1. はじめに
平成27年1月1日より、相続税の基礎控除額が引き下げられ(「遺産に係る基礎控除額」=3000万円+(600万円×法定相続人の数))、その結果、相続税の納税義務者が大幅に増加すると言われております。
それにともない、ここ数年“相続”が注目を集めております。
そこで、今回は、家族間で“争続”にならないための“円満な相続”対策を考えてみたいと思います。
2. トラブルになりやすい典型的な3つのケース
相続でトラブルになりやすい典型的なケースとして、次の3つが挙げられます。
(1)子どもがいない夫婦のケース
子がいない夫婦の場合、夫の死後、財産は当然すべて妻のものになると思われがちです。
しかし、法律上は、夫の父母が亡くなっていれば、夫の兄弟姉妹も相続権を持ちます。
さらには、兄弟姉妹が亡くなっていれば、おいやめいが相続権を持ちます。
このような場合、妻は、何十年も疎遠になっていた「予期しない相続人」と遺産分割協議をしなければならなくなる可能性があります。
(2)遺産が自宅の不動産しかないケース
例えば、子どもが3人いて、父は、同居する長男夫婦が当然に自宅不動産を相続するだろうと思っていたケースを考えてみます。
父の死後、長男が、次男や三男から遺産分割を求められたときに、父の遺産がほぼ自宅不動産だけだった場合には、不動産を売却して、売却代金を3人で分けざるを得ないことになる可能性があります。
この場合、先祖代々の土地を手放さざるを得なくなることが考えられます
(3)被相続人が介護を受けていた場合
例えば、90歳まで生きた母親の介護を長女が数年間してきましたが、母親の死後、介護をしてこなかった次女や長男が、母親の遺産を均等に分けることを求めてきたケースを考えてみます。
この点、長女は介護をしたことにともない「寄与分」を主張することが考えられますが、実務上裁判所は簡単には寄与分を認めていません。
そうすると、結局は兄弟姉妹で均等に遺産を分けることとなり、長年介護をしてきた長女にとっては、不満の残る結果になり、今後の兄弟姉妹間の関係が壊れてしまう可能性があります。
3. このようなトラブルを回避するために
いずれのケースにおいても、「遺言書」を作成しておくことで、ある程度トラブルを回避することができます。
(1)のケースでは、夫が生前に、財産をすべて妻に相続させる旨の遺言書を作成すれば、財産がすべて妻のものになります。
(2)のケースでは、父が生前に、自宅不動産を長男に相続させる旨の遺言書を作成した上で、生命保険などを上手く活用することで、先祖代々の土地を手放さなくてもよくなることが考えられます。
(3)のケースでは、母親が生前に、長年介護をしてくれた長女に対して、介護をしてくれたことのお礼として次女や長男よりも多くの財産を相続させる旨の遺言書を作成すれば、母親の死後、兄弟姉妹間でトラブルになることを回避できる可能性が高まります。
このように、自分の死後に家族間にトラブルが発生することを回避するために、生前に遺言書を作成することが、家族間での“争続”を防ぎ“円満な相続”を実現するための第一歩となります。
もっとも、遺言書を作成するに際しては、遺言の有効性や、遺留分といった問題などにも配慮が必要となります。
また、特に(2)のケースでは、相続税の問題にも配慮が必要になります。
遺言書を作成するに際し、少しでも疑問がある方は、お近くの弁護士や税理士といった専門家に一度ご相談いただくのがよいと思います。
(監修者:弁護士 前田徹)