「不動産の相続手続きをしたいが、相続人がいない」
「貸した土地上にある建物を壊して欲しいが、相続人が見つからない」
「土地建物を売って貸したお金を返して欲しい。ただ、相続人が全員相続放棄をしているので手続きが進まない」
この記事では不動産会社様にむけて、相続人がいなかったり、見つからなかったりする場合の対処法を解説します。
不動産分野は、詳しい弁護士と、そうでない弁護士がいます。悩んだら、まずは詳しい弁護士へのご相談をおすすめします。
目次
1. 相続人が不存在のときに発生する問題
相続人がいなかったり、相続人が見つからなかったりする場合、次のような問題が起きることが多いです。
- ① 建物や土地の明渡し
- ② 建物の取壊し
- ③ 借金の返済
- ④ 抵当権など担保権の抹消
- ⑤ 遺産分割
① 建物や土地の明渡し
建物を貸していたが、借主が亡くなってしまった。誰に対して建物の明渡しを請求すればよいかわからない。
② 建物の取壊し
建物を建てるために土地を貸していたところ、建物所有者が亡くなってしまった。
建物を取り壊して土地を返してほしいが請求する相手がいない。
③ 借金の返済
故人の生前にお金を貸していたが、相続人がいないため請求する相手がいない。
故人は不動産を持っていたので、不動産を売って借金を返済してほしい。
④ 抵当権など担保権の抹消
借金の返済のために設定した抵当権が残っていた。
抹消して不動産を売却したいのに、抵当権者が亡くなっていて誰に抹消手続きの協力をしてもらえばよいかわからない。
⑤ 遺産分割
遺産分割協議をして財産を取得したいのに、相続人が行方不明で遺産分割協議書を作成できない。
2. 相続人が不存在になるパターン
それでは、相続人が不存在になるパターンにはどのようなものがあるでしょうか? 次のような場合は相続人が不存在となりえます。
- ① 親族がいない場合
- ② 相続人が行方不明
- ③ 相続人全員が相続放棄
- ④ 相続人全員が相続欠格や相続廃除に当てはまる場合
① 親族がいない場合
配偶者や子供は相続人になることが多いです。
しかし、故人に配偶者や子供がいなかったり、両親や兄弟などの親族がいなかったりすると、相続人がいない状態となります。
② 相続人が行方不明
相続人はいるものの、どこにいるかわからず連絡が取れないときも問題になります。
たとえば、遺産分割協議は相続人全員でする必要があります。
しかし、相続人の1人が行方不明だと遺産分割協議をできません。その結果、遺産の処分などが難しくなります。
③ 相続人全員が相続放棄
故人が借金を抱えたまま亡くなったときは、負債を含めた遺産を相続しないこともできます。相続放棄と言います。
相続放棄をすると、相続人の地位が次の順位の人に移ります。
たとえば、故人の配偶者と子供全員が相続放棄すれば、故人の両親などが相続人となることがあります。
故人の両親なども相続放棄をすれば、兄弟姉妹が相続人となることもあります。
しかし、故人の配偶者、子、両親、兄弟姉妹が全員相続放棄すると、遺産を管理処分する相続人がいなくなります。
④ 相続人全員が相続欠格や相続廃除に当てはまる場合
相続欠格とは、一定の行為を相続人が行ったときに、当然にその相続人が法定相続人としての地位を失う制度です。
相続廃除とは、一定の行為を相続人がしたときに、その相続人が被相続人(故人)の意思によって法定相続人の地位を失う制度です。
相続人全員が相続欠格や相続廃除に当てはまると、相続人が不存在になります。
3. 相続人不存在の場合の遺産の取扱い
では、相続人が不存在の場合、遺産の取扱いはどのようになるでしょうか?
