Q. 先日、民法の債権法分野で大きな改正があると聞いていましたが、今度は相続分野でも大きな改正があると聞きました。私もそろそろ相続のことを考えないといけないと思っていたところですが、どのような点が変わったのでしょうか?
A.今回は民法の相続分野における約40年ぶりの大幅な改正であり改正点は多岐にわたりますが、その中でも特に注目されているのが配偶者居住権をはじめとする配偶者の保護規定の新設です。今回はその配偶者居住権を中心に説明させて頂きます。(なお、配偶者居住権などの民法改正は実際に新しい法律が適用となる年月日があります。現在の法律、新しい法律のどちらが適用されるのかについては別途確認が必要となりますのでご注意ください。)
1. 改正の趣旨
平成25年9月4日に最高裁判決で非嫡出子(法律上の婚姻関係がない男女間での子供)の法定相続分が嫡出子の2分の1とされていた民法の規定が違憲とされました。
その判例も一つのきっかけとなり、法律婚を保護すべきであるという機運や、高齢化社会の進展で残された配偶者が長生きすることも多くなることから配偶者の居住・生活保護の必要性が強く議論されるようになりました。
そして、今回、配偶者居住権として、生前被相続人の所有する建物に居住していた配偶者が死後も無償で居住することができる権利が創設されるに至りました。
2. 現行制度
平成8年12月17日の最高裁判決で、残された配偶者が居住していた家について、相続開始時を始期とし遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたと推認して、配偶者の無償居住が認められました。
しかし、それは遺産分割成立時までであり、また、被相続人が反対の意思表示をしていた場合は、認められない可能性があるなど配偶者の居住権は不安定な状況でした。
そして、遺産分割の結果、配偶者が家の所有権を失うと、残念ながら子の家族との関係が悪化するなどして家に居づらくなり、結果的に家を出ざるをえないといったケースも散見されていました。
3. 配偶者居住権が創設
まず、短期の配偶者居住権として、被相続人の意思にかかわらず配偶者は、居住建物の帰属が確定する日までは(最低6カ月は保障)無償で居住していた建物に居住できることとされました。
また、配偶者居住権(長期)という所有権とは別の権利(終身又は一定期間)も創設されました。
例えば、相続人が配偶者と子供である場合、配偶者の法定相続割合は2分の1です。そして、配偶者が居住する家の所有権を取得してしまうと、預金はほとんど取得できないといったケースも出ていました。
今回の改正では、配偶者が、所有権ではなく、所有権よりも低く評価される配偶者居住権を取得する場合は、より多くの預金を相続することができ、配偶者の生活費等の確保が可能となります。
そして、この配偶者居住権は遺産分割における選択肢の一つとしてだけでなく、遺言等によって配偶者に取得させることも可能です。
4. その他注意点
ただ、配偶者居住権は新しい権利のため、例えば、配偶者居住権の価値をどのように評価するのかといった点については、簡易な評価方法等が示されてはいるものの、今後の取り扱いを注視していく必要があります。
また、配偶者居住権は、居住する家が被相続人と第三者との共有不動産である場合には成立しませんので、生前に要件を満たしているかどうかといった点も確認をしておく必要があります。
5. まとめ
配偶者居住権以外にも、婚姻期間が20年以上である夫婦間で居住用不動産の贈与がなされた場合、原則として特別受益として取り扱わないとされるなど、今回の改正で、配偶者の居住及び生活保障の面が強化されました。
また、預貯金の仮払制度や自筆証書遺言保管制度の創設、相続人以外の親族が介護した場合でも特別の寄与として金銭請求できる規定が新設されるなど多岐にわたる分野で改正がなされています。
相続問題は誰もが身近に関係する問題ですので機会があれば別の機会で紹介させて頂きたいと思っています。
(監修者:弁護士 小林義和)