金銭消費貸借契約書を作成するときは、①金銭消費貸借に合意したこと②金額の特定③返済期日や返済方法④利息の計算方法⑤遅延損害金⑥期限の利益喪失⑦連帯保証⑧抵当権などを個別事案に応じて検討しましょう。
この記事では、契約書の作成・審査の担当者にむけて、金銭消費貸借契約書の作成やチェックのポイントや注意点を解説します。
金銭消費貸借契約をめぐるトラブルは、重大な問題となってしまうこともありえます。悩んだら、まずは詳しい弁護士へのご相談をおすすめします。
1. 金銭消費貸借契約とは?
金銭消費貸借契約とは、お金を貸し借りする際に結ぶ契約のことです。簡単にいうと、「〇〇円を貸すので、後で同じ額を返してください」という約束を、貸主と借主の間で交わすものです。
日常生活やビジネスにおいて、金銭消費貸借契約は次のようなさまざまな場面で活用されています。
- 銀行から融資を受ける
- 個人投資家から資金を借りる
- 事業のためにビジネスローンを組む
- 分割払いで機材や備品を購入する
- 友人や知人から開業資金を借りる
このように、企業や個人を問わず、お金を借りる場面では金銭消費貸借契約が成立することになります。
2. 金銭消費貸借契約書の作成やチェックのポイントや注意点
金銭消費貸借契約書を作成する際には、貸主と借主の間でトラブルを避けるために、明確に内容を記載することが重要です。契約内容が曖昧だと、返済の遅延や未払いの際に大きな問題へと発展する可能性があります。
ここでは、契約書に盛り込むべき主要な項目と、それぞれの注意点について解説します。
2.1 金銭消費貸借に合意したこと
金銭消費貸借契約を結ぶ際は、まず「貸主と借主が合意したこと」を契約書に明確に記載することが重要です。
単にお金を受け渡しただけでは契約が成立したとは言えず、「貸したお金を、後日必ず返済する」という合意があることが必要です。
また、契約内容を明確にしないと、お金のやり取りが「贈与」と誤解される可能性があります。贈与とは、「お金や財産を無償で渡すこと」を指し、一度成立すると返還を求めることは原則できません。
そのため、借主が「もらっただけ」と主張すると、金銭消費貸借契約が成立していないと判断されることもあります。
このようなトラブルを防ぐために、契約書には「貸主が〇〇円を貸し付け、借主はこれを受け取り、〇年〇月〇日までに返済する」といった形で、貸し借りの合意内容を明記しましょう。これにより、契約の内容が明確になり、後々のトラブルを避けることができます。
2.2 金額の特定
契約書には、貸し付ける金額を正確に記載し、契約日と貸付実行日を明確にしましょう。
金額の記載があいまいだと、後のトラブルの原因となるため、具体的な数値を示すことが重要です。
契約書には、「〇年〇月〇日に、金〇〇円を貸し付ける」といった形で明記し、貸し借りの証拠として機能するようにしておきます。
また、金銭の交付方法についても明確にしておく必要があります。
振込による貸付の場合
振込日、振込金額、振込先口座を記載します。
例:「〇年〇月〇日に、〇〇銀行〇〇支店の借主名義口座へ金〇〇円を振込む」
現金による貸付の場合
現金交付日と金額を明確に記載します。
例:「〇年〇月〇日に、借主に対し金〇〇円を現金で交付する」
貸付方法を明確にすることで、「実際にお金を渡したかどうか」の証拠が残り、後に「受け取っていない」「金額が違う」といった争いを防ぐことができます。
2.3 返済期日や返済方法
返済の期限と方法を具体的に記載します。一括返済か分割返済かを明確にし、分割の場合は毎月の返済額や回数も決めておきます。
また、返済手段についても、「指定の銀行口座へ振込」とするのか、「現金手渡し」とするのかを明示し、振込の場合は手数料の負担者を定めることが重要です。
契約書に「借主は〇〇銀行の貸主口座に、毎月〇日までに〇〇円を振り込む。振込手数料は借主負担とする」などと記載するとよいでしょう。
2.4 利息の計算方法
