新たに事業を始めるにあたり、株式会社の設立を検討されている方も多いのではないでしょうか。株式会社を設立することで、社会的信用を得やすくなったり、資金調達の選択肢が広がったりと、事業の成長に繋がる多くのメリットが期待できます。
一方で、法律で定められた手続きを正確に進める必要があり、時間と費用もかかるのが実情です。
本記事では、株式会社の設立を考えている個人事業主や経営者の方々に向けて、設立のメリット・デメリットといった基礎知識から、具体的な手続きの流れ、必要書類、費用、期間の目安、そして設立後の手続きまで、弁護士が網羅的に解説します。
目次
1. 株式会社を設立する前に知っておきたい基礎知識
株式会社の設立は、単に事業を始めるだけではありません。法律上の「法人格」を取得する大きな一歩です。まずは設立のメリット・デメリットと全体像を把握しましょう。
1.1 株式会社を設立するメリット・デメリット
株式会社を設立するメリット・デメリットは次のとおりです。
1.1.1 株式会社を設立するメリット
① 社会的信用の向上
個人事業主と比べて、法人格を持つ企業は対外的な信用が格段に高まります。銀行融資の審査、優秀な人材の採用、大型の事業提携などの場面で、大きなアドバンテージとなるでしょう。
② 責任の有限化
個人事業では、事業がうまくいかなくなると経営者が無限責任を負います。一方、株式会社では出資者(株主)の責任が自分の出資額に限定されます。つまり、会社の資産と個人の資産が法的に分離され、万が一の失敗時も生活を守れる可能性が高いです。
③ 資金調達方法の多様化
株式会社は「株式」を発行することで、広く社会から返済義務のない資金を調達することが可能です。これにより、多くの資金を集めて大規模な事業を展開する道が開かれます。
④ 税務上のメリット
個人の所得税が所得の増加に伴い税率が上がる累進課税であるのに対し、法人税は原則として一定の税率です。また、欠損金の繰越控除など、個人事業主と比べて多様な節税策を活用できる可能性があります。
⑤ 資産管理の明確化
法人格を取得すると、会社名義で銀行口座の開設や不動産の登記が可能になります。これにより、事業資産と個人資産の区別がはっきりし、経理処理がしやすくなることがあります。
⑥ 事業承継の円滑化
会社の所有権が株式という形で明確になるため、株式の譲渡や相続によってスムーズに事業承継を行うことができます。
1.1.2 株式会社を設立するデメリット
一方で、株式会社の設立には次のようなデメリットも伴います。
① 設立手続きの煩雑さと費用
株式会社を設立するには、会社法に定められた厳格な手続きを踏む必要があります。定款を作成して公証人の認証を受け、法務局へ設立登記を申請するといった一連の手続きは複雑で、専門的な知識が求められます。
また、定款認証手数料や登録免許税といった法定費用も支払わなければなりません。
② 運営コストと事務負担の増加
法人の運営には、会計処理や税務申告、役員の登記など、個人事業主と比べて事務的な負担が増加します。また、登記内容に変更が生じるたびに、手間と費用をかけて変更登記を行うことが必要です。役員を設置し、取締役会を運営するためのコストも発生します。
③ 社会保険への加入義務
法人を設立すると、たとえ社長一人であっても社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられます。これは個人事業主(従業員5人未満の場合は任意加入)との大きな違いです。
④ 意思決定プロセスの複雑化
個人事業なら自分だけで決断できることが、株式会社では株主総会や取締役会の決議が必要になります。その分、判断までに時間を要するケースも少なくありません。
1.2 会社設立の全体像と流れ
株式会社の設立は、大きく分けて「会社の実体を形成する手続き」と、最後に「法人格を付与するための登記手続き」の2段階で構成されます。会社の実体を形成するプロセスは、次の3つの主要な要素から成り立っています。
1.2.1 第1段階:会社の実体を形成する3つの要素
会社の設立手続きの中核をなすのが、この「実体形成」のプロセスです。会社という組織が法的に成立するためには、次の3つの要素が不可欠とされています。
① 会社の根本規則(定款)の作成
定款は「会社の憲法」とも呼ばれる最も基本的なルールブックです。ここには、会社の商号や事業目的、本店所在地といった会社の骨格となる重要事項を定めます。定款を作成することで、会社の基本的な枠組みが決まります。
② 社員(株主)の確定と出資の履行
次に、会社のオーナーとなる「株主」を確定させます。そして、その株主が会社の資本となる資金を払い込む「出資の履行」を行います。
株式会社では、この出資が会社の事業活動の基盤となるため、設立段階での完全な履行が厳格に求められるのです。
③ 会社の機関の設置
最後に、会社を実際に運営していくための「機関」を設置します。具体的には、業務執行を担当する取締役などの役員を選任します。会社は法律上の存在(法人)であるため、その意思を決定し、対外的に活動を行うための執行機関が不可欠だからです。
1.2.2 第2段階:設立登記による法人格の取得
会社の根本規則(定款)の作成、社員(株主)の確定と出資の履行、会社の機関の設置という3つの要素を満たし、会社の実体が形成された後、最終ステップとして、本店所在地を管轄する法務局に「設立登記」を申請します。
この登記が完了した日をもって、正式に株式会社が成立します。
日本の法制では「準則主義」という考え方が採用されています。これは、法律で定められた手続きをすべて遵守すれば、行政官庁の許可や認可がなくても誰でも確実に会社を設立できるという仕組みです。おかげで起業家は設立までの見通しが立てやすく、ビジネスチャンスを逃さずに事業をスタートできるというメリットがあります。
1.3 個人事業主との違いは?発起設立と募集設立とは?
