1. はじめに:突然のことで驚くのは当然

弁護士から突然書面が来て、非常に驚かれる経営者の方が多くいらっしゃいます。

中には、1000万円を超える請求金額が記載されていることもあり、驚かれるのも当然かと思います。

よつば総合法律事務所でも、請求金額から大幅に減額した金額にて解決したケースや、全く金銭を支払わない形で解決となったケースも多くございます。

慌てずに、できるだけ早く弁護士事務所に相談して、会社の対応を考えることが一番重要です。

2. 請求金額は正しい?支払期限は守らなければダメ?

実は、弁護士が会社に通知書を送る段階で、「正確な請求金額」が判明していることはほぼありません。

残業代を計算するために必要な書類(タイムカードなど)が会社にあることが大きな理由です。

請求金額が不明であるため、金額は記載せずに、単に「〇年〇月から〇年〇月まで、本来支払われる給与が払われていない」とのみ記載するケースも多いです。

そのため、初回の通知書に記載された金額は、あまり深刻に考える必要はありません。

通知書の期限は深刻に考えすぎないこと

通知書の中に、「本書受領後2週間以内に、未払残業代全額をお支払いください」と、支払期限が設定されているケースが大半です。

この期限は、請求する側が勝手に設定しているだけですので、守る必要はありません。会社側としても、そもそも未払残業代が発生しているかの検証もできていない状況なので、そもそも期限内の支払は不可能です。

ただし、この期限内に「何も対応しない」となると、解決の意思がないと判断されて、訴訟などを起こされてしまうリスクがあります。

そのため、設定された期限内に最低限、「弁護士に相談しているので、回答はもう少し待ってほしい」といった連絡のみ入れておくことをお勧めしています。

3. 資料は全て開示しなければダメ?

通知書の中に、「雇用契約書、タイムカード、就業規則、賃金規程、賃金台帳…などの資料一式を開示してください」と、資料の開示を依頼する文書が入っていることがほとんどです。

資料を開示しないと、①解決の意思がないと判断され、訴訟などを起こされるリスクや、②場合によっては証拠保全の手続が取られ、いきなり裁判所が事業所に来て、資料一式を確認されるリスクがあります。

そのため、開示を求められた資料は、基本的には全て開示する方向で検討するのが望ましいでしょう。

開示すべきでない資料は明確に拒否

労働者側から要求された資料の中には、開示すべきでない資料が含まれていることがあります。

たとえば、運送会社の残業代請求で、「歩合給の額を計算するために、ルート・荷主毎の単価表や、実際の売上票を開示して欲しい」との要望を受けることがあります。

しかし、これらの資料を開示すれば、ルート・荷主の運賃が外部に公開されることになります。場合によっては、労働者が外部に運賃額を公表したり、「良い荷主」の仕事を奪おうとする可能性もあります。

運賃額が外部に公表されることで、荷主との間でトラブルになる可能性すらあります。

そのため、「どの範囲の資料を開示するか」を含めて、弁護士に相談しながら、慎重に検討することが望ましいです。

4. 残業代請求(交渉)の通常の流れ

双方に弁護士が付いた残業代請求の事案では、以下の流れで交渉が進むことが多いです。

  1. 労働者が弁護士に対応を依頼する。
  2. 労働者側の弁護士が、残業代の支払を求める書面を会社に送付する。
    ※「受任通知書」「未払残業代請求書」といったタイトルの書面が多いです。
  3. 会社が弁護士に対応を依頼する。
  4. 会社側の弁護士が、労働者側の弁護士に対し、対応の依頼を受けた旨の通知書面を送付する。
  5. 会社側が開示資料の範囲を検討し、労働者側に資料を開示する。
  6. 開示資料を踏まえて労働者側が残業代を計算し、会社側に提示する。
  7. 会社側が残業代の計算に対する回答書面を送付する。
  8. 労働者側と会社側代理人間で解決水準を協議し、合意となれば、示談書の取り交わしを行う。
    ※合意が成立しなければ、法的手続(労働審判、訴訟)に移行するのが通常です。

5. 会社側の反論のポイント

様々な反論が考えられますが、よくある反論を以下に記載します。

  1. 労働者は「管理監督者」なので、残業代が発生しない労働者である。
  2. そんなに労働していない(サボっていた。何もせずに会社に残っていた)。
  3. 休憩時間が計上されていない。
  4. 毎月定額の残業代を手当で払っており、そもそも未払はない(または、未払の金額はもっと少ない)。
  5. 消滅時効があるので、3年以上前の労働部分は支払義務がない。

重要なのは「会社側から積極的に反論しなければならない」ということです。

労働者側から依頼を受けた弁護士は、依頼者である「労働者の利益」を最大化するために交渉するので、会社側に有利になる事項を、わざわざ積極的に認める理由はありません。

そのため会社側としても、残業代請求対応に明るい弁護士に依頼をし、「労働者側の主張は正しいのか」「会社として反論すべきポイントはあるか」を検討していく必要があります。

6. おわりに:できるだけ早く弁護士に相談

労働者の弁護士から書面が届いても慌てる必要はありません。

できるだけ早く弁護士事務所に相談して、会社の対応を考えることが一番重要です。

監修者:弁護士 村岡つばさ

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