金銭消費貸借契約では、借主は借りた金額(元本)を返済するだけでなく、利息を支払う義務を負う場合があります。
ただし、契約で利息を定めていなければ、基本的に無利息となるため、利息を付ける場合は、契約書に明確に記載しておく必要があります。
多くの金銭消費貸借契約では利息を設定しますが、その際には利息の計算方法も明記しておきましょう。
利息の上限
日本の利息制限法では、貸付金額に応じた上限利率が決められています。契約でこの上限を超える利息を設定すると、その超過部分は無効となります。
※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。
貸付金額 | 上限利率(年利) |
---|---|
10万円未満 | 20% |
10万円以上100万円未満 | 18% |
100万円以上 | 15% |
利息を設定する際には、契約書に「利息は年〇〇%とする」と具体的に記載することで、利息の取り決めを明確にしておきます。
利息の計算方法
利息は、一般的に以下の「元本×利率×期間」という計算式で求められます。
① 日割り計算(1年365日で計算)
計算式:元本×年利率÷365×経過日数
例:100万円を年利15%で30日借りた場合
→ 1,000,000円×15%÷365×30=12,328円(利息)
② 月割り計算(1年を12か月で計算)
計算式:元本×年利率÷12×経過月数
例:100万円を年利15%で3か月借りた場合
→ 1,000,000円×15%÷12×3=37,500円(利息)
利息の支払い方法
利息の支払いは、元本と一緒に支払うのか、それとも別途支払うのかも契約で決めておく必要があります。
① 元本と一緒に支払う場合
例:「元本とともに毎月〇日までに指定口座へ振り込む」
② 利息のみを先に支払う場合
例:「毎月〇日に利息のみ支払い、元本は満期時に一括で支払う」
2.5 遅延損害金
返済期限を過ぎても借主が返済しなかった場合、「遅延損害金」が発生します。これは、返済の遅れに対するペナルティとして貸主が請求できるものです。
利息が「契約で定めた返済期限までの利息」であるのに対し、遅延損害金は「期限を過ぎた後に発生する追加の負担」となります。
遅延損害金の上限は 契約利率の1.46倍以内と法律で決められています。たとえば、契約利率が15%の場合、遅延損害金の上限は21.9%となります。
契約書には、「返済期限を過ぎた場合、年〇〇%の遅延損害金を支払う」と明記しておくことで、貸主が適正な範囲内で請求できるようになります。
遅延損害金を設定することで、借主に「期日を守らないと負担が増える」という意識を持たせ、返済を促す効果が期待できます。
2.6 期限の利益喪失
借主は、契約で定められた返済期限までお金を返さなくてもよいという「期限の利益」を持っています。
しかし、一定の条件を満たした場合、この権利を失い、すぐに全額を一括で返済しなければならなくなることがあります。
たとえば、期限の利益を喪失する代表的なケースとしては、「○回以上の返済遅延が発生した場合」「借主が自己破産や債務整理を行った場合」などが挙げられます。
このように、危険の利益を喪失させる具体的な条項を記載しておくことで、貸主は借主の支払いが滞ったときに速やかに回収手続きを取ることができます。
期限の利益喪失の条項を契約に入れることで、貸主は貸し倒れのリスクを抑えられます。
一方、借主にとっても、問題があった場合一括返済を求められる可能性があるため、計画的な支払いを意識するきっかけになります。
2.7 連帯保証
お金を貸し借りする際、貸主にとって最も避けたいのは「借主が返済できなくなること」です。そのリスクを減らす方法の一つが「連帯保証」です。
連帯保証人をつけることで、借主が返済できなくなった場合でも、代わりに返済してもらうことができます。
