職場でのハラスメントは、当事者の心身を傷つけるだけでなく、職場環境の悪化や人材流出、企業イメージの毀損、さらには法的責任にも直結する重大な問題です。予防のための体制づくりや、有事の際の迅速・適切な対応は、企業にとって不可欠な経営課題といえます。
本記事では、ハラスメントの類型や法的責任の根拠、企業が取るべき具体的な対応策、やってはいけないNG対応、さらに団体交渉や労働審判・裁判への備えまでをわかりやすく解説します。
目次
1. ハラスメントとは?
ハラスメントとは、相手を不快にさせたり、精神的・身体的に傷つけたりする行為のことです。本人に悪意がなくても、社会通念上「行き過ぎ」と見られればハラスメントと判断される可能性があります。
職場でのハラスメントは、従業員の健康やモチベーションを奪い、生産性の低下や離職の原因にもなります。ここでは職場でのハラスメントの代表的な種類と特徴を押さえておきましょう。
1.1 パワーハラスメント
パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場において優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えて行われる言動により、労働者の就業環境を害することを指します。労働施策総合推進法では、次の3つの条件をすべて満たす場合がパワハラとされています。
① 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動
パワハラは、加害者が被害者よりも立場的に優位で、相手が反論しづらい状況を利用して行われるのが特徴です。
この「優越的な関係」には、単に役職や肩書の上下関係だけでなく、年齢や勤続年数、専門知識・資格、過去の評価など、さまざまな要素が含まれます。また、一時的な立場の差(出張先での代表者、研修担当者など)でも、相手が逆らいにくい状況であれば「優越的な関係」として認められることがあります。
【具体例】
- 上司が部下に対して、一方的に業務を押し付ける
- プロジェクトリーダーがメンバーの意見を封じる
- ベテラン社員が新人に対して威圧的な態度を取り続ける
- 研修や出張で一時的に上位の立場となった社員が、下位の立場の社員に不必要な行為をさせる
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
業務を指導・監督する行為自体は、管理職や先輩社員の正当な役割です。しかし、その方法や態度が社会通念上「行き過ぎ」と判断される場合はパワハラに当たります。
【具体例】
- ミスを理由に、必要以上に長時間叱責する
- 他の社員がいる前で大声をあげ、威圧的な態度をとる
- 人格や家族背景など業務と無関係な点を批判する
- 明らかに不可能な期限や業務量を押し付け、達成できなければ執拗に責め立てる
ここでの判断基準は、「業務の目的達成に必要な範囲か」「指導の態様が社会的に相当か」という点です。業務上必要でも、やり方が過度であればパワハラと評価されます。
③ 就業環境が害されるような言動
3つ目の要件は、行為によって被害者の働く環境が悪化することです。単なる不快感ではなく、一般的な労働者が同じ状況に置かれた場合にも「仕事を続けにくい」と感じる程度である必要があります。
評価は、被害者の主観だけでなく、客観的に見て同じ立場の労働者ならどう感じるかという観点から行われます。そのため、「本人が我慢できなかっただけ」といった説明では免責されません。
【具体例】
- 精神的ストレスによる不眠やうつ症状の発症
- 出勤が難しくなり、長期休職や退職に至る
- 職場で萎縮し、発言や行動が極端に制限される
1.2 セクシャルハラスメント
セクシャルハラスメント(セクハラ)とは、職場での性的な言動によって、働く人の環境を悪化させる行為をいいます。男女雇用機会均等法では、次の2つの条件を満たす場合をセクハラと定義しています。
① 職場で行われる労働者の意に反する性的な言動
ここでいう「職場」には、会社の執務スペースだけでなく、出張先や取引先、研修や懇親会など、業務に関連するすべての場所が含まれます。
「性的な言動」とは、単なる冗談や軽口ではなく、性的な事実関係を詮索する発言や、身体への不必要な接触など、相手を不快にさせる行為を指します。
