社員のそのような行動に対して、日頃会社がどのような対応をしているかが後々問題になることがあります。そのひとつの例としては、問題行動に対して、適切に注意・指導等をしてきているかという視点が重要です。
1. 解雇のハードルは想像以上に高い
こういったご相談も非常に多く寄せられますが、なかなか一筋縄ではいかない問題です。このようなご相談の場合、「とにかくもう解雇したい。何とかしてくれ。」というお話であったり、「もう解雇してしまった。そしたら弁護士から解雇撤回しろと通知が来た。
「どうしたらよいか。」といったご相談内容であることが多い印象です(顧問の会社様の場合には、このような段階に行かれる前の初期のところご相談を受けることも多いです。)。
勤務態度の不良や能力不足に対する解雇のハードルは、一般的に高く設定されています。そのため、裁判で従業員側から解雇の有効性を争われてしまうと、そのまま判決で有効を勝ち取るのは簡単ではありません(なお、一定の能力を前提に中途採用された高待遇社員など、上記原則ルールには必ずしも当てらないケースもあります)。
2. 日頃の注意・指導が重要
解雇の有効性について従業員側に争われ、それが裁判などに至って長期化した場合、その解雇が万が一無効と判断されれば、最終的に極めて高額の金銭を支払うことになる可能性があります。そのため、解雇という手段をとるかどうかについては、慎重な判断が必要であり、弁護士としても無闇やたらにお勧めはできません。
「解雇」という最後の手段を検討するには、それまでの注意・指導等の積み重ねが非常に重要になってきます(そのような積み重ねは、従業員に十分な改善のチャンスが与えられていたことも意味します)。
その従業員の実際の問題行動の内容や程度に関する証拠、それに対して会社側が注意・指導を積み重ねてきた証拠などが、きちんと揃っているかが重要です。
ところが、上記のようにいきなり「すぐ解雇したい」とご相談に来られる場合、そもそもそういった積み重ねの必要性を認識していなかったり、通常業務で忙しくてそこまで気が回らなかったり、我々のところに相談に来たのが我慢の限界でそれまでは一生懸命我慢していたりと、往々にしてこの部分の記録等が不十分なことがあります。
このような場合に解雇を強行してしまえば、訴訟を起こされても会社側の主張を説得的に証明できず、結局その従業員が職場復帰することになったり、裁判所から多額の金銭の支払いを求められることになりかねません。
なお、このような積み重ねの証拠は、必ずしも解雇の場面のみに生きるものではありません。例えば、合意退職の可能性を探る従業員との話し合いの場でも、その場で取り繕った理由を言うのではなく、このようなに積み重ねてきた事実を根拠に丁寧に話し合った方が納得してもらいやすいと思われます。
3. どう対応するか
上記のような困った事態に陥らないためには、まずその従業員に求める能力をきちんと設定し、それに満たない業績やミスの記録をきちんととっておくことです。出来る限り、第三者からのクレームであったり、数字で客観的に証明できるものを重視して集めると良いと思います。
また、業務上の指示に従わなかったり、ミスを繰り返す場合には指導が必要ですが、その指導についても「日時」「場所」「内容」「相手の反応」等を極力記録化しておくことが重要だと思います。
どのような証拠をどのように残すかについては、個別のケースによって異なるため、なかなか一律にお話しづらいところですが、最悪の場合の裁判を見据えて証拠づくりを検討することが必要ですので、悩まれるようであれば、業務として裁判を取り扱う弁護士が相談相手としては適切かもしれません。
一度そういったことでご相談に行かれれば、今後同様の問題が起きた場合に弁護士の関与なくとも対応できるようになることもあると思います。