「売掛金が支払われない」

「催促しても反応がない」

そんな債権回収の悩みは、多くの企業にとって切実な問題です。

本記事では、債権回収の基本的な考え方から、交渉や法的手続きを用いた具体的な進め方、回収にかかる期間の目安、注意すべきポイント、そして弁護士に依頼するメリットや費用について、実務に役立つ形でわかりやすく解説しています。

さらに、「支払い能力のない相手への対応」や「時効への注意点」など、よくある質問にも丁寧にお答えしています。

債権回収に関する正しい知識を得て、確実かつ効率的な対応をとるために、ぜひ最後までお読みください。

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  1. 債権回収とは?
  2. 弁護士に依頼する際の債権回収の流れ
  3. 債権回収にかかる期間の目安
  4. 債権回収の交渉のポイント・注意点
  5. 債権回収を弁護士に依頼するメリット
  6. 債権回収を弁護士に依頼する際の費用
  7. 債権回収のよくあるご質問
  8. 債権回収は弁護士に相談

1. 債権回収とは?

お金を貸したのに返ってこない、商品を売ったのに代金が支払われない。そんなときに、相手からお金を取り戻すための手続きや行動を「債権回収」といいます。

相手に「お金を払ってください」と請求し、それでも払われなければ、必要に応じて裁判などを通じて回収を目指します。

企業同士の取引だけでなく、個人間のお金の貸し借りでも起こる問題です。共通して大切なのは、「どうやって確実にお金を取り戻すか」という点です。

1.1 債権回収の概要

お金に関する「債権」とは、相手にお金を支払ってもらう権利のことです。たとえば、商品を売ったのに代金が払われない場合、売った側には「代金を支払ってもらう権利」があります。

このように、お金を受け取るはずの権利があるのに、相手が払わないとき、どうにかして払ってもらうために行動する必要があります。これが債権回収です。

債権回収にはいくつかの方法があります。たとえば、電話や手紙で催促する、内容証明郵便を送る、弁護士に相談する、裁判を起こすなどです。状況に応じて、適切な対応を選ぶことが大切です。

1.2 債権回収が必要となる状況

普段は、商品やサービスを提供すれば、請求書を送るだけで期日までに支払われることがほとんどです。

ですが、次のような場合は、ただ請求するだけではお金を回収できないことがあります。

  • 相手と急に連絡が取れなくなった
  • 「今はお金がないから待って」と言われた
  • まったく関係のない理由で支払いを断られた
  • 相手の会社が倒産しそうになっている
  • 手形が不渡りになった