連帯保証人は、通常の保証人とは異なり、借主と同じ責任を負います。たとえ借主に支払い能力があっても、貸主が請求すれば連帯保証人は支払わなければなりません。
これは、通常の保証人が持つ「まず借主に請求してほしい」(催告の抗弁)や「借主に財産があるなら、そちらから取り立ててほしい」(検索の抗弁)といった権利を主張できないためです。
そのため、連帯保証人になると、大きな責任を負うことになります。 金銭消費貸借契約書に連帯保証を設定する場合は、その旨を明記し、連帯保証人も署名・押印をする必要があります。
2.8 抵当権
「抵当権」とは、借主が返済できなくなったときに、貸主が不動産などの財産を売却し、貸したお金を回収できる仕組みです。連帯保証と同様、貸し倒れのリスクを回避するために使われます。
たとえば、家や土地を担保にすると、万が一返済が滞った場合、その不動産を売って返済に充てることができます。
契約書には、「借主は〇〇の不動産を担保にする」と記載し、具体的な担保の内容を明確にしておきましょう。登記手続きも必要です。
3. よくあるご質問
ここでは、金銭消費貸借契約に関するよくあるご質問にお答えします。
3.1 書面なしでも金銭消費貸借契約は成立する?
金銭消費貸借契約は、必ずしも契約書を作成しなくても成立します。法律上、以下の2つの条件を満たせば、口頭の約束だけでも契約が有効とされます。
- 借主が「借りたお金と同じ金額を返す」と約束すること
- 貸主が実際にお金を渡すこと
つまり、「お金を貸します」「後で返します」と口頭で合意し、実際に貸主が金銭を交付した時点で、契約は成立します。
しかし、契約書がない場合、後から「そんな約束はしていない」と言われるリスクがあります。 特に、返済期限や利息の有無、遅延損害金の条件について、貸主と借主の認識が食い違っていた場合、証拠がないとトラブルに発展しやすくなります。
また、貸主が「貸したお金だ」と主張しても、借主が「もらっただけ」と言えば、贈与と判断される可能性もあります。
こうした問題を防ぐためには、契約書を作成し、お互いに署名・押印しておくことが大切です。契約書があれば、「いつ、いくら貸したのか」「どのように返済するのか」「利息や遅延損害金が発生するのか」などの条件を明確にし、トラブルを未然に防ぐことができます。
また、ビジネスの資金調達や銀行融資では、契約内容が明確であることが求められるため、書面を作成するのが一般的です。
たとえ親しい間柄での貸し借りであっても、後々のトラブルを防ぐために、簡単でもよいので書面を残しておくと安心です。
3.2 金銭消費貸借契約書と借用書の違いは?
お金を貸し借りするときの証拠となる書類には、「金銭消費貸借契約書」と「借用書」があります。どちらも法的な効力を持ちますが、作成方法や内容に違いがあります。
※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。
項目 | 金銭消費貸借契約書 | 借用書 |
---|---|---|
署名押印 | 貸主・借主の双方が署名押印する | 借主のみが署名押印する |
作成部数 | 2通作成し、双方が1通ずつ保管する | 1通のみ作成し、貸主が保管する |
記載内容 | 返済期限や利息、違反時の措置など細かいルールを明記することが多い | 「〇〇円を借り、〇〇までに返済する」といった簡単な内容が多い |
借用書は、個人間の小規模な貸し借りなど、簡易な場面で使われることが多いです。
一方で、銀行からの融資や高額な貸付、ビジネス取引では、詳細な条件を明記した「金銭消費貸借契約書」を作成するのが一般的です。
借用書は貸主のみが保管するため、紛失のリスクがあり、改ざんされる可能性もあります。
一方、金銭消費貸借契約書は双方が1通ずつ保管するため、証拠としての信頼性が高まります。
作成に手間はかかりますが、後のトラブルを防ぐためにも、正式な契約書を交わすことが望ましいでしょう。
3.3 公正証書にするほうがよい?
