「売買契約を結ぶ前に、契約不適合のトラブルを防ぎたい」

「契約不適合が発生した場合の適切な対応を知りたい」

「仲介業務の説明責任・告知義務のリスクを減らしたい」

不動産売買において、このように考える方は多いのではないでしょうか。

契約内容と異なる物件が引き渡された場合、売主は契約不適合責任を問われることがあります。

また、不動産売買の仲介等を行った場合、契約不適合に関連する説明義務・告知義務違反の責任を問われることもあります。

こうしたトラブルを防ぐためには、適切な契約書の作成や社内体制の整備が欠かせません。

特に、不動産取引は法的な知識が必要となるため、専門家のサポートを受けることで、契約書の見直しや適切な対策を講じ、安全な取引が可能になります。

本記事では、不動産事業を営む方に向けて、契約不適合責任の基本からリスク回避のポイント、トラブルを防ぐ具体策を解説します。

1. 契約不適合責任とは?基本的な定義と背景

「契約不適合責任」とは、売買契約において、契約の内容と異なるものが引き渡された際に、売主が負う責任を指します。

1.1 契約不適合責任が適用されるケース

契約不適合責任が発生するのは、主に次の3つのケースです。

① 数量の違い

例:契約書には100㎡と記載されていたが、実際に引き渡された土地の面積が80㎡しかなかった。

② 種類の違い

例:登記上の地目が宅地だったにもかかわらず、現況が畑であり宅地に適した土地ではなかった。

③ 品質の問題

例:売買契約では「シロアリ被害なし」と記載されていたにもかかわらず、引き渡し後にシロアリの被害が発覚した。

このような状況では、買主は売主に対して、修理の請求や購入代金の減額、さらには損害賠償や解除を求めることが可能です。

1.2 契約不適合責任と従来の瑕疵担保責任との違い

2020年4月に施行された民法改正により、「瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」に代わって「契約不適合責任」が導入されました。

主な変更点は次のとおりです。

① 買主が請求できる範囲の拡大

従来の瑕疵担保責任では、買主が請求できるのは「契約解除」または「損害賠償」に限られていました。しかし、契約不適合責任では、次のような対応も可能になりました。

  • 売主に修理を求める
  • 購入代金の減額を請求する

② 瑕疵の認識有無にかかわらず売主の責任が発生

旧制度では、「隠れた瑕疵」に限り売主の責任が認められ、買主が契約時に欠陥を認識しえた場合、請求できないケースがありました。

隠れた瑕疵とは、買主が通常の注意を払っても発見できない物件の欠陥を指します。たとえば、建物の構造内部の欠陥や、見えない部分のシロアリ被害などが該当します。

一方、新制度では、契約内容と現状に差異があれば、その相違を買主が事前に把握しえたかどうかに関係なく、売主が責任を負うこともあります。

③ 損害賠償の範囲が拡大

不動産に契約不適合があれば、買主は契約解除や代金返還に加え、損害賠償も請求できる可能性があります。

これまで買主が請求できたのは、引っ越し費用などの「信頼利益(契約を信じたことで発生した損害)」に限られていましたが、新制度では「履行利益(契約どおりに実行されていれば得られたはずの利益)」も含まれます。

たとえば、契約内容通りの物件が引き渡されていれば得られたはずの賃貸収入や、予定していた事業の利益も請求できる可能性があります。

 

2. 不動産事業における契約不適合責任のリスク

契約不適合責任は、売主にとって見過ごせないリスクとなる要素です。

契約通りに物件を引き渡したつもりでも、買主が「契約と異なる」と主張すれば、修理や代金の減額、損害賠償、契約解除を求められる可能性があります。

ここからは、具体的なリスクを紹介します。

2.1 物件に関するトラブルの発生

売主が「問題のない物件」と認識していたとしても、後に建物の基礎のひび割れや雨漏り、設備の故障が発覚すると、契約不適合責任を問われることがあります。

買主からのクレームなどのトラブルが発生すること自体が、事業に悪影響を及ぼします。

2.2 買主からの損害賠償請求

契約と異なる状態の物件を引き渡した場合、買主は損害賠償を請求することが可能です。ただし、そのためには、売主に「故意または過失」があったことが条件となります。

  • 故意の例:売主が物件の欠陥を知りながら、あえて買主に伝えなかったケース
  • 過失の例:売主が注意を払えば発見できたにもかかわらず、見落としてしまったケース

