「相手にお金を貸したのに返してもらえない。」
「損害賠償や契約違反に基づく支払いを約束されたのに、いつまでも支払われない。」
そんなとき、「強制執行」という法的手段を使えば、相手の財産からお金を回収できる可能性があります。
強制執行は、貸金の回収だけでなく、損害賠償や売買代金、賃料、慰謝料など、さまざまな場合に利用できる制度です。
ただし、裁判所での正式な手続きであるため、事前に判決や公正証書などの「債務名義」と呼ばれる書類が必要です。
準備を誤ると、費用だけがかかってしまい、肝心の回収ができないこともあります。
この記事では、債権回収における強制執行の基本的な仕組みから、弁護士に依頼するメリット、必要書類や費用、手続きにかかる期間、そしてよくある失敗例までを、丁寧に解説します。
「どうすれば確実に回収できるのか?」「自分だけで手続きできるのか?」「弁護士に頼むべきか?」とお悩みの方に向けて、安心して次の行動に移れるよう、実務に即した情報をお届けします。
- 強制執行とは?
- 1.1 強制執行の種類について
- 1.2 強制執行の基本的な流れ
- 強制執行(債権回収)を弁護士に依頼するメリット
- 2.1 債務名義を適切に取得できる
- 2.2 財産調査を適切に行える
- 2.3 スピーディーに強制執行の申立てができる
- 弁護士に強制執行(債権回収)を依頼する際の流れ
- 強制執行の申立てに必要な書類
- 4.1 執行力のある債務名義の正本
- 4.2 債務名義の送達証明書
- 4.3 申立書
- 4.4 その他必要書類
- 強制執行の費用と期間
- 5.1 債権回収を弁護士に依頼する費用
- 5.2 手数料・実費
- 交渉開始から強制執行完了までにかかる期間
- 強制執行のよくあるご質問
- 7.1 強制執行が失敗するケースは?
- 7.2 相手方の財産はどう調査すればよい?
- 7.3 相手方の財産が見つからない場合は?
- 強制執行(債権回収)は弁護士に相談
1. 強制執行とは?
強制執行とは、裁判所の力を借りて、相手にお金を払わせたり、物を引き渡させたりする手続きです。
話し合いや裁判で「払うべき」「渡すべき」と決まっても、相手が応じないことがあります。
そんなときに、強制的に約束を実現するのが強制執行です。
日本では、自分の力で相手の財産を取り上げたり、無理やり取り立てたりするのは法律違反です。勝手に取り立てれば、刑事事件になることさえあります。
だからこそ、国家が中立の立場で介入できる裁判所を通じて、正式な手続きで義務を果たさせる仕組みがあるのです。
1.1 強制執行の種類について
強制執行には、大きく3つの種類があります。
差し押さえる財産の種類によって、手続きの方法や対象となるものが変わります。
それぞれの手続きについて、詳しく見ていきましょう。
① 債権執行
債権執行とは、相手が持っている「お金を受け取る権利」を差し押さえる手続きです。たとえば、相手の銀行口座にある預金や、会社から支払われる給料などが対象になります。
個人が相手なら、よく使われるのは給与や預貯金の差し押さえです。
もし相手が会社などの法人であれば、売掛金(仕事で発生した代金の未回収分)や貸付金などが差し押さえの対象になることがあります。
② 不動産執行
不動産執行では、相手の土地や建物など「不動産」を差し押さえます。たとえば、自宅やアパート、会社の事務所などがこれにあたります。
これらの不動産は、裁判所を通じて売却され、その代金から債権者へ支払いがされる仕組みです。
③ 動産執行
動産執行では、相手が持っている「動かせるもの(動産)」を差し押さえます。たとえば、現金、貴金属、骨董品(こっとうひん)、車、ブランド品などがあります。
ただし、価値のない物ばかりだと、手続きの費用ばかりかかって損をするおそれもあります。
1.2 強制執行の基本的な流れ
強制執行をするには、まず「債務名義」という公的な書類が必要です。
債務名義とは、「相手が〇円払うこと」などが書かれている裁判の判決や和解調書などのことです。
この債務名義を手に入れたら、次のような流れで強制執行の手続きが進みます。
① 債務名義に「執行文」をつけてもらう
裁判所などで、「この書類で強制執行できますよ」という印をもらいます。
② 相手に書類が届いたことを証明してもらう
債務名義が相手に届いたという証明(送達証明)が必要です。
③ 差し押さえの申立てをする
お金や不動産など、相手の財産を差し押さえる申請をします。
④ 裁判所が差し押さえを命じる
