取締役という立場には、重大な意思決定を行うべき職務とともに、会社に損害を与えた場合の高額な損害賠償責任がついて回ります。そして、損害賠償のリスクが重すぎると、優秀な人材を遠ざける原因のひとつになったり、取締役の意思決定に萎縮効果を生じさせたりすることになりかねません。

そこで会社法では、一定の条件のもとで取締役の責任を制限・免除する4つの制度を用意しています。

本記事では、「総株主の同意」「株主総会の特別決議」「取締役会決議」「責任限定契約」の4つの方法について、導入の要件や手続き、具体的な効果まで、弁護士がわかりやすく解説します。

D&O保険との違いにも触れながら、取締役の責任リスクにどう備えるべきかご紹介します。

お問い合わせはこちら

1. なぜ役員の責任を制限する必要があるのか?

取締役の責任を制限する制度は、取締役が安心してその能力を発揮できる環境を整え、会社の持続的な成長を支えるために必要です。ここでは、その背景にある取締役の責任と、責任制限の重要性について解説します。

1.1 取締役が負う「任務懈怠責任」とは?(会社法423条)

取締役は、会社に対して「任務懈怠責任」を負います(会社法423条1項)。

これは、取締役がその任務を怠ったことによって会社に損害が生じた場合に、その損害を賠償する責任のことです。たとえば、不適切な投資判断で会社に損失を与えたり、法令違反を見過ごしたりした場合などがこれにあたります。

この責任は、取締役に故意(わざと)や過失(ミス)があった場合に発生します。

いわゆる「経営判断の原則」により、取締役が職務を適正に実施することで救済される余地はありますが、会社の規模や事案によっては、任務懈怠責任が問題となった場合の賠償額が非常に高額になることもあり、取締役個人にとって大きなリスクといえるでしょう。

1.2 責任制限で人材を確保する

取締役の損害賠償責任が重すぎると、次のような問題が生じる可能性があります。

経営の萎縮

取締役が失敗を恐れてリスクを取ることを避け、適切な経営判断ができなくなる可能性があります。

人材確保の困難

特に、専門的な知識や経験を持つ社外取締役など、優秀な人材が巨額の賠償リスクを懸念して役員への就任をためらうことがあります。

こうした事態を避けるため、会社法では、取締役が誠実に職務を遂行していれば、その責任を一定の範囲で免除・制限できる仕組みを設けています。これにより、取締役が適切なリスクテイクを行い、企業価値の向上に貢献できる環境を整えることが、責任制限制度の重要な目的です。

2. 役員の責任を制限・免除する4つの方法

会社法は、取締役の任務懈怠責任を制限・免除する方法として、次の4つの制度を定めています。それぞれの方法によって、免除される範囲や必要な手続きが異なります。

2.1 方法①:総株主の同意による責任の「全額免除」(会社法424条)

取締役の会社に対する責任は、原則として総株主の同意があれば、その全額を免除することができます(会社法424条)。

この方法は、任務懈怠責任(会社法423条1項)が対象となります。ただし、分配可能額を超えて剰余金の配当等を行った役員の責任(会社法462条1項)については、免除できる金額の上限が分配可能額までとされています。

しかし、不特定多数の株主が存在する上場会社などでは、全株主から同意を得ることは現実的に極めて困難であるため、この方法が利用されるのは、株主が少数に限られる非公開会社などが中心となります。

2.2 方法②:株主総会の特別決議による責任の「一部免除」(会社法425条)

取締役が職務を行うにつき善意(任務懈怠の事実の認識がない)で、かつ重大な過失がない場合に限り、株主総会の特別決議によって責任の一部を免除することができます(会社法425条)。

特別決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。

この方法で免除できるのは、会社法で定められた「最低責任限度額」を超える部分に限られます。最低責任限度額は、取締役の1年あたりの報酬等の額に基づいて算定される金額と取締役が有利な条件で引き受けた会社の新株予約権に関する財産上の利益に相当する額を合計した額により算出されます。このうち、報酬等に基づく金額は役員の区分に応じて次のように算出されます。

  • 代表取締役:報酬等の年額の6年分
  • 業務執行取締役:報酬等の年額の4年分
  • 非業務執行取締役、会計参与、監査役、会計監査人:報酬等の年額の2年分

手続きの公正性を担保するため、この免除議案を株主総会に提出する際には、監査役(または監査等委員、監査委員)の同意が必要であり、株主総会では株主が判断するための情報(責任の原因となった事実や賠償責任額など)を開示しなければなりません。