【具体例】
- 性的な事実や私生活をしつこく質問する
- 食事やデートへの執拗な誘い
- 性的関係を迫る、または暗に要求する
- 必要のない身体接触(肩を触る、抱きつくなど)
② 性的な言動への対応により労働条件につき不利益を受けたこと、または性的な言動により就業環境が害されたこと
「不利益を受ける」とは、性的な言動を拒否したことをきっかけに、解雇、降格、減給、異動などの処遇を受けるケースです。これは「対価型セクハラ」と呼ばれます。
【対価型セクハラの具体例】
- 上司が部下に性的な関係を要求し、拒否されたため解雇する
- 胸を触られ拒否したところ、遠方への転勤を命じられる
- 性的発言をやめるよう抗議した結果、異動を命じられる
一方、「就業環境が害される」とは、性的な言動によって精神的苦痛を感じた結果、出社できなくなったり、業務に支障が出たりすることをいいます。こちらは「環境型セクハラ」と呼ばれます。
【環境型セクハラの具体例】
- 上司が事務所内で労働者の腰や胸などに繰り返し触れ、その結果、労働者が強い苦痛を感じて就業意欲を失う
- 同僚が取引先で、特定の労働者に関する性的な内容のうわさを意図的かつ継続的に流し、その労働者が仕事に集中できなくなる
- 労働者が抗議しているにもかかわらず、同僚が業務用パソコンでアダルトサイトを閲覧し続け、それを見た労働者が強い不快感を覚えて業務に専念できない
1.3 マタニティハラスメント
マタニティハラスメント(マタハラ)とは、妊娠や出産、産前産後休業や育児休業などの制度利用を理由に、職場で不利益や嫌がらせを受けることをいいます。
厚生労働省の指針では、妊娠・出産や育休取得をめぐるハラスメントを「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」の2つのタイプに分類しています。
1.3.1 制度等の利用への嫌がらせ型
これは、妊娠・出産、産前産後休業、育児休業、子の看護休暇など、労働者が法律で認められた制度を利用しようとした、または利用したことを理由に、不利益な取扱いや嫌がらせを行うものです。この型の嫌がらせは、大きく次の3つに分けられます。
① 制度利用への請求や相談を理由に不利益を示唆するもの
労働者が制度を利用したいと相談、または利用を申し出た際に、解雇や降格など不利益な取扱いを示唆するケースです。
【具体例】
- 産前休業を希望したところ、「休みを取るなら辞めてもらう」と言われた
- 時間外労働の免除を申請したら、「次の査定で昇進はないと思え」と言われた
② 制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの
労働者が制度を利用したいと相談した際に、請求しないよう圧力をかけたり、利用申請を取り下げるよう求めたりする行為です。
【具体例】
- 育児休業の取得を相談した男性社員に対し、上司が「男のくせに育休なんてありえない」と言い、申請をあきらめさせた
- 産前休業の申請を同僚に伝えたら、「そんなことしたら皆に迷惑がかかる」と繰り返し言われ、取得を断念させられた
③ 制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするもの
制度を利用した社員に対し、繰り返し侮辱的な発言をしたり、業務から外す行為です。
【具体例】
- 「所定外労働を制限している人には重要な仕事は任せられない」と繰り返し言われ、雑務だけを担当させられる
- 「自分だけ短時間勤務なんて周囲に迷惑だ」と言われ続け、職場で孤立させられる
1.3.2 状態への嫌がらせ型
これは、妊娠・出産したこと自体や、それに伴う体調変化などの「状態そのもの」を理由に、不利益な取扱いや嫌がらせを行うものです。
この型の嫌がらせは、大きく次の2つに分けられます。
① 妊娠や出産などの状態を理由に不利益を示唆するもの
女性労働者が妊娠等したことにより、上司がその女性労働者に対し、解雇その他の不利益な取扱いを示唆することです。
【具体例】
- 上司に妊娠を報告したところ、「他の人を雇うから早めに辞めてもらうしかない」と言われた
- つわりで欠勤が続いた際に、「そんなに休むなら契約を更新できない」と告げられた