このようなときは、早めに対応を考える必要があります。とくに、相手が経済的に逼迫しているときは、時間がたつほど回収が難しくなります。

2. 弁護士に依頼する際の債権回収の流れ

債権回収をスムーズに進めるためには、状況に応じた適切な方法を選ぶことが大切です。

最初は交渉から始めて、うまくいかなければ法的手続きを使う、という流れになります。

ここでは、弁護士に依頼した場合の一般的な流れを5つの段階に分けてご紹介します。

2.1 任意の交渉による回収

まずは話し合いでの解決を目指します。相手に電話や書面で支払いを求め、誠実な対応を引き出せるかを見極めます。

特に効果的なのが、弁護士の名前で通知を送ることです。

相手に「法的な対応も検討している」という意思が伝わるため、支払いに応じてもらえる可能性が高まります。

もし相手から「一括で払えない」と言われた場合は、分割払いに応じるかどうかを慎重に判断しましょう。

そのときは、支払回数や期限を明確に記した「合意書」を作成し、支払が守られない場合の対処方法(たとえば一括請求や遅延損害金の発生など)も取り決めておきます。

2.2 内容証明郵便による回収

交渉で進展がないときは、「内容証明郵便」を使います。これは、相手に正式な文書を送り、いつ・どんな内容を送ったかを証明できる方法です。

文面には次のような内容を記載することが多いです。

  • 支払いを求める金額とその理由
  • 支払期限と振込先
  • 期限を過ぎたら法的手段に移る予定であること

内容証明は自分で送ることもできますが、弁護士の名前で送った方が相手に本気度が伝わります。

また、自己判断で書いた文書が逆にマイナスになることもあるので、できれば弁護士に確認してもらいましょう。

内容証明を送ったあとは、相手からの連絡もすべて弁護士を通すようにして、自社での対応はしないパターンが多いです。

2.3 支払督促の申立て

相手が内容証明を無視したときは、「支払督促」を裁判所に申し立てる方法もあります。これは、裁判所が相手に「支払ってください」と命じる通知を出してくれる制度です。

この手続きは書類を郵送するだけででき、裁判所に出向く必要がありません。

相手が何も反応しなければ、裁判で勝ったのと同じような効果を持つ「仮執行宣言」が得られます。

ただし、相手が「支払いたくない」と異議を出すと、通常の裁判に進むことになります。

2.4 訴訟提起(民事訴訟)

様々な方法でも回収できない場合は、最終的に裁判を起こします。これを「民事訴訟」といいます。

裁判では、相手に支払い義務があるかどうかを、証拠をもとに裁判官が判断します。裁判で勝てば、相手は支払う義務を負います。

ただし、裁判の途中で和解するケースが多いのが実情です。この場合は、裁判所で「和解調書」を作り、それに従って分割払いなどを行います。

勝訴判決を得たとしても、相手が任意に支払わない場合には、次の手段として「強制執行」に進む必要があります。

2.5 強制執行(差押)

