「契約書に記載がある期間を過ぎても建物が返ってこない」

「賃料や敷金、原状回復費用でもめそう」

「ネットにあるひな形で契約したら、後々大変なことになってしまった」

建物賃貸借契約書に関連して様々なトラブルが発生することがあります。

この記事では、契約書の作成・審査の担当者にむけて、建物賃貸借契約書の作成やチェックのポイントや注意点を解説します。

よく検討しないで賃貸借契約書を作成してしまうと、思ってもいない不利益を受けることもあります。

悩んだら、まずは詳しい弁護士へのご相談をおすすめします。

お問い合わせはこちら

1. 建物賃貸借契約とは?

建物賃貸借契約とは、建物を借りる際に結ぶ契約のことです。

賃貸マンションやアパートなどの居住用物件のほか、オフィスや店舗などの事業用物件も含まれます。賃借人は、家賃を支払うことで一定期間その建物を利用できます。

 

2. 建物賃貸借契約は普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約の2種類

建物を借りる際の契約には、「普通建物賃貸借契約」と「定期建物賃貸借契約」の2種類があります。契約時にいずれに該当するかを確認することが重要です。  

2.1 普通建物賃貸借契約とは

普通建物賃貸借契約とは、賃借人が契約更新を希望すれば、原則として契約が更新される契約です。 マンションやアパートなどの一般的な賃貸契約の多くが、このタイプに該当します。

① 契約期間のルール

1年未満の契約は「期間の定めがないもの」とみなされます。つまり、契約期間が1年未満の場合でも、事実上、賃借人が長期間住み続けられる権利を持つことになります。

② 更新のルール

賃貸人が契約の更新を拒否するには、「正当事由」が必要です。たとえば、建物が老朽化して崩壊寸前の場合などがこれに該当します。

③ 解約のルール

賃貸人が解約を申し入れる場合、最低でも6か月前に通知しなければなりません。

普通建物賃貸借契約は、賃借人にとって長期間住み続けられる安心感がある契約です。
 

2.2 定期建物賃貸借契約とは

定期建物賃貸借契約とは、契約期間が満了すると自動的に契約が終了するタイプの契約です。 普通建物賃貸借契約のように自動更新されることはなく、契約を続けたい場合は新たに契約を結び直す必要があります。

① 契約期間のルール

1年未満の契約も可能です。たとえば、半年間だけ住む予定の単身赴任者向け物件などが、この契約形態で提供されることがあります。

② 更新のルール

自動更新はなく、契約期間が終了すると退去しなければなりません。再度住みたい場合は、新たに契約を結ぶ必要があります。

③ 解約のルール

普通建物賃貸借契約とは異なり、賃貸人側に正当事由がなくても、契約満了時には退去を求めることができます。そのため、賃貸人にとって有利な契約形態と言えます。

また、定期建物賃貸借契約は書面で交わす必要があり、口頭契約は認められません。
 

 

3. 通常の建物賃貸借契約のチェックポイント

建物を賃貸借する際、契約内容をしっかり確認しておくことは非常に重要です。

特に、契約当事者や建物の特定、契約期間、更新条件、費用負担のルールなど、事前に把握しておくべきポイントがいくつかあります。ここでは、契約時に注意すべき主要な条項について解説します。  

3.1 契約当事者

契約当事者とは、建物を貸す「賃貸人」と借りる「賃借人」を指します。契約書には、双方の氏名や住所を明記し、法人の場合は法人を代表する権限のある人の名前を記載する必要があります。

契約締結時に、賃貸人が所有者本人かどうかをしっかり確認しておきましょう。

また、法人が賃借人となる場合は、代表者が個人として連帯保証するケースもあります。そのため、契約書の署名欄や保証条項の内容を慎重に確認することが重要です。  

3.2 契約の対象となっている建物の特定

建物賃貸借契約では、貸し借りの対象となる物件を明確に特定することが重要です。

物件の特定が不十分だと、契約範囲や権利関係が曖昧になり、後々トラブルにつながる恐れがあります。

契約書には、不動産登記簿謄本(登記事項証明書)に記載されている次の情報を明示する必要があります。

※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。

項目内容
所在物件の住所(都道府県、市区町村、町名・番地)
地番土地の地番(住居表示とは異なることがある)
家屋番号建物ごとに割り振られた番号
種類物件の用途(例:居宅、事務所、店舗など)
構造建物の構造(例:鉄筋コンクリート造、木造、軽量鉄骨造など)
床面積賃貸部分の床面積(登記簿記載の数値)