個人事業主が法人化を検討する際、まず理解すべきは「法人格」の有無という根本的な違いです。また、株式会社を設立するには法律で定められた2つの方法があり、どちらを選択するかで手続きの進め方やスピードが大きく変わります。
1.3.1 個人事業主との最大の違いは「法人格」
個人事業と株式会社の最も大きな違いは、株式会社が設立の登記を行うことで法律上の「法人格」を取得する点にあります。
法人格を持つことで、会社は事業主個人とは別人格の権利と義務の主体となり、会社名義で契約を結んだり、財産を所有したりといった様々な活動ができるようになります。
1.3.2 株式会社の2つの設立方法:「発起設立」と「募集設立」
株式会社の設立方法には、会社法で定められた「発起設立」と「募集設立」の2種類が存在します。
どちらの方法も、会社設立を企画する「発起人」が手続きの中心を担い、発起人は最低1株を引き受ける必要があります。
① 発起設立とは
発起設立とは、発起人が、会社設立に際して発行される株式のすべてを引き受ける方法です。つまり、設立時の株主は発起人のみとなります。
出資者が発起人に限定されるため、発起人以外の関係者への配慮をあまり必要とせず、手続きが比較的シンプルで簡易なのが特徴です。この手軽さから、実務上、設立される会社の圧倒的多数がこの発起設立の方法を採用しています。
② 募集設立とは
募集設立とは、発起人が設立時発行株式の一部を引き受けるにとどまり、残りの株式については、発起人以外の者から広く株主を募集する方法です。
発起人自身の出資に加えて、外部の投資家からも資金を募ることができるため、大規模な資本金を集めやすいという利点があります。
一方で、発起人としての責任を負わない一般の出資者を保護するため、厳格な法的規制が課されています。たとえば、出資者全員が参加する「創立総会」の開催が義務付けられるなど、手続きの手間が大幅に増えることを覚悟する必要があります。

2. 株式会社設立にかかる費用と期間の目安
ここでは、設立手続きに必要となる費用の内訳と、設立方法によって異なる期間の目安について、具体的な数字を交えて詳しく解説します。
2.1 費用の総額
株式会社の設立には、法律で定められた「法定費用」と、それ以外に状況に応じて発生する「その他の費用」があります。資本金の額を1円とした場合でも、最低でも20万円程度の費用が必要です。
法定費用
| 費用項目 | 金額・率 | 備考 |
|---|---|---|
| 公証人の定款認証手数料 | 3万円~5万円 | 公証役場で定款認証を受ける際に必要。資本金100万円未満は3万円、100万円以上300万円未満は4万円、その他の場合は5万円 |
| 定款に貼付する収入印紙代 | 4万円 | 紙の定款の場合に必要 電子定款なら不要 |
| 登録免許税 | 資本金の0.7%(1000分の7)※最低額15万円 | 登録免許税の算出額が15万円未満の場合は一律15万円 |
| 定款の謄本手数料 | 1枚あたり約250円 | 公証役場で認証済み定款の写しを取得する際に必要 |
その他費用
| 費用項目 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 会社実印の作成費用 | 約1万〜5万円 | 印鑑セット(代表印・銀行印など)の種類により異なる |
| 専門家への依頼費用 | 約10万〜20万円 | 司法書士や弁護士に手続きを依頼する場合の報酬 |
| 払込金保管証明書の発行費用 | 払込資本金×0.3%程度 | 銀行で発行。募集設立の場合に必要 |
| 株式払込事務取扱手数料 | 払込資本金×約0.25% | 銀行などでの払込事務に対する手数料(募集設立の場合) |
| その他 | 実費・手数料等 | 定款変更や書類郵送などで発生する場合あり |
※払込金保管証明書の発行費用や株式払込事務取扱手数料は、最低金額が決められていることがあります。
2.2 期間の目安
株式会社の設立には、事前準備から登記完了まで最短でも2週間前後、一般的には4〜5週間ほどを見込むのが現実的です。
2.2.1 発起設立の場合
発起人がすべての株式を引き受ける「発起設立」は、手続きが比較的シンプルなため、書類の内容を整えておけば、最短1週間〜10日程度で登記完了することも可能です。
