損害賠償責任以外にも、刑事上・行政上の責任を問われる可能性があります。また、企業名が公表される場合もあります。

1. 労災と損害賠償責任の関係

(1) 両制度の関係

労災補償の制度は、労働災害を受けた被災労働者の救済を図るための制度であり、会社の責任の有無にかかわりなく判断されるものです。労災と認定された場合には、被災労働者に労災保険金が給付されることとなります。

これに対し、損害賠償責任は、会社の責任により労働者が損害を被った場合には、その損害を会社に賠償させるというものです。

つまり、労災の発生が会社の責任と評価される場合には、労災保険による補償がなされるだけでなく、会社が賠償責任を負うことになるのです(厳密に言うと、会社自体には責任がない場合でも、会社が賠償責任を負うことがあります(使用者責任、工作物責任)。後で説明します。)。

労災「補償」の制度と、損害「賠償」の話は、本来的には全く別の話です。しかし、裁判所は、「労災の認定を受けた」という事実を重く捉える傾向にあります。例えば、長時間労働が背景にある場合においては、労働災害と認定された場合、会社の責任も肯定されることが多いのが現状です。

(2) 損害賠償の範囲

被災労働者も二重取りで補償を受けることはできないので、労災保険で補償された損害部分については、会社は賠償義務を免れることになります。具体的には、治療費・休業補償の一部(6割程度)、逸失利益の一部等は労災保険により支払われるので、この部分の損害については、会社は賠償義務を免れることになります。 しかし、労災保険は、慰謝料(精神的損害)をまったくカバーしていないので、慰謝料については、会社が全額の支払義務を負うこととなります。また、休業補償・逸失利益についても、労災でカバーされない部分は会社が支払義務を負うこととなります。これらの賠償は、極めて高額になることもあり、裁判例をみると、1億円以上の賠償責任を認めた事案も存在します。

2. 会社が責任を負う場合

(1) 債務不履行責任・不法行為責任

会社は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすべき法的な義務(安全配慮義務といいます)を負っています。かかる義務に違反した結果、労働者の生命・身体が害される事態が生じた場合には、会社に、その損害を賠償する義務が生じます(債務不履行責任/不法行為責任)。

安全配慮義務の内容としては、

  1. 機械等をきちんと整備・点検し、事故が起きないよう注意する義務(工場内での事故の場合等)
  2. 過重労働により心身の健康を損なわないよう注意する義務(過労死の場合等)
  3. いじめ・セクハラ・パワハラ等により心身の健康を損なわないよう、職場環境を配慮すべき義務(いじめが原因でうつ病になった場合等)

(2) 使用者責任

労災の発生につき会社自体に責任がなかったとしても、被災労働者以外の、他の労働者の行為が原因で労働者が損害を被った場合には、原則として、会社もその損害を賠償する義務を負います。これを、使用者責任といいます。例えば、勤務時間中に労働者の間で喧嘩になり、労働者が負傷した場合等が想定されます(なお、労働者同士の喧嘩により負傷した場合も、労災と認定されることがあります)。

なお、使用者責任については、一定の場合(加害労働者を監督するにつき過失がなかった場合等)に会社が責任を免れることも可能ですが、そのためのハードルは極めて高く、責任を免れることは非常に厳しいというのが実情です。

(3) 工作物責任

土地・建物や、これらに備え付けられた機械等の不備・欠陥等により労働者が損害を被った場合は、それを所有・使用する会社が、原則としてその損害を賠償する義務を負います。これを、工作物責任といいます。

原因となった工作物の所有者は、いかなる場合でも責任を免れることはできませんが、所有者ではなく単なる使用者(借りていた場合等)の場合は、損害防止のための必要な注意をしたときは、責任を免れることができます(この場合は、所有者が責任を負います)。