新しい人を採用する際に、どこまで踏み込んだ質問をしても大丈夫なのか気になることがあると思います。
いくら採用する立場であっても、節度をもった範囲で質問するのがマナーかと思います。
しかし、企業としては、どうしても質問したいが、繊細な話というケースもあるかもしれません。
今回はそんな企業の採用活動にまつわるトラブルを扱った、三菱樹脂本採用拒否事件(最高裁大法廷昭和48年12月12日判決)を紹介させていただきたいと思います。
この事案は、会社が採用試験の際に提出を求めた身上書の所定の記載欄に、学生が虚偽の記載もしくは記載すべき事項を秘匿し、面接試験における質問に対しても虚偽の回答をしたこと等が詐欺にあたるとして本採用が拒否された事案です。
具体的には、採用試験の際、会社は、在学中における学生運動の団体加入や学生運動参加の事実の有無について申告を求めていたそうです。
それに対して、学生が虚偽の記載や回答等をして、入社が決まり、入社後に、学生運動等をしていたことが発覚したため、問題になったわけです。
今の時代からはなかなか考えられないかもしれませんが、当時は学生運動などが活発で、企業も学生を採用する際にそのような活動をしていなかったか興味があったということでしょう。
学生運動に参加したかは思想の自由にかかわることであり、採用面接で思想に関する質問が許されるのか、また、思想を理由に採用を拒否できるのかが争点となりました。
最高裁は、
「企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない」
「企業者が雇傭の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。」
と判断しました。
この判例は今でも重要な判例だと考えられています。採用段階では、企業の採用の自由が比較的広く認められているということです。
ただし、募集・採用における年齢制限の禁止や募集・採用における性別による差別の禁止など法律で採用の自由が制限されているところもあります。
また、法律上禁止されていなくても、企業の活動・採用活動とまったく関係のない求職者のプライバシー情報を無理やり聞き出したりすれば、トラブルのもとになります。
採用・選考時のルールについては、厚生労働省のHPに説明があるので、そちらを事前に確認しておくとよいと思います。
面接官として、求職者に質問する際は節度のある範囲で行うように心掛けましょう。
(監修者:弁護士 辻悠祐)