命令が出ると、相手の財産に手をつけられるようになります。
このように、書類の準備と裁判所での手続きがセットになっているのが、強制執行の大まかな流れです。
2. 強制執行(債権回収)を弁護士に依頼するメリット
強制執行の手続きは、自分でもできないことはありません。
しかし、法律の専門知識が必要だったり、準備する書類が多かったりして、一般の人にとっては難しい場面もあります。
そんなときに頼りになるのが弁護士です。ここでは、弁護士に依頼する主なメリットを紹介します。
2.1 債務名義を適切に取得できる
債務名義とは、「この人にお金を払ってください」と公的に認められた書類のことです。
これがないと、たとえお金を貸していても、相手の財産を差し押さえることはできません。
たとえば、次のような書類が債務名義にあたります。
- 裁判の判決(裁判所が決定を出した場合)
- 和解調書(裁判中に話し合いで解決した場合)
- 調停調書(家庭裁判所などでの話し合いで解決した場合)
- 公正証書(公証役場で作成し、支払いの約束が明記されているもの)
これらの書類を正しく用意するには、内容に不備があってはいけません。
弁護士に依頼すれば、皆様の状況に合った形で、必要な債務名義をきちんと取得してくれます。
もし相手が裁判に出てこなかったとしても、どう対応すべきかをアドバイスしてくれるのも心強い点です。
2.2 財産調査を適切に行える
「差し押さえをしたい」と思っても、相手にどんな財産があるのか分からないと手の打ちようがありません。
実は、口座番号や勤務先など、かなり具体的な情報がないと、財産の差し押さえはできないのです。
しかし、自分でそこまで調べるのは現実的に難しいことが多いです。
そんなときに頼れるのが弁護士です。
培ってきた経験や専門知識から、相手の財産を調べることができるかどうかを弁護士は知っているからです。
たとえば、不動産や預貯金などの情報を調べることができたりすることがあります。
また、裁判所を通じて相手に財産を開示させることを目的とする「財産開示手続き」を使うことができたりします。
こうした調査は、一般の方が単独で行うのは難しいものですが、弁護士に依頼すれば、現実的な方法でスムーズに進めることが可能です。
困ったときは、まずは相談してみるのが一番です。
2.3 スピーディーに強制執行の申立てができる
強制執行の申立ては、書類をそろえたり、裁判所に提出する必要があったりと、手続きが複雑です。
提出書類の内容が正確でないと、差し戻しになることもあり、時間のロスにつながります。
弁護士に依頼すれば、必要書類の準備から裁判所への申請まで一括して行ってもらえます。法律のルールや手続きに詳しいため、間違いがなく、申立てもスムーズです。
強制執行のような重要な手続きほど、スピードが大事です。早く結果を出したいときこそ、弁護士に任せるのが安心です。
3. 弁護士に強制執行(債権回収)を依頼する際の流れ
では、実際に弁護士に強制執行を依頼する場合、どのような流れで進んでいくのでしょうか。
ステップごとにわかりやすく説明します。
3.1 委任契約の締結
まずは、弁護士と「委任契約」を結びます。
これは、「強制執行の手続きを、あなたの代わりに弁護士が進めますよ」という正式な約束です。
この契約を結ぶことで、弁護士は裁判所への申立てや必要な書類の作成、連絡などをあなたに代わって行えるようになります。
契約書には署名と捺印が必要です。内容をよく確認してからサインするようにしましょう。
契約のときには、弁護士から手続きの流れや費用の説明があるので、不安なことがあればしっかり質問しておくと安心です。
3.2 任意交渉
弁護士に依頼すると、まず裁判などの強制的な手続きに入る前に、弁護士が相手に連絡して支払いを求めます。
自分で連絡したときは動かなかった相手でも、弁護士から連絡があると態度を変えることもあります。
「これは本気で裁判になるかもしれない」と感じて、支払いに応じるケースもあります。
また、弁護士が「内容証明郵便」という特別な手紙を送る方法もあります。
この手紙には、「○日以内に支払わなければ法的手続きを取ります」といった内容が書かれます。
会社名ではなく、弁護士名で送られることで、相手に強いプレッシャーを与えることができます。
このように、弁護士による交渉だけで支払いを受けられることもあるため、まずは任意交渉から始めるのが一般的です。
3.3 債務名義の取得
任意交渉で相手が支払わなかった場合、強制執行を行います。