特に次の点に注意が必要です。

① 契約書と登記簿の内容が一致しているか

物件の所在地、地番、家屋番号、種類、構造、床面積が正しく記載されているかを確認します。

② 建物の構造が正しいか

  • 鉄筋コンクリート(RC):耐震性・防音性が高い
  • 鉄骨鉄筋コンクリート(SRC):さらに強度が高い
  • 木造:通気性が良いが耐火性に注意
  • 軽量鉄骨造:木造より強度があるが、耐久性に差がある

③ 契約対象部分を明確にする

  • 一棟貸しなのか、一部分のみの貸し出しなのかを確認
  • 共用部分の使用範囲(エントランス、エレベーター、駐車場など)も明示

契約前の説明や交渉時の資料とも照らし合わせ、記載ミスや抜け漏れがないか慎重にチェックすることが大切です。

 

3.3 使用目的

賃貸借契約書では、賃借人が建物をどのような目的で使用するのかを定めることが求められます。

これは、契約後に賃借人が契約内容と異なる用途で使用した際、賃貸人が適切に対応できるようにするためです。

契約書に使用目的を明記しないと、賃貸人は賃借人の目的外使用を制限しづらくなります。たとえば、次のようなケースが考えられます。

  • 事務所用として貸した物件を飲食店として営業された
  • 倉庫として貸した物件に賃借人が住み始めた
  • 住居用のマンションが店舗として使用され、近隣住民とトラブルになった

こうしたケースでは、賃貸人が知らない間に建物の用途が変わり、トラブルが発生する可能性があります。そのため、契約時に「使用目的」を具体的に定めておくことが重要です。

契約書では、単に「住居用」「事業用」とするだけではなく、より詳細に定めることが望まれます。次のような表記が一般的です。

※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。

使用目的契約書の記載例
住居用「居住のために使用する」
事務所用「事務所として使用する」
店舗用「飲食店を営むために使用する」「小売業の店舗として使用する」
倉庫用「物品保管のために使用する」
その他「事業用(飲食店を除く)」など、具体的に業種を指定

また、「事業用」として貸す場合でも、どの業種を許可するか明確にすることで、想定外の用途で使用されるリスクを避けられます。

特に、飲食店やナイトクラブなどは、近隣住民とのトラブルにつながりやすいため、契約時に細かくチェックしておく必要があります。  

3.4 契約期間

契約期間は、建物賃貸借契約において非常に重要なポイントです。特に、借地借家法の適用を受ける場合は、最低1年以上の契約期間を設定しなければならない点に注意が必要です。

もし1年未満の契約期間を設定すると、法的には「期間の定めのない契約」とみなされます。

契約期間の一般的な目安は、次の通りです。

※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。

契約の種類契約期間の目安
住居用2年前後が一般的
(1年、3年、5年の場合もあり)
事業用3〜5年が一般的
(10年以上の契約もあり)

契約期間満了後は、通常、当事者双方が合意のもとで契約更新を行います(合意更新)。

ただし、借地借家法では、一定の条件を満たさない限り、契約期間の満了をもって自動的に契約が終了するわけではありません。

そのため、賃貸人側は契約期間の設定だけでなく、更新に関する取り決めにも十分注意する必要があります。

 

