建物賃貸借契約には、普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約があります。

この記事では、契約書の作成・審査の担当者にむけて、定期建物賃貸借契約書の作成やチェックのポイントや注意点を解説します。

よく検討しないで定期建物賃貸借契約書を作成してしまうと、思ってもいない不利益を受けることもあります。悩んだら、まずは詳しい弁護士へのご相談をおすすめします。

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1. 建物賃貸借契約とは?

建物賃貸借契約とは、建物を貸したり借りたりする際に結ぶ契約のことです。

この契約は、住居として利用する場合だけでなく、オフィスや店舗などの事業用としても活用されます。

賃貸人は建物を提供し、賃借人は賃料を支払うことで一定期間その建物を使用することができます。

契約の内容によって、賃借人がどのくらいの期間建物を使えるかや賃料の支払い方法、退去時のルールなどが決まります。

1.1 建物賃貸借契約は普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約の2種類

建物を貸し借りする際の契約には、大きく分けて「普通建物賃貸借契約」と「定期建物賃貸借契約」の2種類があります。

1.1.1 普通建物賃貸借契約

普通建物賃貸借契約では、契約期間が1年以上に設定されるのが一般的です。

契約期間が終了しても、賃貸人・賃借人のどちらからも特に申し出がなければ、同じ条件で契約が更新されます。これにより、賃借人は長期間安心して住み続けることができます。

一方で、契約期間の定めがない場合もあり、この場合、賃貸人が解約を申し入れる際には、少なくとも6か月前に通知する必要があります。

1.1.2 定期建物賃貸借契約

定期建物賃貸借契約は、契約期間が終了すると自動的に契約が終わる仕組みになっています。

普通建物賃貸借契約と異なり、賃貸人の意向が強く反映される契約で、1年未満の契約期間の設定も可能です。

また、契約終了後の更新はなく、あらかじめ定められた期間で確実に契約が終了します。

1.2 普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約の違い

普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約の最大の違いは、「契約の更新があるかどうか」です。

普通建物賃貸借契約では、賃借人が希望すれば原則として契約が更新されます。一方、定期建物賃貸借契約では、契約期間が満了すると更新はされずに終了します。

それ以外にも、契約の締結方法や賃料の取り扱い、中途解約の可否などに違いがあります。次の表にまとめました。

※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。

項目普通建物賃貸借契約定期建物賃貸借契約
契約の更新
  • 更新可能
  • 賃貸人が拒否するには正当事由が必要
  • 更新不可
  • 契約期間満了で終了
契約の締結方法口頭契約も可書面(公正証書等)で締結が必須
契約期間
  • 1年以上の期間を定める必要がある
  • 1年未満の場合は「期間の定めがない」とみなされる
1年未満の契約も可能
賃料の増減請求
  • 賃借人・賃貸人ともに請求可
  • 特約で減額請求権の排除をすることは不可
  • 賃借人・賃貸人ともに請求可
  • 特約で減額請求権の排除・増額請求権の排除ともに可
賃貸人による契約終了
  • 更新拒絶には正当事由が必要
  • 期間の定めがない場合、解約は6か月前の通知が必要
  • 契約期間満了時に自動終了
  • 期間が1年以上なら、1年前~6か月前に契約終了通知が必要
賃借人による中途解約
  • 期間の定めがない場合、3か月前の通知で解約可能
  • 期間の定めがある場合、中途解約は基本不可(ただし特約で中途解約可となっていることが多い)
  • 原則中途解約不可
  • 一定の居住用の場合、やむをえない事情があれば1か月前の告知で解約可
  • ただし、特約がある場合はその特約に従う

 

