Q. 私は会社を創業して以来、妻と二人三脚で経営をしてきましたが、私たちも高齢になりました。私が先に死亡したときに、金銭面で妻が生活していけるのか心配です。妻は今住んでいる家に住み続けたいと思います。ただ、相続で、妻が今住んでいる家を取得すると、あまり預金を相続することができなくなってしまうと思いますので、何か良い方法はないのでしょうか?
A. 今回の相続法改正で、所有権とは異なる配偶者居住権という権利が新設されました。妻が、相続において家の所有権ではなく、所有権よりも評価額が低い配偶者居住権を取得すれば、他の相続人の相続分に配慮しつつ、生活のために必要な預金も一定程度取得できる可能性が高まります。
1. 趣旨
相続法改正で、配偶者居住権という新たな権利が創設されました。その趣旨は、現在の高齢化社会で平均寿命が伸長しているため、残された配偶者が長期間にわたって生活を継続することが少なくない状況です。
このような場合、残された配偶者としては住み慣れた住環境での生活を継続するために居住権を確保しつつ、その後の生活資金として預金等の財産についても一定程度確保したいと希望する場合も多いと考えられます。このような必要性にかんがみて配偶者居住権という権利が新たに創設されました。
2. 内容
配偶者居住権とは所有権とは異なる権利で、居住建物に無償で住みつづけることができる権利です。
配偶者居住権はあくまで所有権ではないので、建物の所有権を取得した場合に比べて、その評価は低くなる場合が多くなります。そのため、例えば、配偶者が配偶者居住権を取得しても、配偶者の法定相続分に満たない場合もあり、配偶者は預貯金を追加で取得することができることもあります。
建物の所有権を相続した他の相続人は、配偶者居住権を相続した配偶者に対してその居住を認めなければならず、その点で制約を受ける形となります。
期間については、配偶者が死亡するまでの終身となりますが、途中で施設入所を予定しているなどのような場合には期間を短く設定することも可能です。
配偶者居住権は第三者へ譲渡することはできませんが、建物所有者の承諾を得れば、第三者に居住建物を使用させたりすることもできます。そのため何らかの事情で居住しなくなったような場合には、建物所有者の承諾を得れば第三者に貸し出し賃料を得ることもできます。
3. 要件
配偶者居住権は、配偶者のみが取得できる権利で、内縁の関係にある者は取得できません。また、居住建物が夫婦以外の第三者との共有状態になっている場合も取得できません。なお、建物の土地が共有となっている場合には取得できます。
その他、相続開始時に配偶者が居住していたことも要件となります。この居住要件ですが、一時的に入院していて家にいないような場合でも、退院後家に戻ることを予定していたような場合も含まれるとされています。
そして、配偶者居住権は、遺産分割もしくは遺贈によって取得するとされていますので、遺産分割協議・審判や遺言等で取得する形となります。
4. まとめ
このように配偶者居住権は遺言で配偶者に取得させることもできますが、遺言を作成する場合は、その他の相続人の遺留分も考慮しながら作成されると、相続での紛争防止につながります。
また、配偶者居住権は譲渡できませんので、配偶者居住権の期間をいつまでに設定するかは、配偶者やその他の相続人間でよく検討して設定する必要があります。
さらに、事実婚の場合は、配偶者居住権は設定できませんので、残された方の生活のためには遺言書を活用して必要な財産を取得させる必要があります。
配偶者居住権は新しい権利ですのでまだ明確でない点もあるかと思いますが、使い方によっては残された配偶者にとって有用なこともあるかと思います。残された配偶者の方の生活が心配というような場合は検討されてもよろしいかと思います。
(監修者:弁護士 小林義和)