普通解雇は、勤務成績の不良や協調性の欠如、健康上の事情などを理由に、会社が労働契約を一方的に終了させるものです。
この記事では、普通解雇の基本的な考え方や進め方、注意すべきポイントについて、会社側の立場からわかりやすく解説します。どのような場合に解雇が正当とされるのか、手続きの流れや必要な書類、万が一無効とされた場合のリスクなど、実務で押さえておきたい内容を解説しています。
普通解雇を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 普通解雇とは
普通解雇とは、労働者が労働契約に基づく労務提供を適切に行えていないと会社が判断した場合に、その債務不履行を理由として、会社が一方的に労働契約を終了させることをいいます。
具体的な理由としては、たとえば病気やけがによって業務遂行が著しく困難となった場合、著しい能力不足や協調性の欠如、繰り返される遅刻・無断欠勤、正当な業務命令への違反などが挙げられます。
1.1 普通解雇と懲戒解雇の違い
普通解雇と懲戒解雇は、どちらも会社が一方的に労働契約を終了させるものですが、法律上の取り扱いは異なります。
普通解雇は、能力不足や勤務不良、健康上の支障などの債務不履行を理由に将来に向かって契約を解消するものであり、懲戒権の行使として行うものではありません。
これに対して懲戒解雇は、横領や暴力行為、重大なハラスメントなどの会社の秩序を乱す行為に対する懲戒権の行使として行われます。懲戒処分として有効な社内手続を経る必要もあります。
普通解雇では原則として30日前の解雇予告または解雇予告手当の支払が必要ですが、懲戒解雇では、ハードルは高いものの「労働者の責に帰すべき事由」に該当すれば、除外認定を受けたうえで即時解雇が認められる場合もあります。
また、懲戒解雇と普通解雇では退職金に関する扱いが異なることがありますし、懲戒解雇歴は再就職時に不利に働く可能性があります。懲戒解雇は普通解雇と比べて、従業員側に与える影響が大きいことも特徴です。
1.2 普通解雇と整理解雇の違い
整理解雇も、普通解雇と同じく会社が一方的に労働契約を終了させるものですが、解雇の原因や判断基準が大きく異なります。なお、厳密には懲戒解雇との対比で、整理解雇も普通解雇に含めて整理されている場合もありますが、本記事では便宜上これらを分けています。
普通解雇は、従業員個人に起因する理由、たとえば職務能力の不足、協調性の欠如、長期の病気やけがなどを理由とすることが多いです。
一方、整理解雇は、経営悪化や事業縮小など、会社側の経営上の事情によって行う人員削減の手段です。従業員に落ち度がない場合でも、やむを得ない経済的事情により雇用を維持できないと判断されれば、整理解雇が検討されます。
整理解雇を行うには、一般的に次の4つの要素が必要とされています。
- ① 経営上の必要性
- ② 解雇回避努力を尽くしたこと(配置転換、希望退職募集など)
- ③ 解雇対象者の選定基準の合理性
- ④ 労働組合や従業員との十分な協議
このように、普通解雇と整理解雇では、根拠となる事情も、求められる手続きや要件も大きく異なります。

2. 普通解雇を有効に行うためのポイント
普通解雇は、会社が従業員との労働契約を一方的に終了させるものです。そのため、法的に厳しい条件が課されています。これらの条件を満たさなければ、解雇は無効と判断され、トラブルに発展するおそれもあります。
会社が普通解雇を有効に行うためには、次の4つのポイントを押さえておく必要があります。
2.1 法律が定める解雇禁止に該当しないこと
まず確認すべきなのは、法律上「解雇が禁止されている事由」に該当しないかどうかです。
たとえば、業務中のけがや病気で休んでいる従業員を、その療養期間中や復帰後30日以内に解雇することは原則として認められていません。産前産後の休業中やその後30日以内も同様です。
このほかにも、国籍や性別に基づく差別的な解雇、育児・介護休業の取得、労働組合活動への参加などを理由に解雇することは、法律で明確に禁止されています。
知らずに違反してしまうことがないよう、まずはこうした禁止事由に該当しないかを確認することが重要です。
2.2 解雇予告または解雇予告手当の支払
次に必要なのが、解雇予告です。
会社が従業員を普通解雇する場合、原則として少なくとも30日前までに予告しなければならないとされています。もし30日前の予告ができないときは、30日分以上の平均賃金を「解雇予告手当」として支払って、即日の解雇をする必要があります。
上記2つの方法を組み合わせて、足りない予告期間の日数分を解雇予告手当として支払うことも可能です。
ただし、試用期間中でかつ入社から一定期間以内の従業員や短期雇用の場合など、一部のケースでは例外的に予告が不要になる場合もあります。不安な場合には弁護士に相談するなどして、事前に確認しておきましょう。
2.3 解雇を通知すること
