売掛金や貸金がなかなか回収できず、お困りではありませんか?
取引先との話し合いで解決できない場合には、「民事訴訟」という法的手段によって債権を回収することが可能です。
民事訴訟とは、裁判所を通じて相手方に支払いを命じる正式な手続きで、十分な証拠があれば、判決後に強制執行に進むこともできます。
この記事では、債権回収のために民事訴訟を検討している方に向けて、手続きの流れやメリット・デメリット、費用の目安、注意点などを弁護士がわかりやすく解説します。
目次
1. 民事訴訟とは?
民事訴訟とは、個人や会社同士の間で起きた法律上の争いを、裁判所で解決するための手続きです。
裁判所では、まず原告(訴える側)が請求内容を訴状にまとめて提出し、それに対して被告(訴えられた側)が答弁書で反論します。
お互いの主張や証拠をもとに、裁判官が最終的な判断(判決)を下すことで、法律的に問題の解決を図ります。
対象となるのは、主に「財産に関するトラブル」です。
たとえば、売掛金や貸金の回収、不動産の明け渡し、交通事故の損害賠償請求などが挙げられます。
訴額が140万円以下の場合は「簡易裁判所」、それを超える場合は「地方裁判所」が担当します。
また、訴訟の途中で裁判官が「和解」を勧めることもあります。
双方が話し合いで合意すれば、和解調書が作成され、判決と同じように強制執行の手続きが可能になります。
このように、民事訴訟は、交渉では解決できなかったトラブルに対し、最終的な法的判断をもって解決を目指す重要な制度です。
1.1 民事訴訟を利用するケース
民事訴訟は、企業同士の取引トラブルや、個人間のお金に関するもめごとなど、さまざまな場面で利用されています。
たとえば、次のようなケースです。
- 商品を納品したのに、取引先が代金を支払わない
- 貸付契約に基づいて資金を貸したが、返済期限を過ぎても返してもらえない
- 賃借人が家賃を滞納し、退去にも応じない
- 業務委託契約に従って仕事を完了したのに、報酬が支払われない
- 交通事故など、不法行為による損害賠償請求を行いたい
このように、契約を守ってもらえない場合や、事故などで損害を受けたときに、民事訴訟を通じて解決を目指すことができます。
民事訴訟は、会社でも個人でも利用できます。
裁判所に訴えるためには、「何を理由に、どんな請求をしたいのか」がはっきりしている必要があります。
たとえば、「いつ、どのような契約をしたのか」「相手がいかにして約束を破ったのか」といった、トラブルの根拠が必要になります。
1.2 債権回収で民事訴訟が必要な理由
民事訴訟は、強制執行に進むための「債務名義」を得る手段の一つであり、最終的に確実な債権回収を実現するために必要な手続きです。
相手が支払いに応じなかったり、交渉自体を拒否したりする場合、話し合いによる解決には限界があります。
そこで必要になるのが、裁判所に支払いを命じてもらう民事訴訟です。
訴訟で勝訴すれば、債権回収に必要な法的根拠となる「債務名義」を取得できます。
債務名義とは、裁判所の判決や和解調書、公正証書など、相手に金銭の支払いを命じる効力を持つ文書です。
この債務名義があれば、相手が任意に支払わない場合でも、裁判所を通じて相手の給与・預金・不動産などの財産を差し押さえる強制執行が可能になります。
つまり、民事訴訟は、任意の支払いが見込めない相手に対して、法的に強制力を持って債権を回収するための土台となる重要な手段と言えるでしょう。

2. 債権回収における民事訴訟の流れ
民事訴訟を使った債権回収は、一定の手順に沿って進みます。
ここでは、実際に訴訟を起こしてから判決が出るまでの基本的な流れを説明します。
2.1 訴状の作成と提出
まずは「訴状」を作ります。
訴状とは、裁判所に「なぜお金を請求したいのか」「相手に何をしてほしいのか」を伝えるための書類です。
請求額やその理由、契約内容、未払いになった経緯などを整理して書きます。
作成した訴状は、裁判所に提出します。
このとき、契約書や請求書など、請求内容を裏付ける「証拠書類」も一緒に出すのが一般的です。
2.2 裁判期日
訴状が受理されると、裁判所から相手(被告)に訴状が送られます。
あわせて、「期日呼出状」という書類で裁判の日程も通知されます。
初回の裁判(第1回期日)では、お互いの主張を確認します。
相手は「答弁書」という書類で反論してくることがあり、それをもとに今後の争点が整理されていきます。
第1回期日が終わると、当事者は「準備書面」を使って主張を整理し、証拠を追加で出していくやりとりが続きます。
期日は通常、1~2か月ごとに設定され、数回にわたって審理が行われます。
2.3 和解
裁判の途中で、裁判官から「和解しませんか」と提案されることがあります。
和解とは、当事者同士が話し合いで解決することです。
金額を減らしたり、分割払いにしたりといった柔軟な合意が可能です。
和解が成立すると「和解調書」が作られます。