② 妊娠や出産などの状態を理由に嫌がらせするもの
女性労働者が妊娠等をしたことにより、上司または同僚がその女性労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすることです。
【具体例】
- 上司から「妊婦はすぐ休むから戦力にならない」と繰り返し言われ、重要な業務から外された
- 上司や同僚から「妊娠するなら繁忙期は避けるべきだった」と繰り返し言われ、精神的負担が大きく業務に支障が出ている
1.4 その他のハラスメント
職場では、パワハラ・セクハラ・マタハラ以外にも、さまざまな形のハラスメントが発生する可能性があります。近年は社会的関心が高まり、次のような行為も問題視されています。
① ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
ジェンダーハラスメントとは、性別を理由とした差別や嫌がらせを行うものです。男性・女性といった二分化だけでなく、性的指向や性自認に基づく差別も含まれます。
【具体例】
- 特定の業務を「女性だから」「男性だから」という理由で一方にだけ割り当てる
- 性別を揶揄する発言を繰り返す
② アルコールハラスメント(アルハラ)
アルコールハラスメントとは、飲酒に関して強制や嫌がらせを行うものです。飲み会の文化が残る職場では特に注意が必要です。
【具体例】
- 飲み会への参加を半ば強制する
- 断っているのに飲酒を勧め続ける
- 酔っての不適切な言動
③ カスタマーハラスメント(カスハラ)
カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先からの過剰・不当な要求や言動による嫌がらせです。近年、接客業やサービス業での深刻な問題となっています。
【具体例】
- 土下座を強要する
- 自ら壊した商品を「最初から壊れていた」と主張し返金や交換を求める
- 暴言や脅迫的な発言を繰り返す

2. ハラスメントの法的責任の根拠
職場でハラスメントが発生した場合、加害者本人だけでなく、その加害者を雇用している会社が法的責任を負うケースがあります。会社が問われる責任には、大きく分けて次の2つがあります。
2.1 不法行為責任や使用者責任
「不法行為責任」とは、加害行為が事実上会社の意思や方針に基づいて行われたと評価される場合に、会社自体が直接負う責任をいいます。
たとえば、過去に同様のハラスメントが繰り返し報告されていたにもかかわらず、会社が何ら防止策を講じなかった場合や、組織ぐるみでハラスメントが行われていた場合がこれにあたります。
この場合、会社は自ら違法行為を行ったものとみなされ、被害者に対して直接損害賠償責任を負うことになります。
また、「使用者責任」も会社が負う可能性のある責任のひとつです。これは、労働者が職務の範囲内で他者に損害を与えた場合に、その雇用主である会社が加害者と連帯して賠償責任を負うというものです。
たとえば、職場でのパワハラによって被害者がうつ病などの精神的疾患を発症した場合、その行為が業務中に行われていれば、会社は使用者としての責任を免れない可能性が高くなります。
法律上は、会社が労働者の採用や監督に相当な注意を尽くしていた場合には免責されることになっていますが、実務上、免責が認められる例はほとんどありません。
2.2 債務不履行責任
会社は雇用契約上、労働者に「安全で快適な職場環境を提供する義務(職場環境配慮義務)」を負っています。この義務を怠り、ハラスメントが発生した場合には、債務不履行責任が問われることがあります。
債務不履行責任とは、本来果たすべき契約上の義務を履行しなかったことにより発生する賠償責任のことです。
ハラスメントが横行する職場は、安全で快適な環境とはいえず、会社が職場環境配慮義務を尽くさなかったと判断される可能性があります。結果として、被害者から債務不履行に基づく損害賠償請求をされる場合があります。
3. 予防のため企業が講じるべき措置
企業がハラスメントを防ぐためには、単発的な取り組みではなく、組織全体として継続的かつ体系的に対策を行うことが不可欠です。以下では、特に重要な施策を整理します。
3.1 トップが方針を明確にする