普通解雇をする際には、会社として従業員に対し、その意思を明確に伝える必要があります。
通知は口頭でも可能ですが、後のトラブルを避けるためには「解雇通知書」を書面で渡しておくのが確実です。通知書には、解雇日や予告手当の有無など、必要な情報を記載しておきましょう。
2.4 解雇の正当な理由があること
普通解雇を有効に成立させるためには、「正当な理由」が存在しなければなりません。単なる形式的な理由ではなく、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方を満たすことが必要です。
単に就業規則に解雇事由が定められているだけでは不十分で、現実にその従業員の行為や状況が、解雇に値するかどうかを具体的に検討する必要があります。
たとえば、ある従業員が「無断欠勤7日以上は解雇」と定められた就業規則に該当する行為をしたとしても、その背景に病気や家庭の事情などがあり、解雇以外の対応が可能だった場合には、社会通念上の相当性を欠くと判断されることがあります。
また、業務能力に問題がある従業員であっても、教育や配置転換などの改善措置を何も講じずにいきなり解雇するような対応は、裁判で無効と判断される可能性が高くなります。
普通解雇は、会社にとって最後の手段とされており、「解雇もやむを得なかった」と評価される事情があるかどうかが重視されます。そのため、解雇理由が客観的に説明できること、そして他に取り得る手段がなかったことを裁判所にも理解してもらえるよう準備を整えておくことが重要です。
3. 解雇の正当な理由
普通解雇を有効に行うには、「正当な理由」が必要です。では、その「正当な理由」とは、どのような場合を指すのでしょうか。
ここでは、解雇が有効と判断されやすい典型的なケースと、逆に正当な理由として認められにくいケースに分けて、具体的に解説します。
3.1 解雇の正当な理由となりやすい事例
普通解雇が有効と判断されやすいのは、次のように「職務の継続が困難」と客観的に認められるケースです。いずれも、企業として段階的な是正措置を講じたうえで、なお改善が見込めない場合であることが前提となります。
① 能力不足・成績不良が長期間にわたって改善しない場合
合理的な教育・研修・目標設定などを相当期間継続的に行っても改善が見られず、業務遂行に重大な支障があるような場合は、正当な解雇理由となり得ます。
特に即戦力として好待遇で中途採用されたにもかかわらず、労使間で採用時の前提となっていた一定の能力水準に達しない場合には、相当期間の教育等を経ずとも正当と認められる可能性があります。
② 業務命令違反が繰り返される場合
合理的な理由もなく、正当な業務命令に従わない、指示を無視する、拒否を続けるなどの行為が継続し、注意・指導・配転等を経ても改善が見られない場合は、信頼関係が破綻しているとして解雇が有効とされることがあります。
なお、この場合に限らず、問題行動の背後に心身の不調が疑われる場合には、解雇以前に受診の求めや休職の検討も必要です。
③ 無断欠勤や遅刻の常習者で、改善の見込みがない場合
度重なる無断欠勤や遅刻があり、注意・警告などにより改善されないケースでは、業務運営に重大な支障をきたすことから、解雇が正当と判断される余地があります。
④ 協調性の欠如により職場の秩序を乱している場合
同僚とのトラブルが頻発する、職場内で協力的でない、他社員への悪影響が大きいといった場合、業務に重大な影響を与えていることが明らかであり、改善の余地がないのであれば、解雇が認められることがあります。
⑤ 私傷病で長期間復帰できない場合
プライベートな病気やけがにより、長期にわたり業務に復帰できず、休職期間を経てもなお復職の見通しが立たない場合は、解雇が有効とされる可能性があります。
3.2 解雇の正当な理由となりにくい事例
一方で、正当な解雇の理由とはいえない、あるいは判断が分かれやすいケースも多く存在します。
① 一時的・軽微な能力不足やミス
新たな業務に慣れる前の短期間の成績不良、単発的な失敗やミスを理由にした解雇は、正当性が認められにくいとされます。
たとえば、異動直後の業務不慣れによる成績不良や、教育の機会が不十分な状態での業務ミスなどは、通常は解雇理由として不相当と判断されます。
② 単発的な遅刻・欠勤
遅刻や欠勤があっても、その回数がごく少なく、正当な理由がある場合には、解雇の理由としては弱いと評価されます。
たとえば、体調不良による一度きりの欠勤などに過剰反応して即時解雇するような対応は、社会通念上相当とは言えません。
③ 軽度の協調性の欠如
挨拶をしない、昼休みに孤立しているといった程度の「協調性の不足」だけでは、解雇理由としては不十分です。
ケースバイケースの判断にはなりますが、明確に業務に支障が出ていたり、重大なトラブルが確認されており、改善の余地がないような場合でない限り、通常、解雇を正当化することは困難です。
④ 就業規則の要件に満たない行為
