こんにちは!! よつば総合法律事務所の根來です。
今日は、「窃盗罪」についてお話しさせて頂こうと思います。ご参考になれば幸いです。
駐輪場に止めておいた高級自転車が盗まれてしまった。「あんなに厳重に鍵をかけておいたのに・・・。ああ、どうすればいいんだ・・・。」と、悩ましい日々を過ごしていたら、1か月後、なんと赤の他人の知らない男が我が愛車に乗って颯爽と登場したではないか。そして、鍵をかけることなくコンビニに立ち寄った。「今なら、取り返せる!さあ、取り返してやろう!」と自転車に手をかけた。
全然問題ないと思われるこの行為、実は、窃盗罪が成立してしまうおそれがあります。「自分の物を取り返しただけじゃないか!」と思われる方も多くいらっしゃると思います。「信じられない!!!」と思うかもしれません。どうして窃盗罪が成立してしまう可能性があるのか、改めて確認してみましょう。
1. 刑法235条
窃盗罪について定める刑法235条は、「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」と定めています。つまり、「他人の財物」を盗んだ場合、窃盗罪となる旨が規定されています。
そして「他人の財物」と認められるためには、他人の占有下にあることが必要とされています。「占有」とは、その財産を事実上支配していることを意味します。
2. 盗まれた自転車の占有
では、盗まれた自転車の占有は、誰にあるのでしょうか。
「当然、悪いのは自転車を盗んだ男なのだから、占有は所有者である自分にある。」と思う方もいらっしゃると思います。
しかし、「占有」は、その財産を事実上支配していることを意味するので、知らない男が1か月の間、高級自転車を使っていたとなると、知らない男が事実上支配していると評価されてもおかしくありません。
よって、盗まれた自転車を取り返しただけであっても、知らない男が占有している自転車を盗んだとして、窃盗罪が成立してしまう可能性があるのです。
3. 自救行為
「そんなことがあっていいのか・・・。」と、思われた方もいらっしゃると思います。では、どんな場合でも、窃盗罪が成立してしまうのでしょうか。
「自救行為」という概念があります。権利を侵害されたものが、その回復を図るのに法律上正式な手続きを踏んで国家機関の救済を待つのでは、時期を逸ししてしまい、その回復が事実上困難になる場合に、個人が自分の力で回復を図る行為を意味します。「自力救済」ということもあります。
かような場合にまで、窃盗罪が成立してしまうとすると、法が不法を擁護する結果となりかねません。そのため、自救行為について、社会的相当性が認められる範囲であれば、違法性がなく、窃盗罪は成立しないと認められる場合があります。
4. 判例では
「傍論」という部分において、「自救行為」に言及した昭和24年の判例では、 「自救行為とは、一定の権利を有する者が、これを保全するため官憲の手を待つに遑なく自ら直ちに必要の限度において適当なる行為をすること、例えば盗犯の現場において被害者が贓物取還するが如きをいうのである」とされています(最大昭和24年5月18日刑集3巻6号772頁)。
ただし、自救行為により窃盗罪が成立しないと認められるのは、例外的な場合です。緊急性の有無、回復されようとされる被害の内容、被害回復の方法等から総合的に判断されることとなります。「自救行為として窃盗罪が成立しないから取り返して大丈夫。」と軽率に考えることは控えなければなりません。
5. ではどうすればいいのか
窃盗罪が成立しまう可能性がある以上、ご自身で高級自転車を回収することは避けなければなりません。このような現場に遭遇した場合、警察に通報し、国家機関の助けを借りましょう。男が窃盗犯人として警察の捜査の対象となれば、後日、被害品として、高級自転車が返還されることを期待することができます。
6. 最後に
刑法には、問題ないと思いがちな行為についても、処罰される行為として規定していることがあります。気軽にとってしまった行動が、予期しないような事件になってしまったり、不利益を被ることがあります。困ったことや分からないことがあれば、お気軽に弁護士までご相談をいただければと思います。
(文責:弁護士 根來真一郎)