もはや「パワハラ」という言葉は、誰も知らない人がいないほど定着しました。「パワハラ」すなわち「パワーハラスメント」は、定義があいまいであるため、実際のところ、上司が部下にパワハラと言われることをおそれて本来の指導が出来なくなったり、また過剰にパワハラだと騒ぐ従業員が出ているなど、現場での混乱も耳に入ってきます。
今回はそんなパワハラについて、最新の動向などをお話させて頂きます。
1. パワハラ相談大幅増加中!!
厚生労働省の調査によると、昨年度「総合労働相談」に寄せられた労働相談内容としての職場での「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数が7万件に届く勢いとのことです(なお、ここでいう「いじめ・嫌がらせ」には、当然ながらいわゆる「パワハラ」が多く含まれるものと思われます。)。 これはものすごい件数です。 「総合労働相談」とは、都道府県労働局、各地域の労働基準監督署などにある様々な労働問題相談に対応するコーナーです。社会保険労務士の有資格者など労働問題に詳しい専門の相談員がいらっしゃるので比較的利用されている制度だと思います。 皆様のお知り合いなどから「労働トラブルは抱えているが、いきなり弁護士に相談するのはハードルが高い…。」なんて相談をされた場合には、その方については、こちらの窓口をご紹介しても良いかもしれません(独り言ですが、総合労働相談コーナーに行っても、内容によっては弁護士への相談を進められてたらい回しのようになってしまうケースもあります。なので、本当のところは、まずは弁護士にご相談頂きたいところです…。)。
2. パワハラ問題は新たなステージへ
ちょっと脱線してしまいましたので話を戻します。上記「総合労働相談」でも、一昔前は「解雇」などの典型的なトラブルの相談が件数を占めていましたが、現在(正確にはここ数年)「パワハラ」等がそれらを抑えて民事個別労働紛争の相談件数トップに躍り出たことになります。
これだけ相談件数が増えているということは、他方で、パワハラに問題意識を持っている従業員がそれだけ増えているということですので、それはすなわち以前よりもパワハラなどが法的紛争に至りやすくなっていることを示していると思います。このことからすると、パワハラ問題はもはや「知っているかどうか」の問題ではなく「知った上でリスク管理としてどう対策をとっているか」の問題であり、それは大企業だけではなく中小企業であっても同様だと思います。
国も事態を重く見たのでしょうか、厚生労働省が本年7月に以前から公表されていた「パワーハラスメント対策導入マニュアル」を第2版としてパワーアップさせています(詳しくは、厚生労働省のホームページhttps://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000128935.html をご覧ください)。
このマニュアルでは、本書面では省略しているパワハラの定義や、具体的な対応策などが非常にわかりやすくまとまっているので、ご興味がある方には是非ご一読ください。
2. パワハラ対策をしないとどうなる?
一般にパワハラを放置すると以下のような問題が生じると言われています。
- 被害従業員の精神的なダメージの悪化(※精神障害に関する労災発生リスク増大)
- 職場環境の悪化
- パワハラを行った上司などの個人について、①会社からの懲戒処分や②上司自身の被害者に対する法的責任(損害賠償債務)を負うリスクが増大
- 上司のパワハラについての会社の使用者責任や、職場環境に関する会社独自の責任について、被害者への損害賠償債務などの法的リスクが増大
上記問題はリスク管理の観点から無視できないません。 また、最近、私が労働事件のご相談を伺う中で「パワハラ」に関するものが頻発しています弁護士に相談に行かれてしまうと、その弁護士がある程度労働法を知っていれば、仮に従業員本人が「パワハラである」と指摘する問題がそれほど大きな問題ではなくても(※そういう事例が間々あることは経験上否定できません。)、従業員があまり意識していなかった「未払残業代」「労災」などの問題が掘り起こされ、パワハラ相談をきっかけに大掛かりな労働紛争に発展することも経験上珍しくありません。
4. 最後に
上記のとおり「パワハラ」の問題は無視できない問題となっています。弊所では、上記のようなハラスメントに関する問題についてもご相談可能です(外部でハラスメントに関する研修講師なども行っております)ので、心配な問題があれば是非ご相談ください。
(文責:弁護士 三井伸容)