労働組合から突然、団体交渉を申し入れられた場合、会社はどのように対応すべきでしょうか。
特に合同労組(ユニオン)との交渉では、会社が対応に不慣れでとまどってしまったり、話し合いが長期化したりするケースも少なくありません。対応を誤ると「不当労働行為」と見なされる可能性もあり、企業にとっては大きなリスクとなり得ます。
本記事では、団体交渉に臨む際の基本的なルールや注意すべきポイント、さらには具体的な場面ごとの対応方法について、弁護士がわかりやすく解説します。労働組合への対応に不安を抱えている経営者や人事担当者の方に向けて、実務上役立つポイントを整理しました。
目次
- 1 1. 団体交渉とは
- 2 2. 事前準備をして当日を迎える
- 3 3. 当日の心構え
- 4 4. 当日の振る舞い
- 5 5. よくあるご質問
- 5.1 5.1 団体交渉の内容を録音したほうがよいですか?
- 5.2 5.2 「社長を出席させろ」と言われました。どうすればよいですか?
- 5.3 5.3 「労働委員会に不当労働行為救済申立てをする」と言われました。どうすればよいですか?
- 5.4 5.4 「労働基準監督署に告発する」と言われました。どうすればよいですか?
- 5.5 5.5 「取引先に伝える」と言われました。どうすればよいですか?
- 5.6 5.6 「ビラまき(街宣活動)をする」と言われました。どうすればよいですか?
- 5.7 5.7 「ストライキ(争議行為)をする」と言われました。どうすればよいですか?
- 5.8 5.8 同じ内容や要求が労働組合から続いており、議論が平行線です。どうすればよいですか?
- 6 6. まとめ:労働組合対応は弁護士に相談
1. 団体交渉とは
団体交渉とは、労働組合が会社に対して労働条件や職場環境の改善などを求めて行う話し合いです。個々の従業員が一人で交渉するのではなく、労働組合が代表して交渉することで、労働者の意見を効果的に伝えられる仕組みです。
賃金や労働時間といった基本的な条件のほか、賞与や昇給の基準、人事異動や解雇の扱い、ハラスメント対策や安全衛生など、幅広いテーマが取り上げられます。
団体交渉は、憲法と労働組合法で保障された労働者の権利です。会社側は正当な理由がない限り交渉の申し入れを拒否できず、もし応じなければ「不当労働行為」として違法行為となり、労働委員会から救済を命じられるおそれがあります。
経営者や人事担当者は、団体交渉が単なる意見交換ではなく、法的に保障された重要な制度であることを理解しておく必要があります。
団体交渉の形態には、主に会社内部での既存の組合が交渉を求める場合と、従業員が外部の労働組合(合同労組・ユニオン)に加入して交渉を申し入れる場合の2つのパターンあります。外部の組合は1人から加入できるため、従業員が少数でも突然団体交渉を求めてくることがあり、経営側が想定していなかった場面で直面するケースも少なくありません。
団体交渉では、次のようなテーマが取り上げられます。
- ① 賃金や残業代の精算
- ② 解雇や懲戒処分の妥当性
- ③ 昇給や賞与の評価基準
- ④ 配置転換の運用
- ⑤ いじめ・セクハラ・パワハラなどハラスメント問題
- ⑥ 職場の安全衛生や労働時間管理
経営者や人事担当者にとって、団体交渉は会社の方針を問われる重要な場です。交渉の意味や法的な位置付けを理解していないと、不利な合意をしてしまったり、不誠実と見なされて紛争を長引かせる危険があります。まずは団体交渉の性質を正しく理解することが、当日の対応を考える出発点です。

2. 事前準備をして当日を迎える
団体交渉では、事前の準備がその後の結果を大きく左右します。準備不足のまま交渉に臨むと、回答があいまいになったり、発言に一貫性を欠いたりして、「不誠実な対応」と受け取られるおそれがあります。
予想外のことが起きてとまどってしまい、想定と異なる発言をしてしまうおそれも否定できません。こうした事態を避けるためにも、経営者や人事担当者は交渉前に次の点をしっかり整えておくことが重要です。
2.1 ① 交渉の場所や時間の決定