裁判で勝訴しても、相手方が任意に支払いに応じない場合には、「強制執行」によって相手方の財産を差し押さえ、債権の回収を図ることが可能です。

差押の対象には、次のようなものがあります。

  • 銀行口座の預金
  • 不動産
  • 給料
  • 売掛金(相手が他社から受け取る予定のお金)
  • 車などの動産
  • 保険金の解約返戻金

差押を行うには、裁判所に申立てが必要です。また、相手の財産をあらかじめ仮に差し押さえる「仮差押」という手続きもあります。

これをしておけば、裁判で勝ったあとに財産を隠したり使ったりしてしまうリスクを減らせます。

3. 債権回収にかかる期間の目安

債権回収には、短期間で終わる場合もあれば、数か月以上かかるケースもあります。

どの方法を選ぶか、相手がどんな対応をするかによって、大きく変わってきます。

ここでは、代表的な4つのケースについて、目安となる期間を紹介します。

3.1 任意交渉の場合

交渉によって任意の支払いが得られた場合には、手続全体が非常に迅速に進むこともあります。

たとえば、弁護士が電話をしたり文書を送付したりして、「すぐに支払ってください」と伝えたことで、数日以内に入金されるケースもあります。

これはそこまで多くありませんが、まったく珍しいわけでもありません。

次によくあるのが、弁護士が内容証明郵便を出したあと、1週間~4週間程度で相手が反応して支払ってくるパターンです。

相手と何度か話し合いを重ね、合意に至る場合でも、4~6週間ほどで終わることが多いです。

3.2 支払督促の場合

裁判所に「支払督促」を申し立てた場合は、交渉よりもやや時間がかかりますが、訴訟よりは早く解決できる可能性があります。

支払督促を申し立ててから、相手に通知が届くまでは1~2週間です。

その後、相手が何もしなければ、仮執行の申し立てができ、最短1か月ほどで強制執行に進むことが可能です。

ただし、相手が「異議あり」と主張すると、訴訟に移行するため、さらに時間がかかる点に注意が必要です。

3.3 訴訟提起から判決までの場合

様々な方法を用いても支払いがなければ、最終的には訴訟を提起することになります。訴訟になると、どうしても時間がかかります。

弁護士が内容証明を送っても、相手と話がまとまらなければ、訴訟の準備に入ります。

訴訟の準備にかかる時間は、事案に応じてケースバイケースです。

訴訟を提起してから判決が出るまでは、スムーズに進んだ場合でも2か月ほどです。

もっとも、相手が争ってきた場合は、半年から2年程度かかることもあります。

裁判所のスケジュールや相手方の対応状況によっては、手続に時間がかかる場合もあるため、ある程度の期間を見込んでおくことが重要です。

3.4 強制執行の場合

裁判で勝っても、相手が支払いに応じないときは、強制執行に進みます。これにはさらに時間がかかります。

差押の対象となる財産を調査したり、裁判所に申立てをしたりする準備に1か月ほどかかることがあります。

実際に差押が実行され、お金が回収できるまでには、さらに1~6か月かかるケースもあります。

なお、特に相手の財産の情報が少ない場合、調査に時間がかかることもあります。

4. 債権回収の交渉のポイント・注意点

債権回収では、ただ相手に「お金を支払って」と言うだけではうまくいかないこともあります。

方法を間違えると、かえってトラブルになることもあります。ここでは、回収時に気をつけたいポイントを、わかりやすくご紹介します。

4.1 郵送手段(普通郵便・内容証明郵便)

債権回収で相手に支払いを求めるとき、まずは請求書や督促状を送って意思を伝えるのが一般的です。

このときに使う郵送方法には「普通郵便」と「内容証明郵便」がありますが、確実に記録を残したいなら、内容証明郵便をおすすめします。

普通郵便はコストが安く、すぐに出せる点がメリットですが、あとから「そんな手紙は届いていない」「請求なんてされていない」と言われた場合、送ったことや内容を証明できません。

債権回収では、相手が支払いを拒んだり無視したりすることもあるため、こうした言い逃れを防ぐための対策が必要です。

その点、内容証明郵便は、いつ・どこに・どんな内容の文書を送ったかを郵便局が証明してくれます。

つまり、請求の事実を客観的に証明する手段として、非常に信頼性が高いのです。さらに、配達証明を付ければ、相手に届いた日まで明確になります。

内容証明郵便は、単に証拠として有効というだけでなく、債権の「消滅時効」にも関係します。

民法では、多くの権利は、権利を行使できると知ったときから5年(または権利を行使できるときから10年)で時効により消滅する可能性があります。

この時効のカウントを一時的に止めるには、裁判を起こすなどの法的手続きを取る必要がありますが、その前段階として、内容証明郵便で請求を行っておくことで、手続きの準備を整えつつ「時効を止めること」に向けた一歩を踏み出すことができます。

また、内容証明郵便は自分でも出すことができますが、文面の書き方によっては逆に不利になる場合もあるため、弁護士に相談してから出すことをおすすめします。

弁護士の名前で送ることで相手に心理的プレッシャーを与えることができ、支払いに応じてもらえる可能性も高まります。

こうした理由から、債権回収の場面では、普通郵便よりも内容証明郵便を使う方が、証拠保全や時効対策の面でもはるかに有効です。

4.2 反対に請求を受けるリスクはないか?

債権を回収しようとする側であっても、気を付けないと、相手から逆に請求を受けるおそれがあります。

たとえば、辞めた従業員に対して会社が損害賠償請求をしたところ、従業員が会社に対して残業代の請求をしてくる場合です。

こうしたリスクを避けるには、請求の前に事実関係や契約内容をきちんと整理しておくこと、そして必要があれば弁護士に相談することが有効です。

自分は「正当な権利を主張している」という意識だけで動いてしまうと、思わぬ反撃を受けることにもなりかねません。

債権回収を成功させるには、正確な準備と冷静な対応が不可欠です。攻めに出る前に、「自分は法的に有利な状況かどうか?」も確認しておきましょう。

4.3 刑法(脅迫・名誉毀損など)に触れる可能性はないか?