ただし、定款認証や資本金の払込みなどを含めると、実務上は2〜3週間前後が目安としておいた方がよいでしょう。
2.2.2 募集設立の場合
外部から株主を募る「募集設立」は、創立総会の開催や払込金保管証明書の取得、株式払込事務などの手続きが必要なため、おおむね4週間〜5週間程度を要します。
関係者のスケジュール調整を含めると、発起設立より長めの期間を想定しておくべきです。
3. 【事前準備】会社設立手続きの前に決めることや必要なもの
設立手続きをスムーズに進めるためには、事前の準備が不可欠です。定款に記載する会社の基本情報や、資本金、役員構成などをあらかじめ決定しておく必要があります。
3.1 会社の基本情報(商号・事業目的など)の決定
会社設立の準備においてまず行うべきことは、会社の基本情報を決めることです。商号(会社名)や事業目的、本店所在地、資本金の金額、発起人の氏名などは、のちに「定款」へ記載する内容となるため、ここでしっかり決めておく必要があります。
この「定款」は、会社の根本規則をまとめた「会社の設計図」のようなものです。定款には、会社法で定められた3つの種類の記載事項があります。
- ① 絶対的記載事項:必ず記載しなければならない内容
- ② 相対的記載事項:記載して初めて法的効力が生じる内容
- ③ 任意的記載事項:会社が任意で定められる内容
ここでは、これら3つの記載事項について、それぞれどのような内容を決めておくべきかを確認していきましょう。
3.1.1 絶対的記載事項
絶対的記載事項は、定款に必ず記載しなければならない項目です。この記載を一つでも欠くと、定款そのものが無効となってしまいます。必ず漏れなく記載しましょう。
絶対的記載事項
| 項目 | 内容 | 補足 |
|---|---|---|
| 目的(事業目的) | 会社がどのような事業を行うかを定める | 将来行う可能性のある事業も複数記載し、最後に「その他これに附帯する事業を行う」と加えるのが一般的 |
| 商号 | 会社の名称 | 「株式会社」という文字を必ず含める。商号の重複や誤認を避けることも大切 |
| 本店所在地 | 会社の住所 | 定款には市区町村(例:千葉市)までの記載で足りる |
| 出資財産の価額または最低額 | 設立時の資本金の金額、またはその最低額 | 出資額に基づいて登録免許税が決まるため、誤記に注意 |
| 発起人の氏名・住所 | 会社設立を企画した発起人の情報 | 全員の氏名と住所を正確に記載する必要あり |
3.1.2 相対的記載事項
相対的記載事項は、定款に記載しなくても定款自体は有効ですが、記載しなければ効力が生じない事項です。会社の運営上、必要に応じて定めておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
相対的記載事項の例
| 項目 | 内容 | 補足 |
|---|---|---|
| 株式の譲渡制限に関する定め | 株式を譲渡する際に会社の承認を必要とする規定 | 非公開会社では必ず定めておくのが一般的 |
| 変態設立事項(現物出資・財産引受など) | 発起人が金銭以外の財産を出資する場合や、会社が特定の財産を取得する場合 | 記載がないと無効。裁判所の選任する検査役の調査が必要なケースもある |
| 取締役の資格を株主に限定する定め | 取締役になれる者を「株主」に限定するルール | 株主総会のコントロールを発起人に維持させたい場合などに利用 |
| 取締役等の責任の一部免除に関する定め | 一定の条件下で取締役・監査役の損害賠償責任を軽減する定め | 会社法の範囲内で、取締役会・株主総会の承認により有効化される |
3.1.3 任意的記載事項
任意的記載事項とは、定款に記載せず、株主総会の決議など他の方法で定めても有効ですが、会社の意思で任意に定款に記載することができるものです。会社の根本規範である定款に記載することで、その事項を明確にするなどの効果があります。
任意的記載事項の例
| 項目 | 内容 | 補足 |
|---|---|---|
| 事業年度 | 会社の会計期間を定める | 通常は「毎年4月1日から翌年3月31日まで」などと記載 |
