第1 初動時の注意
従業員からの割増賃金請求と共に、タイムカードの開示を要求されることがあります。経営者の方としては、証拠となるものを開示したくないと思われると思います。しかし、必要な基礎資料について任意に開示しなければ、証拠保全の手続き等が取られることが予想されます。結局開示しなければならなくなるのであれば、任意に開示し、早期の和解に持ち込むことが結果的によい解決につながると考えられます。
第2 労働時間の証拠として用いられる証拠
割増賃金請求にあたり、よく労働時間の証拠として用いられるのはタイムカードです。タイムカードの打刻時間と労働時間に関しては、使用者側において、労働者が労働をしていなかったことを反証しない限り、タイムカードの打刻の結果によって把握される時刻を前提に労働時間として取り扱わなければならないという推定が働くとした裁判例があります。そのため、タイムカードなど、労働時間の記録となりうるものについては、日頃からきちんと管理しておくことが必要です。
他に用いられる証拠としては、時間管理記録、日報、手帳、メールの送受信記録、 PCの記録等が考えられます。
第3 反論の立て方の一例
1. 割増賃金が発生していないとの主張
労働者が管理監督者に該当する旨の主張が考えられます。
労働者が法律上の管理監督者に該当する場合、労働基準法上の労働時間・休憩・休日に関する規定は適用されません(労基法41条2号)。管理監督者に該当するかは、管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある者を指し、名称にとらわれず実態に即して判断されます。
したがって、会社と労働者間でその労働者が管理監督者であると取り決めたとしても、実態が伴わなければ、法律上の管理監督者として認められない可能性がありますので注意が必要です。
2. 労働者が主張するような残業時間が存在しないとの主張
労働者が労働時間と認められるような作業を何ら行っていなかったとして、労働者が残業をしていなかったと主張することが考えられます。例えば、だらだらとインターネットをして職場に残っていたような場合です。労働者が実際にどのような作業を行っていたのか、双方が立証していくこととなります。
3. 割増賃金は支払済みであるとの主張
(1) 割増賃金として、定額手当を支給するとしていた場合
手当を支給しており、割増賃金として支払済みと主張することが考えられます。
基本給とは別に支払われる手当を、割増賃金の支払いに代えて支払われるものである趣旨を明確にしておくことが必要となります。就業規則において割増賃金であることなどを明示し、給与明細上の記載を工夫すること等も必要となります。
(2) 割増賃金は、基本給に組み込んで支給するとしていた場合
割増賃金は基本給に組み込んでおり、割増賃金は支払済みと主張することが考えられます。基本給のうち割増賃金にあたる部分を区別し、割増賃金額が上回るときはその差額を支払うことを合意しておく等の工夫が必要となります。
4. 割増賃金が発生していたとしても、時効消滅したとの主張
割増賃金が発生していたとしても、時効消滅したと主張することが考えられます。割増賃金請求権は、賃金支払日から起算して2年間で消滅するためです(労基法115条)。