1. 株式の譲渡自由の原則
株主は、自己が有する株式を自由に譲渡することができます(会社法127条)。株券発行会社の場合には、株券を譲受人に交付する方法により(128条1項)、株券不発行会社の場合には、譲渡の意思表示によってのみ株式の譲渡を行うことができます(但し、譲渡の効力を会社及び第三者に主張するためには、株主名簿というものに記載する必要があります)。もっとも、株式譲渡の自由は原則とされていますが、定款や契約、法律などによって株式の譲渡が制限されることがあります。
2. 定款による株式の譲渡制限
会社は、定款によって、株式の譲渡について会社の承認を要すると定めることができます(107条1項1号等)。非上場会社などでは一般的に株式譲渡制限の定款が定められています。
(1) 譲渡の承認機関は?
株式譲渡を承認するか否かを決定する機関は、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会になります
(2) みなし承認規定とは?
定款により、一定の場合には会社が株式の譲渡を承認したものとみなすことを定めることができます。例えば、株主間の譲渡であれば、会社が株式譲渡を承認したものとみなす旨定めることがあり、この場合であれば、会社に対して承認を得る必要はありません。
(3) 譲渡制限の公示とは?
定款による株式の譲渡制限は、登記するとともに、株券発行会社では株券にも記載する必要があります(911条3項7号、216条3項)。譲渡制限は、公示をしなければなりません。
(4) 譲渡制限株式の譲渡の方法は?
譲渡制限株式であっても、最終的に株主は、当初意図した譲渡先か、会社が指定する買取人か、会社には株式を譲渡することができます。
まず、株主が株式を譲渡したいときには、会社に対し、譲渡先に譲渡していいか譲渡承認請求をします。会社が譲渡を承認しないときでも、譲渡人が買い取り先の指定を会社に請求していれば、会社が指定する買取人か会社が当該株式を買い取らなければなりません(140条4項、1項)。
(5) 承認のない譲渡の法律効果は?
最高裁は、会社の承認を得ない譲渡制限株式の譲渡は、譲渡の当事者間では有効であるが、会社に対する関係では効力を生じないとしています。つまり、会社は、株式を譲り受けた人を株主と扱ってはならず、株式譲渡人を株主として扱わなくてはいけません。
(6) 承認のない株式譲渡が会社との関係で有効になる場合はあるの?
定款による株式譲渡の目的は、会社にとって好ましくない人を排除することにあります。したがって、株主が一人しかいないような会社であれば、他の株主の利益保護を考える必要がないので、会社の承認がなくても、株式を有効に譲渡することができます。
3. 契約による譲渡制限
(1) 契約によって株式の譲渡を制限するとは?
株主間の契約によって、株式の譲渡に制限をすることがあります。例えば、二つの会社(X社とY社)が共同出資して株式会社を設立し、合弁事業を行う場合に、一方(X社)が株式の売却を望むときは、他方の会社(Y社)に通知しなければならず、通知を受けたY社はその株式を優先的に買い取ることができる、とするものなどがあります。
(2) 契約による株式の譲渡制限の有効性は?
定款による株式譲渡の制限は、株式を取得しようとする者や会社に対しても効力が及ぶのに対し、契約による株式譲渡制限は、契約当事者間にしか拘束力が及びません。つまり、契約に反する株式譲渡が行われても、会社等は株式の譲渡が行われたものとして扱います。したがって、定款による方法によらずに、株主どうし様々な態様の譲渡制限を約すことは原則認められます。もっとも、契約による株式の譲渡が株主の投下資本回収を著しく制約する場合には、公序良俗違反(民法90条)を理由に無効とされる可能性はあります。
4. 法律の規定による株式の譲渡制限
上記の方法以外にも、会社法上、いくつかの場面で株式の譲渡に制限が課せられることがあります。代表的な場面でいえば、株券発行前の株式などは、株式の譲渡を会社に対して主張することができません(128条2項)。他にも会社法上株式の譲渡が制限される場面は多々あります。会社法上の規定は細かいので、詳しいことは弁護士にご相談ください。
5. 株主名簿
株式の譲渡を第三者や会社に対して主張するためには、株主名簿というものに記載する必要があります(130条)。会社は株主名簿を作成しなければなりません。
(1) 株主名簿の記載事項は?
- ①株主の氏名・名称及び住所
- ②株主の保有株式数・種類
- ③株主の株式取得日
- ④株券発行会社の場合は株券番号
などを記載する必要があります(121条)。
(2) 株主名簿の名義書き換えとは?
すでにご説明した通り、株式の譲渡は、株主名簿の名義書換えをしなければ会社に対抗することができません。株式を譲渡する場合には、会社に対して、名義書き換えを請求する必要があります。これがなされないと、会社は、譲受人のことを株主として扱う必要はありません。
(3) 名義書換えを不当に拒絶された場合は?
株式の譲受人が、適法に名義書換請求をしたにもかかわらず、会社が不当に名義書換えを拒絶したり、あるいは過失によって名義書換えをしないときは、その譲受人は、名義書換えなしに自分が株主であることを会社に対抗できます。
(4) 基準日制度とは?
株式が頻繁に譲渡される会社では、誰が株主名簿上の株主か確定するだけでも相当な時間がかかってしまいます。そこで、会社は、一定の日を基準日として、その時点の株主名簿上の株主を、後日における権利行使ができる者と定めることができます(124条1項)
(5) 株主名簿の備置きと閲覧請求権とは?
会社は、株主名簿を本店に備え置き、株主・債権者・親会社社員の閲覧に供さなくてはなりません(125条1項~5項)。会社は、一定の拒絶事由に該当する場合を除き、株主・債権者からの閲覧請求を拒絶することができません(同条3項)。
株式譲渡の有効性などは、会社の支配権に関わってくる重要な事柄です。リスクを回避するためにも、顧問の弁護士を雇っておくと安心です。