その準備として重要なのが、「債務名義」という公的な書類を手に入れることです。
これは、「相手が〇円を支払うべきだ」と法的に認められたことを証明するもので、裁判所が発行した判決や、強制執行を受け入れるという内容が記された公正証書などが当てはまります。
債務名義を持っていないと、裁判所に申し立てても差し押さえなどの強制執行はできません。
代表的な債務名義には、次のようなものがあります。
① 裁判で勝ったときの「判決文」
相手を訴えて、裁判で最終的に勝つと「確定判決」がもらえます。
これには「〇円を支払え」といった命令が書かれており、債務名義として、強制執行の際に利用できます。
ただし、裁判には時間も費用もかかるため、早期解決が難しいこともあります。
② 和解調書・調停調書
判決までいかなくても、裁判所を通して話し合いがまとまれば、「和解調書」が作成されます。
また、民事調停や家事調停での話し合いがまとまれば「調停調書」という書類が作られます。
これも、債務名義として使うことができます。
③ 公正証書
裁判所を使わなくても、相手と取り決めた内容を「公正証書」というかたちで公証役場に残す方法もあります。
この書類に「もし約束を守らなければ、すぐに強制執行を受け入れます」という文言(=執行認諾文言)を入れておけば、裁判をしなくても強制執行ができるのです。
たとえば「〇月〇日までに100万円を払う」という約束を交わしたとき、公正証書を作っておけば、相手が払わなかった場合すぐに差し押さえの手続きに進めます。
このように、債務名義にはいろいろな種類があり、状況に応じて適切なものを取得する必要があります。
どれが一番早くて確実かは、相手との関係や話し合いの進み具合によって変わります。
弁護士に相談すれば、どの方法が一番適しているかをアドバイスしてもらえます。強制執行を進めるための第一歩として、まずはこの「債務名義の取得」がとても大切です。
3.4 財産調査
弁護士は、強制執行を成功させるために、相手(債務者)がどんな財産を持っているかを調べます。
差し押さえる財産がなければ、せっかく手続きをしても意味がないからです。
また、かけた費用の方が回収額より多くなる「費用倒れ」を防ぐためにも、事前の調査はとても重要です。
① ほかに債権者がいるか確認
まず確認すべきなのは、その相手に他にもお金を貸している人(=他の債権者)がいるかどうかです。
強制執行で得られた財産は、早いもの勝ちだったり、債権者で分けたりすることになります。
そのため、ほかに債権者がいると取り分が減る可能性があります。
② 不動産の調査
相手が土地や建物を持っている場合、それを差し押さえることができます。不動産は価値が高いため、うまくいけば大きな回収につながる可能性があります。
ただし、注意点もあります。その不動産にすでに「抵当権」がついていることがあります。
これは、銀行などがお金を貸すときに担保として設定する権利です。抵当権があると、抵当権者があなたより先にお金を回収することになります。
そのため、何も知らずに差し押さえても、自分には1円も戻ってこないこともあります。
しかし、不動産の価値が高く、抵当権の残額より上回っていれば、その差額をあなたが回収できることもあります。
差し押さえる前には、必ず登記簿を確認して、不動産の状態をチェックすることが大切です。
弁護士に依頼すれば、こうしたリスクも含めて、的確にアドバイスを受けることができます。
③ 預金口座や給与の調査
銀行口座や給与なども差し押さえ対象ですが、「どの銀行に口座があるか」「どこに勤務しているか」がわからなければ差し押さえできません。
こうした情報を調べるには、専門的な知識と経験が必要です。
弁護士は過去の類似の事例の経験を踏まえて、できる限り財産を特定します。
④ 調査でわからない場合は「財産開示手続き」も可能
もし、通常の調査で相手の財産が見つからない場合でも、手はあります。
弁護士は「財産開示手続き」という制度を利用して、裁判所を通じて相手に財産の内容を申告させることができます。
この手続きは、債務名義をすでに取得していることが前提です。
手続きには、理由を記載した申立書、収入印紙代2,000円、切手代約6,000円などが必要です。
裁判所が申請を受けると、相手は財産の一覧(財産目録)を提出し、裁判所に出頭する義務が生じます。
3.5 強制執行の申立て
必要な準備がすべて整ったら、いよいよ裁判所に強制執行の申立てを行います。
これは簡単に言うと、「相手の財産を差し押さえてほしい」と正式に裁判所へお願いする手続きです。