このような場合、売主は次のような損害賠償請求を受ける可能性があります。

  • 雨漏りによる家財の損傷
  • 修理期間中の仮住まい費用
  • 事業用物件の場合には営業損害

2.3 買主からの解除

売主が修理や価格の減額に応じず、契約内容と異なる重大な問題が発生した場合、買主が契約解除を求める可能性があります。

ただし、契約不適合が軽微な場合は、修理や代金減額による対応が優先され、契約解除は認められないこともあります。

2.4 買主からの履行の追完請求

売主が契約内容と異なる物件を引き渡した場合、買主から「契約どおりの状態にするよう」求められるリスクがあります。

具体的には、次のようなケースがあります。

  • 雨漏りがある場合に、屋根の修理を求められる。
  • 床が傾いている場合に、補修工事を求められる。
売主がこうした修理対応を行わない場合、買主から価格の引き下げを要求されるだけでなく、最終的に契約解除を求められる可能性もあります。

2.5 買主からの代金減額請求

売主が修理や補修を行えない、または対応を拒否した場合、買主から代金の減額を求められるリスクがあります。

たとえば、売主が雨漏りの修理に対応せず、買主が自費で修理を行った場合、その修理費用を売買代金から差し引くよう請求される可能性があります。

 

3. 契約不適合が問題となりやすい具体例

ここでは、契約不適合が問題となりやすい典型的なケースを紹介します。

3.1 地中の埋設物の存在

土地の売買契約では、引き渡し後に埋設物(コンクリートガラ、基礎杭、古い配管など)が見つかることがあります。

地中埋設物なしと契約書に記載されているのに、実際には埋設物があった場合、売主の責任が問われることになります。

また、売主は物件の状態を正しく説明する義務があります。埋設物の存在を知りながら買主に伝えなかった場合、契約不適合責任だけでなく、説明義務違反として損害賠償請求を受ける可能性もあります。

仲介業者が同様に埋設物を認識していた場合も、同じように説明義務違反として損害賠償請求を受ける可能性があります。

こうしたトラブルを防ぐために、売主は次のような対応を徹底することが重要です。

  • 契約前に地中探査を行い、埋設物の有無を確認する。
  • 売買契約書に「売主は地中埋設物の有無を保証しない」旨を明記する。
  • 売主が認識している埋設物の情報を、買主に事前に説明する。
  • 「現状有姿(ありのままの状態)での引き渡し」とする特約を設定することで、売主の責任範囲を明確にする。
  • 売買契約書に売主の契約不適合責任を免責する特約を追加する。

3.2 隣地との境界トラブル

売主が隣地との境界を正確に確認しないまま土地を売却すると、買主と隣地所有者の間でトラブルが発生し、最終的に売主が損害賠償を請求される可能性があります。

契約不適合を理由に損害賠償をする責任が発生する可能性があるのは、売主が境界に問題があることを知っていたり、知りえたにもかかわらず、それを買主に告げずに売却した場合です。

トラブルを防ぐためには、売却前に境界を確認し、隣地との問題がないかチェックすることが重要です。

3.3 自殺などの事故物件

事故物件とは、過去に自殺や殺人、火災などの事件・事故が発生した不動産のことを指します。

こうした物件には「心理的瑕疵(しんりてきかし)」があるとされます。心理的瑕疵とは、買主や借主に不安や嫌悪感を抱かせ、通常の取引に支障をきたす欠陥のことです。

たとえば、購入を検討している物件で「過去に殺人事件があった」と知らされると、多くの人は住みたくないと考えるでしょう。

そのため、こうした物件は心理的瑕疵があるとみなされ、売却価格が下がることが一般的です。

売主が事故物件を売却・賃貸する際には、買主に対する「告知義務」が売主や仲介業者に発生する可能性があります。告知義務とは、物件に関する重要な情報を正しく伝える義務のことです。

心理的瑕疵がある物件は、「事前に知っていたら契約しなかった」と考える人が多いため、売主が告知を怠ると、契約解除や損害賠償請求を受ける可能性があります。

こうしたリスクを避けるためには、売主は事前に次のような適切な対応をとることが重要です。

事前に事故物件に該当するか確認する

売却前に聞き取り調査をするなどして、過去の履歴を確認する。

告知義務を適切に果たす

自殺・事件などの事実を知っている場合は、買主に正確に説明する。

契約内容を工夫する

契約書に「現状有姿での引き渡し」や「事故物件であることを考慮した価格設定」を明記する。

価格を適正に設定する

心理的瑕疵があると判断される物件は、市場価格より低くなるため、適正な価格を設定する。

 