ハラスメント防止の第一歩は、企業トップが自らの言葉で「ハラスメントを許さない」という姿勢を明確に示すことです。経営者や役員が率先して方針を打ち出すことで、組織全体に強いメッセージを発信できます。
方針は社内報・イントラネット・朝礼・全体会議など複数の機会で繰り返し伝え、形骸化させないことが重要です。また、方針には「どのような行為がハラスメントに該当するのか」「違反があった場合は厳正に対処すること」「被害者や告発者への不利益取扱いは禁止すること」を明記します。
トップが一貫してこの姿勢を保ち、管理職にも同様の行動を求めることで、職場全体に予防意識が浸透します。さらに、経営層自ら研修や啓発活動に参加することで、「自分ごと」として捉える文化を醸成できます。
3.2 就業規則などの規程の整備
ハラスメント防止の方針を実効性あるものにするためには、就業規則や人事規程などに具体的な条文として盛り込む必要があります。規程には、ハラスメントの定義や具体例、懲戒の対象となる旨、相談・調査・是正の手順、再発防止策などを明確に記載します。
特に懲戒処分を行う場合は、その根拠を就業規則に明記しておかなければならず、記載がなければ処分が無効となるおそれがあります。そのため、労働基準監督署への届出や労働者への周知も必須です。
また、規程は一度作って終わりではなく、法改正や社会情勢の変化に応じて定期的に見直すことが重要です。年1回程度、管理職会議や人事部主導で規程内容を再確認し、必要に応じて改訂や社内説明会を行うことで、規程が現場で生きたものとして機能します。
3.3 相談・苦情対応体制の構築
事業主は、労働施策総合推進法(パワハラ)、男女雇用機会均等法(セクハラ・マタハラ)、育児・介護休業法(マタハラ)に基づき、労働者に向けたハラスメントの相談窓口を設置することが法律で義務付けられています。窓口は、労働者が安心して利用できることが重要で、相談内容や相談者の立場に応じて柔軟に対応できる体制が求められます。
相談は必ずしも解決を目的とする必要はなく、「話を聞いてほしい」という一次対応だけでも構いません。一方で、相談者が会社に改善や対応を求めている場合には、詳細なヒアリングや事実確認を行い、必要な解決策を検討することが不可欠です。
窓口の設置方法には、社内設置と外部委託の2種類があります。社内設置では、人事部や総務部などから担当者を選任し、相談対応にあたります。この場合、相談者のプライバシー保護に関する教育を徹底しておくことが必要です。
外部委託の場合は、企業が専門機関と契約を結び、労働者が直接相談できる体制を整えます。社内の人には話しづらいケースでも気軽に利用できる点がメリットです。
また、相談しやすさを高めるため、相談方法は電話・メール・書面・ビデオ通話・LINEなど、複数用意しておくことが望ましいです。さらに、相談者に対しては「不利益取扱いは一切行わない」ことや「相談内容は秘密厳守で扱う」ことをあらかじめ周知し、安心して利用できる環境を整えることが重要です。
3.4 実効性のある研修の実施
研修は、単なる知識の伝達にとどまらず、従業員一人ひとりが自分の行動を振り返る機会となる内容にすることが大切です。たとえば、実際の判例や社内で起こりうる事例を用いたロールプレイ、グループディスカッションなどを取り入れると、理解が深まりやすくなります。
研修の対象は全社員とし、入社時や昇進時に必ず実施するほか、年1回以上の定期研修も推奨されます。管理職向けには、部下指導とパワハラの境界線、部下からの相談対応方法、職場環境改善のポイントなど、より実務的な内容を盛り込みます。
さらに、セクハラ・マタハラ・パワハラなど複数のハラスメントに対応できるよう、研修テーマをローテーションさせたり、外部講師(弁護士や産業カウンセラーなど)を招くことで、客観性と専門性の高い学びの場を提供できます。
3.5 継続的な啓蒙活動
研修や規程整備だけでは、時間の経過とともに意識が薄れてしまうおそれがあります。そのため、継続的な啓蒙活動を通じて、ハラスメント防止の意識を職場文化として根付かせることが重要です。
具体的には、社内報やメールマガジン、ポスター、デジタルサイネージなどで定期的に注意喚起を行います。季節や行事に合わせたメッセージや、最新の法改正・判例情報を盛り込むと効果的です。また、匿名アンケートによる職場環境調査を定期的に行い、問題の芽を早期に発見して対策につなげます。