金銭の貸し借りをするとき、契約書を作成するだけでなく、それを公正証書にしておくと、より安全です。特に、高額な貸し付けや、支払いが滞るリスクがある場合には、公正証書を作成することがあります。
公正証書とは、公証役場で公証人が作成する公式な文書です。通常の契約書よりも法的な効力が強く、トラブルを防ぎやすくなります。公正証書にすることで、次のようなメリットがあります。
① 強制執行ができる
契約書に「強制執行認諾文言」を入れた公正証書を作成しておけば、借主が支払いを怠ったときに裁判をせずに財産を差し押さえることができます。
通常の契約書では、裁判を経ないと差し押さえができませんが、公正証書ならすぐに対応できます。
② 証拠としての信用度が高い
公正証書は、公証人が内容を確認して作成するため、裁判になったときに証拠としての価値が高くなります。
たとえば、「無理やり契約させられた」「内容をよく理解していなかった」といった言い逃れを防ぐことができます。
③ 契約書を紛失しても安心
公正証書の原本は、公証役場に保管されるため、契約書を紛失しても再発行が可能です。通常の契約書の場合、紛失すると証拠がなくなってしまうリスクがありますが、公正証書ならその心配がありません。
ただし、公正証書を作成するには手間と費用がかかります。公証役場での手続きが必要になり、作成費用も発生します。
そのため、取引の重要度や金額を考慮し、本当に公正証書にする必要があるかを検討しましょう。
3.4 収入印紙は必要?
金銭消費貸借契約書を作成する際、貸し借りする金額に応じた収入印紙を貼る必要があります。これは、契約書にかかる税金(印紙税)を納めるためのものです。
印紙税額は、次の表のとおりです。
※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。
貸借の金額 | 印紙代 |
---|---|
1万円未満 | 非課税(不要) |
1万円以上10万円以下 | 200円 |
10万円超~50万円以下 | 400円 |
50万円超~100万円以下 | 1,000円 |
100万円超~500万円以下 | 2,000円 |
500万円超~1,000万円以下 | 10,000円 |
収入印紙を貼らなかったとしても、契約自体が無効になることはありません。印紙は国に納める税金の一種であり、契約の効力には関係ありません。
ただし、印紙税を納めていないと「過怠税」という罰則が発生し、通常の印紙税の2倍の金額を追加で支払う必要があります(未納分と合わせて合計3倍の負担)。
たとえば、1,000円の印紙税が必要だったのに貼らなかった場合、本来の1,000円+過怠税2,000円=3,000円を支払わなければなりません。
契約を締結する際は、忘れずに適正な額の収入印紙を貼り、消印をしておきましょう。
4. まとめ:金銭消費貸借契約で悩んだら弁護士に相談
金銭消費貸借契約は、お金の貸し借りを正式な契約として成立させる重要な書類です。
しかし、契約内容をしっかりと定めておかないと、返済の遅延や未払いといったトラブルが発生する可能性があります。
特に、利息や遅延損害金、連帯保証、抵当権などの条項は、借主・貸主双方に大きな影響を及ぼすため、慎重にチェックすることが重要です。
また、契約書がない場合でも、金銭消費貸借契約は成立します。しかし、書面を残さないと、「貸した・借りた」の証拠がなくなり、後にトラブルとなることがあります。
契約書を作成し、公正証書にすることで、さらに法的な強制力を高めることもできます。
契約の内容に不安がある場合や、契約書の作成・チェックが必要な場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
よつば総合法律事務所では、企業の法務担当者や経営者の方々からのご相談を受け、契約書の作成・審査をサポートしています。
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金銭消費貸借契約は、単なるお金のやり取りではなく、法的な権利や義務を明確にするためのものです。
トラブルを未然に防ぎ、安全な取引を行うためにも、契約の専門家である弁護士に相談し、適切な契約書を作成することが大切です。