Q. 求人を出していたところ応募があり、とても良い人材と感じましたので内定を出しました。ただ、その後事情がかわり、その人を雇うことができなくなりました。内定を取消したいと思いますが、可能でしょうか?

A. 内定者と話し合って自主的に内定を辞退して頂けるのであればよいかと思いますが、内定者の意思に反して内定を取消す場合には、内定取消しが無効となる可能性もありますので慎重に行う必要があります。


1. 内定の法的性格

内定に関する流れについては、法人により求人の募集がなされ、その募集に対して就労希望者が応募する。そして、法人が書類を吟味し面接等も行った上で、採用内定の通知を出し、予定された就労開始日が到来して就労が開始されるというのが典型的な流れです。

このように内定は、就労希望者の就労したいという申し込みに対して、法人がその申込を応諾することであり、内定を通知した時点で労働契約は成立し、法的には入社予定日を就労の始期とする労働契約が成立したといえます。

2. 内定取り消し

一方で、内定は就労前に締結するものであり、内定取消事由が生じた場合には解約することができるという解約権が留保されている労働契約ともいえます。

内定取消事由としては、重大な経歴詐称、重大な犯罪行為、健康診断で重大な問題があることが判明した、法人の業績が悪化してしまったなどの事由が一般的には考えられます。

ただし、このような事由が判明・発生したとしても、内定者としては、内定取消しをされてしまうと再度別の就職先を探すことには困難が伴い生活に重大な影響がでる可能性もあります。

そのため、法人の内定取消しが有効になる場合としては、内定当時知ることができず、また知ることが期待できない事実が後に判明し、それにより内定を取り消すことが客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる場合に限るとされています(大日本印刷事件 最高裁判決昭和54年7月20日参照)。

3. 留意すべき点

法人に内定取消の余地を残すためには、書面で内定取消事由を記載しておき、法人に解約権が留保されていることを明確にすべきです。

また、内定を取消さなければならない事態が生じた場合にも、可能な限り内定者と協議を重ねて納得して頂いた上で内定を辞退頂くことが、リスク回避の点からもまた、内定者の気持ちや生活等の面からも好ましいと考えられます。

そのため、安易に内定取消しを行うのではなく、内定者に立場にもできる限り配慮した話し合いを重ねていくことも重要です。

4. まとめ

法人としては良い人材を確保することは、事業を継続していく上で必要不可欠ですので、良い人材から就労意思が示された際には、早めに内定を出して良い人材に来てもらえるようにすることは有用です。

ただ一方で、安易に内定を出してしまうと、内定取消事由を記載していたとしても、内定を取り消すことには困難を伴います。

そのため、内定を出す際には、対象者のことを十分知った上で、少しでも気になるやひっかかる点があった場合にはそれが解消できるように十分に吟味した上で、大丈夫と判断した場合にのみ内定を出すなどの慎重な対応をとる必要があると思います。

(文責:よつば総合法律事務所 弁護士 小林義和

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