なお、この一部免除の規定は、取締役が自己のために会社と利益相反取引(直接取引)を行った場合の責任には適用されません。また、責任が確定した後に事後的に免除を求める手続きであるため、利用される場面は限定的であると思われます。

2.3 方法③:取締役会決議による責任の「一部免除」(会社法426条)

監査役設置会社(取締役が2名以上いる場合に限る)、または監査等委員会設置会社は、あらかじめ定款で定めることにより、取締役会の決議(取締役会非設置会社にあっては取締役の過半数の同意)によって責任の一部を免除することができます(会社法426条)。なお、この定款の定めは登記事項となります。

この方法も、取締役が善意・無重過失であることが前提となり、免除される範囲は株主総会の特別決議による責任の「一部免除」(方法②)と同様に「最低責任限度額」を超える部分に限られます。

この手続きにおいても、株主総会決議による免除と同様に監査役等の同意が必要とされるほか、株主が異議を述べることができる手続きも定められています。

なお、これも事後的な免除手続きであるため、実際に利用される場面は限定的と思われます。

2.4 方法④:非業務執行取締役等との「責任限定契約」(会社法427条)

社外取締役や、業務執行に関与しない取締役、会計参与、監査役、会計監査人は、あらかじめ定款で定めることにより、会社との間で「責任限定契約」を締結することができます。この定款の定めも登記事項です(会社法427条)。

この契約を締結しておけば、対象となる役員が職務を行うにつき善意・無重過失であった場合、その賠償責任は、以下のいずれか高い方の金額を上限とすることができます。

1. あらかじめ契約および定款で定めた金額

2. 法律で定められた最低責任限度額

次の役員は、最低責任限度額が「報酬等の2年分」とされます。

  • 取締役(業務執行取締役等を除く)
  • 会計参与
  • 監査役
  • 会計監査人

この方法は、責任が発生した後に免除の可否を判断する他の方法と異なり、役員就任時にあらかじめ責任の上限額を確定できるという大きな利点があります。

これにより、社外取締役など優秀な人材が賠償責任への不安なく職務に就くことが可能となるため、実務上、有効活用されています。

3. 【方法別】責任制限の導入に向けた具体的な手続きの流れと要件・効果

ここでは、4つの責任制限・免除制度について、それぞれの具体的な手続きや要件、効果を詳しく見ていきましょう。

3.1 方法① 総株主の同意による場合

株主の同意による場合の手続きや要件、効果は次のとおりです。

3.1.1 手続きの流れ

単に損益計算書が承認されただけでは、責任免除の同意があったとはみなされず、同意書の作成と提出を求めるのが一般的とされています。

同意書では、同意の対象となる取締役と免除する責任の内容を特定する必要があります。

3.1.2 要件

  • 総株主の同意があること。

3.1.3 効果

取締役の会社に対する損害賠償義務が消滅します。

3.2 方法② 株主総会特別決議による一部免除の場合

株主総会特別決議による一部免除の場合の手続きや要件、効果は次のとおりです。

3.2.1 手続きの流れ

STEP1:監査役等の同意

責任免除に関する議案を株主総会に提出するには、監査役設置会社では監査役全員、監査等委員会設置会社では監査等委員全員の同意を得る必要があります。

STEP2:株主総会での開示

株主総会において、取締役は次の事項を開示しなければなりません。

  • 責任の原因となった事実および賠償の責任を負う額
  • 免除することができる額の限度およびその算定の根拠
  • 責任を免除すべき理由および免除額
STEP3:特別決議

株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)による承認を得ます。

なお、免除する責任が多重代表訴訟の対象となる特定責任である場合、自社の株主総会特別決議に加えて、最終完全親会社等の株主総会特別決議も必要となります。

3.2.2 要件

  • 役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないこと。
  • 株主総会の特別決議による承認があること。
  • 議案提出にあたり、各監査役等の同意を得ていること。

3.2.3 効果

役員等の会社に対する責任が一部免除されます。

賠償責任は、会社法で定められた最低責任限度額までとなります。最低責任限度額は、取締役の1年あたりの報酬等の額に基づいて算定される金額と取締役が有利な条件で引き受けた会社の新株予約権に関する財産上の利益に相当する額を合計した額により算出されます。