3.5 契約の更新

契約期間が満了すると、多くの場合、賃貸人と賃借人の合意のもとで契約が更新されます。

しかし、借地借家法の適用を受ける建物賃貸借契約では、賃貸人が適切な手続きを取らない限り、自動的に契約が継続する仕組みになっています。

契約更新には、大きく分けて次の2種類があります。

※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。

更新の種類内容
合意更新当事者双方の合意により、契約を更新する。
法定更新賃貸人が更新を拒否しない限り、自動的に契約が更新される。

3.5.1 契約の更新拒絶をするための条件

賃貸人が契約期間満了で契約を終了させたい場合は、期限内に「契約を更新しない」旨を賃借人に通知する必要があります。

賃貸人が契約の更新を拒絶するには、次の2つの条件を満たす必要があります。

  1. ① 契約満了の6か月前から1年前までに更新拒絶の通知を行うこと
  2. ② 契約を終了させるための「正当事由」があること

「正当事由」とは、たとえば次のような理由です。

  • 建物の老朽化による取り壊しが必要であること
  • 賃貸人やその家族がその建物を使用する必要があること

正当事由が不十分な場合、賃貸人からの契約終了の申し入れは認められず、賃借人は引き続き建物を使用できます。

正当事由があったとしても、期間満了後に賃借人が立ち退かない場合、賃貸人はすぐに異議を述べなければ更新されたものとみなされるので注意が必要です。

3.5.2 更新料の定めにも注意が必要

一方で、賃貸人には、契約更新時に更新料を設定する権利があります。たとえば、「更新時には賃料の1か月分を更新料として支払う」といった条項を契約書に盛り込むことが可能です。

ただし、高額な更新料を設定すると、賃借人の負担が増え、契約更新を避ける要因になる可能性があります。

長期的な賃貸経営を考えるなら、賃借人が無理なく支払える適正な更新料を設定することが重要です。

3.5.3 更新を希望しない場合は定期借家契約を検討

賃貸人が契約の更新を希望しない場合、普通借家契約ではなく、「定期借家契約」を選択する方法もあります。

定期借家契約であれば、契約期間満了時に自動的に契約が終了するため、更新を前提としない契約が可能です。

3.6 賃料や共益費

建物賃貸借契約では、賃料や共益費、支払い方法、支払期限、遅延損害金などの金銭に関する条項を明確に定め、賃貸人・賃借人双方のトラブルを防ぐことが大切です。

3.6.1 賃料

まず、賃料は賃借人が賃貸人に毎月支払う金額であり、契約書には具体的な内容を明記しなければなりません。次の内容を具体的に定めておきましょう。

  1. ① 月々の賃料額
  2. ② 支払い期日(例:毎月末日までに支払い)
  3. ③ 支払い方法(銀行振込・口座振替など)
  4. ④ 振込手数料の負担者(通常は賃借人)
  5. ⑤ 滞納時の遅延損害金(遅延1日ごとに年○%など)

3.6.2 共益費

共益費についても、賃料とは別に契約書に明記する必要があります。共益費は、建物の共用部分(エントランス、エレベーター、廊下、ゴミ置き場など)の維持管理にかかる費用を指し、契約書には次の点を明記する必要があります。

  1. ① 共益費の金額
  2. ② 賃料と合算するのか、別途支払いとするのか
  3. ③ 維持管理の範囲(清掃、警備、設備点検など)

3.6.3賃料の増減額

また、契約期間中に経済状況の変化などにより、賃料が相場より高くなったり低くなったりすることがあります。

借地借家法では、このような場合に賃料の増減を請求できるため、契約書に特別な記載がなくても、賃貸人・賃借人のどちらも増額や減額を求めることが可能です

賃料の増額には、増税や物価上昇、近隣不動産の相場変動など合理的な理由が必要となり、「○年間は賃料を増額しない」などの特約を設定することもできます。

一方、賃料の減額については、近隣の相場が下がった場合や、建物の価値が低下した場合に請求できます。

普通賃貸借契約では、増額とは異なり「減額しない」という特約を設けても無効となるため、賃借人の保護が手厚くなっています。

3.6.4その他賃料に関連する事項

支払い遅延時の対応(遅延損害金の発生条件など)、契約期間中の賃料改定ルール、入退去日が月の途中の場合の日割り計算の有無は、契約後のトラブルを防ぐためにも明確にしておきましょう。

