その場で対応・回答する必要はなく、団体交渉に応じる義務があるかを社内で検討し、後日書面で回答すれば大丈夫です。
1. はじめに
会社が、正当な理由がなく団体交渉を拒否することは、不当労働行為として、法的に禁止されます。もっとも、その場ですぐに回答すべき義務までは、会社は負っていません。したがって、本件のように、突然労働組合を名乗る人が会社を訪れて、社長に合わせてほしいと言ってきても、直ちにこれに回答する必要はなく、社内で検討して後日回答する旨伝えれば大丈夫です。
ここでは、団体交渉の申入れ~団体交渉当日までの、会社の行うべき対応について解説します。
2. 対象事項の確認
会社は、すべての事項について団体交渉に応じる義務を負うわけではなく、「義務的団交事項」についてのみ、団体交渉に応じる必要があります。団体交渉を申し入れられた場合、会社としては、まず労働組合が何を要求しているのかを確認する必要があります。
義務的団交事項としては、まず、①組合員である労働者の労働条件等が挙げられます。
例えば、賃金、労働時間、安全衛生・職場環境、労災補償、人事考課・人事異動、懲戒、解雇、福利厚生等が挙げられます。労働条件や労働者の待遇に関連する場合には、会社の経営事項(合併、事業譲渡、事業所の閉鎖等)も義務的団交事項に当たります。
また、②集団的労使関係の運営に関する事項も義務的団交事項に含まれます。例えば、団体交渉・労使協議のルール、組合員の範囲、便宜供与(掲示板の貸与等)、ユニオン・ショップ等がこれに含まれます。
これらの事項に関し団体交渉が申し入れられた場合には、会社は、団体交渉に応じなければならず、これを拒否することは、「不当労働行為」として、法律上禁止されます。会社としては、団体交渉の対象事項が「義務的団交事項」に当たるかを慎重に判断した上で、団体交渉に応じるか否かを回答する必要があります。
3. 日時・場所・出席者等の調整
団体交渉を行うに際しては、日時・場所はどうするか、誰を交渉に出席させるか(何人出席させるか)、といった点についても定める必要があるので、会社としては、これらの事項を、組合と協議しながら決めていくことになります。
(1) 団体交渉の日時
団体交渉に応じるにあたっては、会社の側でも事実関係の調査や、資料の準備等を行う必要があるので、申入れから団体交渉まで、一定の準備期間が必要となります。
したがって、会社の側で、団体交渉申入書に記載された日付よりも先の日付を指定し、協議を行うことは可能です。ただし、あまりにも先の日付を指定すると、その指定自体が不誠実な団体交渉の態度であるとして、不当労働行為に当たると主張されかねないので、注意が必要です。
また、労働組合から、就業時間内における団体交渉の開催を要求されることもありますが、これに応じる義務はありません。むしろ、就業時間内に団体交渉を行った場合、交渉に参加した組合員(労働者)の賃金をどうするか、という問題が別途生じ得ることを考えると、団体交渉は、就業時間外に行う方が望ましいといえます。
なお、団体交渉の日時を定めるにあたっては、あまりにも長時間の交渉に及ぶことを避けるために、団体交渉の開始時間だけでなく、終了時間(=交渉時間)についても定めておく必要があります。
(2) 団体交渉の場所
団体交渉の場所についても、特にどの場所で行う必要がある、といったルールはありません。したがって、労働組合が労働組合側の施設や、会社の会議室で団体交渉を行うことを要求してきても、これに応じる義務まではなく、外部の貸会議室などを団体交渉の場と指定し、協議を行うことも可能です。
ただし、あまりにも組合側に不利な場所を団体交渉の場所として指定することは、その指定自体が不誠実な団体交渉の態度であるとして、不当労働行為に当たると主張されかねないので、注意が必要です。
(3) 出席者・出席人数
労働組合が、社長の出席を求めてきた場合でも、社長が団体交渉に出席する義務はありませんが、団体交渉の対象事項について、少なくとも交渉権限を持っている人が団体交渉に出席する必要があります。例えば、団体交渉に出席した会社側の人間が、「その点は社長に聞かなければ分からない」などという回答を繰り返した場合には、それ自体が不誠実な団体交渉に当たるとして、不当労働行為に当たると主張されかねません。したがって、団体交渉に誰を参加させるかという点についても、慎重に検討を行う必要があります。場合によっては、弁護士が団体交渉に立ち会うこともあります。
また、人数が多数になると、内部で意見の相違が生じる、不規則発言をする者が出るなど、団体交渉が紛糾する可能性があるので、出席人数は少数であることが望ましいといえます(会場のキャパシティの問題もあります)。会社としては、このような観点から、労働組合との間で、団体交渉に出席する人数を取り決めていくことになります。
なお、団体交渉を申し入れた労働組合の組合員だけでなく、その組合の上部団体の役員についても、団体交渉への出席を求めてくる場合がありますが、「社外の者の参加は認めない」といった理由でこれらの者の団体交渉への出席を拒むことは、不当労働行為に該当し得る行為なので、注意が必要です。上部団体の役員の出席を認めた上で、出席人数等を調整するのが、会社のなすべき対応といえます。