遺言書や死因贈与契約がある場合、書面通りの内容となります。
また、債権者や特別縁故者への支払いがなされる場合もあります。誰にも支払われなかった遺産は、最後は国庫に帰属します。
① 遺言書や死因贈与契約がある場合の対応
相続人が不存在の場合、遺産を相続する人がいないことになります。
もっとも、故人が生前に遺言書を作成していれば、相続人がいないときでも遺言書どおりに相続できます。
また、生前に死因贈与契約を結んでおけば、遺産を相続人以外の人に相続させることができます。
遺言と死因贈与契約の違いは次のとおりです。
- 遺言は1人で行うことができます。遺産をもらう人の意思は関係ありません。
- 死因贈与は契約です。双方の合意が必要です。
② 特別縁故者への財産分与
特別縁故者制度とは、亡くなった人に相続人がいない場合に、生前関係が深かった人に対して相続財産を分与するという制度です。
特別縁故者制度を使うことで、相続人に当たらない人でも相続財産を分与される可能性があります。
③ 国庫に帰属する
相続財産清算人が選任されると、遺産を現金化して債権者や特別縁故者に対して支払いをします。
支払いをしても遺産が残ってしまったときは、相続財産清算人が遺産を国庫に帰属させます。
4. 相続人が不存在であることによるトラブルへの対処法
相続人が不存在のときは、次のような制度を使って問題を解決することができます。
- ① 相続財産清算人
- ② 不在者財産管理人
- ③ 所有者不明土地建物管理制度
- ④ 特別代理人
① 相続財産清算人の選任
故人の相続人がいるかいないか明らかでないときに、遺産を管理するのが相続財産清算人です。
利害関係がある人等が家庭裁判所に選任の申立てをします。
相続財産清算人は遺産に関する権限を持っていますので、話し合いによって問題を解決できます。
② 不在者財産管理人の選任
故人に法定相続人がいるものの、住所がわからないなどの理由で連絡がつかない場合に財産を管理するのが不在者財産管理人です。
利害関係がある人等が家庭裁判所に選任の申立てをします。
不在者財産管理人は財産に関する権限を持っていますので、話し合いによって問題を解決できます。
③ 所有者不明土地建物管理制度の利用
土地建物の所有者がわからないときに、その管理を行う管理人を選任する制度が所有者不明土地建物管理制度です。
利害関係がある人が地方裁判所に選任の申立てをします。管理人は財産に関する権限を持っていますので、話し合いによって問題を解決できます。
土地や建物に関連する問題で困っているときは、相続財産清算人や不在者財産管理人の代わりに所有者不明土地建物管理制度を使って問題を解決することもできます。
④ 特別代理人の選任と訴訟提起
代表者が行方不明の法人への裁判や、相続財産に関する裁判などをするときに相手がいない場合、裁判の相手方となる当事者が特別代理人です。
裁判を起こした人が選任の申立てをします。特別代理人は裁判を行う権限を有しています。
特別代理人の権限の範囲は個別事案によって異なりますが、判決などにより問題を解決することができます。
5. 相続人が不存在の場合の具体的解決方法
トラブル① 家の取り壊しができない
相続人不存在トラブルの具体例
建物を所有する目的で土地を貸していたところ、その建物の所有者が亡くなってしまいました。建物所有者の相続人がよくわからないので地代を支払ってもらうことができなくなりました。
建物を解体して土地を返してほしいと考えるのですが、誰に対して請求すればよいかわかりません。
民事裁判を起こさない解決方法
相続財産清算人や不在者財産管理人の選任や所有者不明土地建物管理命令の申立てを裁判所に行う方法があります。
清算人や管理人の選任後、建物の解体と土地の明渡しについて協議をして解決を目指します。
民事裁判を起こす解決方法
建物を解体して土地を明け渡してもらう民事裁判を起こして、特別代理人を選任する方法があります。
特別代理人の選任後、訴訟で勝訴判決を取得したあと、強制執行で建物の解体と土地の明渡しを実現します。
トラブル② 借金を返してもらうことができない
相続人不存在トラブルの具体例
故人の生前にお金を貸していたのですが、完済前に亡くなってしまいました。相続人は全員相続放棄をしています。
預貯金や不動産があるのでお金に換えて借金を返済してほしいです。
民事裁判を起こさない解決方法
相続財産清算人の選任を裁判所に申し立てる方法があります。 相続財産清算人は財産の管理権限があります。
そのため、預貯金を解約したり不動産を売却したりして借金の返済に至る可能性があります。
民事裁判を起こす解決方法
貸金の返還を求める民事裁判を起こして、特別代理人を選任する方法があります。
特別代理人の選任後、訴訟で勝訴判決を取得して、遺産である預貯金や不動産の差押えをして貸金を回収します。
トラブル③ 抵当権を抹消してもらえない
相続人不存在トラブルの具体例
故人から生前お金を借りていて、自宅の土地建物に抵当権を設定しました。借金を完済したのですが、抵当権を抹消する前に貸主が亡くなってしまいました。
故人の相続人がよくわかりません。自宅の土地建物を売却したいのに、抵当権がついたままだと売れなくて困っています。
民事裁判を起こさない解決方法
相続財産清算人や不在者財産管理人の選任を裁判所に申し立てる方法があります。
相続財産清算人や不在者財産管理人が抵当権の抹消申請に協力してくれます。
民事裁判を起こす解決方法
抵当権の抹消を求める民事裁判を起こして、特別代理人を選任する方法があります。
勝訴判決を獲得すれば、抵当権の抹消手続きを単独でできます。
トラブル④ 遺産分割協議書が作成できない
相続人不存在トラブルの具体例
遺産分割協議をしたいのですが、相続人の1人がどこにいるかわかりません。
遺産分割協議書を作成することができなくて困っています。
解決方法
不在者財産管理人の選任を裁判所に申し立てる方法があります。 遺産分割協議は相続人全員で合意する必要があります。
もっとも、不在者財産管理人は、行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議ができます。
遺産分割協議がまとまれば、遺産分割協議書を作成できます。
6.まとめ:相続人不存在の法的対応はよつば総合法律事務所へ
相続人がいなかったり、相続人が見つからなかった場合でも、問題の解決方法はいくつも考えられます。
たとえば①相続財産清算人、②不在者財産管理人、③所有者不明土地建物管理制度、④特別代理人を使う方法などがあります。
ただし、個別の事案ごとにどの方法がよいかは異なります。方法を間違うと目的を達成できません。
また、方法によりかかる時間や費用も異なります。 そのため、どの方法で課題を解決するかは弁護士に相談のうえ、慎重に決める必要があります。
お困り事がありましたら、お気軽によつば総合法律事務所までお問い合わせください。