交渉の場所は、他の従業員の業務への影響がなく、かつ中立的な環境を選ぶことが望ましいです。労働組合の事務所や社内の会議室ではなく、社外の貸会議室などをあらかじめ確保しておくのがよいでしょう。
交渉場所の費用をどちらが負担するかに法的な決まりはありません。しかし、交渉を円滑に進めるという観点から、実務上は会社側が負担するケースが多く見られます。費用負担を拒否することが、交渉場所の選定で不利に働く可能性も考慮するとよいでしょう。
また、日程調整も事前準備において欠かせないポイントとなります。労働組合からは申入れ直後に日付指定で開催を求められる場合がありますが、相当な範囲であれば、日程の調整は可能です。準備に必要な時間を考慮し、実現可能な範囲で複数の日程候補を速やかに提示することが重要です。時間帯は業務に支障をきたさないよう、夜間や業務終了後に設定することが多く、交渉時間は2時間程度を目安に区切っておくことが望ましいでしょう。
2.2 ② 出席者の人数や役割の決定
団体交渉に誰が出席するかも、事前に決めておきましょう。出席者が多いと発言の食い違いが生じやすく、会社側の一貫性が崩れてしまいます。そのため、発言の中心となる担当者を1人決めておき、必要に応じて他の出席者が補足する形を取るのが基本です。
また、組合から「社長を出席させろ」と要求されることがありますが、実際に出席するかどうかは会社側が判断すべき事項です。むやみに応じてしまわないよう、十分な注意が求められます。
2.3 客観的なデータの準備
団体交渉では、会社の姿勢が「根拠に基づいているかどうか」が常に問われます。賃金体系、残業時間、評価基準、安全衛生に関する実績など、客観的なデータをあらかじめ整理しておくことが重要です。書面や資料を準備することで発言に裏付けが生まれ、説明を尽くすことができるため、不誠実団交であると主張されるリスクを減らせます。
さらに、労働組合の要求書をもとに想定問答を準備しておくことも大切です。事前に質問や反論を想定して回答案を作成すれば、必要な裏付け資料の不足にも事前に気づくことができ、当日に感情的・場当たり的な対応をしてしまうことも防げますので、会社として一貫した方針を示せます。
2.4 当日のシミュレーション
交渉の場は予想以上に緊張感があり、準備を欠くと冷静な判断を下せなくなることがあります。そのため、当日の進行を事前にシミュレーションし、発言の順序や資料の提示方法まで確認しておくことが望ましいでしょう。
また、交渉内容を正確に記録するために録音機器を準備しておくことも有効です。録音は後日の証拠となるだけでなく、双方の感情的なやり取りを抑止する効果も期待できます。
また、議事録を作成する場合、その記載内容をめぐって解釈の違いが生じやすいため、労働組合から署名や捺印を求められても十分な確認、検討なくその場で安易に応じてはいけません。
3. 当日の心構え
当日の対応は、交渉の結果だけでなく、企業の評判や法的リスクにも直結します。経営者・人事担当者として、次の3つのポイントを心構えとして、冷静に臨むことが重要です。
3.1 ① 感情的にならず冷静沈着に対応する
団体交渉は通常の話し合いよりも緊張感が高まりやすく、ときには労働組合側から感情的な発言や圧力を感じるような発言がなされることもあります。
しかし、会社側まで感情的に反応してしまうと「誠実交渉義務(労働組合からの団体交渉の申し入れに対し、会社側が誠実に対応しなければならない義務」に反し、不当労働行為と判断されるおそれがあります。冷静に事実を指摘し、証拠を示すことが重要です。
3.2 ② 誠実な対応を心がける
団体交渉は、「労使が対等の立場で交渉する制度」として位置づけられています。ここでいう「対等」とは、組合を敵視しないことはもちろん、逆に組合を過度に恐れて一方的に優位に扱うことでもありません。
組合を軽視した態度をとれば、不誠実な態度と受け取られ、不当労働行為と評価される危険性があります。かといって、組合の雰囲気に押されてしまい、要求を合理的な理由なく無条件に受け入れる姿勢を取れば、経営判断を誤り、会社に過度の負担をもたらしかねません。
組合を一つの独立した組織として尊重しつつ、会社側も経営上の責任を担う主体として冷静に意見を述べることが望ましいスタンスといえるでしょう。