債権回収の際、言い方や対応を誤ると、こちらが刑法上の「脅迫罪」や「名誉毀損罪」などに問われる可能性があります。

正当な請求であっても、回収方法が行き過ぎれば「違法行為」と見なされてしまうことがあるため、慎重な対応が求められます。

たとえば、「払わないなら訴えるぞ」という表現は、一見すると当然の主張に思えるかもしれません。

しかし、「相手を怖がらせるため」だけの主張を続けると、リスクは低いものの「脅迫罪」になる可能性もあるのです。

また、「支払わないなら家族や勤務先に伝える」といった言動も要注意です。債務の事実を第三者に伝えることで、相手の社会的信用やプライバシーを傷つけたと判断されれば、「名誉毀損罪」に当たることもあります。

さらに、相手の家や会社に何度も押しかけたり、深夜に連絡を取り続けたりすれば、「不退去罪」や「威力業務妨害罪」といった刑事責任を問われることにもなりかねません。

たとえ支払いが滞っていたとしても、相手の生活や業務の平穏を乱すような行為は避けるべきです。

債権回収は本来自分の正当な権利を行使する行為ですが、それでも「何をどう言うか」「どこで誰に伝えるか」によっては、違法とされるリスクがあります。

とくに文書やメールなど、証拠が残る形での請求は、表現に十分注意しなければなりません。少しでも不安があるときは、弁護士に文面を確認してもらうのが安心です。

4.4 一括払いにこだわらないことの重要性

債権回収では、相手に一括で支払ってもらうのが理想です。しかし、相手に資金的な余裕がない場合は、一括払いにこだわることでかえって回収のチャンスを逃してしまうこともあります。

とくに支払い能力がギリギリの相手に無理な請求をすると、話し合いが決裂したり、連絡が取れなくなったりするリスクが高まります。

こうした状況では、分割払いでも「確実に払ってもらう」ことを重視したほうが賢明です。

ただし、安易に分割に応じるのではなく、事前に相手の支払い能力をしっかり確認しましょう。

たとえば、決算書や資金繰り表の提出を求めたり、初回に一部の入金をしてもらったりすることで、誠意や実行力を見極めることができます。

分割払いを認める場合は、必ず「合意書」を取り交わすことが重要です。

支払額・回数・期限を明記するだけでなく、「1回でも支払いが遅れたら残金を一括で請求できる」という条項(期限の利益喪失条項)を盛り込んでおきましょう。

これがないと、相手が少しずつしか払わず、滞納が続いても強く出られない状況に陥ります。

さらに、分割合意にあたっては連帯保証人を付けることや、担保を確保することも検討すべきです。

連帯保証人がいれば、主たる債務者が払えない場合でも、連帯保証人に直接請求できます。

連帯保証の書面を作成して、連帯保証人に署名・捺印をしてもらいましょう。

また、担保については、たとえば債務者が保有する不動産などを担保として差し出してもらうことで、将来の支払い不履行に備えることができます。

不動産の抵当権設定など、具体的な担保の方法については弁護士に相談することをおすすめします。

4.5 合意が成立したら書面を取り交わすこと

債務者との間で支払い方法について合意ができたら、その内容を必ず書面で残しておくことが重要です。

口頭だけの約束では、「そんな約束はしていない」と後になって言い逃れされるリスクがあり、せっかくの合意も意味をなさなくなってしまいます。

支払金額や期限が明確でないまま取引を進めてしまうと、債務者が約束を守らなかったときに責任を問うのが難しくなります。

とくに分割払いに応じた場合や、返済の猶予を与えたようなケースでは、後のトラブルを防ぐためにも、文書による記録が不可欠です。

書面に盛り込むべき内容としては、次のような項目があります。

  1. ① 債務の総額と支払方法(回数・期日・金額)
  2. ② 振込先の口座情報
  3. ③ 支払が遅れた場合の遅延損害金や一括請求の条件(期限の利益喪失条項)
  4. ④ 必要に応じて連帯保証人の氏名と保証内容
  5. ⑤ 万一裁判になった場合の管轄裁判所(合意管轄条項)

また、回収の確実性を高めるために、「公正証書」を作成するという選択肢もあります。

これは公証役場で作成してもらう正式な文書で、支払いが滞った場合には裁判を経ずに、すぐに強制執行(差押)に進むことが可能になるという大きなメリットがあります。

さらに、合意内容に保証人や担保が含まれている場合には、それらについても書面内に明確に記載することが必要です。

保証人が口約束だけだった場合には保証人としての責任は発生しませんので注意しましょう。

5. 債権回収を弁護士に依頼するメリット

債権回収を確実に、かつトラブルなく進めたい場合、弁護士への依頼は非常に有効な選択肢です。
ここでは、弁護士に依頼することによって得られる代表的なメリットを紹介します。

