Q. 改正民法(債権法)の大部分が施行されて1年が経ちました。新民法では、売買契約における売主の瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わりましたが、売買契約書を作成する際に改めてどのような点に注意すればよいでしょうか?
A. 従来に比べて、売買契約の目的物の内容をより具体的に書くことが重要となるだけでなく、売買契約の目的や趣旨も契約書に記載することで契約の内容をより明確した方がよい場合が増えるように思います。
1. 条文の変更内容
旧民法570条では、売主の責任が生じる要件として、「売買の目的物に隠れた瑕疵があったとき」と記載されていましたが、新民法562条以下では、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」という形で記載されています。
2. 要件と効果の改定
要件については、旧民法では「隠れた」瑕疵と規定され、買主は瑕疵を知らなかったか、知らないことについて過失がないことが責任追及の要件とされていました。
新民法では「隠れた」という文言が削除されましたので、買主についてこの要件がなくなりました。
また、効果については、旧民法では条文上は、損害賠償請求や解除が規定されていましたが、新民法では修補等の追完請求や代金減額請求も可能と規定されました。
3. 契約書作成の際の注意点
旧民法の「瑕疵」は、対象物が取引通念からみて通常備えるべき品質・性能を有しないことと解釈されていました。
一方、新民法では、「契約不適合」と規定されましたので、より個別の契約内容を重視して、当該対象物が、契約の趣旨・目的・内容等に適合するものかどうかで不適合の有無が判断される可能性があります。
例えば、契約書には、対象物を現状有姿で引き渡すという形でしか記載されておらず現状有姿について具体的に規定されていない場合、買主側では、買った後に思っていたものと違ったり、契約の際に売主から言われていた内容と異なっていて買った目的が達成できないような場合でも、売主に対して何も請求できなくなる可能性も生じてしまいます。
一方、売主側からしても、売った後に、買主から契約で約束していた内容と異なるとして契約不適合だと請求され紛争になってしまう可能性もでてきます。
そのため、このような事態を防ぐためにも、契約書には、単に対象物の名称等を書くのではなく、その売買をどのような趣旨・目的で行うのか、買った後に買主はその対象物をどのように使用するのか、そのために買う対象物についてはどのような機能や種類や品質を備えている必要があるのか、対象物の現在の状態はどうなのかといった契約の内容を、より個別具体的に契約書に記載しておくことが有用です。
このように契約内容を具体的に記載することで、買った後でも、契約に適合しているか不適合かの場面が明確となり、売主・買主ともに安心して取引ができることにつながると思います。
4. その他
民法が契約不適合責任に改正されたことで、商法526条の文言も変わりました。
商法526条では、商人間の売買については、買主に速やかな検査義務が課されており、契約不適合責任についての請求期間も民法よりも短く規定されています。買主側としては、契約書で商法526条は適用除外にした方が有利となります。
5. 表明保証
また、買主の立場としては、契約の趣旨・目的、対象物の内容等を具体的に契約書に記載した上で、売主から対象物が契約書の記載内容を満たしていること(真実であること)を保証してもらう表明保証条項を入れることも、担保の一種として考えられます。
その際は、契約書において、もし対象物がその内容を満たしていないときには、買主は売主に対して何を請求できるのかという違反の効果まで契約書に明示しておくとより明確です。
6. まとめ
従来は契約書において、契約の目的趣旨・内容についてあまり具体的に記載されていないものも多かったと思います。
民法が改正されて、契約不適合責任となったことで、契約書において個別契約の内容を具体的に明記することの重要性がより増したと考えられます。
また、改正民法をふまえて特約を個別に結ぶことも重要です。すでに民法が改正されて1年くらいたっていますが、これを機会に特に大事な売買については再度契約書を見直されることも有用かと思います。
(監修者:弁護士 小林義和)