3.3 ③ 落としどころを意識する
団体交渉は「勝ち負けを決める場」ではなく、最終的に合意に至るための手段と考えるべきです。経営者や人事担当者は、あらかじめ「譲れる条件」と「譲れない条件」を整理しておき、将来の紛争を防ぐためにどの水準で合意すべきかを意識して臨む必要があります。
たとえば、ハラスメントの問題であれば、事実調査の方法や再発防止策をどう構築するかが焦点となりやすいです。解雇のケースでは一見妥協が困難に見えますが、実務では金銭的な解決で決着することが少なくありません。
これは訴訟の多くが判決ではなく和解で終結することと似ています。裁判では、当事者が勝敗のリスクや費用を見極めたうえで、満足はしなくても「これなら妥協できる」と考えられるベターな解決を選択します。団体交渉でも同じように、双方が完全に納得できなくとも、現実的な妥協点を見つけ出すことが重要です。
4. 当日の振る舞い
団体交渉の場では、事前準備と同じくらい、当日の振る舞いが結果を大きく左右します。発言や態度が誠実さに欠けて見えると、不当労働行為と評価されるリスクもあるため、慎重な行動が求められます。ここでは、当日の振る舞いで特に留意すべき点を整理します。
4.1 ① 対立的でなく建設的な振る舞い
団体交渉は「どちらが勝つか」を競う場ではなく、労使双方が納得できる落としどころを探る協議の場です。にもかかわらず、経営者が「組合の言うことは全く受け入れられない」と対立姿勢を前面に出すと、話し合いの機会そのものが崩壊しかねません。
重要なのは、たとえ要求を受け入れられないとしても「なぜ受け入れられないのか」「どのような代替案が考えられるのか」と説明し、対立を解消する方向に議論を進める姿勢です。
4.2 ② 労働組合の主張をよく聞く
団体交渉の基本は「労働者側の話を丁寧に聞くこと」です。主張を途中で遮ったり、聞き流すような態度を取ったりすると、誠実に対応していないと見なされやすくなります。
たとえ要求が一見不合理に思えても、相手の立場を尊重し、まずは一度受け止める姿勢を示すことが大切です。しっかり傾聴するだけでも、労働者側に「会社は真剣に耳を傾けている」と伝わり、交渉の雰囲気が和らぐこともあります。
4.3 ③ 正確かつ一貫した発言をする
団体交渉の発言は、後に記録や証拠として残ることが多いです。そのため、事実関係や会社の方針は、事前に十分検討の上、交渉の場でも正確かつ一貫して伝えることが大切です。
事前に想定問答を作成し、出席者間で回答方針を共有しておけば、不用意な発言や食い違いを防ぐことができます。
4.4 ④ 即答できないことは無理に即答しない
交渉の場では、想定外の質問や新しい要求が飛び出すことがあります。そのとき、場を収めるために安易に即答すると、後で撤回できずに大きなリスクを抱え込むおそれがあります。
即答できない場合の適切な対応は「社内で検討の上、改めて回答する」と伝え、後日改めて返答することです。冷静な回答を保つことで、誠実さを示しつつ不用意な発言を避けられます。
なお、だからといって、なんでも「持ち帰って検討する」と回答する姿勢もよくありません。それでは一向に交渉が進まず、不誠実団交だと主張されるリスクがあるためです。これまでの経緯やそのときの状況を踏まえつつ臨機応変に対応する必要があります。
4.5 ⑤ 安易に書類に署名・捺印しない
団体交渉の終了時に、議事録や確認書への署名を求められることがあります。
しかし、その場で安易に署名・捺印すると、その書面が法的な拘束力を持つ合意書とみなされる危険性があります。内容を十分に確認せずに署名してしまった結果、会社にとって不利な義務を負うことになりかねません。
署名前には弁護士に相談するなど、極めて慎重な対応が必要です。
4.6 ⑥ 不誠実な交渉態度を取らない
団体交渉では、使用者には「誠実に交渉に応じる義務」が課されています。これは単に交渉の席に着くことだけを意味するのではなく、実質的に話し合いが行えるよう真摯に対応することまで求められるものです。
形式的に顔を合わせても、具体的な回答を避けたり、無意味に引き延ばすような態度は「不誠実交渉」と評価され、不当労働行為に当たる可能性があります。