5.1 会社の本気度を示すことができる

弁護士を通じて債権回収を行うと、相手に対して「こちらは本気で回収を目指している」という強いメッセージを送ることができます。
これが心理的なプレッシャーとなり、相手が支払いに応じる可能性が高まります。

特に、内容証明郵便を弁護士の名前で送った場合、「このまま放置すれば訴訟に発展するかもしれない」と債務者が危機感を抱くことも少なくありません。

実際に、ビジネスシーンでの未払いトラブルでは、相手が「相手はそこまでやってこないだろう」と油断していることもあります。
そこに弁護士名義の書面が届けば、事態の深刻さを理解し、支払いの検討を始めるきっかけになることがあるのです。

5.2 法的に正しい通知書面を作成できる

自社で通知書や請求書を作成することもできますが、文面の内容や言い回しによっては、かえって回収に不利になることもあります。
たとえば、法律的に誤った請求をしてしまったり、不適切な表現があったりすると、相手からの反発や訴訟リスクを招くおそれもあります。

弁護士に依頼すれば、内容証明郵便や督促状などを、法律に則って適切な形式・文言で作成してもらうことができます。
特に債務者に対して法的措置の可能性を伝える場合、「表現の強さ」と「違法性の回避」のバランスをとる必要があります。

たとえば、「支払わなければ訴える」という文面は、訴訟を本当に検討している場合は正当な警告となるでしょう。
もっとも、過度の記載は脅迫と受け取られるリスクがあります。

このような判断は一般の方には難しいため、専門家の関与が安心です。

5.3 事案に則した現実的な解決が実現できる

弁護士に依頼することで、単に書面を出すだけでなく、案件ごとの状況に応じた解決策を提案してもらえます。
たとえば、相手の資産状況や事業の存続可能性を踏まえて、「訴訟を起こすべきか」「和解を優先すべきか」といった判断が可能になります。

また、弁護士は数多くの回収事例を見てきているため、「このケースは勝訴できる可能性が高い」「判決を取っても強制執行できないかもしれない」といった見通しの立て方にも長けています。
こうした視点があることで、無理に訴訟に突き進むのではなく、費用対効果の高い方法で解決を目指すことができます。

さらに、分割払いの条件交渉や、公正証書の作成、仮差押・担保設定など、回収につながる具体的な手続きを含めて支援してもらえます。

5.4 債務者との直接交渉のリスクを回避できる

債権者自身が債務者と直接やり取りをする場合、感情的な対立に発展するリスクがあります。
相手が怒りをあらわにしたり、対応が過激になったりすることもあるため、交渉の場では冷静さと専門性が求められます。

弁護士が代理人として間に入ることで、相手と直接やり取りする必要がなくなり、精神的な負担が大きく軽減されます。特に長期にわたって連絡がとれなかった相手や、クレームを繰り返すような相手に対しても、法的な視点から冷静に対処してもらえます。

また、交渉の記録や証拠化にも強く、将来的に訴訟になった場合でも、有利に進めるための土台を整えることが可能です。
これにより、企業側は本業に集中しながら、債権回収は法的な専門家に一任するという合理的な体制を整えることができます。

6. 債権回収を弁護士に依頼する際の費用

債権回収を弁護士に依頼する際の費用は、主に相談料、着手金、成功報酬、実費などに分けられます。

これらの費用は依頼内容や弁護士事務所によって異なりますが、一般的な相場をご紹介します。

6.1 相談料の相場

弁護士への相談時に発生する費用で、相場は1時間あたり5,000円から1万円程度です。

初回相談が無料の事務所もあるので、有効に活用しましょう。

6.2 着手金と報酬金の目安

着手金は、債権回収を弁護士に正式に依頼する際に支払う費用で、結果に関わらず発生します。

成功報酬は、債権回収が成功した場合に支払う費用です。それぞれの相場は、次の表のとおりです。

※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。

依頼内容着手金の目安成功報酬の目安(※回収額に対して)
内容証明の送付1万~20万円不要(または数万円)
支払督促の申立て3万~30万円回収額の10~20%
民事調停10万~50万円回収額の10~20%
訴訟(通常訴訟)10万~50万円回収額の10~20%
強制執行(差押など)5万~50万円回収額の10~20%
債権額に応じた着手金方式(例)例:請求額の5~20%で算出回収額の10~20%

