工場やガソリンスタンドの跡地など、事業用の土地を売買する際には、目に見えない「土壌汚染」というリスクが潜んでいる可能性があります。

土壌汚染が後から発覚すると、高額な浄化費用がかかったり、土地の価値が大きく下がったりするだけでなく、法律に基づいた責任を問われることもあります。

特に、不動産取引においては、売主が「契約不適合責任」という法的な責任を負う可能性があり、買主との間で深刻なトラブルに発展しかねません。

この記事では、土壌汚染に関する基本的な知識から、不動産取引に大きな影響を与える「土壌汚染対策法」の概要、そして売主と買主がそれぞれ直面する法的リスクと、それを回避するための具体的な対策について解説します。

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1. 土壌汚染とは何か

まず、土壌汚染の基本的な知識と、どのような物質が問題となるのかを解説します。

1.1 土壌汚染・地下水汚染の基礎知識

土壌汚染とは、土地の土や地下水が、人の健康に有害な物質によって汚染されている状態を指します。これは、工場の操業などによって生じるものだけでなく、自然界にもともと存在する物質や、埋め立てに使われた土砂が原因で発生することもあります。

土壌汚染による健康へのリスクは、主に2つの経路があると考えられています。一つは地下水等経由の摂取リスクで、汚染された土壌から有害物質が地下水に溶け出し、その水を飲むことで健康に影響が出るものです。

もう一つは直接摂取リスクで、汚染された土壌を直接口にしたり、触れたりすることで健康に影響を及ぼすとされています。

また、土壌汚染は、問題が発覚するまで地中に存在し続けるため、「ストック型公害」と呼ばれることもあります。

1.2 問題となる主な有害物質

土壌汚染対策法では、土壌に含まれることで人の健康に被害を及ぼすおそれがある物質を「特定有害物質」として定めています。

これには、鉛、砒素(ひそ)、トリクロロエチレンといった化学物質が含まれます。これらの物質が、法律で定められた基準値を超えて土壌に含まれている場合に、法的な規制の対象となるのです。

2. 土壌汚染対策法の概要

土壌汚染に関するルールを定めた最も重要な法律が「土壌汚染対策法」です。ここでは、その目的や調査が義務付けられるケース、土地所有者の責任について解説します。

2.1 土壌汚染対策法の目的

土壌汚染対策法の目的は、土壌汚染の状況を把握し、その汚染による人の健康被害を防止するための対策を実施することで、国民の健康を保護することにあります。

この法律は、不動産取引の円滑化を直接の目的とするものではなく、あくまで人の健康を守ることを第一に考えているのです。

2.2 調査命令が出されるケース

土地の売買を行うこと自体で、土壌汚染対策法に基づく調査義務が自動的に発生するわけではありません。しかし、次の3つのケースに該当する場合、都道府県知事から土地の所有者などに対して、土壌汚染の状況を調査し報告するよう命令が出されることがあります。

一つ目は、有害物質使用特定施設の使用を廃止したときです。特定の有害物質を扱っていた工場を閉鎖して土地を売却するような場合では、売買の前に調査義務が発生することがあります。

二つ目は、一定規模以上の土地の形質変更を行うときです。原則として3000㎡以上の土地で掘削などの形状変更を行う場合、知事が汚染のおそれがあると認めると調査命令が出されます。なお、現に有害物質使用特定施設が設置されている工場敷地では、より小規模な900㎡以上の変更でも調査対象となります。

三つ目は、土壌汚染により健康被害が生じるおそれがあると知事が認めるときです。土地から有害物質が流出して地下水を通じて川を汚染しているような場合など、具体的な健康被害のリスクがあると判断された場合に調査が命じられます。

2.3 土地所有者の義務と責任

土壌汚染調査を実施した結果、法律の基準を超える汚染が見つかった場合、土地所有者にはどのような義務が生じるのでしょうか。

汚染が確認された土地は、健康被害のリスクに応じて、都道府県知事によって次のいずれかの区域に指定される確率が高いです。

① 要措置区域

汚染があり、人の健康被害が生じるおそれがある土地です。

土地の所有者は、原則として汚染の除去や封じ込めなどの措置を講じる義務を負います。汚染の除去等の措置が完了するまで、原則として土地の形質変更(掘削など)が禁止されます。

② 形質変更時要届出区域

汚染はあるものの、人の健康被害が生じるおそれがない土地です。

土地の所有者が直ちに汚染除去等の措置を講じる義務はありません。ただし、土地の形質変更を行う際には、事前に都道府県知事への届出が必要です。

これらの区域に指定されると、その情報は台帳に記録され、誰でも閲覧できるようになります。また、調査命令や措置命令に従わない場合は、罰則(1年以下の懲役または100万円以下の罰金など)が科される可能性があります。

3. 土地を保有している場合の法的リスク

土地を保有しているだけで、思わぬ法的リスクに直面することがあります。

3.1 調査義務と費用負担

土壌汚染対策法に基づく調査命令は、原則としてその土地の所有者、管理者または占有者に対して出されます。つまり、自分が汚染の原因者でなくても、土地を保有しているというだけで、調査義務を負う可能性があります。

土壌汚染の調査や、その後の汚染除去措置には、しばしば多額の費用がかかります。この費用も、原則として措置を命じられた土地の所有者等が負担しなければなりません。過去の所有者や近隣からの「もらい汚染」であっても、まず現在の所有者等が法的な責任を負う立場にあるという点が、大きなリスクです。