ケースバイケースではありますが、次のような会社側の行為は「不誠実な交渉」と判断されるリスクが高いです。
- 交渉の最初の時点で、合意する意思がないことを明確にした
- 交渉権限を有しない者のみが団体交渉に出席し、交渉が進展しない
- 回答を拒否したり、一般論に終始して、議題内容に実質的に踏み込まない
- 具体的な回答を示さない/(合理的な理由なく)同じ回答に終始している
- 十分な説明のないまま、不合理と思われる回答に固執している
- 労働組合の主張・要求に対し、十分な回答・説明・資料提供をしていない
- 交渉事項や全体的な交渉態度からみて、交渉回数や交渉時間が不十分である
- 文書のみで回答し、口頭での回答を行わない
このような対応は、たとえ表面的に団体交渉を開いていたとしても、実質的には「交渉を拒否している」のと同じ扱いに受け取られるおそれがあります。経営者や担当者としては、組合側の意見に賛同できない場合でも、なぜ応じられないのかを論理的かつ丁寧に説明し、必要に応じて資料を提示するなどの誠実な態度を示すことが欠かせません。
さらに、誠実に対応する姿勢は、交渉そのものを前進させるだけでなく、労働委員会や裁判所で後に判断される際にも「会社は誠実に対応していた」と評価されるための重要な要素となります。つまり、誠実な交渉態度は相手への配慮であると同時に、会社を守る防御策でもあるのです。

5. よくあるご質問
ここでは、団体交渉に関して実務上よくある質問を整理し、それぞれの対応の基本的な考え方を解説します。
5.1 団体交渉の内容を録音したほうがよいですか?
団体交渉は、録音して記録を残すのが望ましいでしょう。後日の紛争で「言った」「言わない」の水かけ論に発展するのを防ぐためにも、録音を検討しましょう。電池切れや機器トラブルに備えて、複数台を用意しておくと安心です。
組合側も録音を行う場合が多いですが、その際は双方で録音する形を取るのが無難です。
録音は、交渉が平穏に行われ、労使双方が自由に意見交換を行ったことを示す有力な証拠となります。交渉の公正さを確保するためにも、事前に録音も可能な体制を整えて臨むことを検討しましょう。
5.2 「社長を出席させろ」と言われました。どうすればよいですか?
労働組合から「社長を出席させろ」と強く要求されることがあります。しかし、団体交渉に必ずしも社長が出席しなければならないわけではありません。会社側の出席者は、本来「会社にとって有益な交渉を実現するための責任者として誰を出席させるか」という観点から決めるべきものであり、組合の要求をそのまま受け入れる必要はありません。
実際に、団体交渉の参加者は労使双方の協議で決めるべきものとされており、会社が交渉責任者をあらかじめ定めておくことで、交渉がスムーズに進みやすくなります。また、労働紛争が深刻化している場合には、弁護士を同席させて法的観点からサポートを受けることも有効です。
【社長が出席するメリット】
- その場で意思決定が可能になり、交渉がスピーディに進む
- 労働組合の譲歩に応じて柔軟に判断ができる
- 社内への情報共有や意思統一が迅速に行える
【社長が出席するデメリット】
- 労働問題の詳細を把握していない場合、適切な回答ができない可能性
- 不用意な発言(威圧的な言動や失言)が不当労働行為と評価されるリスク
- 労働組合側の勢いに押され、不利な条件をその場で安易に認めてしまうおそれ
- 即断即決を迫られ、十分な社内調整を経ないまま結論を出してしまう危険
特に合同労組(ユニオン)は社長の参加を求めることがありますが、その背景には「社長なら即断できる」「社長なら譲歩を引き出せる」という思惑があるのかもしれません。しかし、一般的に社長は労働法の専門知識を十分に持っていないことも多いため、準備のない状態で出席させるのは極めてリスクが高いといえます。
そのため、会社としては「社長が必ず出席しなければならない」という考えに縛られるのではなく、状況に応じて最も適切な権限のある責任者を交渉の場に立てることが重要です。
5.3 「労働委員会に不当労働行為救済申立てをする」と言われました。どうすればよいですか?
