Q. 当社の業績は現時点では順調ですが、将来的にこの業績が維持できるか不安な点があります。そのため、自社で新規分野をはじめることも考えてはいますが、他の方法として、別の企業を買収することで当社の強みを強化したり弱みを補完していくことも検討しています。

現在、知り合いからある企業を買わないかという話もきているのですが、買収した際の、法律面のリスクはどのような形で調査すればよいのでしょうか?

A. 他社を買収する場合は、当然ながらその対象会社の内部のことは完全には知りえません。そのため、買収後に、その会社が重大な法的問題をかかえていた場合には、買収時点で予定していた効果を得ることが難しくなってしまう可能性があります。

そのため、実務上は、弁護士等によって買収先の企業を調査する法務デューデリジェンス(以下、簡略化して「調査」といいます。)が行われることがあります。


1. 現代社会においては技術の発達や人の趣向・ライフスタイルの変化により、常に新しい商品やサービスがうまれています。

そのため、今まで行っていたビジネスモデルが時間の経過とも通用しなくなり、企業も変化に対応していかなければ事業がうまくいかないことも多々あります。

そして、変化していく一つの手法として、他社の買収があります。買収の目的としては、自社の弱みとなっている部分を補完してライバル業者より有利なポジションをとっていく目的や、規模の拡大を目的にする場合等様々な目的があります。

逆に、売りたい企業としては、事業自体は順調にいっているものの後継者がみつからないために企業を手放したいという場合もあります。そのような両社のニーズがうまく一致した場合に、買収の話が具体化していきます。

2. 企業を買収する際に気を付けなければならないことは多々あります。

例えば、ビジネス面で想定したシナジー効果があり買収代金に見合うリターンがあるかどうか、隠れた債務の存在や資産査定等により対象企業において想定したとおりの資産価値があるのかどうか等は重要な点であり、公認会計士・税理士に財務面の調査を依頼することも多々あります。

また、買収後に重大な法的問題が発見され買収代金に見合う効果を得ることができないと事態を防ぐために弁護士による法務面の調査も行われることがあります。

3. 法務リスクの内容

法務面の調査では様々な事項を調査対象としますが、以下、主な項目のうちのいくつかを記載しました。

株式譲渡

売主が保有する株式について、過去の株式取得が有効になされていたかどうかが問題になることがあります。例えば、株券発行会社の場合、株式譲渡に関して株券の交付が必要となりますが、株券の交付を受けずに株式の譲受を受けていた場合はその譲受が無効となる可能性があるといったリスクがあります。

取引先との契約関係

特に売主と大事な取引先との間で締結された契約についてはその契約書等を確認しておく必要があります。例えば、契約書に、オーナーが変わると、契約を解除できる条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が含まれている場合は、買収後、大事な取引先との契約が解消されてしまうリスクがあります。

人事・労務

例えば、売主において従業員の未払残業代が多く発生しており、オーナーが変わった後に多額の残業代請求を受けてしまうリスクや、長時間労働により過労死等の労災の問題が内在しているリスクもあります。特に未払残業代の点は対象会社が認識している以上に多くでることもあります。

許認可

対象会社の事業において各種許認可が不可欠な場合には、その許認可が有効に取得されていているかどうか、有効期限が守られているかどうか、許認可の取消事由が発生していないかどうか等も確認する必要があります。

ファイナンス

対象企業においてなされている銀行借り入れ等について、約定どおり返済がなされているかどうか、買収によって生じる事業等の各種変更により期限の利益を喪失して一括返済を求められる可能性があるかどうか等も確認する必要があります。

訴訟紛争・法令違反

現在、紛争が表面化しているものは当然のことながら注意が必要ですが、現在はクレーム段階でも将来紛争になる可能性があるものや重大な法令違反の有無を把握し、そのリスクを分析することも必要となる場合があります。

4. まとめ

上記記載した事項以外にも業種・業態によっては、調査対象や重要度は異なってきます。また、実際の調査方法は、対象会社の役員・担当者にヒアリングを行ったり、各種資料の開示を受けて資料を精査したり、現場を見たりすることで短期間に集中的に調査をすることが多いです。

もちろん、買収前の他社調査ですのですべてを調査することはできず限界はありますが、調査結果は、買収をすべきかどうかの判断をする際の参考となるだけでなく、買収価格交渉の一助とはなることや、買収が成立した後の対象企業の改善に役立てるという意味でも有用です。

(監修者:弁護士 小林義和

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