3.2 汚染原因者への求償の可否

土地の保有者が、自らが原因ではない汚染の対策費用を負担した場合、その費用を真の汚染原因者に対して請求(求償)できます。

また、汚染原因者が明確で、その者に措置を講じさせることが妥当だと知事が認める場合には、土地保有者の同意のもとで、知事が直接汚染原因者に措置を指示することもあります。

ただし、実際に求償を行うには、誰が汚染の原因者であるかを特定し、それを法的に証明しなければなりません。これは必ずしも容易ではなく、時間と労力がかかる場合があります。

4. 土壌汚染がある土地の売買リスク

土壌汚染は、不動産売買の場面で特に大きな問題となります。売主と買主、それぞれの立場からリスクを見ていきましょう。

4.1 売主が負う契約不適合責任

売却した土地に後から土壌汚染が見つかった場合、売主は買主に対して「契約不適合責任」を負う可能性があります。これは、売買契約の目的物が、契約内容に適合しない場合に売主が負う責任のことです。

契約書に土壌汚染に関する特別な取り決めが記載されていれば、その内容に従って責任の有無が判断されます。

一方、契約書に特別な取り決めがない場合、一般的には「土壌汚染対策法の基準に適合した、通常通り使用できる土地」であることが契約内容として予定されていたと解釈されることが多いです。

そのため、基準を超える汚染の存在は契約内容に適合しないものと判断され、買主から損害賠償請求や契約解除を求められるリスクがあるのです。

4.2 買主が注意すべきポイント

買主にとって最も注意すべき点は、土地の売買では法律上、売主に具体的な実際の土壌汚染調査義務が課されないということです。そのため、自主的に調査をしない限り、汚染の有無が不明なまま取引が進んでしまう可能性があります。

土壌汚染の有無は、土地の価格や利用計画に重大な影響を及ぼします。そのため、取引の安全性や土地の適正な価値を判断するために、買主が自ら費用を負担してでも、契約前に自主的な土壌汚染調査を行うこともあります。

調査は通常、①地歴調査、②概況調査、③詳細調査という段階を踏んで行われます。地歴調査では過去の土地利用履歴や古地図、登記簿などから汚染の可能性を評価します。汚染の可能性が高いと判断された場合に実際に土壌を採取して分析する概況調査を行い、汚染が確認された場合には汚染の範囲や深度を特定するための詳細調査を実施します。

もし、契約時に汚染の存在を知りながらその土地を購入した場合、後から売主に対して契約不適合責任を追及することはできなくなるため、事前の確認が極めて重要です。

5. 不動産売買契約でのトラブル回避策

土壌汚染をめぐるトラブルを未然に防ぐためには、契約前の確認と契約書への適切な条項の記載が不可欠です。

5.1 売買前に確認すべき事項

不動産売買契約を締結する前に、売主・買主双方が次の点を確認することが重要です。

① 土地の利用履歴の確認

過去に工場、ガソリンスタンド、クリーニング店など、特定有害物質を使用していた可能性のある施設がなかったかを確認します。

② 土壌汚染調査の実施

地歴調査を行い、汚染の可能性があれば、より詳細な調査の実施を検討します。これは、土地のリスクを明確にし、その価値を正しく評価するために行われます。

③ 公的資料の確認

対象地が「要措置区域」や「形質変更時要届出区域」に指定されていないか、都道府県の担当部署で台帳を閲覧して確認します。

これらの区域に該当する場合、宅地建物取引業者は重要事項として説明する義務があります。

5.2 契約書に定めるべき条項

トラブルを避けるためには、土壌汚染に関する取り扱いを契約書に明確に定めておくことが重要です。

土壌の品質に関する合意として、「土壌汚染対策法の基準に適合していること」など、当事者が想定する土地の品質を明記することで、契約不適合の判断基準が明確になります。

また、契約不適合責任の取り扱いについて、民法の原則とは異なる合意をすることも可能です。たとえば、過去の土地の利用履歴を全て開示したうえで売主の契約不適合責任を一切免除する免責特約や、損害賠償額の上限を設定する条項などが考えられます。

単に「土壌汚染の有無は不明」と記載するだけでは、売主のリスクヘッジとしては不十分な場合があります。どのような品質の土地を売買するのか、そして問題が発見された場合に誰がどのように責任を負うのかを、当事者間で十分に協議し、契約書に具体的に落とし込んでおきましょう。

6. 土壌汚染問題は弁護士への早期相談が重要

土壌汚染問題では、土壌汚染対策法や民法などの法律が複雑に絡み合います。そのため、適切な対応には専門的な知識が不可欠です。

トラブルが発生してからでは、解決に多大な時間と費用を要することになります。

土地の売買を検討する段階で、少しでも土壌汚染の懸念がある場合は、できるだけ早いタイミングで企業法務や不動産問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

7. まとめ:土壌汚染リスクを正しく理解し安全な不動産取引を

土壌汚染は、不動産取引における重大な法的リスクです。土地の保有者は、自らが汚染の原因でなくても、土壌汚染対策法に基づき調査や浄化の義務を負う可能性があります。

また、売買においては、売主が契約不適合責任を問われ、買主との間で深刻な紛争に発展することもあります。

こうしたリスクを回避するためには、法律の規定を正しく理解し、契約前の十分な調査と、契約書における明確な取り決めが不可欠です。安全で公正な不動産取引を実現するために、専門家である弁護士のサポートを積極的に活用することをおすすめします。

監修者:弁護士 加藤貴紀

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