損害賠償責任以外にも、刑事上・行政上の責任を問われる可能性があります。また、企業名が公表される場合もあります。

1. 労災に潜む様々なリスク

「従業員が労災認定されました。これでもうこの事故の問題は解決ですよね?」で、労働災害が発生した場合の、会社の損害賠償責任について解説をしました。しかし、損害賠償責任(民事上の責任)だけでなく、刑事上の責任や、行政上の責任を問われる可能性もあります。また、企業名が公表される可能性もあり、企業イメージが大きく低下することもあります。

2. 刑事上の責任

(1) 労働安全衛生法違反

労働安全衛生法という法律は、労働者の安全・健康を確保するために、会社(事業者)とその関係者に対し、様々な義務を課しています。具体的な義務としては、①安全管理体制の整備(安全管理者の選任、産業医の選任など)、②労働者の危険・健康障害を防止するための措置(機械の整備・点検火災の注意、有害物質への注意など)、③健康診断の実施といった義務が定められています。

これらの義務に違反した場合には、労働安全法違反として、刑事処分を受ける可能性があります。しかも、労働安全衛生法には「両罰規定」というものがあり、これにより、違反行為を具体的に行った労働者だけでなく、会社も処罰(罰金刑)を受けることとなります。

労災が発生する=労働安全衛生法違反というわけではありませんが、労災が発生したことにより、労働安全衛生法違反が判明することが多い、というのが実情です。

(2) 業務上過失致死傷罪

例えば、現場の機械に不具合があり、そのことを認識していながら何の点検・修理も行わず、その結果、労働災害が発生してしまったような場合、事故を起こしてしまった従業員や、工場長・現場監督者といった現場の管理者が、業務上過失致死傷罪として刑事処分(5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金)を受ける可能性があります。ただし、業務上過失致死傷罪の場合、両罰規定は存在しないため、会社自身が処罰を受けることはありません。

実際に、エレベーターの不具合を前から認識していたのに、修理・点検を一切行わなかった結果、死亡事故が発生してしまったという事案において、副工場長と従業員が、業務上過失致死罪として処罰された例があります。この事案においては、業務上過失運転致死罪だけでなく、労働安全衛生法違反についても責任を問われており、両罰規定により、会社も処罰(罰金100万円)を受けています。

(3) 労働基準法違反

長時間労働が背景にある労災事案(うつ病による自殺、心臓疾患・脳疾患の場合等)においては、時間外労働が労働基準法に違反していることも多く、この場合には労働基準法違反として、被災労働者の上司等が処罰(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)を受ける可能性があります(労災の発生により、この違反が判明することが多いです。)。また、労働基準法には両罰規定があるので、会社も処罰(罰金刑)される可能性があります。

なお、36協定という労使協定を結んでいた場合でも、その範囲を超える時間外労働をさせた場合には、労働基準法違反ということになりますので、注意が必要です。

3. 行政上の責任

労働安全衛生法や労働基準法に違反した場合は、労働基準監督署から会社に対して是正勧告がなされ、それに対応する必要が生じることがあります。この是正勧告に従わないと、悪質な事案と評価され、最悪の場合、逮捕・送検される場合もあります。

また、例えば建設業法28条は、「建設業者…がその業務に関し他の法令に違反し、建設業者として不適当であると認められるとき」は、1年以内の期間を定めて、業務停止を命じることができると定めています。この「他の法令」には労働基準法等も含まれ、実際に、長時間労働により労働者が過労死してしまった事案につき、労働基準法違反(時間外労働)を理由に、建設業者が営業停止処分を受けたという例があります。

一定の業種においては、労働基準法や労働安全衛生法の違反が、営業停止にまで発展する可能性があるので、注意が必要です。

4. レピュテーションリスクの問題

労災が起こってしまった場合、多くの事案においては、メディアにより報道がなされます。特に過労死の場合などは、一度報道がされてしますと、「ブラック企業」というイメージが定着してしまい、企業イメージが大きく低下することになります。

また、一定の規模を有する企業においては、複数の事業所で違法な長時間労働や労災が確認され、その状態が是正されない場合などには、厚生労働省によって企業名が公表されるという制度があります。この公表がなされてしまうと、いわば「国が公認したブラック企業」というイメージが定着することになり、より深刻な企業イメージの低下が生じることになります。