4. 契約不適合に対する不動産会社としての対応策

こうした契約不適合に関するトラブルを防ぐには、物件の確認や契約内容の明確化、保証制度の整備といった対応が必要です。

ここでは、契約不適合を避けるための具体的な施策を紹介します。

4.1 物件引き渡し前の事前確認と調査の徹底

契約不適合を防ぐには、物件の引き渡し前に徹底した確認と調査を行うことが大切です。

引き渡し前の最終チェックとして、まずは室内の設備や機能を確認します。電気が正常に点くか、給湯器が問題なく動作するかなど、不動産に欠陥がないかを細かくチェックします。

売主が事前に問題を把握できれば、引き渡し前に修繕対応が可能となり、買主にとっても安心材料となります。

さらに、物件の過去の履歴を調査し、事件や事故の有無を確認することも重要です。

近隣住民や自治体から情報を収集し、事故物件に該当する可能性がある場合は、買主に告知する必要があります。

また、既存住宅の売却では、「ホームインスペクション(住宅診断)」を活用することが有効です。これは、住宅の劣化状況や欠陥の有無を調査し、必要な修繕やメンテナンスの時期、概算費用などをアドバイスする制度です。

ホームインスペクションは、資格がなくても実施可能ですが、診断の信頼性を高めるためには、建築士が追加研修を受けた「既存住宅状況調査技術者」による調査が望ましいとされています。

また、2018年4月1日の宅地建物取引業法改正により、不動産仲介会社には、既存住宅の売買仲介時に「インスペクション(建物状況調査)」の説明義務が課されました。

宅建業者は、希望する売主・買主にこの制度を紹介するだけでなく、必要に応じて適切な資格を持つ専門家をあっせんする義務もあります。

4.2 契約書における契約不適合責任の条項の明確化

契約不適合責任によるトラブルを防ぐためには、売買契約書に取引の詳細や特約、免責事項などを明確に記載することも重要です。

物件の状態や設備の詳細を具体的に記載することで、売買の対象を明確にし、買主との認識のズレを防ぐことができます。

また、契約不適合責任の範囲や期間を契約書に明記することで、万が一の際の対応をスムーズにすることができます。

さらに、次の場合には、特約を設けることで契約不適合責任を免除することも可能です。

  • 売主が宅地建物取引業者ではなく、個人である場合
  • 売主と買主の双方が、宅地建物取引業者である場合

ただし、売主が契約不適合を知っていながら告げなかった場合には、特約が無効になることがあります。また、売主が法人などの事業者で買主が個人である場合は、消費者契約法により特約が無効になることもあります。

4.3 保証期間や保証範囲を定めた取引条件の設定

取引後のトラブルを防ぐためには、契約書に保証範囲や保証期間を明確に定めておくことも重要です。

① 保証範囲を明確にする

まずは、建物のどの部分まで売主が保証するのかを明確に設定しましょう。一般的には、次のような範囲を保証対象とすることが多いです。

  • 建物の主要構造部(基礎・柱・梁・屋根など)
  • 水回り設備(給排水管・トイレ・キッチン・浴室の設備など)
  • 電気設備(配線・分電盤・スイッチ・コンセントなど)
  • ガス設備(給湯器・ガスコンロ・ガス配管など)

一方で、経年劣化や買主の不注意による故障は、保証の対象外とするのが通常です。

② 保証期間を設定する

保証範囲が決まったら、保証期間も具体的に設定しましょう。設定例としては次のようなものがあります。

  • 建物の主要構造部:引き渡し後2年間
  • 設備(給排水・電気・ガスなど):引き渡し後6か月間

また、不具合が見つかった際の買主からの通知期限も設定しておくと、トラブルを最小限に抑えられます。

なお、住宅等の品質確保の促進に関する法律に基づき、新築住宅の売買契約では、引き渡した時から10年間、住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分については責任を負うこととなりますので注意しましょう。

5. 契約不適合責任のトラブルを防ぐための内部体制の整備

契約不適合責任によるトラブルを防ぐためには、社内の体制を整え、統一した対応を徹底することも重要です。

5.1 契約書ひな型の整備

契約書をスムーズに作成し、内容の不備を防ぐためには、あらかじめ「契約書のひな型」を整備しておくことが重要です。

契約書のひな型とは、契約の基本的な枠組みや標準的な条項をまとめたテンプレートのことです。

これを用意しておくことで、契約ごとに必要な修正を加えながらも、基本的な契約条件を整理しやすくなります。また、記載漏れや不明確な条項を防ぎ、契約内容の一貫性を確保することができます。

