Q. 取引先からの売買代金の支払いが滞っていましたが、この度、支払方法について合意することとなりました。そのため、書面を作成しようと思っていますが、その際に公正証書にした方がよいと聞いたことがあります。公正証書にすることで何かメリットがあるのでしょうか?
A. 公証役場にて執行証書という形で公正証書を作成した場合は、裁判所へ訴訟を提起することなく強制執行が可能となり(その点で、公正証書は判決文と同じ機能を果たすこととなります。)、費用面・時間面等でメリットがあります。 また、書面の内容や成立についての争いも回避できる可能性が高くなります。
1. 執行証書とは
- 執行証書とは、民事執行法22条5号の公正証書です。
- これは、主に、金銭の支払を目的とする請求権について作成されます。例えば、売買代金の支払い請求や、貸金の返還請求が代表的です。一方、物や不動産の引き渡し、移転登記については作成することはできません。
- この執行証書には、債務者が直ちに強制執行に服するという内容の文言が入ります。
- この文言が入るため、債務者が支払いを怠ったときに、裁判所に訴訟を提起することなく、強制執行の申し立てができることになります。
- 訴訟になると、事実関係について争いになる可能性もありますが、公正証書を作成しておけばその可能性は低いですし、訴訟が不要となることで費用面での節約にもなります。また、相手の財産がなくなってしまう前に迅速に強制執行をすることが可能となります。
- このように公正証書はメリットが大きいものですが、作成するためには債務者側にも、原則として公証役場まで来てもらうことが必要となりますので、紛争になる前の関係が良好のときに作成しておくことが理想といえます。
2. その他公証役場で可能なこと
- 定期借地・借家権の設定契約
- 借地や借家は、借地借家法の借主保護の要請から、いったん貸し出すと返還をしてもらうことが難しくなります。
- しかし、同法規定の定期借地・借家の要件を満たせば、設定期間経過後は、更新・延長なく、返還を受けることができ、将来の別の利用目的等の予定が立ちやすくなるメリットがあります。
- このような契約の場合も公正証書が要件とされているものもあり、公正証書がよく利用されています。
- 公正証書遺言
- 遺言には大きく分けると、自筆で作成する自筆遺言と、公証役場で作成する公正証書遺言があります。
- 自筆遺言は、要件が厳格であるため無効になることもよくありますし、裁判所の検認手続が必要となるといったデメリットがあります。
- この点、公正証書遺言だと、無効になるリスクが低く、原本は公証役場保管で保管されているため検索をすることもでき、紛失等のおそれが低いこともメリットとしてあげられます。
- なお、遺言者の体調が悪い場合等は、公証人が病院等まで出張してくれたり、署名できないときは公証人が代わりに署名してくれる場合もあります。
- そのほか、公証役場では、任意後見契約公正証書の作成(判断能力が低下する前の元気なときに、判断能力低下時の後見人を指定しておく契約)、事実実験公正証書の作成(ある事実を公証人が目撃したり、聞いたりしたことを証拠として残す機能)、私署証書の認証(文書の署名・押印がその人によってなされていることの証明)、確定日付の付与(文書の作成日が重要な書類について、確定日付の日に当該文書が存在していたことの証明)等をすることができます。
3. まとめ
このように公証役場を上手に利用することができれば、様々な点で、後日の紛争予防を予防することが可能となります。
今後の大きな改正が予定されている民法においても、その改正案では、経営者関係以外の人が事業の債務を連帯保証する場合は、公正証書を用意することを要件とすることになっているなど、今後ますます公証役場の利用範囲が広がる可能性があります。
ただし、公証役場では、主に形式面で、内容面まではカバーしてくれないため、公証役場で作成したから大丈夫ということにはなりません。そのため公証役場を利用されようとする際には、お気軽にご相談頂ければと思います。
(監修者:弁護士 小林義和)