弁護士費用は事務所や案件の内容によって変動するため、依頼前に詳細な見積もりを取ることが重要です。

6.3 その他の費用

その他、手続きに必要な実費として、次のような費用があります。

  • 内容証明郵便:1通あたり約1,252円(電子内容証明の場合は約1,295円)
  • 収入印紙代:訴訟物の価格(訴額)に応じて異なります。
  • 予納郵券:裁判所によって異なりますが、数千円程度が一般的です。
  • 資格証明書(法人の場合):1社あたり600円

これらの実費は手続き内容や裁判所によって異なるため、具体的な金額は事前に確認が必要です。

7. 債権回収のよくあるご質問

債権回収は、相手の状況や進め方によって、対応が変わってきます。

ここでは、よくある疑問や不安な点について、わかりやすくお答えします。

7.1 相手方に支払い能力がない場合の対処法は?

相手に支払い能力がないときは、すぐに全額の回収を目指すのではなく、現実的な対応が必要になります。

たとえば、まずは分割払いができないか提案してみるのが一つの方法です。分割払いであっても、着実に入金があれば回収の成果になります。

また、相手に財産や収入があるかどうかを調べることも重要です。不動産や車などの資産があれば、将来的に差押の対象になる可能性があります。

信用情報や登記簿などを活用し、相手の経済状況を確認することがカギとなります。

さらに、連帯保証人を立ててもらう方法も検討できます。

連帯保証人がいれば、債務者本人が支払えない場合でも、代わりに請求することが可能になります。

加えて、担保にできそうな不動産があれば、抵当権(担保)を設定することも有効です。

7.2 債権回収の手続中に相手方が破産した場合は?

債権回収の途中で相手が破産申立てを行った場合、回収の手続きは制限されます。

破産手続きが始まると、個別の請求や差押はできなくなり、裁判所が選んだ破産管財人を通じて処理が進められます。

このとき、債権者は「債権届出」という手続きを通じて、自身の債権の存在を破産手続に申し出なければなりません。

期限内に正しく届出をしないと、配当の対象から外れてしまうこともあるので注意が必要です。

なお、抵当権などの担保を設定していた場合には、他の債権者よりも優先して回収できる可能性があります。

そのため、事前に担保を確保しておくことは非常に重要です。

7.3 合意となった場合、公正証書を取り交わした方がよい?

支払いについて話し合いで合意に至った場合、その内容は文書にして残しておきましょう。

公正証書にするのも1つの方法です。

公正証書には「強制執行認諾文言」という記載を加えることができ、相手が支払いを怠ったときに、裁判を経ずにすぐに財産を差し押さえることが可能になります。

これは、訴訟を起こす時間やコストを節約できるという点で非常に有効な手段です。

合意した内容が守られなかったときの備えとして、公正証書の作成は強い法的効果を持ちます。

費用はかかりますが、将来的なトラブル防止のためには検討する価値があります。

7.4 分割払いで合意をする注意点は?

分割払いの合意をする場合は、いくつかの点に注意が必要です。

まず、支払額・支払期限・回数など、具体的な条件をしっかりと取り決め、それを文書にして残しておくことが大切です。

また、「期限の利益喪失条項」を入れておくことで、途中で支払いが遅れた場合に残金を一括で請求できるようにすることができます。

これにより、債権者の立場が強化されます。

さらに、保証人をつけてもらうことも検討しましょう。支払が滞ったときに、保証人に対して請求することが可能になるためです。

支払期間はできるだけ短く設定しましょう。

7.5 仮差押はどのような場合にできる?