労働組合から「不当労働行為救済申立てをする」と通告されることがあります。労働委員会という公的機関に実際に申立てが可能な制度があり、その申立てをするという趣旨です。会社側は冷静に対応する必要があります。
不当労働行為救済申立てとは、労働組合法が保障する労働者・労働組合の権利(団結権・団体交渉権・団体行動権)が侵害されたと主張する場合に、労働委員会へ救済を求める手続です。
典型的には、①組合員であることを理由とする解雇や不利益取扱い、②正当な理由のない団体交渉の拒否(不誠実な対応を含む)、③労働組合の運営への介入、といったケースが対象になります。
申立てが行われると、会社には労働委員会から申立書が送付され、答弁書を提出しなければなりません。その後、調査や審問を経て、救済命令または棄却命令が出されます。不服があれば中央労働委員会や裁判で争うことも可能です。
企業としては、申立書を受け取った段階で迅速に労務問題に詳しい弁護士へ相談することを強くおすすめします。答弁書の作成では、会社の主張を裏付ける資料(議事録、書面、就業規則など)を整理して提出し、必要に応じて審問では弁護士を代理人として出席させることが望ましいです。
労働委員会での不当労働行為救済申立ては企業にとって負担となりますが、制度の仕組みを理解し、早めに専門家と連携して対応すればリスクを最小化できる可能性が高まります。感情的に反応せず、法的手続に則って冷静に行動することが、会社を守るうえで重要です。
5.4 「労働基準監督署に告発する」と言われました。どうすればよいですか?
労働組合から「労基署に告発する」と言われた場合は、慌てず冷静に対応し、必要に応じて専門家に相談することが最も重要です。多くのケースでは、是正勧告に従い改善措置を誠実に取れば、調査は円滑に終了します。
労基署の立入調査では、帳簿類の確認、関係者への聴取などが行われます。事前に調査通知が届いた場合は、労働者名簿や賃金台帳、就業規則など指定された書類を準備しておく必要があります。
違反が確認されると是正勧告などの行政指導が出されます。是正勧告などの行政指導自体に法的な強制力はありません。
しかし、勧告の根拠となっている法令違反の状態を是正せずに放置し、悪質であると判断された場合には、労働基準監督署が司法処分(送検)に切り替え、罰則が科される可能性があります。そのため、勧告には誠実に対応し、期限内に改善報告を行うことが極めて重要です。
労基署対応は、単なるリスク回避にとどまらず、自社の労働環境を見直す機会にもなります。リスクマネジメントの一環として前向きに取り組むことが、結果的に会社を守ることにつながるでしょう。
5.5 「取引先に伝える」と言われました。どうすればよいですか?
労働組合から「団体交渉をしている旨を、取引先に伝える」と通告された場合や、実際に誹謗中傷が行われた場合には、会社の信用を守るため、早急な対応が必要です。
組合活動は法律上も認められていますが、無制限に認められるわけではありません。伝達の内容が明らかに虚偽や名誉毀損にあたる場合には、組合に対して警告文を送付することなどが考えられます。
もっとも、虚偽や名誉棄損に該当するかの判断が容易でない場合もあります。会社側の対応によっては、労働組合から正当な組合活動に対する不当労働行為だと主張されてしまい、より一層問題が複雑になるリスクもあります。
取引先への説明と並行して、早めに弁護士へ相談し、対応方針を固めることが重要です。
5.6 「ビラまき(街宣活動)をする」と言われました。どうすればよいですか?
労働組合により「ビラまき(街宣活動)」が実際に行われれば、会社の信用や企業価値が損なわれ、取引先や顧客との関係に影響を及ぼすおそれがあります。
もっとも、会社に法令違反がないのであれば、こうした発言に過剰に動揺する必要はありません。むしろ恐れるあまり、組合側の要求を安易に受け入れることの方がリスクです。そのため、団体交渉に臨む前から、社内の労務管理を点検し、法令違反があれば是正しておくことが大切です。
また、ビラまきや街宣活動も無制限に許されるものではなく、内容や方法によっては社会通念上許容された範囲を超えた違法行為となる場合もあります。その場合は、損害賠償や差止請求といった法的対応も検討可能です。
もっとも、虚偽や名誉棄損に該当するかの判断が容易でない場合もあります。会社側の対応によっては、労働組合から正当な組合活動に対する不当労働行為だと主張されてしまい、より一層問題が複雑になるリスクもありますので、ビラや街宣活動の状況を証拠として確保しつつ、速やかに専門家に相談することが必要です。
結局のところ、最も重要なのは、日ごろの労務管理や団体交渉の事前準備で不安要素を減らしておくことです。組合からの発言に動揺せず、冷静に対応できる体制を整えておくことが、会社を守る第一歩になります。
5.7 「ストライキ(争議行為)をする」と言われました。どうすればよいですか?