このうち、報酬等に基づく金額は役員の区分に応じて次のように算出されます。

  • 代表取締役:報酬の6年分
  • 代表取締役以外の業務執行取締役等:報酬の4年分
  • 上記以外の取締役、会計参与、監査役、会計監査人:報酬の2年分

3.3 方法③ 取締役会決議による一部免除の場合

取締役会決議による一部免除の場合の手続きや要件、効果は次のとおりです。

3.3.1 手続きの流れ

STEP1:定款変更

事前に、取締役会決議による責任免除を可能とする旨の定款の定めを設ける必要があります。この定款変更議案を株主総会に提出するには各監査役等の同意が必要であり、株主総会の特別決議による承認を受けます。

STEP2:取締役会での決議

責任原因事実が発生した後、責任免除の議案を取締役会に提出します。この議案提出には、各監査役等の同意が必要です。その後、取締役会の決議により責任を一部免除します(取締役会非設置会社の場合は取締役の過半数の同意)。

STEP3:株主への公告・通知

取締役会決議後、遅滞なく次の事項を公告または株主に通知し、1か月以上の異議申述期間を設けます。

  • 責任の原因となった事実および賠償責任額
  • 免除できる額の限度およびその算定の根拠
  • 責任を免除すべき理由および免除額
  • 異議があれば一定期間内に述べるべき旨

非公開会社の場合には、公告は認められず、必ず株主に通知する必要があります。

STEP4:株主の異議

総株主の議決権の3%以上(定款で引き下げ可能)を有する株主が期間内に異議を述べた場合、この方法による責任免除はできなくなります。

3.3.2 要件

  • 定款に、取締役会決議によって責任を一部免除できる旨の定めがあること。
  • 取締役が2名以上かつ監査役等が設置されている会社であること
  • 役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないこと。
  • 責任の原因となった事実の内容や職務執行状況などを勘案して特に必要があると認められること。
  • 取締役会の決議(または取締役の過半数の同意)があること(ただし、当該責任を負う取締役は除外)。
  • 総株主の議決権の3%以上を有する株主からの異議がないこと。

3.3.3 効果

役員等の責任が、最低責任限度額を超える部分について一部免除されます。この最低責任限度額は、株主総会決議による免除の場合(方法②)と同額です。

免除が実施された後、対象役員等への退職慰労金の支給などには、株主総会の承認が要求される場合があります。

3.4 方法④ 責任限定契約による場合

責任限定契約は、社外取締役、業務執行に関与しない取締役、監査役など、会社の業務執行に直接関与しない「非業務執行取締役等」を対象として、事前に会社との間で契約を締結することにより、損害賠償責任額に上限を設ける制度です。

他の免除制度が問題発生後に事後的に責任を免除するものであるのに対し、この方法は役員就任時にあらかじめ責任の限度額を確定できるため、役員となる人材の不安を軽減し、優秀な人材を確保する上で有効な手段とされています。

3.4.1 手続きの流れ

STEP1:定款変更

まず、定款に「非業務執行取締役等と責任限定契約を締結することができる」旨の定めを設ける必要があります。この定めは登記事項となります。

この定款変更議案を株主総会に提出するにあたっては、監査役設置会社や監査等委員会設置会社などでは、監査役または監査等委員の全員の同意が必要です。これは、取締役間での安易な責任免除(馴れ合い)を防ぐためです。

STEP2:登記

定款に責任限定契約に関する定めを設けた場合、その旨を法務局で登記しなければなりません。

STEP3:責任限定契約の締結

定款の定めを設けただけでは責任は限定されません。会社と対象となる役員との間で、個別に責任限定契約を締結する必要があります。

この契約締結は会社の重要な業務執行にあたるため、取締役会の承認等を得て、代表取締役との間で締結するのが一般的です。

STEP4:損害発生後の株主総会での開示

責任限定契約を締結した役員等の任務懈怠によって会社が損害を受けたことを知った場合、会社は、その後最初に開催される株主総会において、次の事項などを開示しなければなりません。これは、株主による事後的なチェックを可能にするためです。

  • 責任の原因となった事実および賠償責任額
  • 免除できる額の限度とその算定根拠
  • 責任限定契約の内容およびその契約を締結した理由
  • 責任限定契約によって役員等が賠償責任を負わないとされた額

3.4.2 要件

責任限定契約が有効となるためには、次の要件を満たす必要があります。

対象者

契約を締結できるのは、次の「非業務執行取締役等」に限られます。

  • 取締役(業務執行取締役等を除く)
  • 会計参与
  • 監査役
  • 会計監査人
役員等の善意・無重過失

責任が限定されるのは、当該役員等が職務を行うにつき善意(任務懈怠の事実を認識していない)であり、かつ重大な過失がない場合に限られます。故意や重過失があった場合には、契約を締結していても責任は限定されません。

