内定したら契約成立!? 採用内定と法律問題
Q. わが社は、昨年末に新卒の採用活動を開始し、つい先日一人の応募者に内定を出しました。ところが、昨日突然電話があり、理由もなく内定を辞退されてしま いました。
こちらも、内定までの採用活動にそれなりの時間とお金をかけていたのですが、この応募者に対して、何か法律的な責任を追及することはできないの でしょうか。
A. 会社が現実的な損害を被っているであろうことは十分に理解できますが、損害賠償などの法律上の責任を追及することは難しいと思われます。採用活動においては、「内定」の法的な意味合いを理解した上で、事前に対策をしておく必要があります。
1. はじめに
昨年末、平成27年度の就職活動が開始されました。リクルート等の民間企業の調査によれば、同年度の新卒採用について「増える」とした企業の方が、「減る」とした企業よりも多いという統計もあります。
景気が回復し、企業の新卒採用が増加していくことは非常に喜ばしいことですが、それに伴って様々な問題が生じる危険性があります。
2. 採用活動自体にも規制があるの??
従業員を雇うというのも一種の契約ですから、一般的には会社がどのような者をどのような条件で採用するのは自由です。
もっとも、日本の法律では、採用段階においても様々な規制があります。
例えば、応募者を募集する段階では、性別や年齢だけを理由にして合理的な根拠なく応募を制限することは法律上は許されません。
また、労働条件や業務内容について誤解を招くような告知をすることも法律上は許されません。
3. 採用内定は契約なの??
単に「内定」といっても、様々な状態が考えられますが、一般的には、①所定の事情が発生しない限り採用する旨の通知書を会社が送付し、②応募者が他の 就職活動をやめて入社する旨の誓約書を提出すれば、一種の労働契約が締結されたものと評価されてしまう可能性が高いです(①②のようなことをしていなくて も、他の事情によっては同様の評価を受ける可能性があるので注意が必要です)。
契約締結と評価されてしまった場合、内定取消は、通常の解雇に近い厳しい 規制を受けることになり、規制に反して内定を取消すと、後日、給料相当額の請求を受ける危険があります。
また、契約が成立したとまでは評価できなくても、 内定取消の時期や態様によっては、応募者に損害を与えたものとして、損害賠償を請求される可能性もあります。
なお、昨今内定取消の問題が増加したことから、行政の関与も厳しくなっており、具体的には、新規学校卒業者の内定を取消したことについて職業安定所への報告義務があったり、行政指導や企業名の公表がなされる可能性があります(ただし、公表されるのは、新規学校卒業者の場合で2年以上連続で内定を取り消した場合などの一定の場合に限られます)。
一度行った内定を変更するなどの場合には、個別に十分に会社の状況等を説明した上で、会社と内定者双方が合意して問題を解決する必要があります。
4. 内定辞退への対応策とは??
応募者が同時に複数の会社の選考に進むことも珍しくなく、優秀な応募者には内定が集中するのが当然ですから、内定辞退の問題は採用側としても避けられません。
先ほど、状況によっては「内定」でも雇用契約に近い状態になるという話をしましたが、それは応募者側にとっても同じことです。
もっとも、労働者側に優しいのが日本の法律ですから、正社員として内定した応募者であっても、通常の場合、問題なく内定を辞退できてしまう可能性が高いです。
したがって、余程ひどい態様で内定を辞退したような場合であればともかく、通常、内定辞退に対して法的責任を追及するのは難しいと思われます。
会社側としては、納得できない 気持ちがあることは理解できますが、内定辞退を当然のリスクとし、①内定辞退の予防(内定者の就職活動の状況について情報を集めておく、定期的に応募者と連絡を取ってフォローするなど)、や②内定辞退された場合の対策(予備人員の確保等)をするほうが現実的だと思われます。
5. まとめ
- 応募者の採用内定の辞退により会社には様々な損害が現実的には発生する。しかし、応募者が内定辞退をしたことについては応募者に責任を追及できない可能性が高い。
- 一度内定を出してしまうとそれを会社側が取り消すには様々なリスクが伴う。
- 採用内定への対応は判断が難しいので、行動を起こす前に専門家への相談が必要。
(監修者:弁護士 三井伸容)