第1 時間外労働に対して、定額手当を支給するとしていた場合
使用者が手当を支給していた場合、手当が割増賃金に該当するとして、算定の基礎から除外した上で、固定残業代として支払済みと考えることはできるのでしょうか。
各種手当を割増賃金として認めた裁判例としては、「運行手当」について、仕事の性質上深夜労働をせざるを得ない路線乗務員に限って支払われている点や、就業規則において深夜勤務時間に対する割増賃金であることを明示している点等から、割増賃金と認めたものがあります。
各種手当を割増賃金として認めなかった裁判例としては、「管理職手当」について、趣旨が不明確であり、時間外労働に対応したものともいえず、時間外労働、深夜労働、休日労働を補てんするものではないとしたものがあります。
裁判例は、各手当の実質について、支給の経緯や実態、就業規則の定め方、給与明細上の記載等を総合的に判断しています。
基本給とは別に支払われるその手当を割増賃金の支払いに代えて支払うという趣旨を明確にしておく必要があるといえます(なお、近時の裁判例の傾向に照らすと、このような支払方法をとる場合の制度設計については特に慎重な検討が必要です。具体的なケースでご相談がある場合には弁護士等の専門家へ必ずご相談ください。)。
第2 割増賃金を基本給に組み込んで支給するとしていた場合
使用者が、割増賃金を基本給に組み込んで支給していたと主張して、割増賃金を支払い済みと考えることはできるのでしょうか。
色々と見解が分かれている部分ではありますが、裁判例では、①基本給のうち割増賃金にあたる部分が明確に区別され、②労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときは、その差額を当該月の割増賃金の支払期に支払うことが合意されている場合について、割増賃金を基本給に組み込んで支給することも可能としたものがあります(なお、近時の裁判例の傾向に照らすと、このような支払方法をとる場合の制度設計については特に慎重な検討が必要です。具体的なケースでご相談がある場合には弁護士等の専門家へ必ずご相談ください。)。
第3 年俸賃金に割増賃金が含まれているとしていた場合
使用者が、割増賃金を年俸賃金に組み込んで支給していたと主張して、割増賃金を支払済みと考えることはできるのでしょうか。
年俸制が一般の労働者に適用された場合、成果主義的賃金制度ではなく、単に一年を単位として労働の対価を決定する制度にすぎないといえます。賃金の額を年単位で決定するものにすぎないとすれば、年俸制というだけで、割増賃金が含まれると含まれていると解することはできません。
裁判例においても、割増賃金を含めて年俸を定めた事例について、割増賃金と基本給部分を区別して確定できないことから無効とされ、割増賃金の支払いが命じられたものがあります。第4 管理監督者に該当するため、労働時間に関する規制が適用されないとの主張使用者が、労働者が管理監督者に該当すると主張して、割増賃金は発生していないと考えることはできるのでしょうか。
労働者が管理監督者に該当する場合、労働基準法上の労働時間・休憩・休日に関する規定は適用されません(労基法41条2号)。すると、割増賃金が発生しなくなります(※深夜労働に関する割増賃金は発生します)。そのため、管理監督者に該当するかが争われることとなります。
そもそも管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある者を指し、名称にとらわれず実態に即して判断されます。
- 事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限が認められていること
- 自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
- 一般の従業員に比し、その地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていることが、それぞれ過去の判例上で必要とされています。
よって、採用や解雇の権限を持っているか、人事考課の権限を持っているか、労働時間に関する裁量が認められているか、基本給・役職手当等の優遇措置が認められているか等について、詳細に検討する必要があります。