2. 定期建物賃貸借契約のチェックポイント

ここでは、定期建物賃貸借契約を結ぶ際に特に注意すべきポイントについて解説していきます。それぞれの条項について詳しく見ていきましょう。

なお、建物賃貸借契約一般のチェックポイントは、建物賃貸借契約書の作成やチェックのポイントを弁護士が解説の記事をご確認ください。

2.1 契約期間

定期建物賃貸借契約では、契約期間の設定が必須であり、契約が満了すると自動的に終了します。

普通の賃貸契約のように更新されることはなく、契約満了後に継続するには、新たに契約を結び直す必要があります。

そのため、契約書には「契約の更新がないこと」を明確に記載しなければなりません。

また、契約期間は1年未満でも設定できるのが特徴です。

普通建物賃貸借契約では、1年未満の契約は「期間の定めがない契約」とみなされますが、定期建物賃貸借契約では、月単位や週単位の契約も有効です。

ただし、「賃貸人が建物を使わない間だけ貸す」といった不確定な期間の契約は認められず、必ず具体的な期間を定める必要があります。

2.2 中途解約

定期建物賃貸借契約では、契約期間が定められており、原則として期間満了まで契約が続きます。

賃貸人・賃借人のどちらかが途中で「やめたい」と思っても、契約で特別な定めがない限り、解約は認められません。

ただし、例外として、賃借人が中途解約できるケースがあります。

2.2.1 契約時に定めた特約に基づく解約

ひとつは、契約時に定めた特約に基づく場合です。

たとえば、「3か月前に通知すれば解約できる」や「賃料○か月分を支払えば即時解約できる」といった条件を契約に記載しておけば、特約に従って解約が可能になります。

このような特約は、賃借人にとって不利にならない限り有効とされます。

2.2.2 一定の居住用物件の法律に基づく解約

もうひとつのケースは、法律で定められた特定の条件を満たしている場合です。

  1. ① 建物が住居用であること
  2. ② 床面積が200㎡未満であること
  3. ③ 転勤・療養・親族の介護など、やむを得ない事情があること

これら3つの条件をすべて満たせば、賃借人は1か月前に通知することで契約を途中で解約できます。

たとえ契約書に「中途解約は一切できない」と記載されていても、この条件を満たす場合は、賃借人の申し出により解約が可能です。

2.2.3 賃貸人からの中途解約は難しい

一方で、賃貸人からの中途解約はさらに厳しく制限されています。

賃貸人が契約を途中で終了させるには、「正当な事由」が必要です。正当な事由には、建物の老朽化による取り壊しや、賃貸人自身の使用が避けられない状況などが該当します。

しかし、「他の人に貸したい」「契約を終わらせたい」といった理由では、賃貸人の都合で解約することはできません。

この点は、普通建物賃貸借契約でも同じですが、定期建物賃貸借契約では契約期間満了が確実に適用されるため、賃貸人の都合による解約がさらに難しくなります。

2.3 事前説明と書面交付

定期建物賃貸借契約を結ぶときには、「契約の更新がなく期間満了で終了すること」を事前に賃借人に伝える必要があります。

賃貸人は契約書とは別に、その内容を記載した書面を交付し、説明しなければなりません。

これは法律で義務づけられており、事前説明を怠ると、契約が定期建物賃貸借契約として認められず、普通建物賃貸借契約とみなされてしまう可能性があります。

この事前説明の目的は、賃借人が契約内容を正しく理解することにあります。通常の賃貸契約は契約更新が一般的であるため、賃借人が「自動的に更新される」と誤解してしまうことも少なくありません。

そのため、契約の仕組みをしっかり伝え、誤解を防ぐことが重要です。書面を交付するだけではなく、事前に口頭でも説明し、賃借人が内容を理解していることを確認する必要があります。

 

3. 定期建物賃貸借契約に関するよくあるご質問

ここでは、定期建物賃貸借契約について、よくあるご質問をまとめました。契約に関する疑問を解消するための参考にしてください。

3.1 賃貸人です。建物を一度貸すと返ってこなくなりませんか?

いいえ、定期建物賃貸借契約なら契約期間が終われば返ってきます。

定期建物賃貸借契約は、契約期間が満了すると自動的に終了する契約です。そのため、賃借人が希望しても契約は更新されず、退去しなければなりません。

ただし、契約を締結するときに、賃借人へ「契約が更新されず、期間満了で終了する」ことを書面で説明する義務があります。

これをしないと、普通建物賃貸借契約とみなされ、賃借人に住み続ける権利が発生してしまう可能性があります。

また、契約期間が1年以上の場合は、賃貸人は満了の1年前から6か月前までに、契約終了を通知する必要があります。

これを怠ると、契約書に記載の通りの契約終了を主張できなくなることがあるので、注意しましょう。

3.2 賃貸人です。もうすぐ契約期間満了ですが、どのような手続きが必要ですか?