| 定時株主総会の招集時期 | 株主総会をいつ開催するかを定める | 事業年度末から3か月以内に開催するのが一般的 |
| 取締役や監査役の員数 | 取締役・監査役の上限・下限を定める | 将来的な組織変更に備えて幅を持たせておくとよい |
| 株主総会の議長 | 株主総会の議事を主宰する者を定める | 通常は「代表取締役を議長とする」と記載 |
3.2 資本金や役員構成の決定
会社の財産的な基盤と、実際に会社を動かしていく組織体制を決定します。
ここで決める内容の一部は、前項で紹介した定款の記載事項にも関係しています。すでに定款で定める項目を確認済みであれば、次はその内容を実際の金額や人選として確定していく段階になります。
3.2.1 資本金に関する事項
株式会社の設立に際して、次の事項は、定款に定めがない限り、発起人全員の同意によって決定する必要があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発起人が割り当てを受ける設立時発行株式の数 | 各発起人が引き受ける株式の数を決定します |
| 設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額(出資金の額) | 実際に払い込む金額を定めます |
| 設立後の資本金および資本準備金の額 | 払い込まれた出資金のうち、資本金と資本準備金に振り分ける金額を決定します |
これらの事項は、定款に直接記載することも可能であり、その場合は発起人による別途の決定は不要となります。実務上は、定款に附則として記載することで、同意書などの作成の手間を省くことも多いです。
3.2.2 役員構成に関する事項
会社の業務執行を担う役員(取締役・監査役など)を決定します。
役員の構成や選任方法は、定款で定めることも可能ですが、定めがない場合は発起人の決議によって選任します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設立時役員の選任 | 設立時の取締役や監査役を選任します。定款で直接定める場合を除き、発起人が出資の履行完了後に遅滞なく選任します |
| 設立時代表取締役の選定 | 取締役会を設置する場合は、設立時取締役の中から過半数の決議で代表取締役を選定します |
3.3 準備段階の必要書類(印鑑証明書など)と会社実印の作成
会社設立の手続きを円滑に進めるためには、会社の「顔」となる印鑑の作成と、必要な証明書類の準備を事前に済ませておくことが大切です。
これらの準備をしておくことで、定款認証や登記申請などの手続きがスムーズに進みます。
3.3.1 会社印鑑の作成と準備
まずは印鑑の作成です。法務局に登録する「会社実印(代表印)」は必ず必要であり、これが会社の「正式な印」となります。
さらに、金融機関との取引で使う銀行印、日常業務で使う印鑑なども同時に作成しておくと、設立後の手続きがスムーズです。
| 印鑑の種類 | 主な用途 | 補足 |
|---|---|---|
| 会社実印(代表印) | 登記申請・重要な契約など、会社の意思を正式に示す際に使用 | 登記時に法務局へ届け出 |
| 銀行印 | 銀行口座の開設、預金払出、手形・小切手の振出など | 実印とは別に作成し、金融取引専用に使用することでリスクを分散 |
| 社印(角印) | 請求書・領収書・見積書など日常業務の書類に押印 | 「〇〇株式会社之印」と刻印された印 |
| ゴム印 | 会社名や所在地などのスタンプ | 書類記入の手間を省けるため、併せて用意すると便利 |
3.3.2 必要となる証明書類の準備
株式会社設立時には、発起人や設立時役員の本人確認や意思確認のため、印鑑証明書などの公的書類も必要です。
| 書類 | 対象 | 用途・補足 |
|---|---|---|
| 発起人の印鑑証明書 | 発起人全員 | 定款の認証時に必要。作成後3か月以内のものを提出。発起人が実印で押印する際に添付 |
| 設立時取締役の印鑑証明書 | 設立時に就任する取締役・監査役など | 就任承諾書や登記申請書に添付。資本金の払込手続を銀行に委託する際にも求められることがある |
| 法人発起人の登記事項証明書 | 発起人が法人の場合 | 法人の登記情報を証明する書類。代表者個人の印鑑証明書と併せて提出が必要 |