さらに、ハラスメント防止を人事評価や管理職登用の基準に組み込み、「ハラスメントをしない人」「予防に積極的に取り組む人」が評価される仕組みを整えることで、啓蒙活動が単なる形式ではなく、組織の価値観として定着していきます。
4. 有事の際に企業が講じるべき措置
ハラスメントの問題が発生した場合、企業は段階ごとに的確な行動を取ることが重要です。
まずは相談を受けた直後の初期対応で、相談者の安心を確保し、必要な情報を慎重に把握することから始まります。そのうえで、事実確認のための公平・中立な調査、結果に基づく適正かつ厳正な判断と措置、そして再発防止策の策定・実行へと進めていく流れが求められます。
4.1 迅速かつ慎重な相談者への初期対応
ハラスメントの相談を受けた際は、まず速やかに相談者と接触し、安心して話せる環境を整えることが重要です。初動対応の遅れは被害の拡大や証拠の散逸につながりかねません。一方で、拙速な判断や対応は、相談者・行為者双方の権利を損なうおそれがあるため、迅速さと慎重さの両立が求められます。
相談者からの話は、遮らずに傾聴する姿勢を持ち、必要に応じて時系列や具体的な事実を確認します。この段階では、事実認定や責任の断定は行わず、あくまで相談者の心理的負担を軽減しつつ、適切な次のステップ(調査や関係部署への連絡)につなげることが目的です。
また、相談内容や個人情報は厳密に管理し、相談者が報復や不利益取扱いを受けることがないよう配慮する必要があります。相談窓口担当者には、守秘義務や面談技法、法的知識を含めた事前研修を行っておくことが望ましいでしょう。
4.2 公平・中立な事実関係の調査
相談者への初期対応の後は、事実関係を正確に把握するための調査を開始します。この調査は、公平性と中立性を保つことが不可欠です。調査担当者は、当事者や関係者との利害関係がない人物を選び、先入観を持たずに臨む必要があります。
調査は、まず相談者に詳細な経緯や日時、場所、関与者を確認し、その後、行為者や第三者の証言を集めます。双方の言い分が食い違う場合は、メールやチャットの履歴、防犯カメラ映像などの客観的資料も収集します。
聴取の際は、相談者・行為者それぞれが安心して話せるよう、面談時間や場所に配慮し、プライバシー保護を徹底します。また、調査記録は関係者以外が閲覧できないよう厳重に保管し、外部への漏えいを防ぐことが重要です。
こうした慎重かつ客観的な調査プロセスを経ることで、感情や先入観に左右されない公正な判断の土台が整います。
4.3 適正・厳正な判断と措置
調査によって事実関係が明らかになったら、その内容をもとに適正かつ厳正な判断を下します。判断にあたっては、就業規則やハラスメント防止規程、関連法令に照らし合わせて、行為がハラスメントに該当するかどうかを慎重に評価する必要があります。
もしハラスメントが認定された場合は、行為の悪質性や継続性、被害の程度、会社の過去の対応実績などを考慮し、必要な措置を講じます。措置には、加害者に対する懲戒処分(けん責・減給・降格・出勤停止・懲戒解雇など)や配置転換、改善指導などが含まれます。
同時に、被害者に対しては、勤務場所の変更や休暇の付与、労働条件の回復、メンタルケアなど、職場復帰や安心して働ける環境づくりを優先的に行います。
判断や措置は、関係者へのヒアリングや証拠に基づいて説明できるよう記録化し、透明性を確保することが重要です。このような一貫した対応は、組織の信頼性を守り、再発防止にもつながります。
4.4 再発防止策の作成と実行
ハラスメント事案が発生した場合、その対応は事後処理にとどまらず、同様の事案を繰り返さないための再発防止策を策定し、確実に実行することが求められます。まず、調査結果をもとに原因を分析し、社内のルールや業務体制、職場風土に潜む問題点を洗い出します。
具体的な対策としては、職場でハラスメントを行ってはならない旨の方針、および加害行為を行った者には厳正に対処する方針を、社内報・パンフレット・社内ホームページなどの広報媒体で改めて周知・啓発することが挙げられます。これにより、全従業員に対し会社の姿勢を明確に示し、行動抑止の効果を高めます。