契約期間が1年以上なら、満了の1年前から6か月前までに「契約が終了する」ことを賃借人に通知してください。

定期建物賃貸借契約は、契約期間が終われば自動的に終了するため、原則として特別な手続きは不要です。

しかし、契約期間が1年以上の場合、賃貸人は満了の1年前から6か月前までに「契約終了の通知」を賃借人に行う義務があります。

この通知をしなかった場合、契約書に記載の通りの契約終了を賃借人に対して主張できず、退去を求めるのが難しくなることがあります。

そのため、通知は内容証明郵便など、証拠が残る方法で行うのが安全です。

3.3 賃借人です。契約書に記載の期間が終わったら立ち退かないといけませんか?

はい、契約が終了したら立ち退く必要があります。

定期建物賃貸借契約では、契約期間が満了すると、賃借人の意思に関係なく契約は終了します。

そのため、普通建物賃貸借契約のように契約が自動更新されることはなく、期間が終わったら退去しなければなりません。

3.4 公正証書を作成する必要がありますか?

いいえ、公正証書である必要はありません。普通の契約書で大丈夫です。

定期建物賃貸借契約は必ず書面で締結する必要がありますが、公正証書である必要はありません。普通の契約書や覚書でも有効です。

ただし、公正証書で契約を作成すると、契約内容の証拠能力が強まり、トラブルを防ぎやすくなるため、高額な賃貸借契約や法人向けの契約では、公正証書を利用するケースもあります。

3.5 定期建物賃貸借契約と定期借家契約は同じ意味ですか?

はい、ほぼ同じ意味です。

「定期建物賃貸借契約」と「定期借家契約」は、どちらも借地借家法に基づく契約で、契約期間満了で自動的に終了する点で共通しています。

ただし、「定期借家契約」という言葉は、特に居住用の建物を対象とする場合に使われることが多く、「定期建物賃貸借契約」は事業用の物件にも適用される広い意味を持つことがあります。

3.6 収入印紙は必要ですか?

居住用の定期建物賃貸借契約では不要ですが、事業用では契約の内容によって必要になることがあります。

建物の賃貸借契約書自体は、印紙税の対象ではありません。そのため、普通の建物賃貸借契約書には収入印紙を貼る必要はありません。

しかし、事業用の契約等で土地の賃貸借契約が含まれていると見なされる場合は、印紙税の対象になることがあります。

たとえば、契約書に「敷地部分の使用に関する取り決め」が明記されている場合、「土地の賃貸借契約書」と判断され、印紙税を払う必要があることがあります。

また、貸ビル業者などが、契約時に保証金や建設協力金を受け取り、一定期間後に返還する取り決めをしている場合、その契約書は「消費貸借契約書」に該当します。この場合も印紙税の対象となります。

つまり、居住用の契約なら印紙は不要ですが、事業用で土地の使用が含まれる場合や、保証金の返還を定めた契約書を作る場合は、印紙税がかかる可能性があります。

契約内容によって異なるため、詳しくは税務署や専門家に確認するのが安心です。

4. まとめ:定期建物賃貸借契約で悩んだら弁護士に相談

定期建物賃貸借契約は、普通の賃貸契約と比べて、契約期間の満了時に更新されないことが大きな特徴です。

そのため、契約内容をしっかり確認し、賃貸人・賃借人の双方が納得できる形で契約を締結することが重要です。

また、定期建物賃貸借契約には、契約前の書面交付義務や、中途解約に関する特約の有効性など、法的に注意すべき点が多くあります。

事前説明を怠った場合、契約が普通建物賃貸借契約とみなされてしまうリスクもあります。

契約内容の見直しや、新しい契約の作成に不安がある場合は、専門家に相談するのが安心です。

よつば総合法律事務所では、不動産会社との顧問契約の実績があり、宅地建物取引士の資格を持つ弁護士も在籍しています。

「定期建物賃貸借契約を活用したいが、どのように契約を作成すればよいかわからない」「契約の更新や中途解約の条件を整理したい」といったお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。

監修者:弁護士 加藤貴紀

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