申立てには、差し押さえたい財産の種類に応じた書類をそろえる必要があります。
たとえば、相手の銀行口座や給料を差し押さえたい場合には、「債権差押命令申立書」などを提出します。申立先は、基本的に相手の住所地を管轄する裁判所になります。
また、申立てには裁判所に納める手数料(収入印紙)や、郵便に使う切手代なども必要です。
なお、必要書類や費用の金額は、差し押さえの対象となる財産の種類によって異なるため、事前にしっかり確認しておくことが大切です。
弁護士に相談すれば、書類の準備や提出先の判断などもスムーズに進めることができます。
3.6 差押命令の発令
裁判所が申立てを受け付け、書類に問題がなければ、「差押命令」が出されます。これが出ると、いよいよ強制執行のスタートです。
銀行口座を差し押さえる場合、裁判所から銀行に「この口座のお金を動かさないでください」という通知が届きます。
給料を差し押さえるときは、会社に対して通知が送られます。通知が届いた時点で、相手(債務者)はその財産を自由に使うことができなくなります。
また、給料の場合は手取りの4分の1までが差し押さえの対象となることが多いです。
差押命令は債務者本人にも送られるため、「もう逃げられない」と支払いに応じてくるケースもあります。
3.7 回収
差押命令が出たあとは、実際の回収に進みます。ここでは、差し押さえた財産の内容によって対応が変わります。
銀行口座の場合は、口座に入っているお金を取り立てて、債権者のもとに送金してもらいます。
給料の場合は、会社から毎月一定額が振り込まれる形になります。
不動産や動産の場合は、まず競売(オークション)が行われます。売却された代金の中から、債権者にお金が配当されます。
ただし、調査や競売に時間がかかることもあるため、すぐに回収できるとは限りません。
なお、差し押さえた金額が全額に満たない場合は、足りない分をもちろん引き続き請求できます。
4. 強制執行の申立てに必要な書類
強制執行を裁判所に申し立てるときは、いくつかの大切な書類をそろえて提出しなければなりません。
4.1 執行力のある債務名義の正本
まず必要なのが「債務名義」という書類です。
これは、「お金を払ってもらう権利がある」と国(裁判所など)が認めた証拠のようなものです。強制執行では、この債務名義の「正本(コピーではない原本)」が必要です。
たとえば、次のようなものが債務名義になります。
- 裁判で出された判決
- 調停や和解の調書
- 公証役場で作った公正証書(※特別な文言が入ったもの)
なお、判決などには「執行文」という一文がついていないと使えない場合があります。
これは「この書類で強制執行できます」という意味のもので、最後のページについていることが多いです。
4.2 債務名義の送達証明書
次に必要なのが「送達証明書」です。これは、債務名義の内容が相手(債務者)にちゃんと届いたことを証明する書類です。
この証明がないと、裁判所は「相手が知らなかったかもしれない」と判断して、強制執行を認めてくれません。
送達証明書は、債務名義を作成した裁判所や公証役場で発行してもらえます。
4.3 申立書
強制執行を始めるためには「申立書」が必要です。これは、「どんな理由で、どんな財産を差し押さえたいのか」をまとめた書類です。
申立書は、大きく分けて次の4つのパーツに分かれています:
- ① 表紙
- ② 当事者目録: 債権者・債務者などの情報
- ③ 請求債権目録:いくら請求するかの明細
- ④ 差押債権目録:どんな財産を差し押さえるか
どのように書けばよいかわからない場合は、裁判所のWEBサイトで書式や記入例が公開されていますので参考にすると安心です。
4.4 その他必要書類
そのほかにも、いくつかの書類や費用が必要です。次のようなものがあります。
- 資格証明書:債権者や債務者が法人(会社など)の場合、その法人の登記事項証明書が必要です。法務局で取得できます。
- 収入印紙:申立てには手数料として印紙代(たとえば4,000円程度)がかかります。
- 郵便切手:書類の送付などに使う切手も前もって用意しておく必要があります。
- 変更を証明する書類:たとえば、引っ越しや名前が変わった場合など、債務名義に書かれている情報と現在の情報が違うときは、住民票や戸籍の附票などでそのつながりを証明する必要があります。
不備があると、申立てが受け付けられなかったり、手続きがストップすることもあります。書類を準備する際は、弁護士にチェックしてもらうと安心です。