テナント賃貸のように賃料が高額な契約では、日割り計算の有無が賃借人の負担に大きく影響するため、契約前に細かい取り決めを行っておくと安心です。  

3.7 敷金や保証金

敷金や保証金は、家賃滞納や原状回復費用をカバーするためのお金です。

賃貸借契約書では、それぞれの金額や取り扱いを明確に定め、賃貸人・賃借人双方が納得できる形にすることが大切です。

敷金は、賃借人が契約時に賃貸人へ預けるお金です。退去時に未払いの家賃や修繕費用があれば、その分が差し引かれ、残った金額は賃借人に返されます。

ただし、契約によっては「敷金の一部は返さない」といったルールを設けることが可能です。たとえば、「退去時に敷金の10%は返さない」と契約書に記載しておけば、その分は返却されません。

ただし、賃借人にとって極端に不利な条件は無効になる可能性があるため、無用な紛争を引き起こさないために事前にしっかり説明しておくことが大切です。

保証金も敷金と同じように家賃の未払いなどに備えて預かるお金ですが、地域によっては一部が返されず、礼金のように扱われることもあります。

そのため、契約書には保証金の性質や、どれくらい返ってくるのかをはっきり書いておくと、後のトラブルを防げます。

また、礼金は賃貸人に対する「お礼」として支払うお金で、基本的に返還されることはありません。

敷金や保証金とは異なるため、賃借人が混同しないよう、契約時にしっかり説明することが重要です。

地域によってこれらの取り扱いが異なるため、契約書には単に名称を記載するだけでなく、それぞれの性質や返却ルールを明確に記載し、誤解を防ぎましょう。

3.8 中途解約

建物賃貸借契約の途中で、賃貸人や賃借人それぞれの事情により契約を解約したい場合もあるでしょう。

中途解約の取り扱いは、賃貸人・賃借人のどちらが解約を申し出るかによって異なります。

3.8.1 賃借人からの解約

一般的に、賃借人が解約を申し出る場合は契約書に記載された「解約予告期間」に従う必要があります。

住居用の賃貸では1~2か月前、事業用の賃貸では3~6か月前の通知が求められることが多いです。

解約の申し入れ期限が長すぎると不便になるため、契約前に十分確認し、必要に応じて賃貸人と交渉することが大切です。

また、契約期間の途中で解約する場合には、違約金が発生することがあります。

違約金の設定自体は認められていますが、金額が極端に高い場合には「賃借人に不当な不利益を与える」と判断され、無効となる可能性があります。

契約書に違約金の規定がある場合は、その金額や条件をしっかり確認しましょう。

3.8.2 賃貸人からの解約

賃貸人側から契約を解除する場合は、借地借家法に基づいた厳格なルールがあります。

契約期間の定めがある場合

賃貸人は契約期間満了の6か月前から1年前までに「契約を更新しない」旨の通知を行わなければなりません。また、契約終了には「正当事由」が必要です。

契約期間の定めがない場合

賃貸人が解約を申し入れると、6か月後に契約が終了します。ただし、こちらも正当事由が必要になります。

「正当事由」として認められる可能性があるケースには、次のようなものがあります。

  • 建物の老朽化による取り壊しが必要であること
  • 賃貸人やその家族がその建物を使用する必要があること

なお、これらのルールに違反するような特約を契約書に定めても、法律上無効となるため注意が必要です。

3.8.3 中途解約禁止の特約

一定期間、契約を継続させたい場合は「中途解約禁止」の特約を設けることがあります。

この場合、契約期間満了前に賃借人が解約を申し入れた場合、残りの期間の賃料相当額を違約金として支払うといった条件が設定されることもあります。

ただし、違約金が過剰に高額だと無効となる可能性があるため、妥当な範囲で設定することが重要です。  

3.9 原状回復

原状回復とは、賃借人が退去する際に、借りた建物を契約時の状態に戻して賃貸人へ返すことを言います。

この原状回復の範囲が不明確だと、退去時に「どこまで修繕する必要があるのか」について賃貸人と賃借人の間でトラブルになることが多いため、契約書でしっかり定めておくことが重要です。

原状回復には、賃借人が負担すべき部分と、賃貸人が負担すべき部分があります。

3.9.1 賃借人が負担するケース

  • 故意・過失による損傷や汚れ(壁に穴を開けた、タバコのヤニ汚れなど)
  • 通常の使用範囲を超えた損耗(ペットの引っかき傷、家具の設置で生じた大きなへこみ)
  • 契約で定めた特別なルール違反による損傷(飲食店での煙や油による壁の変色など)