さらに、従業員の意識向上を目的として、ハラスメント防止に関する研修や講習を定期的に実施します。研修では、ハラスメントの定義や具体例、発生時の対応方法、相談窓口の利用方法などを再確認し、管理職向けには指導・対応力を強化するプログラムを導入します。
加えて、相談体制や通報ルートの見直し、評価制度や業務量の調整、組織風土改善など、ハラスメントが発生しにくい環境づくりを進めます。策定した再発防止策は実行後も効果検証を行い、必要に応じて改善を重ねることで、安心して働ける職場を維持することができます。

5. 企業がやってはいけないこと
ハラスメントが発生した場合、企業の対応を誤ると被害が拡大し、職場全体の信頼低下や法的トラブルにつながる恐れがあります。ここでは、特に避けるべき対応例を整理します。
5.1 ハラスメントの相談者を放置する
相談を受けたにもかかわらず、企業が何ら対応をせず放置することは、最も重大な誤りのひとつです。企業には従業員の心身の安全を守る「安全配慮義務」があり、被害の存在を認識しながら放置した場合、義務違反として損害賠償責任を負う可能性があります。
たとえば、被害者が繰り返し相談しているにもかかわらず「様子を見ましょう」と対応を先延ばしにすれば、精神的負担が増大し、症状の悪化や長期休職・退職といった事態に発展するおそれがあります。その結果、企業が損害賠償責任を負う可能性も否定できません。
放置は被害の長期化や深刻化を招き、被害者に「相談しても無駄」という失望感を与えるだけでなく、職場全体の信頼関係を損ない、組織全体の士気低下を引き起こします。こうした悪循環は離職者の増加や職場環境の崩壊にも直結します。
そのため、企業は相談を受けた段階で速やかに調査・対応を開始し、被害の拡大を防ぐことが不可欠です。初期対応の迅速さこそが、被害の最小化と信頼の維持につながります。
5.2 当事者間での解決に委ねてしまう
「まずは二人で話し合って解決してほしい」という対応は、一見公平に見えても実際には不適切です。
ハラスメントは多くの場合、加害者と被害者との間に権力関係や地位の差が存在し、被害者が自由に意見を述べられない状況にあります。そのため、当事者同士に委ねると、被害者が泣き寝入りする、あるいはさらなる圧力を受ける危険性が高まります。
企業は中立的な立場で事実関係を把握し、必要な是正措置を講じる責任があります。当事者任せは、事実確認義務や職場環境配慮義務の放棄とみなされる可能性があります。
5.3 相談者を一方的に責める
相談者に対して「あなたにも落ち度があったのでは」「気にしすぎではないか」といった発言をすることは、二次被害の典型例です。こうした言動は相談者に「会社は守ってくれない」という不信感を与え、精神的ダメージをさらに悪化させることがあります。
企業としては、まず被害者の話を否定せずに受け止め、事実確認や適切なヒアリングを経て判断する姿勢が必要です。初期対応での不用意な言葉が、後の訴訟や労働紛争で不利な証拠として扱われることもあります。
5.4 事実関係を確認せずに処分を決める
ハラスメントが発覚した際に、十分な調査も行わず加害者とされる人物に処分を下すことは、公平性を欠き、後の紛争の火種になりかねません。
特に懲戒処分は、従業員の地位や今後のキャリアに深刻な影響を及ぼす重い措置です。慎重な事実確認と適正な手続きを欠けば、後に処分が無効と判断される可能性があります。そうなれば、企業は地位回復や未払い賃金の支払いに加え、損害賠償といった大きな負担を背負うおそれがあります。
さらに、事実確認を怠った処分は、加害者・被害者双方の不信感を招き、組織全体の信頼低下をもたらします。必ず公正かつ中立な立場で調査を行い、その結果に基づいて処分を決定することが不可欠です。
6. 団体交渉を申し込まれた場合の対応
労働組合から解雇の撤回や労働条件の改善を求める団体交渉を申し込まれた場合、その内容が「義務的団交事項(企業が原則として交渉に応じなければならない事項)」に該当すれば、企業は団体交渉をしなければいけません。従業員の解雇は典型的な義務的団交事項であり、申し入れがあれば基本的に団体交渉に応じる必要があります。