5. 強制執行の費用と期間
ここでは、強制執行にかかる費用と、おおよその期間について解説します。
5.1 債権回収を弁護士に依頼する費用
弁護士に強制執行(債権回収)を頼むとき、いくらくらいの費用がかかるのかは気になるところです。
ここでは、一般的な料金のしくみと相場をご紹介します。
弁護士に依頼する場合、多くの事務所で次のような料金体系が使われています。
- 着手金:手続きをスタートするときに払うお金。結果に関係なくかかります。
- 報酬金:実際にお金を回収できたときに、成果に応じて支払うお金です。
着手金や報酬金は、「どれくらいのお金を請求するのか」または「どれくらい回収できたのか」によって変わります。次の表は目安となる相場です。
※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。
請求や回収の金額 | 着手金の目安 | 報酬金の目安 |
---|---|---|
300万円以下 | 4〜8% | 4〜25% |
300万円超〜3000万円以下 | 2.5〜6% | 2.5〜15% |
3000万円超〜3億円以下 | 1.5〜4% | 1.5〜10% |
3億円超 | 1〜3% | 1〜5% |
※事務所によって金額や計算方法が異なります。相談時にしっかり確認しましょう。
5.2 手数料・実費
強制執行には、弁護士費用とは別に「裁判所に払うお金」がかかります。ここでは、強制執行の種類ごとにかかる基本的な費用をわかりやすく説明します。
強制執行で必要になる費用は、大きく次の3つです。
- 収入印紙代:裁判所に申立てるときにかかる手数料です。
- 郵便切手代:裁判所から相手に通知を送るための費用です。
- 予納金:執行官や専門業者に動いてもらうために、あらかじめ裁判所に預けるお金です。
代表的な強制執行の種類ごとの費用の目安を表にまとめました。
※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。
執行の種類 | 収入印紙代 | 郵便切手代 | 予納金の目安 | 備考 |
---|---|---|---|---|
債権執行(預金・給与など) | 約4,000円 | 約3,000~5,000円 | 基本なし | 執行官による作業がないため低コスト |
不動産執行(家・土地など) | 約4,000円 | 約5,000~7,000円 | 60万円以上 登録免許税も必要 (請求額の0.4%) | |
動産執行(貴金属・現金など) | 約4,000円 | 約3,000円 | 約3万~5万円 | 鍵開けなど追加費用が発生する可能性あり |
6. 交渉開始から強制執行完了までにかかる期間
債権回収が完了するまでにかかる期間は、ケースによってかなり異なります。ここでは、一般的な目安をご紹介します。
弁護士が催促の電話や内容証明を送っただけで支払いがある場合、早ければ数日~1週間で回収できることもあります。これが最短パターンです。
ただし、実際には相手と何度かやりとりを重ねてから支払われるケースが多く、2~6週間ほどかかることが一般的です。交渉がうまく進めば、裁判をしなくても解決できます。
相手が話し合いに応じない場合、裁判や強制執行に進むことになります。たとえば、訴訟を起こして判決が出るまでには、早くても2~3か月、争いが長引けば半年~2年以上かかることもあります。
さらに、判決後に強制執行を申し立て、実際に差し押さえて回収が終わるまでには、そこからさらに1~6か月かかるのが一般的です。
段階に合わせて、次の表に期間をまとめました。
※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。
段階 | 想定される期間 |
---|---|
弁護士による電話や催促書面だけで支払い | 数日〜1週間 |
内容証明郵便による督促 | 1〜4週間 |
交渉が決裂→裁判提起→判決まで | 6か月~2年以上(内容により変動) |
判決後に強制執行完了まで | 1〜6か月 |
上記はあくまで目安ですが、スムーズに進んでも1~2か月、裁判を含めると6か月~2年以上かかるケースもあります。早く回収したいなら、弁護士のサポートを受けて、的確に手続きを進めることをおすすめします。
7. 強制執行のよくあるご質問
ここでは、強制執行に関するよくあるご質問にお答えしています。ぜひ参考にしてみてください。
7.1 強制執行が失敗するケースは?