3.9.2 賃貸人が負担するケース

  • 通常の経年劣化(日焼けによる壁の変色、家具の重みでできた床のへこみ)
  • 建物の構造上避けられない損耗(水道管の老朽化、換気扇の劣化)

特に居住用の賃貸借契約では、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」において、通常の使用による経年劣化や自然損耗については、賃借人が原状回復の責任を負わないと明記されています。

ただし、契約書に「退去時の全室クリーニング費用は賃借人負担とする」などの特約がある場合は、その内容に従う必要があります。

3.10 連帯保証人

建物賃貸借契約では、賃借人が家賃を支払えなくなった場合に備えて、「連帯保証人」を設定することが多いです。

連帯保証人は、賃借人と同じ責任を負い、未払いの賃料やその他の債務を代わりに支払う義務があります。

これにより、賃貸人は賃借人が賃料などを支払えなくなった場合でも、連帯保証人から回収できるため、リスクを減らせます。

3.10.1 保証人と連帯保証人の違い

ここで重要なのが、「保証人」と「連帯保証人」の違いです。保証人には「催告の抗弁権」や「検索の抗弁権」が認められていますが、連帯保証人にはこれらの権利がありません。

3.10.2 催告の抗弁権

催告の抗弁権とは、保証人が、賃貸人から支払いを請求された際に、「まずは賃借人本人に請求してください」と主張できる権利のことです。

保証人は賃借人が支払えない場合のみ責任を負うため、賃貸人はまず賃借人に請求し、それでも支払いがない場合に保証人に請求しなければなりません。

しかし、連帯保証人には催告の抗弁権がありません。そのため、賃貸人は賃借人に請求する前に、連帯保証人に直接支払いを求めることができます。

3.10.3 検索の抗弁権

検索の抗弁権とは、保証人が「賃借人に財産があるなら、まずそちらを差し押さえてください」と主張できる権利のことです。

保証人は、賃借人に支払い能力がある場合には、自分が支払う前に賃借人の財産から回収するよう求めることができます。

しかし、連帯保証人には検索の抗弁権がありません。そのため、賃借人に財産があるかどうかに関係なく、賃貸人は連帯保証人に直接請求できます。

3.10.4 「連帯」の言葉の漏れに注意

連帯保証人の責任を明確にするため、契約書には「連帯保証人」や「連帯して」という文言を明記することが重要です。

よつば総合法律事務所で取り扱った裁判の事例でも「連帯」の文字が漏れていることが大きな争いになった事例がありました。

また、連帯保証人が負う具体的な債務(賃料、共益費、原状回復費用など)についても、契約書に詳細に記載しておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。

3.10.5 保証の上限額の設定漏れに注意

賃貸借契約から発生する債務(賃料の滞納など)を保証する契約をするときは、保証人が支払わなければならない金額の上限額を契約書に記載しておかなければなりません。

上限額を記載しないと保証契約が無効になってしまうので注意が必要です。

3.10.6 家賃保証会社の利用も検討

最近では、「家賃保証会社」を利用するケースも増えています。これは、賃借人が家賃を滞納した際に、保証会社が代わりに支払う仕組みです。

保証人がいない場合や、賃貸人がリスクを分散させたい場合に有効な手段となります。

 

4. 建物賃貸借契約に関するよくあるご質問

ここでは、建物賃貸借契約に関するよくある質問にお答えしています。建物を借りる際や、貸す際の参考にしてみてください。  

4.1 契約書は必要ですか?

賃貸借契約は、口頭でも成立します。たとえば、「この部屋を10万円で貸してください」「いいですよ」と合意すれば、それだけで契約が成立します。

しかし、口約束では後で「言った」「言っていない」などとトラブルになることが多いため、書面で契約書を作成しておきましょう。

また、契約の種類によっては書面が必須となるケースもあります。たとえば、定期建物賃貸借契約を結ぶ場合は、書面が必要です。

契約の内容を明確にし、トラブルを防ぐためにも、契約書の作成をおすすめします。  

4.2 建物賃貸借契約と建物使用貸借契約はどう違いますか?