社内の就業規則に「○日以上の無断欠勤で解雇」と定めがある場合、それに満たない日数の欠勤を理由とする解雇は、規定との整合性を欠くため無効と判断されやすくなります。
⑤ 業務に直接関係ない私生活上の問題
従業員のプライベートな問題(例:SNSへの軽い愚痴投稿、家庭の事情)を理由に解雇することは、よほど業務や社内秩序、対外的な信用等に悪影響を与えるものでない限り、正当な理由にはなりにくいです。
4. 普通解雇の流れ
では、実際に普通解雇を行う際には、どのような手順で行えばよいのでしょうか。4つのステップに分けて解説します。
4.1 社内で方針を共有する
普通解雇を検討するにあたっては、会社として「本当に解雇すべきか」を慎重に見極める必要があります。従業員に問題がある場合でも、解雇という最終手段を選ぶ前に、社内で十分な協議をしなければなりません。人事部門、該当従業員の直属の上司、必要に応じて役員クラスも交え、解雇の必要性・妥当性を検討し、社内方針として合意を形成しましょう。
あわせて、「解雇理由」が客観的かつ合理的で、社会通念上も相当といえる内容かを丁寧に確認しておくことが重要です。そのためには、これまでの業務実績、勤務態度、指導履歴、周囲との関係などについて十分確認する必要があります。当初から記録も残しておかなければなりません。
4.2 予告解雇か即日解雇かを決める
普通解雇を行うことが決まったら、「30日前に予告して解雇する」のか、「即日で解雇する」のかを検討しましょう。
労働基準法では、原則として解雇の30日前までに予告を行うことが義務づけられています。ただし、即日で解雇したい場合には、30日分以上の平均賃金を「解雇予告手当」として支払うことで、即時解雇が可能です。
企業では、問題行動を繰り返す従業員を解雇の通知後に30日間職場に留めておくことに不安を感じるケースも少なくありません。社内の秩序が乱れたり、他の従業員への悪影響が出る可能性があるためです。そのような場合は、予告手当を支払って速やかに退職してもらう方が、トラブル防止の観点からも現実的な選択肢となります。もっとも、その場合は引継ぎなどに問題が生じないかの検討も必要です。
なお、次のようなケースなどでは、解雇予告や予告手当が不要とされます。
- 雇用開始から14日以内の試用期間中の従業員
- 2か月以内の期間を定めて雇用された有期雇用労働者(所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)
- 4か月以内の季節的業務に就いている従業員(所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)
- 雇用から1か月以内の日雇い労働者(1か月を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)
ただし、これらの例外が適用されるかどうかは個別の事情によって異なります。誤った判断を避けるためにも、事前に就業規則や雇用契約書などを確認し、必要に応じて弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
4.3 解雇通知書を作成する
予告または即日解雇の方針が固まったら、従業員に対する「解雇通知書」を準備します。
解雇は法律上、口頭でも有効とされていますが、後から「解雇の有無」「日付」などを巡って争いになることが少なくありません。そのため、解雇の意思表示を文書で明確に残すことが重要です。
解雇通知書に法的な様式の決まりはありませんが、最低限、次の内容は記載しておきましょう。
- 解雇する従業員の氏名:誰に対する通知かを正確に示します
- 会社名と代表者名:会社としての正式な文書であることを明確にするため記載します
- 通知書の作成日:解雇の意思表示日として重要です
- 解雇日(効力発生日):労働契約がいつ終了するかを明確にします
- 解雇の意思表示:「貴殿を〇年〇月〇日付で解雇します」など、明確な表現を用います
なお、解雇理由をどの程度記載すべきはケースバイケースの判断になります。解雇理由を特段記載していなかった場合には、従業員から解雇理由の提示を求められれば「解雇理由証明書」として別途作成のうえで対応する必要があります。
4.4 解雇を伝える
解雇通知書が準備できたら、いよいよ従業員に対して解雇を伝えます。伝え方を間違えると、不要なトラブルを招いたり、後から「聞いていない」と主張されるおそれがあるため、伝達手段・手順・記録の残し方には十分な注意が必要です。
もっとも確実な方法は、面談の場で直接通知書を手渡す方法です。その際、通知書のコピーを準備し、従業員から受領の署名や捺印をもらっておくと、「通知した事実」を証明する証拠になります。受領を拒否された場合でも、面談の内容を記録(議事録、メモ、同席者の証言など)に残しておくと安心です。