強制執行をしても、必ずお金が戻ってくるとは限りません。失敗する主なパターンは、差し押さえるべき「財産」が見つからない場合です。
たとえば、債務者(お金を払うべき相手)がすでに預金を使い切っていたり、車や土地などの高額な財産を持っていなかったりすると、裁判所に申し立てをしても、差し押さえるものがありません。
このようなときは、せっかく強制執行を申し立てても、手続き費用だけかかって、お金は1円も回収できないことがあります。
また、債務者がすでに自己破産の手続き中だったり、他にもたくさんの債権者(お金を請求している人)がいる場合、そちらに優先して配当されるため、自分の分が回ってこないこともあります。
このような失敗を避けるためには、事前の財産調査が非常に重要です。
7.2 相手方の財産はどう調査すればよい?
相手方の財産を調査するのに有効なのが、次のような「法的な財産調査の手段」です。
① 財産開示手続き
裁判所に申し立てて、債務者に「どんな財産を持っていますか?」と法的に問いただす制度です。債務名義(判決など)を取得していれば申請できます。
もし虚偽の申告をすれば、債務者は過料などの罰則を受ける可能性もあります。
② 第三者からの情報取得手続き
裁判所を通じて、銀行や市役所、法務局などの第三者から、債務者の口座情報、不動産の登記情報、給与情報などを入手する制度です。
これにより、「この銀行に口座がある」「この会社に勤めている」といった情報がわかることがあります。
③ 登記簿や固定資産税情報の確認
債務者の住所がわかれば、法務局や市区町村役場で、不動産の所有状況を確認できます。登記簿を取得することで、土地・建物の所有者や抵当権の有無も確認できます。
ただし、一般の人がこれらを一人で行うのはハードルが高いため、弁護士に依頼するのが現実的です。
7.3 相手方の財産が見つからない場合は?
どれだけ調査しても、相手の財産が見つからない場合もあります。そのようなときは、次のような対策が考えられます。
① 財産開示手続を活用する
財産が見つからなかったとしても、財産開示手続を裁判所に申し立てすることができます。裁判所の手続きの中で、相手が財産を開示することがあります。
② 弁護士を通じて任意交渉を継続する
強制執行ではなく、相手と話し合いで分割払いの合意をしたり、保証人をつけさせたりすることも検討できます。
無理に差し押さえるより、支払いの意思がある場合は現実的な手段となることがあります。
③ 泣き寝入りせず「時効の管理」も忘れず行う
強制執行がうまくいかなくても、判決や公正証書があれば、時効完成前であれば再び執行できます。
ただし、そのためには時効を更新(中断)させる手続きが必要です。内容証明を送る、再度申し立てるなどの方法で時効を止められるので、忘れずに対応しておきましょう。
8. 強制執行(債権回収)は弁護士に相談
強制執行は、ただ裁判所に申し立てればお金が戻ってくるという簡単な手続きではありません。
「どの財産を差し押さえるか」
「その財産は本当に回収につながるのか」
「そもそも債務名義は正しく整っているか」
こうしたポイントを一つひとつ確認しながら進めなければ、費用倒れになってしまう可能性もあります。
そのため、強制執行を考えるときは、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、交渉の段階から戦略を立ててくれるだけでなく、相手の財産の有無や回収可能性を見極めたうえで、もっとも効率的な方法を提案してくれます。
さらに、面倒な書類作成や裁判所への申立てなど、すべての手続きを任せることができるので、あなたの負担は大きく軽減されます。
「どうせ支払ってもらえないだろう」とあきらめる前に、まずは一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。