契約書のひな形の作成には専門的な法律知識が必要であり、条文の解釈を誤ると売主に不利な内容になってしまう可能性があります。

そのため、弁護士に作成を依頼し、適正な内容に整えておくことが望ましいでしょう。また、法律が改正された際には、すぐに契約書のひな型を見直し、最新のルールに対応できるようにすることが必要です。

5.2 社内ルールの策定と従業員教育の実施

社内ルールを策定し、従業員全員が共通の基準で判断できる体制を整えることも忘れずに行いましょう。

次のようなルールを定めることで、対応のバラつきを防ぎ、迅速かつ適切な対応が可能になります。

① 契約不適合が発覚した際の報告フロー

契約不適合発覚時の対応を統一し、円滑に処理するため、次のようなフローを設定しましょう。

買主から連絡
 
担当者が状況確認
 
管理部門・法務部門へ報告
 
対応方針を決定(修理・減額・解除など)
 
責任者が承認し、買主へ回答
 
対応結果を記録・社内共有

② 責任範囲の判断基準

次の基準で契約不適合に該当するか判断すると、対応がスムーズになります。

  • 契約書に記載があるか(例:保証対象は建物の主要構造部、水回り・電気設備など)
  • 事前に説明・告知していたか(例:設備の劣化を事前に説明し、買主が了承していれば責任なし)
  • 買主の使用方法に問題はないか(例:通常の使用ではなく、不適切な扱いでの破損は対象外)

③ 交渉や対応方法の標準化

万が一契約不適合が認められた場合、次のように対応方針を統一することでトラブルを最小限にできます。

  • 修理可能な場合:売主が修理手配(例:設備の不具合は業者手配で修理)
  • 修理が困難な場合:減額対応(例:修繕見積もりをもとに減額)
  • 契約解除の判断:重大な欠陥で契約の目的が果たせない場合に限る(例:基礎の大規模欠陥で居住不可能)

これらのルールを策定する際には、弁護士に相談すると安心です。法律に沿った適切な基準を作ることで、不動産会社にとって不利にならないよう対策できます。

また、従業員が契約不適合について正しく理解し、適切に対応できるよう、定期的な研修を行うことも有効です。

弁護士によるセミナーや研修を活用すれば、最新の法律知識を学び、実務に必要な対応力を強化できます。

5.3 物件引き渡しの際のチェックリストの活用

物件引き渡し時は、チェックリストを活用し、状態を確認するルールを設けると安心です。標準化されたリストを使えば、担当者ごとの差をなくし、不備の見落としを防ぐことができます。

たとえば、次のような項目をリスト化しておくとよいでしょう。

  1. 設備(給排水、電気、ガスなど)の動作確認
  2. 壁や床のキズ、ひび割れの有無
  3. ドアや窓の開閉の確認
  4. 付帯設備(エアコン、照明など)の状態

買主と共に物件の状態を確認し、チェックリストに記録・共有することで、認識の相違を防ぎ、トラブルを未然に防ぐことができます。

また、リストは適切に保管し、万が一問題が生じた際の証拠として活用できるようにしましょう。

6. まとめ:不動産事業における契約不適合は弁護士に相談

契約不適合によるトラブルは、売主・買主の双方にとって避けたいものです。契約の内容が不明確だったり、事前の確認が不十分だったりすると、予期せぬトラブルに発展することがあります。

不動産事業者として適切な対応をとることで、リスクを軽減し、スムーズな取引を実現できます。

とはいえ、契約不適合に関する問題は法律の専門知識を要するケースが多く、独自の対応では限界があることも事実です。

弁護士が関与することで、契約書の作成・見直し、リスク回避のための社内ルール整備、トラブル発生時の対応まで、的確かつ迅速なサポートを受けることができます。

よつば総合法律事務所では、多くの不動産会社と顧問契約を結び、契約不適合責任に関する法的サポートを提供しています。

また、宅地建物取引士の資格を持つ弁護士も多数在籍しているため、不動産実務に精通したアドバイスが可能です。

契約不適合のリスクを減らし、安全な不動産取引を実現するために、ぜひ一度、よつば総合法律事務所にご相談ください。

監修者:弁護士 加藤貴紀

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