申入書を受け取ったら、まず交渉事項が義務的団交事項にあたるかを確認し、同時に労働組合の実態も把握しましょう。既知の組合か、法的に認められた組合か、上部団体や支部の有無、活動実績などを調べることで、交渉の進め方や対応方針を立てやすくなります。
その上で、交渉日時や場所の調整を行い、誠実に対応できる体制を整えます。対応を誤ると不当労働行為とみなされるおそれがあるため、迷う場合や交渉内容が複雑な場合には、労働問題に詳しい弁護士への相談を早期に行うことが望まれます。
7. 労働審判を申し立てられた場合の対応
ハラスメントについての解雇に異議がある場合、不当・違法な解雇であることを理由とする労働審判を起こされることがあります。
労働審判は、不当・違法な解雇や未払い残業代などの労働紛争を迅速に解決するための制度で、原則として3回以内の期日で結論が出されます。そのため、通常の裁判以上に初動の対応が重要です。
裁判所から「審判期日呼出状」や「答弁書催告書」が届いた場合、まずはどの裁判所でいつ期日が開かれるのかを確認します。労働審判では、初回期日までに主張と証拠をほぼ出し切ることが求められるため、時間的余裕は多くありません。
対応にあたっては、解雇の正当性を裏付けるための証拠や資料を速やかに整理します。具体的には、解雇理由に関連する勤務態度や業務成績の記録、指導・改善指示の履歴、就業規則や社内規程などが重要となります。これらをもとに、解雇が普通解雇・整理解雇・懲戒解雇のいずれの要件を満たしているのかを整理し、答弁書に反論の骨子をまとめます。
また、労働審判はスピード重視の手続であるため、第1回期日でおおよその方向性が決まることも少なくありません。解決金の支払いや和解の可否といった選択肢も早い段階で検討する必要があります。
対応経験が少ない場合や社内だけでの判断が難しい場合は、できるだけ早く労働問題に強い弁護士へ相談することが望ましいでしょう。専門家の助言を受けることで、不当労働行為を避けつつ、適法かつ有利な解決策を導く可能性が高まります。
8. 民事裁判を起こされた場合の対応
ハラスメントについての解雇に異議がある場合、不当・違法な解雇であることを理由とする民事裁判を起こされることがあります。
不当・違法な解雇を理由とする民事裁判は、従業員が「解雇は無効だ」と主張し、雇用契約上の地位回復や解雇後の賃金(バックペイ)の支払いを求めて提起するのが一般的です。企業にとっては、解雇の有効性が直接問われる重要な訴訟となるため、初動から慎重かつ迅速な対応が求められます。
訴状が届いたら、まずは裁判期日と裁判所を確認し、すぐに答弁書や証拠資料の準備を始めます。社内だけで対応するのが難しい場合は、早めに労働法に詳しい弁護士へ相談し、全体の対応方針や訴訟戦略を固めましょう。解雇の正当性を裏付けるには、就業規則や雇用契約書、解雇理由の詳細、過去の指導・改善記録、評価資料などを整理し、「合理的理由」と「社会的相当性」を示す証拠を揃えることが欠かせません。
不当解雇訴訟は、長ければ1年から2年程度かかることもあります。そのため、訴訟の進行に応じて、和解や解決金による早期解決も視野に入れることが大切です。
9. まとめ:ハラスメントの予防や解決は専門家へ
ハラスメントは、発生すれば被害者・加害者双方に深刻な影響を与えるだけでなく、企業にとっても法的責任や社会的信用の低下、職場環境の悪化など多くのリスクを伴います。
特に、対応が遅れたり不十分であったりする場合には、損害賠償請求や労務トラブルが長期化し、組織運営にも大きな支障をきたしかねません。
そのため、日頃から社内規程の整備、相談窓口の設置、研修の実施など、予防的な取り組みを行うことが欠かせません。また、万一トラブルが発生した場合には、初動の段階から迅速かつ慎重に対応し、事実関係を正確に把握した上で適切な措置を講じることが重要です。
さらに、ハラスメント問題は感情的な対立や複雑な事実関係を含むことが多く、社内対応だけでは限界が生じるケースも少なくありません。
専門知識と経験を持つ弁護士や社会保険労務士などの外部専門家を活用することで、法的リスクを回避しつつ、公平かつ早期の解決が期待できます。予防から解決まで、一貫して専門家と連携する体制を整えておくことが、企業にとって最も確実なリスクマネジメントといえるでしょう。