この文書は、判決と同じ効力があり、相手が約束を守らない場合は、強制執行(差押え)もできます。
2.4 判決
和解がまとまらなければ、最終的には裁判所が「判決」を下します。
判決は、今まで提出された書類や証拠、証人尋問などをもとに裁判所が下す判断です。
判決により請求が認められれば、債権者は「債務名義」を得ることができます。
これを使えば、相手の口座や給料などを差し押さえて、強制的に回収することが可能になります。
3. 強制執行
民事訴訟で勝訴しても、相手が支払いに応じないことは少なくありません。
そのような場合には、「強制執行」という法的手続きを利用します。
強制執行とは、裁判で得た判決文や和解調書(債務名義)をもとに、相手の財産を差し押さえて債権を回収する制度です。
たとえば、預金口座の差押え、給料の一部回収、不動産の競売などが挙げられます。
ただし、差押えを実行するには、相手の財産状況を把握している必要があります。
どこに口座があるか、勤務先がどこかなど、事前の情報収集が重要です。
強制執行は、判決後の最終的な回収手段として、債権者にとって非常に有効な制度です。
4. 民事訴訟のメリットとデメリット
民事訴訟は、債権回収の手段として非常に強力ですが、その分だけ準備や時間も必要になります。
ここでは、実際に利用する前に知っておきたいメリットとデメリットを整理して解説します。
4.1 民事訴訟のメリット
民事訴訟は、「法的に確実な債権回収」を目指す場合に有効な手段です。
ここでは、民事訴訟を利用することで得られる主なメリットを5つに分けて解説します。
① 裁判で正式に支払いを命じてもらえる
民事訴訟で勝訴すると、裁判所から「支払いをしなさい」という命令(判決)を受け取ることができます。
この判決には、法的な強制力があります。
相手が任意に支払わない場合でも、判決をもとに強制執行を申し立てることが可能です。
② 判決によって白黒がはっきりする
話し合いでは解決できなかった案件に対して、裁判を通じて裁判官が最終的な判断を下してくれます。
そのため、どちらの主張が正しいかを第三者に判断してもらうことができ、長年のトラブルに終止符を打つことができます。
③ 和解での解決も可能
裁判といっても、すべてが判決まで進むわけではありません。多くのケースでは、途中で裁判所から「和解」をすすめられます。
和解が成立すると「和解調書」が作成され、これも債務名義として強制執行が可能になります。
④ 債務名義には時効延長の効果もある
判決を得ると、もともと短い消滅時効(例:5年)であった債権についても、時効が10年に延びるという大きなメリットがあります。
これは、回収を長期にわたって継続できるという点で大きな利点です。
⑤ 相手の居場所が不明でも手続きできる
訴状を送る相手の住所がわからない場合でも、「公示送達」という方法で裁判を進めることができます。
これは、裁判所の掲示板などを使って通知する特別な制度で、住所不明でも手続きが止まることはありません。
4.2 民事訴訟のデメリット
民事訴訟には多くのメリットがありますが、その一方で注意すべきデメリットも存在します。
債権回収の手段として選ぶ際には、次のような点に留意する必要があります。
① 裁判には時間がかかる
民事訴訟は一度で終わるものではなく、複数回の期日が設定されるのが一般的です。
相手と争点が多い場合は、半年から2年以上かかることもあります。
時間がかかる分、当事者の業務負担も増えることになります。
② 書類や証拠の準備が大変
民事訴訟では、契約書や請求書、メールのやりとり、納品書など、請求の正当性を裏付ける証拠をすべて揃えておく必要があります。
この準備には手間も時間もかかり、不備や抜けがあると致命的な影響を及ぼすことがあります。
③ 費用がかかる
裁判には、印紙代や郵便切手代といった実費がかかります。
また、弁護士に依頼する場合は、別途弁護士費用も必要です。
④ 相手の支払い能力に依存する
民事訴訟で勝訴しても、相手に支払い能力がなければ、実際にお金を回収することはできません。
預金や給与、不動産など差し押さえ可能な財産がなければ、強制執行に進んでも効果がなく、事実上の取り損となる恐れがあります。
このような場合、訴訟にかけたコストが無駄になってしまい、かえって費用倒れになるリスクもあります。
5. 債権回収のポイントと注意点
債権回収を成功させるには、裁判に踏み切る前の準備と判断が非常に重要です。
ここでは、回収の可能性を高めるために押さえておきたい実務上のポイントや注意点を解説します。
5.1 証拠の準備や管理
裁判で債権を主張するには、請求の根拠となる証拠が必要です。
たとえば、契約書、請求書、納品書、支払いの記録、メールやチャットのやり取りなどが該当します。
これらの証拠は、時系列に整理し、必要に応じてコピーを取っておくことが望ましいです。
また、電子データの場合は、改ざん防止のために保存方法にも注意が必要です。