対象者が出社していない場合や、手渡しでの受領を拒んだ場合は、配達証明付きの内容証明郵便で郵送する方法もあります。これにより、「何を、いつ送ったか」などを正確に証明できます。
解雇通知をメールで送信することも形式上は可能ですが、そもそも送信先のメールアドレスが本人のものかどうかや、送信・受信の確実性、既読状況などが不明確なため、単独ではリスクが残ります。メールで通知する場合は、基本的には、あくまで郵送と併用する補足的手段と考えたほうがよいでしょう。
5. 普通解雇が無効となった場合のリスク
普通解雇は、要件や手続きを誤ると「無効」と判断されるリスクがあります。解雇が無効とされれば、企業にとって重大な法的リスクが発生します。
ここでは、特に大きな2つのリスクについて解説します。
5.1 従業員を復職させなければいけない
普通解雇が無効と判断された場合、解雇された従業員は「今もなお労働契約が続いている」とみなされます。つまり、法律上は変わらず従業員の地位が存続していることになるため、会社は従業員を復職させる義務を負います。
一度解雇の判断を下した社員を再び職場に迎え入れることは、他の社員との関係や職場全体の雰囲気に深刻な悪影響を与えるおそれがあります。特に、パフォーマンスや勤務態度を理由に解雇した場合には、現場の混乱やモチベーションの低下につながるケースも少なくありません。
現実には復職せずに退職交渉に移ることもありますが、会社としては法的に「職場復帰が前提」になることを十分理解しておく必要があります。
5.2 給与をさかのぼって支払わなければいけない
普通解雇を無効と判断された場合、企業が直面する大きなリスクの一つが、いわゆる「バックペイ(解雇期間中の給与の遡及支払い)」です。
裁判などで解雇が無効と認定されると、たとえ従業員が実際に働いていなかったとしても、「働く意思と健康状態などから見て、働ける状態であった」と判断されれば、企業は解雇後の期間についても給与を支払う義務を負うことになります。
たとえば、解雇から1年後に「解雇無効」との判決が出た場合、その間の1年分の給与を一括で支払わなければならない可能性があります。さらに、労働契約自体も継続しているとみなされるため、その後も給与に相当する金額の支払い義務が続くおそれがあります。
このように普通解雇を含む「解雇」には「無効とされた場合の代償」が常につきまとうことを、経営側としては十分に認識しておく必要があります。
なお、解雇から問題が派生して、未払残業代を請求されたり、労災の主張をされたりするリスクがあることにも留意が必要です。

6. 普通解雇のトラブルを避けるためのポイント
ここまで見てきたとおり、普通解雇は企業側にとって大きな法的リスクを伴う判断です。対応を誤れば、労働審判や訴訟に発展し、職場復帰や多額の支払い義務が生じるおそれもあります。
こうした事態を防ぐには、日頃の労務管理を含め、解雇を検討する段階から慎重に準備を進めることが不可欠です。
実務上、特に重視すべきポイントは次の3つです。
6.1 安易に解雇せず事前に十分に検討する
問題行動があったとしても、すぐに解雇に踏み切るのではなく、まずは改善に向けた注意・指導や配置転換、(事案に応じた)懲戒処分といった段階的な対応をとることが大切です。客観的にみても状況の改善が期待できない場合に限って、最終手段として解雇を検討するという姿勢が、解雇の正当性を担保します。
解雇を急いでしまうと、後から「改善の機会が与えられていない」として無効を主張されるリスクが高まります。本人の状況や社内の対応経緯を丁寧に整理し、解雇という手段がやむを得ないものかどうかを慎重に見極めることが重要です。
6.2 証拠を確保する
解雇を有効にするには、合理的な理由や正当な手続きがあったことを示す客観的な証拠が必要です。勤務状況や指導内容、就業規則に基づく判断であることなど、判断の根拠や過程を記録として残しておきましょう。
たとえば、第三者からのクレーム記録、業務水準に関する客観的な指標、指導内容や従業員のその後の行動などをまとめた報告書、注意書の写し、ヒアリングメモ、出勤簿や業務評価などがあれば、後の紛争対応でも会社側の主張を裏づける材料になり得ます。
6.3 退職勧奨も並行して検討する
普通解雇は、会社の一方的な意思に基づくものであるため、どうしてもトラブルになりやすい傾向があります。そのため、従業員と話し合いの機会を設け、合意のうえで退職する「退職勧奨」の選択肢も検討するとよいでしょう。
退職勧奨であれば、双方の合意により労働契約を終了できるため、解雇よりもリスクを抑えやすくなります。ただし、あくまでも任意の話し合いであることが前提であり、強制や威圧的な言動は避けることなど様々な注意事項があります。
7. 普通解雇についてのよくあるご質問
普通解雇を検討・実行する際には、多くの企業が同じような疑問に直面します。ここでは、実務で特によく寄せられる質問とその基本的な考え方について解説します。
7.1 解雇前に注意・指導や警告はどのくらい必要ですか?
