労災対応にご用心

1. はじめに

労災事故が発生した場合、会社に高額の賠償責任が発生し、会社の存続に関わる問題に発展することがあります。

先日当事務所にて開催させていただきました「いざという時のために備える労災対応の極意セミナー」では、最近の労災事故の傾向や、労災事故が発生した場合に企業側が負う責任と対応策について解説させていただきました。

今回の企業法務ブログでは、その中の一部をご紹介させていただきます。

2. 新型コロナウイルスと労災問題

新型コロナウイルス感染症に係る労災補償については厚生労働省から下記通達が出ており、新型コロナウイルスの特性に応じた対応が求められています。

「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」

本感染症については、従来からの業務起因性の考え方に基づき、労働基準法施行規則別表(以下「別表」という。)第1の2第6号1又は5に該当するものについて、労災保険給付の対象となるものであるが、その判断に際しては、本感染症の現時点における感染状況と、症状がなくとも感染を拡大させるリスクがあるという本感染症の特性にかんがみた適切な対応が必要となる。

このため、当分の間、別表第1の2第6号5の運用については、調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、これに該当するものとして、労災保険給付の対象とすること。

新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて

3. 労災上積み保険への加入をお勧めします

(1) 労災保険によって損害のすべてが補填されるわけではない

労災事故が発生した場合に労災保険から補償されるケースがありますが、労災保険での補償はあくまでも損害の一部のみであって、例えば慰謝料は労災保険では補償自体がありません。

死亡事故や重度の後遺障害事案においては、慰謝料や逸失利益(将来の労働への影響)などの損害賠償額が数千万~1億円を超えることも珍しくないため、国からの労災保険支給額だけで損害をまかなうことは到底出来ません。

(2) 労災上積み保険

労災上積み保険に加入することによって、労災保険だけでは足りない休業損害の補償の他、死亡・後遺障害に対する逸失利益や遺族に払う精神的損害(慰謝料)などを補うことが可能となります。

この機会に、労災上積み保険に加入していない企業様はご加入の検討をお勧めします。また、既に加入している企業様は、損害賠償額が高額化している最近の傾向を踏まえて、限度額をご確認ください。

労災や労災保険についてご不明な点がございましたら、弁護士までお気軽にご相談ください。

以上

文責:弁護士 松本達也

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

業務委託だと思ったら実は労働者??

1. はじめに

企業が労働力を確保する際、形式上、外注(業務委託)という形を取ることがよくあります。

しかし、業務委託の形を採っていたとしても、法律上は労働基準法上の労働者であると判断されることがあり、その結果会社として大きなリスクを抱えることになる場合があります。

そこで、今回は雇用契約の代わりに業務委託契約を締結した場合のリスクについてお話をさせていただきます。

2. そもそも「労働者」って何?

労働基準法9条によると、「…「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」 とされています。

 そして、この労働者は、会社の指揮監督下に置かれていて、会社から仕事の対価として賃金を支払ってもらう人のことを指します。

3. 業務委託契約を結んだのに労働者と判断された??

労働者性を判断するに当たっては、実際にどのような形式の契約を結んだか、ではなく、どのような働き方をしているのか、という点が重要になってきます。

そのため、業務委託契約を結んでいた場合であっても、会社との間に指揮監督関係が認められてしまうと、労働者と認められる可能性があります。

具体的には、①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無②業務遂行上の指揮監督の有無③拘束性の有無④代替制の有無⑤報酬の労務対価性⑥機械、器具の負担関係⑦報酬の額⑧専属性の程度等の事情から労働者であるか否かを判断することになります。

したがって、一概には言えませんが、業務委託契約を結んでいたとしても、その人の働き方が、例えば9時から18時の間、特定の場所で業務を行うことや、上司に指示された仕事をこなすことを義務付けられており、仕事の進捗状況に関わらず固定給がもらえるような人は「労働者」と判断される可能性があります(もちろん、従事する業務の内容からこれらの事情が致し方ない場合には労働者と判断されない場合もあります)。

フリーの映画カメラマンが労働者と認定された裁判例もあります。

4. 労働者と認められた場合のリスク

上記の事情から労働者であると認められた場合、以下のようなリスクが生じてきます。

①残業代の支払い

通常業務委託契約の場合、残業代の支払いを行っていないことが多いです。

しかし、労働者と判断された場合、残業を行っていればその分の残業代を最大で3年分支払う必要が出てきます。

そして、この様な場合、業務委託の報酬全額が残業代を計算する上でのベースの金額(基礎賃金)になりますので、残業代が高くなってしまうこともありえます。

②社会保険料の納付

労働者であると判断された場合には、社会保険料を遡及して徴収される可能性があります。

社会保険料は最大で2年まで遡って徴収される可能性がありますので、①の残業代の支払いと合わせてかなり高額になる可能性もあります。

5. まとめ

業務委託契約をしていたが労働者と認定されてしまい、上記の残業代などの支払いを強いられるという案件はしばしばあります。

労働者と認定されるリスクを軽減するためには、契約を締結する際の契約書の内容や、業務に従事する際の権限などを事前に明確にした上で、そのとおりに運用する必要があります。

上記の要件との関係では、仕事の依頼を拒否できる権限や、仕事のやり方について大きな裁量を与えるなどの権限付与や運用方法を検討していく必要があります。

これらの事情は企業によって異なってきますので、業務委託契約について見直しを検討されている方は弁護士までご相談いただくことをおすすめいたします。

以上

文責:弁護士 加藤貴紀

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

【懲戒処分】自宅待機の場合、給与は支払う?