5.2 相手の財産状況の確認
判決を得ても、相手に財産がなければ回収は困難です。
そのため、事前に相手の財産状況を把握することが重要です。
具体的には、不動産の登記情報、勤務先、銀行口座、車両の所有状況などを調査します。
これらの情報は、強制執行の際に必要となります。
5.3 裁判をするかしないかの選択
裁判には時間と費用がかかります。そのため、回収可能性や相手の支払い能力を考慮し、裁判を起こすかどうかを判断する必要があります。
場合によっては、内容証明郵便の送付や、簡易な手続きである支払督促など、他の手段を検討することも有効です。
6. 民事訴訟にかかる費用と期間の目安
民事訴訟を検討する際は、かかる費用や手続きの期間を事前に把握しておくことが大切です。
ここでは、民事訴訟に必要な代表的な費用と、解決までにかかるおおよその期間について解説します。
6.1 印紙代や弁護士費用
民事訴訟には、裁判所に支払う費用(印紙代・郵便切手代など)と、弁護士に依頼する場合の費用がかかります。
① 収入印紙代
訴える金額(請求額)に応じて印紙代が決まります。
目安は次のとおりです。
| 請求金額の目安 | 印紙代(目安) |
|---|---|
| 10万円 | 1,000円 |
| 50万円 | 5,000円 |
| 100万円 | 10,000円 |
| 500万円 | 30,000円 |
| 1000万円 | 50,000円 |
② 郵便切手代
裁判所が書類を当事者に送るための切手代も必要です。
1人の被告あたり、6,000~8,000円ほどが一般的です。
③ 弁護士費用
弁護士に依頼した場合、次のような費用が発生します(いずれも目安)。
- 相談料:5,000~20,000円(30分~1時間)
- 着手金:裁判なら20万円前後~(金額に応じて変動)
- 成功報酬:回収できた金額の10~30%程度
6.2 訴訟の一般的な期間
民事訴訟が終わるまでにかかる期間は、案件の内容や相手の対応によって大きく異なります。
相手方が期日に出廷せず、特に争う姿勢を見せなかったようなケースでは、比較的短期間で判決に至ることもあります。
一方で、相手が争う姿勢を見せて主張や反論を繰り返すような事案では、半年から2年程度の期間がかかるのが一般的です。
さらに、次のようなケースでは、審理が長期化しやすい傾向にあります。
- 工事代金の請求で、相手が施工不良(瑕疵)を主張する場合
- システム開発代金の請求で、成果物に不具合があると争われる場合
- 契約書が存在せず、口頭でのやり取りだけで契約が成立していたケース
- 契約内容や債務の履行状況について証人尋問や専門家による鑑定が必要な場合
このように、訴訟が長引くかどうかは事前の証拠準備や主張の整理にも左右されます。
スムーズに進めるためには、請求の根拠となる書類を揃えておくことが重要です。
また、どの程度の期間がかかるかについては、事前に弁護士と方針を共有し、見通しを立てておくと安心です。
7. 債権回収を弁護士に依頼するメリット
債権回収を進めるうえで、弁護士に依頼することには多くのメリットがあります。
とくに、相手が支払いに応じず、裁判や強制執行といった法的手段を検討している場合には、弁護士のサポートが非常に心強いものになります。
7.1 相手に本気度を示すことで早期解決が見込める
弁護士を通じて訴訟を起こすと、相手に対して「本気で回収するつもりだ」という強いメッセージが伝わります。
実際、訴状に弁護士の名前が記載されているだけで、債務者が真剣に対応を始めるケースも多くあります。
このプレッシャーによって、訴訟に入る前、あるいは訴訟中でも、相手が和解に応じてくる可能性が高まります。
その結果、無駄に長引かず、早期の回収につながることも少なくありません。
7.2 複雑な書類作成を任せられる
裁判を起こすには、訴状や証拠説明書、当事者目録など、法律に沿った書類を準備する必要があります。
これらの文書は、形式や内容に不備があると受理されなかったり、訴訟の中で不利になったりすることもあります。
弁護士に依頼すれば、こうした書類作成をすべて任せることができます。
法律の知識を前提とした、戦略的な内容で提出できるため、自分で準備するよりも安心です。
7.3 手続きの負担を軽減できる
裁判が始まると、複数回の期日に出席したり、主張や証拠を提出したりと、多くの対応が求められます。
会社の経営者や担当者が本業と並行して対応するのは、大きな負担です。
弁護士に依頼すれば、こうした裁判対応や事務手続を代理してもらうことができ、自分で裁判所に出向く必要も基本的にはありません。
時間と労力の負担を大きく減らせるのも、弁護士に任せる大きなメリットの一つです。

8. 民事訴訟に関するよくあるご質問
ここでは、民事訴訟に関して、よくいただくご質問に対してご回答します。
8.1 相手が裁判に出てこなかったらどうなる?