普通解雇を行う場合、事前にどの程度の注意・指導や警告を行うべきなのかは、明確に回数などが法律で定められているわけではありません。ただし、実務上は「十分な注意・指導を尽くしたかどうか」が極めて重要な判断要素となります。
たとえば、従業員の能力不足や勤務態度の悪さなどを理由に解雇する場合でも、企業側が事前に具体的な注意・指導や十分な改善の機会を与えた事実がなければ、解雇の正当性は認められにくくなります。
そのため、まずは上司や人事担当者が口頭で注意・指導を行い、従業員に改善の機会を与えることが出発点となります。状況が改善しない場合には、書面やメールによる注意・指導や警告に移行し、必要に応じて面談を実施し、その内容を記録として残すといった段階的な対応が求められます。事案に応じて懲戒処分の検討も必要です。
こうしたプロセスを一定期間繰り返してもなお改善が見られない場合に、はじめて解雇という選択肢が現実的な検討対象となります。
このとき重要なのは、「十分な注意・指導を尽くした」と客観的に判断できるだけの経緯と記録が残されていることです。たとえば、第三者からのクレーム記録、業務水準に関する客観的な指標、面談記録、注意書面、業務指示書、評価シートなどの文書類が、後に企業側の対応の正当性を裏づける有力な証拠となります。
7.2 普通解雇では退職金を支払う必要はありますか?
普通解雇をした場合に退職金の支払義務があるかどうかは、「雇用契約書」や「就業規則」、「退職金規程」などの内容によって決まります。法律上、退職金の支給は義務ではありませんが、会社が就業規則や労働契約の中で「退職金を支給する」旨を定めている場合には、それに従う必要があります。
事前に雇用契約書や自社の退職金に関する規程などを確認し、退職金の不支給に関する条項や例外の有無を整理しておくことが重要です。
7.3 普通解雇すると、助成金の受給に影響がありますか?
普通解雇を行うと、一定期間、雇用関係の助成金が受給できなくなる可能性があります。
厚生労働省の助成金制度は、安定した雇用の維持を目的としているため、「会社都合による退職者(解雇者)」を出した事業所は、助成金の支給対象から外れることがあります。
助成金の申請時期や内容によって影響が出るため、助成金活用を予定している場合には、解雇のタイミングや内容を慎重に検討する必要があります。
7.4 解雇予告手当を支払えば、解雇は自由にできますか?
解雇予告手当を支払ったとしても、自由に解雇できるわけではありません。
解雇予告手当とは、従業員を即日解雇する場合に、30日分以上の平均賃金を支払うことで、解雇予告に代える制度です。ただし、これはあくまで予告の代替措置にすぎず、解雇の有効性そのものを保証するものではありません。
つまり、解雇の手続きを形式的に満たしていても、解雇理由が客観的かつ合理的であり、社会通念上相当でなければ、解雇自体が無効と判断される可能性があります。
8. まとめ:普通解雇で悩んだら弁護士に相談
普通解雇は、企業にとって非常に慎重な判断が求められる手続きです。不十分な対応により、解雇が無効とされれば、従業員の復職や多額の賃金支払い(バックペイ)が必要になる可能性があります。また、助成金の不支給など、企業にとって想定外の深刻な不利益が生じるおそれもあります。
そのため、「もう辞めてもらうしかないかも」と感じた時点で、人事労務に詳しい弁護士に相談することが重要です。証拠の確保や対応手順の整理、リスクの見極めなど、弁護士のアドバイスがあれば、後のトラブルを未然に防ぎやすくなります。
私たちよつば総合法律事務所は、多数の企業様と顧問契約を締結し、人事労務に関するご相談やトラブル対応を多数手がけてまいりました。労働問題に精通した弁護士のほか、社労士資格を有する弁護士も在籍しており、企業ごとの実情に即した実務的かつ的確なアドバイスをご提供しています。
「このまま解雇しても大丈夫か」「どのように対応すべきか」といったお悩みがある場合は、リスクを最小限に抑えるためにも、まずはお気軽にご相談ください。