営業担当の従業員が横領をしているらしい…

そんな告発がなされました。会社は、その営業担当者の行為を調査したいのですが、調査中にパソコン等の記録を改ざんされたりする恐れがあるので、営業担当者へ自宅待機の指示を出したいと思います。

1. 自宅待機の指示はあり?なし?

懲戒処分の前提として、会社はその事実を調査する必要があります。

横領行為が事実の場合、本人が出社していると証拠の隠滅等の可能性があり、調査に支障をきたすことがあります。

そもそも会社は、従業員へ自宅待機の指示をしてもいいのでしょうか?

就業規則に、懲戒処分の調査のための自宅待機の規定がある場合には、自宅待機を指示することは可能です。

自宅待機の規定がない場合も、懲戒処分のために本人を自宅待機させる必要性はありますので、業務命令として指示することは可能です。

懲戒処分の手続は明確化されていたほうがいいので、就業規則に自宅待機指示が記載されていない場合は、修正することをお勧めします。

ただし、懲戒処分の原因となる行為が極めて軽微であるにもかかわらず、自宅待機の期間が長期間である場合は自宅待機の指示が権利濫用となりうるので、ご注意ください。

2. 自宅待機中の給与について

横領が疑われる従業員に対して、自宅待機の指示をしました。その従業員は、自宅待機の間は労務を提供していません。会社として自宅待機の期間の給与は支払わなくてもいいのでしょうか?

民法536条2項前段

「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」

となっております。

平たくいうと、会社の都合によって従業員が労務の提供をできなかったとしても、会社は賃金を支払う必要があると規定されています。

従業員が疑われるようなことをするのが悪い!となり、懲戒処分の調査のための自宅待機の場合には給与を支払わなくてもいいとも思えます。

ただし、自宅待機の指示は調査のためにすぎないため、会社は給与を支払うことが原則となります。

裁判例:名古屋地裁平成 3年 7月22日(判タ 773号165頁)も、会社が自宅待機期間中の従業員に対し、給与を支払わなくてもいい場合は、緊急かつ合理的な理由があるか、実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠がある場合に限定されているとしています。

自宅待機は無給である旨の就業規則がある事件ですが

裁判例:東京地裁平成30年1月5日判決(労働法令通信2502号18頁)は、

使用者が労働者に自宅待機や出勤禁止を命じて労働者から労務提供を受領することを拒んでも当然に賃金支払義務を免れるものではないが、使用者が労働者の出勤を受け入れないことに正当な理由があるときは、労務提供の受領を拒んでも、これによる労務提供の履行不能が使用者の「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)によるとはいえないから、使用者は賃金支払い義務を負わない

としています。

仮に、自宅待機期間は無給であるという就業規則があった場合も、上記裁判例の中に記載された「正当な理由」に該当するかどうかについては、過去の経緯や懲戒処分の見込み等、慎重な判断が求められます。

就業規則に無給であるという規定があったとしても、会社は賃金の支払い義務を必ず免れるものではないので、ご注意ください。

尚、自宅待機の期間を無給とする場合、その旨の就業規則は当然必要となります。

就業規則の条項については、専門性が求められますので専門家にご相談ください。

以上

文責:弁護士 渡邉優

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

【ネット上の投稿削除】インターネット上の誹謗・中傷投稿を削除する方法について

SNSの普及に伴い、最近では企業の評判や口コミをまとめたサイトなどがよく見られるようになりました。

このようなサイトに、退職した元従業員などから、企業の悪口や虚偽の悪評が投稿されてしまうと、企業の採用活動や営業に大きな影響が出てしまいます。

今回の企業法務ブログでは、インターネット上の誹謗中傷投稿を削除する方法について、簡単にご説明いたします。

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運送業の残業代対策-「完全歩合給制」は有効か?

1. はじめに

運送業における長時間労働・未払残業代の問題は極めて深刻です。

平素より、会社側の労働事件を多く扱っておりますが、残業代請求事件の大半は、運送業の事件という印象を受けます。慢性的な長時間労働が背景にあることもあり、請求額が1000万円を超えることや、複数の労働者より同時に請求を受け、経営が回らなくなってしまうケースも残念ながらございます。

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著作権法改正、インターネットにおける海賊版対策の強化

1. はじめに

近年のインターネットにおける進化は目覚ましく、それに伴い、著作権侵害の事例も増加してきています。

そのような社会情勢の変化に対応すべく、著作権法もインターネット上における海賊版対策を強化しています。

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「最低限これだけはしておきたい」-同一労働同一賃金の対応

1. はじめに

新型コロナウイルスの対応で各企業が対応に追われる中、今年の4月1日より、中小企業においても「同一労働同一賃金」の対応が必要となります。

しかし、施行日まで3か月を切った現時点においても、体感としては、多くの中小企業において、同一労働同一賃金の問題が棚上げになっているという印象を受けています。


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【強制執行】民事執行法改正の概要について

令和2年11月27日に、債務者の財産状況調査と債権回収の実務に関する無料オンラインセミナーを開催いたしました。このセミナーでは、相手方が保有する財産の調べ方や、改正された民事執行法を用いた具体的な債権回収方法についてお話ししました。

今回の企業法務ブログでは、セミナーで扱った改正民事執行法の概要について、ハイライトをお届けします。

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企業における交通事故リスク

1. 近年自動車事故に対する厳罰化の流れもあり、自動車を運転していて人を跳ねて死傷させてしまったというニュースがセンセーショナルに報道されることが多くなってきました。

そこで今回は、交通事故で人を死傷させてしまった際の民事上・刑事上の責任をお話させていただきます。

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