単独で金融機関から預貯金の払戻しを受けることができなくなりました。

相続人間で遺産分割協議がうまくいかない場合、金融機関から預貯金の払い戻しを受けるためには、家庭裁判所に対して遺産分割調停・審判申立てを前提として預貯金債権の仮分割の仮処分申立をする必要がありました。

しかし、裁判所での手続となるため、その要件を満たす必要があるだけでなく、時間・手間等もかかり、葬儀費用、相続債務の弁済等の資金、相続税の納税資金等のための迅速な資金確保といった点でデメリットも多い状態でした。

そのため、当面の資金確保の必要性から、一部の相続人は不本意な形で遺産分割協議にサインをせざるをえないといったことも見受けられました。

2.預貯金の仮払い制度の新設

平成30年7月6日に民法の相続分野が大幅改正され、預貯金の仮払い制度が創設されました。そして、同制度は令和元年7月1日から既に施行されています。新制度では、相続人全員の同意がなくても、相続人一人が単独で、預貯金の払い戻しを受けることができます。

ただし、払戻しを受けることができる金額は、相続開始時点の預貯金額x3分の1xその相続人の法定相続分までの金額となり、また各金融機関ごと(複数支店がある場合は合算)に上限が150万円とされています。

例えば、兄弟2名のみが相続人で金融機関への預貯金がA銀行900万、B銀行4500万円、C銀行750万円であった場合は、相続人一人はA銀行で900万円x3分の1×2分の1=150x万円、B銀行からは150万円(計算では750万円ですが一つの金融機関あたりの上限が150万円であるため、)C銀行からは125万円の払い戻しを受けることができます。

そのため、納税資金等でまとまったお金が必要になる場合は、預貯金の仮払い制度による金額では足りずに、別途借り入れ等により資金を確保したり、裁判所へ預貯金債権の仮分割の仮処分申立を行う必要が依然としてあります。ただし、本改正に伴い裁判所への同仮処分の要件も緩和されており、以前よりは使いやすくなっています。

3.まとめ

以上、預貯金の仮払い制度について説明させて頂きましたが、そもそも預貯金の金融機関がわからないということもあるかと思います。その場合は、何も手がかりがない場合は、亡くなられた方のお住まいの近くの金融機関を回ってみる等、まず金融機関の調査から始める必要があることもございます。

また、金融機関が複数ある場合は、その都度大量の戸籍謄本を提出するのも煩雑ですので、法務局における法定相続情報証明制度といった制度を利用することも考えられます。

遺産分割協議を迅速に行うことが一番ですが、相続債務の弁済や10か月以内に相続税を納税する必要があり、また、同仮払い制度にも上限金額がありますので、足りない金額を想定して、あらかじめ借入等も検討するなど不測の事態に備えて準備していくことも大切かと思います。

(監修者:弁護士 小林義和

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