昨今ニュースを見ていると、

○○会社の従業員が痴漢で逮捕され、○○会社がコメントを出した…
▲▲会社の従業員が窃盗で逮捕され、▲▲会社が謝罪会見を開いた…

など、従業員の不祥事(法律に反する行為)について、会社が謝罪や再発防止などのコメントを発表している場面が多々見られるようになっています。

しかし、謝罪をすればそれで会社の法律上の責任は果たしたと言えるのでしょうか。

法律上、従業員の悪事は会社の悪事、つまり、従業員の不祥事に対し会社が損害賠償責任を負う場合が多々あります。こんな場合にまで責任とらなくちゃいけないの?と思うようなことも発生しています。

今回は、過去にこんな裁判がありましたという実際の事件の紹介を踏まえながら、「使用者責任」についてご説明します。

もしこのようなことが起こったら?

会社の従業員Aが、他の従業員Bに対し暴力を振るい、Bにケガをさせてしまいました。

BはAに対し、ケガの治療費などを請求しましたが、Aは、Bからの請求に応じませんでした。

そうしたところ、Bは会社に対し、治療費などの支払いを請求してきたのです。この請求には応じないといけないのでしょうか。

1. ズバリ回答します!

もし従業員が他の従業員に暴行しケガを負わせてしまった場合、その暴力を振るった原因が業務に起因するようなものである場合、会社にも損害賠償義務が発生する可能性が高いといえます。

会社からすると、その従業員が勝手に人を殴ったりしたにもかかわらず、なぜ会社が責任を負うんだと思われた方も多いと思います。

会社が責任を負う可能性が高いその理由は…民法上、「使用者責任」という制度があるからです。

2. 「使用者責任」をご存知ですか?

民法には715条に使用者責任という規定があり、簡単に言うと、雇っている人が会社の業務に関連して第三者に損害を加えた場合には、原則として会社も損害賠償責任を負うからね、というものです。

例外としては、会社が雇っている人の選任やその業務の監督について相当の注意をしたときは、責任を負いません。

判例上でも、その行為が使用者の事業の執行行為を契機としてこれと密接な関連を有すると認められる場合には、損害賠償の責任を負うとされています。

3. ヤマダ電機事件とヨドバシカメラ事件

上にあげた例は、ヤマダ電機事件(大阪地裁平成23年9月5日判決)とヨドバシカメラ事件(東京地裁平成17年10月4日判決)をモチーフにしたものです。

この2つの事件は実際にあった事件であり、裁判例もネット上で公開されている事件です。両方とも従業員が他の従業員を殴ったりしてケガをさせてしまったというものです。

ところが、ヤマダ電機事件ではヤマダ電機は責任を負わないとされ、ヨドバシカメラ事件では、ヨドバシカメラは責任を負うとされました。何が違ったのでしょうか?

4. 会社が責任を負うのは「時と場合」による!

ヤマダ電機事件の場合、暴行が業務とは関係のない私的なやりとりなどが原因であったこと、勤務時間外であったこと、暴行現場が従業員のみが入場できるフロアで行われたことなどの事情が重視され、ヤマダ電機は責任を負わないとされました。

ヨドバシカメラの場合、暴行が従業員の仕事上のミスを起因として行われていることが認定され、ヨドバシカメラは責任を負うとされました。

このように、業務に全く関係ない事を発端として、業務場所や勤務時間とは全く関係ない時に事件が発生した場合には会社に責任は無いとの判断が出る場合もありますが、暴行の動機が仕事に関係する場合や暴行の場所・時間が勤務場所、勤務時間中であったりと、「時と場合」によって会社の責任の成否が分かれることが多いように思われます。

5. 事前の対応策ってあるの?

会社としては、暴行に関し会社の指示があったわけでもなく、人に暴力を振るってはいけないなどという当たり前のことをまさか従業員が守れず、しかもその賠償責任を会社が負うなんてありえない!と思ってしまうのではないでしょうか。

しかし、2. でも述べた使用者責任が成立しない例外が認められることは殆どないというのが現状です。

会社としてはこのように従業員がトラブルを起こさないよう普段から従業員教育を徹底し、指導して会社の業務に関連して何かトラブルが起こるのを防ぐのが最善の策と言えそうです。

  • ※使用者責任については、具体的事例の詳細な事情によって成否が変わってきますので、本文書と同じような内容であっても必ず使用者責任が肯定/否定されるものではありませんのでご注意ください。

(監修者:弁護士 前原彩

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