特定商取引法(旧称「訪問販売法(訪問販売等に関する法律)」)は、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。
具体的には、訪問販売や通信販売等の消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリングオフ等の消費者を守るルール等を定めています。
特定商取引法に対応する上で、特に注意すべき点として、次の点が挙げられます。
1. 事業者が守るべきルール
特定商取引法では、事業者に対して、消費者への適正な情報提供等の観点から、各取引類型の特性に応じて、以下のような規制を行っています。特定商取引法の違反行為は、業務改善の指示や業務停止命令の行政処分、または罰則の対象となります。
(1) 書面交付義務
特商法にはクーリングオフ制度があり、事業者は全額返金のリスクを負っています。一度に多数の消費者から返金を求められて倒産してしまうリスクがあるので、クーリングオフ制度には細心の注意が必要です。
とりわけ、クーリングオフ制度は、法定書面交付義務(概要書面と契約書面の交付義務)と密接に関係しており、書面に重大な不備がある場合には、書面交付義務が履行されていないことになり、消費者は商品や役務の提供を受けているのにいつまでもクーリングオフをして全額返金を求めることができることになります。
そのため、書面交付義務の履行が最大の注意点となり、法定書面に必要的記載事項が書かれているかを慎重にチェックして基本となる契約書を作成する必要があります。
(2) 不当な勧誘行為の禁止・広告規制の遵守
特定商取引法は、価格・支払い条件等についての不実告知(虚偽の説明)又は故意に告知しないことを禁止したり、消費者を威迫して困惑させたりする勧誘行為を禁止しています。
また、広告に際しても、事業者が広告をする際には、重要事項を表示することを義務付け、虚偽・誇大な広告を禁止しています。
勧誘や広告に際しての行為規制が数多く定められており、このような規制に違反すると、消費者は契約の取消しや契約条項の無効を主張することができます。事業者としては、勧誘や広告が規制を遵守しているかを常に監視する必要があります。
勧誘規制の違反が争われる際には「言った」「言わない」の争いになりますので、勧誘経過や契約手続の記録化をお勧めします。
(3) 氏名等の明示の義務付け
特定商取引法は、事業者に対して、勧誘開始前に事業者名や勧誘目的であることなどを消費者に告げるように義務付けています。これらに違反した場合には刑事罰は科せられませんが、行政処分(指示、業務停止)の対象になってしまいますので、氏名等明示についても記録化をお勧めします。
2. 消費者を守るルール
特定商取引法は、消費者と事業者との間のトラブルを防止し、その救済を容易にするなどの機能を強化するため、消費者による契約の解除(クーリングオフ)、取り消しなどを認め、また、事業者による法外な損害賠償請求を制限するなどのルールを定めています。
(1) クーリングオフ
特定商取引法は、「クーリングオフ」を認めています。クーリングオフとは、申込みまたは契約の後に、法律で決められた書面を受け取ってから一定の期間内(※)に、無条件で解約することです。(※)訪問販売・電話勧誘販売・特定継続的役務提供・訪問購入においては8日間、連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引においては20日間です。通信販売には、クーリングオフに関する規定はありません。
申込みの撤回等は、申込みの撤回等に係る書面(クーリングオフをする内容の通知)を発 信したときに、その効力が生じます。クーリングオフをされた場合には、業者は、その申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができません。
(2) 意思表示の取消し
特定商取引法は、事業者が不実告知や故意の不告知を行った結果、消費者が誤認し、契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときには、消費者は、その意思表示を取り消すことを認めています。
(3) 損害賠償の額の制限
特定商取引法は、消費者が中途解約する際等、事業者が請求できる損害賠償額に上限を設定しています。代金の支払い遅延等消費者の債務不履行を理由として契約が解除された場合には、事業者から法外な損害賠償を請求されることがないように、特定商取引法は、事業者が以下の額を超えて請求できないことを定めています。
- 商品(権利)が返還された場合、通常の使用料の額(販売価格から転売可能価格を引いた額が、通常の使用料の額を超えているときにはその額)
- 商品(権利)が返還されない場合、販売価格に相当する額
- 役務を提供した後である場合、提供した役務の対価に相当する額
- 商品(権利)をまだ渡していない場合(役務を提供する前である場合)、契約の締結や履行に通常要する費用の額
消費者契約法を代表とする消費者と事業者の交渉を規制する法律については、事業者への影響が大きいことから、事業者の方は、その内容と、それを踏まえた準備を整えることが必要です。