4. 【手続き】株式会社設立の具体的な流れと必要書類
事前準備が整ったら、いよいよ法的な手続きに入ります。ここでは、発起設立を例に、具体的な4つのステップを解説します。
4.1 ステップ1:定款の作成と認証
まず、事前に決めた会社の基本情報をもとに「定款」を作成します。発起人全員がこれに署名または記名押印します。
作成した定款は、本店所在地を管轄する公証役場に持ち込み、「公証人」による認証を受けなければなりません。これは株式会社の設立に必須の手続きです。
定款認証に必要な主な書類は、次のとおりです。
- 定款:3部(公証役場保管用、登記申請用、会社保管用)
- 発起人全員の印鑑証明書
- 発起人全員の実印
- 収入印紙(4万円)※電子定款の場合は不要
- 認証手数料(1万5000円~5万円)
- 謄本代:1通250円
- 代理人が申請する場合は委任状
- 実質的支配者となるべき者の申告書
4.2 ステップ2:資本金の払込み
定款認証後、発起人は引き受けた株式の対価として、資本金を払い込みます。この手続きは、設立方法によって証明方法が異なります。
① 発起設立の場合
発起人(または設立時代表取締役)名義の銀行口座に資本金を振り込みます。通帳のコピーが払込みの証明になるため、手続きはシンプルです。
② 募集設立の場合
銀行と「払込金保管事務委託契約」を締結した上で、払込取扱銀行に資本金を払い込み、銀行から「払込金保管証明書」を発行してもらう必要があります。
4.3 ステップ3:設立登記の必要書類作成【チェックリスト】
資本金の払込みが完了したら、法務局に提出する設立登記の申請書類一式を準備します。不備があると手続きが遅れるため、慎重に作成・収集しましょう。
| No. | 必要書類 | |
|---|---|---|
| 1 | 設立登記申請書 | ☐ |
| 2 | 登録免許税納付用台紙(収入印紙を貼付) | ☐ |
| 3 | 認証済みの定款 | ☐ |
| 4 | 払込みがあったことを証する書面(通帳のコピーなど) | ☐ |
| 5 | 発起人決定書(該当する場合) | ☐ |
| 6 | 設立時取締役、設立時監査役の就任承諾書 | ☐ |
| 7 | 設立時代表取締役の印鑑証明書(※取締役会を設置しない場合は、取締役全員分) | ☐ |
| 8 | 設立時取締役による調査書 | ☐ |
| 9 | 印鑑届出書 | ☐ |
| 10 | 「登記すべき事項」を記載した書面 | ☐ |
4.4 ステップ4:法務局への設立登記申請
すべての必要書類が揃ったら、会社の本店所在地を管轄する法務局に設立登記の申請を行います。この登記申請日が、正式な会社の設立日となります。
- 申請者:代表取締役
- 申請期限:設立時取締役の調査終了日または発起人が定めた日から2週間以内
- 申請方法:窓口提出、郵送、オンライン申請(事前準備が必要)
申請時には、資本金の額に応じた登録免許税を納付します。税額は資本金の0.7%で、15万円に満たない場合は一律15万円です。収入印紙を「登録免許税納付用台紙」に貼付して提出します。
通常は1週間〜10日ほどで登記が完了し、その時点で会社が正式に成立します。

5. 【設立後】登記完了後にやるべき手続きの流れ
登記が完了してからも、事業を本格的に開始するにはいくつかの手続きが残っています。
5.1 各種証明書の取得と法人口座の開設
登記が完了したら、法務局で次の書類を取得します。これらは、法人口座の開設や各種届出に必要となります。
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
- 印鑑証明書
- 印鑑カード
これらの書類を使って法人口座(会社名義口座)を開設します。法人口座があることで、会社と個人の資金が明確に区分され、企業の信用度も向上するでしょう。銀行によって必要書類や審査基準が異なるため、事前にウェブサイトなどで確認しておくと安心です。
5.2 税務・社会保険関連の届出
会社を設立した後は、税務署や自治体、年金事務所などへの届出が必要です。提出期限があるため、漏れのないように計画的に進めましょう。
5.2.1 主な税務手続き
① 法人設立届出書
- 提出先:税務署・都道府県税事務所・市町村役場