被告(債務者)が裁判に出廷せず、答弁書の提出もない場合、裁判所は原告の主張のみを審理し、判決を下すことができます。
これを「欠席判決」と呼びます。証拠が揃っていれば、原告が勝訴となる可能性は高いといえます。
ただし、証拠が不足していたり、請求内容があいまいだったりすると、必ずしも勝てるとは限りません。
相手が欠席しても、裁判に勝つには十分な準備が必要です。
8.2 相手が支払いに応じなかったらどうする?
判決で支払いが命じられても、相手が支払わないこともあります。
その場合は、「強制執行」という手続きを使って、相手の財産を差し押さえることができます。
たとえば、相手の銀行口座や給与、不動産などを差し押さえて、回収にあてることが可能です。
このように、支払いを確実に受けるためには、判決後も適切な手続きを講じることが重要です。
8.3 裁判に勝ったら、確実にお金を回収できる?
残念ながら、裁判に勝っても、相手に財産がなければお金を回収できないことがあります。
そのため、訴訟を起こす前に、相手に預貯金や給与、不動産などの財産があるかを事前に調べておくことが大切です。
調査の方法については、弁護士に相談するのがおすすめです。
8.4 強制執行とは具体的に何が行われる?
強制執行とは、相手が判決に従ってお金を支払わない場合に、裁判所を通じて相手の財産を差し押さえ、そこから強制的に債権を回収する手続きのことです。
判決や和解調書など、いわゆる「債務名義」があることで、この手続きを行うことができます。
強制執行には、差し押さえる対象によっていくつかの種類があります。主なものを紹介します。
① 銀行口座の差押え
相手が金融機関に預けている預金口座を差し押さえる方法です。
口座に残高があれば、その中から債権額に相当する金額を引き出すことができます。
差押えを行うには、原則として金融機関名・支店名まで特定する必要があります。
② 給与の差押え
相手が会社に勤めている場合、その給与の一部を差し押さえる方法です。
会社(勤務先)に通知を出し、毎月一定額を原告に支払わせることが可能です。
差押え可能額には上限があり、法律で保護されています。
③ 不動産の差押え・競売
相手が土地や建物などの不動産を所有している場合、それを差し押さえたうえで、裁判所を通じて競売(オークション)にかけ、売却代金から回収します。
土地建物がどこにあるかわかっていれば、不動産登記簿から所有関係を調査することが可能です。
④ 動産(車・機械・貴金属など)の差押え
相手が所有している車や機械、宝石・貴金属・高級家具などの動産を差し押さえることも可能です。
これらも競売にかけて換金し、債権の回収にあてます。
8.5 時効にならないようにする注意点は?
債権には「時効」があり、一定の期間が過ぎると相手に請求できなくなります。
多くの債権では、最後の支払いや請求から5年が時効の目安です。
ただし、時効を止める方法もあります。
たとえば、次のような方法で時効の進行を止めることができます。
- 内容証明郵便で請求する
- 相手に一部でも支払ってもらう
- 裁判を起こす(訴訟提起)
請求が遅れると回収ができなくなるリスクがあるため、早めの対応が大切です。
9. 債権回収の民事訴訟は弁護士に相談
民事訴訟による債権回収では、証拠の整理や手続きへの対応などに専門的な知識が求められ、実務上の負担も少なくありません。
さらに、訴訟が長引けば、時間的・精神的なストレスも大きくなりがちです。
こうした状況を確実かつ効率的に乗り越えるためには、早めに弁護士へ相談することが重要です。
弁護士に依頼すれば、訴状の作成や裁判所とのやり取り、強制執行の手続きまで一貫して任せることができます。
また、弁護士名で通知が届くだけで、相手が支払いや交渉に応じるケースもあります。
和解に至れば早期解決につながることも多く、結果的にコストや労力を抑えた回収が可能になります。
債権が回収できるか不安な方、訴訟を起こすべきか迷っている方は、まずは弁護士にご相談ください。
早い段階で適切な判断をすることが、確実な回収への第一歩です。