建物を借りる契約には「賃貸借契約」と「使用貸借契約」の2種類があります。

※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。

契約の種類特徴代表的なケース
賃貸借契約賃料を支払って借りる賃貸マンション
アパート
オフィス
使用貸借契約無償で借りる親が子どもに家を貸す
知人に倉庫を貸す

賃貸借契約は、賃借人が賃料を支払う代わりに、契約期間中に建物を使用する権利を得ます。

一方、使用貸借契約は、貸主の好意により無償で借りる契約です。

通常、事業用の物件では賃貸借契約が用いられ、使用貸借契約は親族間などの特別な関係で利用されます。  

4.3 通常の建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約はどう違いますか?

建物の賃貸借契約には、「普通建物賃貸借契約」と「定期建物賃貸借契約」の2種類があります。

※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。

契約の種類特徴賃貸人・賃借人のメリット
普通建物賃貸借契約契約期間終了後も賃借人が希望すれば更新できる
  • 賃借人は長期間住み続けられるが、賃貸人は退去させにくい
  • 家賃は相場通りであることが多い
定期建物賃貸借契約契約期間が終了すると更新なしで契約が終了
  • 賃貸人は確実に物件を返してもらえるが、賃借人は契約満了後に退去が必要
  • その分家賃が低いことが多い

普通建物賃貸借契約は、契約期間終了後も賃借人が希望すれば基本的に更新されます。

賃貸人が更新を拒否するには「正当な理由(建物の老朽化や賃貸人自身が使用する予定など)」が必要です。

一方、定期建物賃貸借契約は、契約期間満了で自動的に契約が終了するため、賃貸人は確実に建物を返してもらえます。賃貸人が将来自分で使う予定がある場合は、定期建物賃貸借契約のほうが向いています。

 

4.4 建物を一度貸すと、返ってこなくなりませんか?

普通建物賃貸借契約では、賃借人は法律で強く保護されています。そのため、賃貸人が「建物を返してほしい」と言うだけでは、借主に退去してもらうことは難しいのが現状です。

貸主が契約を終了させるには、借地借家法に基づく「正当事由」が必要になります。たとえば、以下のようなケースが考えられます。

  • 建物の老朽化により、安全上の問題が発生する場合
  • 貸主やその家族が建物を使用する必要がある場合

一方、定期建物賃貸借契約であれば、契約期間が満了すると確実に終了し、賃貸人は建物を返してもらえます。

将来的に自分や家族がその建物を使う可能性があるなら、最初から定期建物賃貸借契約にしておくのが安全です。  

4.5 収入印紙は必要ですか?

建物の賃貸借契約書には収入印紙は不要です。

ちなみに、土地の賃貸借契約書には収入印紙が必要です。

また、賃貸契約とは別に「賃貸人が賃借人から保証金を受け取り、一定期間後に返還する契約」を結ぶ場合は、消費貸借契約書とみなされ、印紙税の対象になります。

気になることがある場合、念のため税理士や税務署に確認するのが安心です。

5. まとめ:建物賃貸借契約で悩んだら弁護士に相談

建物賃貸借契約は、契約書の内容次第で賃貸人・賃借人どちらにも有利・不利になるものです。

ひな型の契約書をそのまま使って契約を結ぶと、知らず知らずのうちに不利な条件を受け入れてしまうことも。そのため、契約内容を十分に理解し、自社にとって適切な形に整えておきましょう。

建物賃貸借契約に関するトラブルの多くは、契約書の不備や曖昧な条項が原因であることが多いです。

一度問題が起こると、解決までに多くの時間とコストがかかります。リスクを回避するためにも、契約書を作成したり、見直す際には専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

よつば総合法律事務所では、多数の不動産会社様との顧問契約を通じて、実務に即した賃貸借契約の作成・チェックを行っています。

また、宅地建物取引士の資格を持つ弁護士が在籍しており、専門的な視点からアドバイスを提供できます。

建物賃貸借契約書の作成やチェックに関する不安がある場合は、ぜひ一度ご相談ください。

監修者:弁護士 加藤貴紀

関連記事