対象となる責任

限定される責任は、会社に対する任務懈怠責任(会社法423条1項)のみです。第三者に対する責任(会社法429条)などには、この契約の効力は及びません。

3.4.3 効果

契約の要件を満たす場合、役員の賠償責任額は、以下のいずれか高い方の金額を上限とします。

  • 定款で定めた範囲内で、あらかじめ会社と役員との間の契約で定めた金額
  • 法令で定められた「最低責任限度額」

なお、非業務執行取締役等における最低責任限度額は、その役員の「報酬等の額の2年分」に相当する金額です。

4. 役員賠償責任保険(D&O保険)で備える方法

これまで解説した会社法の制度とは別に、保険によって役員の賠償リスクに備える方法として、役員賠償責任保険(D&O保険)があります。

4.1 D&O保険(会社役員賠償責任保険)とは

D&O保険(会社役員賠償責任保険)とは、会社を保険契約者、役員を被保険者として締結される保険契約です。役員がその職務の執行に関して損害賠償請求をされたことにより被る損害(損害賠償金や争訟費用など)を保険会社が補填します。保険料は原則として会社が負担します。

この保険により、損害賠償責任を過度に恐れて萎縮することなく職務執行ができる環境が整い、役員は安心して会社経営に打ち込めるようになります。

会社法では、D&O保険は「役員等賠償責任保険契約」と定義されています。具体的には、株式会社が保険者との間で締結する保険契約のうち、以下の①および②に該当し、③に該当しないものとされています(会社法430条の3第1項)。

① 役員等(取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人)がその職務の執行に関し責任を負うこと、または当該責任の追及に係る請求を受けることによって生じうる損害を保険者が補填することを約するもの

② 役員等を被保険者とするもの

③ 当該保険契約を締結することにより被保険者である役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして法務省令で定めるもの

上記③の法務省令(会社法施行規則115条の2)では、役員等賠償責任保険契約から除外される保険として、株式会社の損害を補填することが主たる目的であるもの(生産物賠償責任保険(PL保険)や企業総合賠償責任保険(CGL保険)など)や、役員等の職務上の義務違反以外の損害を補填することを目的とするもの(自動車賠償責任保険など)が定められています。

なお、役員等賠償責任保険契約の内容を決定するためには、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)の決議が必要となります(会社法430条の3第1項)。

4.2 D&O保険でカバーされる主な範囲

保険契約内容によって詳細は異なりますが、D&O保険で補償される主な損害は、役員が法律上の損害賠償責任を負うことによって被る損害賠償金と、訴訟に対応するための弁護士費用などの争訟費用です。株主代表訴訟だけでなく、第三者からの損害賠償請求など、役員の業務として行った行為に起因する損害賠償請求が広く対象となりえます。

D&O保険は役員のすべての責任をカバーするものではなく、通常、保険金が支払われない免責事由が定められています。日本の標準的なD&O保険では、たとえば、以下のような悪質な行為は免責の対象となります。

  • 役員の故意により生じた責任
  • 犯罪行為
  • 法令違反を認識しながら行った行為

また、保険契約には保険金の支払限度額や、被保険者が自己負担する免責金額などが設定されているため、契約内容を十分に確認する必要があります。

5. まとめ:取締役の責任制限の方法で悩まれた場合は弁護士にご相談を

取締役の任務懈怠責任は、会社の経営を担う上で避けられないリスクですが、会社法にはその責任を適切に制限するための制度が用意されています。

  • 総株主の同意:全額免除が可能ですが、株主の数によって実現は困難。
  • 株主総会や取締役会の決議:善意・無重過失の場合に、事後的に責任を一部免除。
  • 責任限定契約:非業務執行取締役等を対象に、事前に責任の上限を確定できるため、実用性が高い。
  • D&O保険:損害賠償金や訴訟費用をカバーし、経済的負担を軽減する。

これらの制度を導入するには、定款変更や登記、株主総会決議など、専門的な手続きが必要です。どの方法が自社にとって最適か、また、具体的な手続きをどのように進めればよいかなど、取締役の責任制限に関してご不明な点があれば、企業法務に詳しい弁護士にご相談ください。

監修者:弁護士 三井伸容

関連記事