- 提出期限:設立登記日から2か月以内
- 備考:定款・登記事項証明書などを添付
② 青色申告承認申請書
- 提出先:税務署
- 提出期限:設立から3か月以内または第1期事業年度終了日の早い方
- 備考:税制上の優遇を受けるために提出
③ 給与支払事務所等の開設届出書
- 提出先:税務署
- 提出期限:給与支払い開始から1か月以内
- 備考:役員報酬・従業員給与を支払う場合
5.2.2 主な社会保険・労働保険の手続き
① 社会保険(健康保険・厚生年金保険)
- 対象:代表者1人でも加入義務あり(法人の場合)
- 手続き先:年金事務所
- 提出期限・タイミング:会社設立後すみやかに
- 主な添付書類・備考:登記事項証明書、定款の写し、会社印など
② 労災保険(労働者災害補償保険)
- 対象:従業員を1人でも雇う場合
- 手続き先:労働基準監督署
- 提出期限・タイミング:雇用開始後すぐ
- 主な添付書類・備考:労働保険関係成立届、労働保険概算保険料申告書など
③ 雇用保険
- 対象:雇用保険の被保険者となる従業員がいる場合
- 手続き先:ハローワーク
- 提出期限・タイミング:雇用開始後10日以内
- 主な添付書類・備考:雇用保険適用事業所設置届、被保険者資格取得届など
5.3 必要に応じた許認可の申請
株式会社の設立自体は、法律の要件を満たせばよく、行政の許認可は不要です。しかし、行う事業の内容によっては、事業を開始する前に国や都道府県などから許認可を得なければなりません(例:建設業、飲食業、古物商など)。
自社の事業に許認可が必要かどうかを事前に確認し、設立後速やかに申請手続きを進めましょう。
6. 会社設立で失敗しないための注意点
ここでは、設立時によくある失敗や注意点を整理し、スムーズに設立を進めるためのポイントを解説します。

6.1 資本金を決める際の注意点
会社法上、資本金は1円でも設立できますが、実務上は注意が必要です。資本金は、設立当初の会社の運転資金となります。事業が軌道に乗るまでの数か月間の経費(家賃、人件費、仕入れ費など)を賄えるだけの金額を準備しておくことが望ましいでしょう。
事業計画を立て、必要な資金額を算出した上で資本金の額を決定することが重要です。
6.2 本店所在地や事業目的を決める際の注意点
本店所在地と商号の組み合わせは、会社の個別な識別情報となります。同一本店所在地に同一商号の会社は登記できません。また、他社の有名な商号と酷似していると、不正競争防止法などにより商号の使用差し止めを請求されるリスクもあるため、商号調査を慎重に行いましょう。
事業目的は、将来行う可能性のある事業も幅広く記載しておくことが一般的です。ただし、許認可が必要な事業を行う場合は、許認可の要件に合致した文言を正確に記載する必要があります。
6.3 専門家に依頼すべき?自分で行う場合の注意点
会社設立の手続きは、法律に従えば自分で行うことも可能です。ただし、多くの書類作成や法的なチェックポイントがあり、特に初心者にとっては時間と手間がかかるのが現実です。オンライン申請も選択肢ですが、電子証明書の取得など、事前準備に費用と時間を要する場合があります。
一方、司法書士や弁護士などの専門家に依頼すれば、手数料はかかりますが、手続きを正確かつ迅速に進めることが可能です。定款の内容に関する法的なアドバイスを受けられるなど、設立後の事業運営を見据えたサポートも受けることができます。時間的なコストや手続きの確実性を考慮して、専門家への依頼を検討するのも一つの有効な選択肢です。
7. まとめ:ポイントを押さえてスムーズな会社設立を
株式会社の設立は、会社の基本事項の決定から始まり、定款の作成・認証、資本金の払込み、そして法務局への設立登記申請という流れで進みます。
1つ1つのステップを着実に踏むことで、誰でも会社を設立することができます。しかし、手続きには専門的な知識が求められる場面も少なくありません。もし手続きに不安を感じたり、本業に集中しながらスムーズに会社を立ち上げたいとお考えでしたら、専門家に相談するのが安心です。
よつば総合法律事務所には、企業法務の経験が豊富な弁護士が多数在籍しています。会社設立に関するご相談はもちろん、設立後の契約・労務なども含めてサポートいたします。ぜひお気軽にご相談ください。





