Q. 私は会社の代表者ですが、最近、テレビやニュース等で働き方改革として法改正がされたという話を聞きますが、十分に理解していない部分もあります。働き方改革とはどのような内容なのでしょうか?また、会社ではどのようなことに注意すればよいのでしょうか?
A. 働き方改革は、働く担い手の拡大及び育児や介護との両立など多様化する個人のニーズに合わせた働き方を提案することで意欲・能力を十分発揮できる環境を作ることを目的とし、多方面から働き方を変える仕組みを取り入れることいいます。そのために8つの労働関連法律が改正されましたが、早いものは2019年4月から改正法が施行され、違反すると罰金や懲役刑が科される可能性もある罰則も規定されました。そのため、もし対策をとられていない場合は早めに対策をとられることをお勧めします。
1. 働き方改革とは
少子高齢化等により労働力確保が課題になるなか、女性・高齢者等の活躍の機会を拡大して働き手の数(量)を確保するとともに、様々な働き方を提案することで労働意欲を高め労働生産性(質)の向上も図ろうとすることを趣旨としています。
そして、2018年6月29日に、労働基準法や労働契約法等の8つの法律について必要な一部改正を行うことを定めた働き方改革の関連法案が成立しました。
以下、主な改正点をいくつかご紹介致します。
2. 時間外労働の罰則付上限規制の設置
長時間労働を是正するために、時間外労働の上限を原則月45時間、年360時間とし、臨時的な特別事情があり労使が合意する場合でも、年720時間、単月100時間未満・複数月平均80時間(休日労働を含む)が限度(原則である月45時間を超えることができるのは年6カ月まで)とされました。
そして、違反した場合には、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるおそれがあります。大企業は2019年4月1日から、中小企業は2020年4月1日から施行されます。
会社での対策としましては、まずは労働者の労働時間の正確な把握ができているかどうかが重要になってきます。
そして、労働時間を正確に把握することで違反を発見したときには、放置せずに適宜是正できるような組織体制作りが重要となってきます。
3. 正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差禁止等の整備
今回の改正で、非正規社員(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)について、正社員との不合理な待遇差の禁止(待遇については基本給だけでなく手当、賞与、福利厚生なども含まれます。)、労働者に対する待遇に関する説明義務の強化(非正規社員は、正社員との待遇差の内容や理由などについて、事業主に対して説明を求めることができるようになります。)、行政による事業主の助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備について統一的に整備されることとなりました。
大企業は2020年4月1日から、中小企業においては2021年4月1日から施行されます。
会社での対策としましては、まずは、職務や能力等に応じた給与(待遇)の支給基準を明確化することが重要です。
その上で、社員毎に、その職務や能力に応じた支給を行っているのかどうか、また、正規・非正規社員間で不合理な待遇差がないかどうかを検証していくことが重要となります。
その上で、正規・非正規の間に待遇差がある場合には、どんな考慮要素をもとに待遇に差を設けたのか具体的に説明できる状態にしておくことが求められていると思います。
4.年次有給休暇の年5日取得の義務化
労働者の心身の疲労を回復させ労働力の維持培養を図ることを目的として、年休が10日以上付与される労働者に対して、年5日の年休を取得させることが使用者の義務となります。
違反すると罰金が科される可能性があります。会社内で取得できなかった労働者が1名でもいたり、使用者が時期指定しても実際に取得していなかった場合は法違反となり罰則の対象となります。
また、会社の時季の指定にあたっては、会社等があらかじめ本人の希望を聴き取り、その意見を尊重するよう努めなければなりません。この法改正はすべての企業で2019年4月1日から施行となります。
会社での対策としましては、労働時間と同様に、まずは有休取得状況の正確な把握が必要となります。その上で、違反が発見された場合に適宜是正できるような体制作りが重要となりますが、例えば、1年のはじめに有休の計画をたててしまうことも有用かと思います。
5.まとめ
これ以外にも高度プロフェッショナル制度が新設され年収1075万円以上の特定高度専門業務従事者に対して時間外・休日・深夜割増賃金等の規定の適用除外が規定されたり、長時間労働者の医師面接指導の見直しとして医師面接指導の対象となる時間外労働の時間を月100時間から月80時間に引き下げる改正もなされました。
また、中小企業の割増賃金率の猶予措置廃止(引き上げ)として、中小企業においても月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を25%から50%に引き上げることとなりました。
このように、今後も労働に関する法改正や新しい判例が出ることが想定されますので、定期的に研修等で正確な知識を習得しておくことが重要かと思います。
また、これらの改正は労働者の保護を図る改正が多いため、必要な対策をとられた企業では、労働者にとって働きやすい職場となり、業務効率の改善効果や優秀な人材の確保という好循環にもつなげていくことができるのではないかと思います。
(監修者:弁護士 小林義和)