Q. 働き方改革で有給休暇の取得が義務化されたと聞いていますが、有給に関する注意点について教えて頂けますでしょうか。
A. 労働基準法第39条第7項において、2019年4月1日から年5日の有給休暇取得が義務化されましたので、対応がまだの場合は改善が必要です。また、有給休暇についてはそれ以外にも様々な点で注意が必要ですので、以下に記載します。
1. 有給休暇取得の義務化について
(1)年5日の有給休暇取得義務化の対象については、すべての企業において、年10日以上の有給休暇が付与される全ての労働者に対して適用対象となります。
そのため、有期雇用労働者やパートタイム労働者であっても、年10日以上の有給休暇が付与される労働者であれば適用対象となります。
なお、パートタイム労働者の方でも所定労働日数次第で、年10日の有給休暇の権利が付与されますので注意が必要です。
(2)そして、年5日取得の対象期間については、年10日以上の有給休暇の付与日(基準日)から1年以内に5日間取得させる義務が生じます(付与日は社員毎により異なる場合がありますのでご注意ください。)。
(3)取得方法は、労働者が自分の意思で取得した日数が年5日に満たない場合は、会社が労働者の意見を聴取した上で、有給休暇の取得時季を指定して合計5日以上になるように有給休暇を取得させなければなりません。
(4)そして、会社が同義務を怠ると、労働基準法第120条第1項で30万円以下の罰金に処せられます(罰則については対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われます。)。
(5)このようなことから、会社としましては、労働者毎に有給休暇の取得状況を管理し必要に応じて時季指定を行うという個別指定方式をとるか(なお、会社が時季指定を行うためにはその方法等について就業規則に記載する必要があります。また、会社には労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し3年間保存する義務もあります。)、年次有給休暇を会社が前もって計画的に割り振る計画的付与制度を導入する(労使協定の締結が必要となります。)等の対策を行う必要があります。
2. 有給休暇の買取要請
労働者から有給休暇について買取要請を受けた場合、会社には応じる義務が生じるのでしょうか。
特に退職時には、残っている未消化の有給休暇を買い取って欲しいと労働者から言われることがあるかと思います。この点、そもそも労働者の有給休暇を取得する権利は付与日から2年で時効となります(労働基準法第115条)。
また、会社には労働者からの有給休暇の買取請求について応じる義務はありません。有給休暇の趣旨である、労働者に必要な休暇を取らせるという点からすると、金銭による買取はその趣旨に反します。
ただし、退職時に未消化の有給休暇を会社が労働者と合意して労働者から買い取ること等は可能と考えられています。
3. 有給休暇の取得時期
労働者から特定の日に有給休暇を取得したいと言われたときに、会社は常に応じなければならないのでしょうか。
この点、労働基準法第39条第5項によると、特定の日を指定して労働者が有給休暇の取得を申請した場合、会社がその申請を拒否することは原則としてできません。
一方、同項では、その時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、会社は他の時季に有給休暇を与えることができる(時季変更)とも規定されています。
ただし、判例では、会社が時季変更できる場合はかなり厳格に判断されており、会社ができる限り従業員が指定した時期に有給休暇をとることができるよう十分配慮してもなお難しい場合等に限定されると考えられます。そのため、会社が労働者からの申請を拒絶するハードルはかなり高いといえます。
4. 退職の際の引継ぎについて
その他、労働者が突然退職するとして引継ぎをせずに有給休暇消化をして退職することは可能でしょうか。
労働者が退職する場合、他の時季に有給休暇を与えるというのが性質上困難であるため、事実上、有給取得を拒むのは難しいといえます。
この場合、引継ぎ業務が完了した時点で有給休暇を取得し、退職してもらうか、労働者と合意の上で有給休暇の買取を行うことにより、引継ぎ業務を行ってもらうことも考えられます。
なお、労働者が退職時に業務の引継ぎをするのは、労働契約に付随する信義則上の義務とされています。
そのため、労働者が引継ぎを一切行わなかった場合、使用者は当該労働者に対して損害賠償請求をできる場合があると理論上は考えられています。
とはいえ、このような事態とならないようにするために、退職時には労働者と会社でよく話し合うことが重要です。
5. まとめ
このように年次有給休暇の取得が義務化されましたが、そもそも年次有給休暇の取得は労働者の心身の疲労回復のためのものです。
そして、労働者の心身疲労が回復すると、労働者の生産性も向上し働きやすい職場にもなりやすいことから、労働者のみならず会社とってもメリットがあるものです。
そのため、この機会に労働者の効率的な働き方という視点からも労務部分の見直しを図ることは会社にとって有用かと思います。
(監修者:弁護士 小林義和)