仮差押とは、相手が財産を隠したり売ったりしてしまう前に、裁判所の決定を得てその財産を一時的に確保する手続きです。

これは、訴訟の結果が出る前に財産を確保しておくための重要な手段です。

たとえば、「このまま放っておくと相手が預金を引き出してしまいそう」「不動産を売却するかもしれない」といった不安があるときに、仮差押を行います。

裁判所に申立てをして認められると、財産の処分が制限されます。

ただし、仮差押には担保金を積まなければならない場合があり、慎重な判断が求められます。

費用や手間はかかりますが、債権回収の成功率を高める武器になります。

7.6 少額訴訟は効果的か?

請求する金額が60万円以下の場合、少額訴訟という手続きを使うことができます。

少額訴訟は、通常の裁判に比べて早く、手続きも簡素で、1回の期日で判決が出ることが多いという特徴があります。

スピーディーに決着をつけたいときや、相手との交渉が行き詰まっているときには有効です。

ただし、相手方が異議を申し立てると通常訴訟に移行する可能性もあるため、確実性があるとは限りません。

費用を抑えて早く回収したい場合には選択肢の一つとして検討する価値があります。

7.7 民事調停は効果的か?

民事調停は、裁判所を通じて第三者(調停委員)が間に入り、当事者間の話し合いを進める手続きです。

訴訟のように勝ち負けを決めるのではなく、双方が納得できる解決を目指します。

調停は訴訟よりも費用が安く、柔軟な内容で合意できる可能性が高いのが特徴です。

たとえば「分割払いの条件を調整したい」「一部免除を条件に早期解決したい」といったケースにも適しています。

ただし、相手がそもそも話し合いに応じない場合は不成立になることもあるため、相手との関係性や交渉意欲を踏まえて選ぶとよいでしょう。

7.8 時効にならないための注意点は?

債権には「消滅時効」という制度があり、一定期間が経過すると、その債権を法的に請求することができなくなります。

多くの債権では「権利を行使できると知った時から5年」、あるいは「権利を行使できる時から10年」のいずれか早い方で時効が完成します。

債権者が時効の完成を防ぐには、訴訟の提起や支払督促の申立てといった裁判所を通じた手続を行う必要があります。

これらは民法上「裁判上の請求」と呼ばれ、時効を一度リセットする効果があります。

一方で、相手に内容証明郵便で請求書を送ることは「催告」に該当しますが、これには時効を一時的に猶予する効果しかありません。

すなわち、催告が行われた場合でも、6カ月以内に裁判上の請求をしなければ、時効はそのまま完成してしまいます。

したがって、債権の時効を確実に止めたい場合は、内容証明郵便だけで安心せず、速やかに法的手続を検討することが重要です。

対応が遅れると、債権が消滅してしまい、相手に支払いを求めることができなくなるおそれがあります。

早めに専門家に相談し、適切な対応を取ることが望まれます。

8. 債権回収は弁護士に相談

債権回収を自社で行うことは不可能ではありませんが、専門的な知識が必要なうえ、対応を誤ると逆に法的リスクを抱えることもあります。

請求先が支払いを拒む理由や、交渉の余地があるかどうかを冷静に見極め、最適な方法を選ぶには、弁護士の知見が非常に有効です。

弁護士は、請求に法的な裏付けがあるかを確認したうえで、交渉、通知書面の作成、裁判手続き、強制執行まで、すべての段階を支援できます。

ご自身で判断するよりも、法的なリスクを回避しつつ、費用対効果の高い解決を目指すことができます。

また、弁護士が介入することで「会社が本気で回収に動いている」という印象を与えることができ、支払いを促す心理的な効果も期待できます。

督促を無視していた相手でも、弁護士の名前で通知が届いたことで、支払いに応じるケースは珍しくありません。

「いつか払ってくれるだろう」と放置しているうちに時効が迫ってしまうこともあります。

債権の保全や早期解決のためには、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。

債権回収にお困りの際は、法的な専門知識と実務経験を備えた弁護士に、まずはお気軽にご相談ください。

状況に応じた最適な方法をご提案いたします。

監修者:弁護士 加藤貴紀

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