ストライキの発言を受けたときにまず重要なのは、過剰に恐れ過ぎず「本気で実施するのか」を冷静に見極めることです。状況として交渉が行き詰まっている場合が多いため、会社側のこれまでの交渉態度に問題がなかったかも改めて確認しておく必要があります。
実際のところ、ストライキが行われるケースはそれほど多くありません。「ストライキする」との発言は、団体交渉での交渉手段のひとつとして用いられている可能性があります。
労働組合にとってもストライキは人員の動員や準備に大きな負担がかかるため、可能であれば交渉で解決したいと考えるのが合理的です。特に合同労組(ユニオン)の場合は、組合員数が少なかったり、組合員が退職済みであったりすることも珍しくないため、ストライキ実行のハードルが比較的高い傾向にあります。
とはいえ、万が一ストライキが実行される場合に備えた準備は欠かせません。具体的には、最低限の業務を維持できるようシフト調整や人員配置を見直す、重要な取引先や顧客に事情を説明して理解を得ておく、納期や供給に支障が出そうな場合には代替手段を検討しておく、といった対応が考えられます。
このように、ストライキ発言に動揺するのではなく、冷静な見極めと誠実な交渉姿勢、そして実務的な備えを両立させることが、会社のリスクを最小限に抑えるポイントです。
5.8 同じ内容や要求が労働組合から続いており、議論が平行線です。どうすればよいですか?
団体交渉を会社側から積極的に打ち切るのは大きなリスクを伴う行為です。まずは「過去の交渉で会社が労働組合に対して十分に回答し、その根拠を説明し尽くしているか」を確認しましょう。そのうえで、今後も交渉を続ける必要があるのか、あるいは限界に達しているのかを整理し、外部の専門家と相談しながら判断することが重要です。
実際の団体交渉では、同じ内容が繰り返し持ち出されることは珍しくありません。進展がなく、気持ちとしては「打ち切り」を検討したくなる場面もありますが、どの程度の繰り返しで打ち切りが認められるかについて明確な基準はなく、議題や交渉経過などを総合的に考慮する必要があります。
注意すべきは、誤って打ち切れば「不当労働行為」と評価されるおそれがあることです。交渉義務があるにもかかわらず一方的に終了させれば、労働委員会から救済命令を受ける可能性があります。また、団体交渉の打ち切りにより交渉の手段をなくした労働組合が訴訟提起や街宣活動などの行動に出るおそれもあります。
したがって、同じ要求が続く場合でも感情的に対応するのではなく、十分な説明を尽くしたかを振り返りつつ、最終判断は専門家の助言を受けながら慎重に行うことが望ましいでしょう。
6. まとめ:労働組合対応は弁護士に相談
労働組合から団体交渉を申し入れられた場合、会社には「誠実に交渉に応じる義務」があり、対応を誤ると不当労働行為と判断されるおそれがあります。安易な拒否や曖昧な態度は、交渉の長期化や紛争の激化につながりかねません。
また、ストライキや街宣活動、取引先への働きかけといった交渉以外の行動が取られる場合もあり、企業経営に与える影響は大きいといえます。そのため、対応にあたっては慎重な判断が求められます。
こうした状況に備えるには、労働問題に詳しい弁護士に相談することが有効です。弁護士は事前の段階で、会社の状況に応じた対応方針を整理したり、必要な資料や想定問答の準備といったサポートを行うことができます。当日の団体交渉に同席すれば、法的な観点から助言を行い、交渉の進め方や発言内容を適切に調整することで、不利な判断やリスクを回避しやすくなります。
早めに弁護士へ相談し、事前準備から当日の対応までを視野に入れておくことで、結果としてトラブルの回避や円滑な経営につながる可能性が高まります。









