注意点はいくつかありますが、不当労働行為と主張されないように、誠実に交渉することが大事です。
1. はじめに
「突然、労働組合を名乗る人が会社を訪れ、社長に合わせてほしいと言っています。どのように対応したらよいのでしょうか?」では、団体交渉の申入れ~団体交渉当日までの会社の対応について解説させていただきました。今回は、団体交渉当日における注意点について解説します。
2. 一般的な注意点
団体交渉を行う際の一般的な注意点としては、以下のような点が挙げられます。
(1) 誠実に交渉すること
この点については、「3. 不当労働行為について(不誠実交渉)」で後述します。
(2) 安易な発言をしないこと
団体交渉がヒートアップし、感情的な発言や、暴言を吐いてしまった場合、労働組合の側から、会社の発言が不当労働行為(不誠実な交渉態度)に当たると主張される可能性があります。
また、事前の準備をすることなく、安易に発言(賃金の支払いに対し、「払いますけど…」といった回答)をしてしまうと、「あのときは払うと言ったじゃないか」などとその発言を過度に取り上げられ、その後の交渉が進まなくなる可能性があります。
団体交渉においては、その交渉内容が録音されていることが多いため、一度発言した内容は、後の展開・交渉等に大きく左右し得るということに注意する必要があります。会社としては、事前に回答書や想定問答集を作成し、交渉当日に即答できない質問がなされた場合には、社内で検討した上で次回回答する、という対応が望ましいといえます(ただし、これを多用した場合には、不当労働行為(不誠実な交渉態度)に当たると主張される可能性があります)。
(3) 安易に書類に署名・押印しないこと
団体交渉後、労働組合側から、「議事録」「覚書」といった書類に署名・押印をすることを求められる場合があります。しかし、これらの書類が労働協約としての形式を備えていた場合には、これに安易に署名・押印してしまうと、労働協約としての効力が発生し(=その内容に会社が拘束される)、会社に不利益が生じる危険性があります。
会社としては、組合から署名・押印を求められても、その場で署名・押印はせずに、社内に持ち帰り内容を確認したうえで、署名・押印をするかを検討する、という対応をすべきでしょう。なお、会社の方でも別途議事録を作成するのが望ましいです。
(4) 録音
団体交渉の録音を労働組合から求められた場合、基本的にはこれに応じたうえ、会社の側でも録音をすべきです。会社の側でも録音を行うことにより、組合側に有利な部分のみを使用される危険性はない(=録音を許すことによる不利益は)ですし、録音の制限等で無用な争いをするのは、その後の交渉の観点からも望ましくないからです。
3. 不当労働行為について(不誠実交渉)
不当労働行為の類型は、大きく分けて二つあります。一つ目は、前回のQ&Aで見た通り、会社が義務的団交事項について団体交渉を拒否する類型です。もう一つは、会社が不誠実な団体交渉をした類型です。不誠実な団体交渉は、実質的な団体交渉拒否であるとして、不当労働行為に当たることとなるので、交渉態度にも注意しながら、交渉を行う必要があります。例えば、裁判所は、以下のような会社の対応・行為について、不当労働行為性を認めています。
- 交渉の最初の時点で、合意する意思がないことを明確にした
- 交渉権限を有しない者のみが団体交渉に出席し、交渉が進展しない
- 回答を拒否したり、一般論に終始して、議題内容に実質的に踏み込まない
- 具体的な回答を示さない/同じ回答に終始している
- 十分な説明のないまま、不合理と思われる回答に固執している
- 労働組合の主張・要求に対し、十分な回答・説明・資料提供をしていない
- 交渉事項や全体的な交渉態度からみて、交渉回数や交渉時間が不十分である
- 文書のみで回答し、口頭での回答を行わない
4. 和解/団体交渉の打ち切り
団体交渉を経て、労働組合と会社とで合意に至った場合には、後の紛争を避けるべく、合意書を作成することとなります。
会社は、誠実に団体交渉を行う義務がありますが、組合側の主張をそのまま受け入れたり、譲歩するまでの義務はありません。そこで、複数回の団体交渉を重ねても両者で合意に至らず、交渉が行き詰まった場合には、会社は、正当に団体交渉を打ち切ることができます。ただし、誠実な交渉が背景になければ、打ち切りを行うことができない(=打ち切りが不当労働行為に当たる)ことは勿論です。