Q. 当社には、社員が複数います。この度、社員の一人が、会社からの職務に関する命令や指導を受けたことに対してパワハラ行為であると言っています。

会社としては、不当な職務命令や指導をしているつもりはないのですが、大きな規模の会社ではないため、他の社員にも影響しないか等心配です。今後、どのように対応していけばよいでしょうか?

A. 問題を放置しておくと、その社員の精神状態が悪化していき問題が深刻化していくだけでなく、職場全体の士気の低下や人材流出等も生じてくるおそれがあります。

また、パワハラに基づく損害賠償請求等がなされて、問題が大きくなってしまうリスクも生じてきますので、早めに対処する必要があります。


1. パワハラとは

パワーハラスメントとは、上司がその職務上の地位、権原を濫用して部下の人格を損ねるものであり、職場内の人格権侵害の一類型とされています。

そして、パワハラの典型的な類型としては、以下の類型があげられます。

精神的な攻撃(例えば、大勢の前で叱責したりミスを責めたりする行為等)、過大な要求(終業間際に過大な仕事を毎回押し付ける、一人で無理とわかっている仕事や休日出勤しても終わらない量の業務を強要する行為等)、人間関係からの切り離し(挨拶をしても無視する、他の社員にその社員の手伝いをするなと伝える行為等)、個の侵害(執拗に社員のプライベートのことを聞く、既婚者であるにも関わらず独身の社員にしつこく交際をせまる行為等)、過小な要求(社員全員の前で大声で程度の低い仕事を命じる、営業なのに買い物・倉庫整理などの作業を必要以上に強要する行為等)、身体的な攻撃(胸ぐらをつかむ、火のついたタバコを投げる行為等)。

2. 判断基準と生じうる問題点

上司の行為がパワハラにあたるかどうかは主に、以下の点で判断される傾向にあります。

まず、職務命令や注意・指導の内容が業務の範囲内かどうか(業務上の必要性、真の目的)、例えばそもそも不必要な業務命令であったり、指導内容が業務と関係なかったり目的が退職強要目的だったりするものがあげられます。

次に、仮に業務の範囲内だとしても、その職務命令や注意・指導の内容・態様が度を越しているかどうか(不利益の程度)という点も考慮されます。

なお、パワハラと認定される件では、その社員にも落ち度がある場合が多いですが、従業員に落ち度があったとしてもパワハラの認定がされてしまうことには注意が必要です。

そして、実際に生じうる問題としては、まずその社員については、モチベーションの低下や精神的な負担が増大してしまいます。そして、それが進むと精神疾患を発症し労災認定の問題等も発生してくる可能性があります。

会社については、周りの社員の士気が低下したり、社員が耐えかねて辞めてしまうといった人材流出、ネット等が発達していますので会社の悪い評判がたったりするリスクもあります。また、会社には労働契約法5条で就業環境配慮義務が課せられていますので、その従業員から会社に対して損害賠償の請求をされるリスクも生じてきます。

パワハラをした上司についても、その社員から損賠賠償請求をされる可能性もありますし、会社からは懲戒処分等なんらかの不利益処分が科されてしまう可能性もあります。

3. 対処方法

このようにいったんパワハラが問題になってしまうと、様々な問題が生じる可能性がありますので、問題が深刻化し紛争化する前に早期かつ適切に対応することが重要です。
具体的には、まず、当事者や関係者から、プライバシーに配慮しながらヒアリングをして事実関係の把握につとめる必要があります。

そして、可能な限り事実関係を把握した上で、実際にパワハラがあったと判断した場合には、被害を受けた社員に対しては、精神面のフォロー等も適宜行い問題の深刻化・紛争化を防ぐ必要があります。加害者である社員に対しては、適切な指導や場合によっては処分が必要となる場合もあるかと思います。

また、仮に会社がパワハラはなかったと判断した場合でも、社員の士気が下がっていることが多く、他の社員への影響も考えると、再発防止のために当事者と密にコミュニケーションをとる等一定期間は注意して対応することが必要です。

4. まとめ

ミスをしたり改善が必要な部下に注意や指導をすることは、会社が利益を出して存続していくためには、当然必要なことであり、そのような行為を違法とすることは当然できません。しかし、バランスを逸して社員の人格を否定してしまう行為まで、許されるわけではありません。

そのため、このような問題が生じないように、日頃から、社員へ指示・指導する場合はその内容を明確にしたり、その指示・指導内容も、社員の経験・理解度・習熟度に合わせた合理的なものにするよう心掛けることが大事です。

また、早期に問題を把握したり事前に防止するためにも、日頃のコミュニケーションを大切する必要があり、社員向け相談窓口を設置したり定期的に研修を行ったりすること等の対策も重要となってきます。このような対策をとることで、パワハラのリスク等が防げるだけでなく、結果的には社員の士気や生産性もあがるといった効果も見込めるかと思います。

(監修者:弁護士 小林義和

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