最終更新日:2026年4月30日
「試用期間中であれば容易に退職させられる」
そう考えている経営者や人事担当者は少なくありません。しかし、これは大きな誤解です。
日本の労働法では、試用期間中であっても従業員は手厚く保護されており、解雇や本採用拒否には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められます。
適切な手続きを踏まずに解雇を進めると、後に紛争に発展し、解雇無効・バックペイ(解雇期間中の賃金全額)の支払いを命じられるリスクがあります。
本記事では、試用期間中の解雇・本採用拒否について、認められる場合と認められない場合の具体例を挙げながら、会社側の立場から弁護士が解説します。
目次
1. 試用期間とは
試用期間とは、新たに採用した従業員の能力・適性・勤務態度などを、実際の業務を通じて見極めるために設けられる期間です。多くの企業では3か月から6か月程度に設定されています。
試用期間の法的性質について、最高裁判所は「解約権留保付労働契約」であると判示しています(三菱樹脂事件・昭和48年12月12日判決)。
これは、労働契約自体は入社時点で成立しているものの、試用期間中に「従業員としての適格性がない」と判断した場合には、会社側が契約を解除できる権利(留保解約権)を持った状態を指します。
重要なのは、この留保解約権はあくまで「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がある場合にのみ行使できるという点です。試用期間中であることは、自由に解雇できる根拠にはなりません。

2. 試用期間を設けるメリット
採用面接は限られた時間の中で行われるため、志望者の本来の能力や職場への適性を十分に見極めることは困難です。試用期間を設けることで、実際の業務を通じて能力・協調性・健康状態などをじっくり観察し、本採用の可否を慎重に判断できるようになります。
また、試用期間中は留保解約権があるため、本採用後の解雇と比べると、解雇が認められる範囲が相対的に広いとされています。とはいえ「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要であることに変わりはなく、「試用期間だから何でも解雇できる」という認識は禁物です。
3. 試用期間中の解雇と本採用拒否の違い
「試用期間中の解雇」と「本採用拒否」は、いずれも試用期間中の従業員との労働契約を終了させるという点では共通していますが、そのタイミングと有効性の判断基準に違いがあります。
3.1 試用期間中の解雇
試用期間中の解雇とは、試用期間が満了する前に、途中で雇用を終了させることです。たとえば試用期間が3か月の場合に、入社1か月の時点で解雇するケースがこれにあたります。
裁判例では、期間途中の解雇には「期間満了時の本採用拒否よりも一層高度の合理性と相当性」が求められると判断されています。試用期間は本来、その期間全体を通じて従業員の適性を判断するために設けられるものだからです。
期間を途中で打ち切るには、「残りの試用期間を待つまでもなく、改善が見込めない」と客観的に判断できるだけの重大な事由が必要となります。
3.2 試用期間中の本採用拒否
試用期間中の本採用拒否とは、試用期間が満了するタイミングで、翌日以降の正式採用を見送ることです。法的性質は解雇にあたるものの、試用期間の全期間にわたって観察した結果としての判断であるため、期間途中の解雇よりも有効性が認められやすい傾向にあります。
ただし、理由もなく本採用を拒否することは認められません。試用期間満了まで観察したからこそ得られた客観的な根拠に基づき、慎重に判断する必要があります。
4. 本採用拒否の可否
解雇が有効とされるためには、留保解約権の趣旨に照らして「客観的に合理的な理由」があり、かつ「社会通念上相当である」と認められる必要があります。
ここでは、解雇が認められやすいケースと、無効とされるリスクが高いケースを具体的に整理します。
4.1 本採用拒否ができる具体例
次のようなケースでは、解雇や本採用拒否が有効と判断される可能性があります。
4.1.1 重要な経歴・資格の詐称が判明した場合
採用の判断に直結する学歴や職歴、資格、犯罪歴などについて虚偽の申告をしていた場合、本採用拒否が有効と認められる可能性が高まります。
重要なのは、それが「詐称がなければ採用されなかった」と客観的に判断できる程度の重大なものであるかどうかです。
たとえば、資格がある専門職として採用したにもかかわらず、実際には必要な資格を持っていなかったケースがこれにあたります。採用に影響しない些細な誤りや記載漏れ程度では、本採用拒否は認められないことが多いでしょう。
4.1.2 著しい出勤不良が改善されない場合
正当な理由のない無断欠勤や頻繁な遅刻・早退を繰り返し、会社が注意・指導をしても改善されない場合です。
一般的に出勤率が8〜9割を下回るようなケースや、無断欠勤が続く状況では、社会人としての基本的な規律を欠くものとして本採用拒否が認められやすくなる傾向です。
ただし、数回の遅刻で本採用拒否するのは相当性を欠くと判断される可能性が高いため、指導の記録や勤怠データといった客観的な証拠を残しておくことが重要です。
4.1.3 著しい能力不足・協調性の欠如が明らかな場合
業務上の重要な指示に繰り返し従わない、上司・同僚との関係が著しく悪く業務に支障をきたしている、または採用時に期待した能力が著しく不足しており改善の見込みがないと判断できる場合です。
特に即戦力として採用した中途採用者が期待したスキルをまったく発揮できない場合は、本採用拒否が認められる余地が生じます。
ただし「著しい」不足であること、かつ十分な指導を経てもなお改善がないことが大前提です。協調性については判断が難しく、単に「上司と合わない」「周囲との相性が悪い」という程度では認められません。
4.2 本採用拒否ができない具体例
一方で、次のような場合は解雇や本採用拒否が無効とされるリスクが非常に高く、注意が必要です。
4.2.1 十分な観察・指導をしないまま「能力不足」と判断した場合
試用期間を大幅に残した段階で、具体的な指導も改善の機会も与えないまま「能力が足りない」という理由だけで解雇しようとするケースです。
解雇の有効性は、会社が従業員に改善の機会を十分に与えたかどうかにも左右されます。改善の機会を与えないまま行った解雇は、不当と判断される可能性があります。
特に新卒採用者については、業務経験が不足していることは採用時点で織り込み済みです。十分な教育・研修なしに能力不足を理由とする解雇はまず認められないと考えるべきでしょう。
4.2.2 主観的・抽象的な評価しかない場合
「上司と合わない」「社風に馴染めない気がする」「なんとなく期待と違う」といった主観的・感情的な評価を理由とする解雇や本採用拒否は、客観的な合理性を欠くとして無効とされるリスクが高いです。
会社が正当性を主張するには、「いつ・何をした・どのような問題が生じた」という具体的な事実を記録した客観的な証拠が不可欠です。印象や感覚だけで解雇や本採用拒否に踏み切ることは避けてください。
4.2.3 法律で禁止されている事由
国籍や信条、社会的身分、性別、妊娠、出産、労働組合活動などを理由とする解雇や本採用拒否は、試用期間中であるかどうかにかかわらず法律によって明確に禁止されています。
これらの事由が少しでも関係していると疑われる状況での解雇や本採用拒否は、会社にとって非常に重大な法的リスクを伴います。
5. 試用期間中の解雇や本採用拒否のポイント
解雇や本採用拒否を有効に行うためには、正しい手順を踏むことが不可欠です。解雇理由に正当性があっても、手続き上の不備があればその有効性が争われる可能性があります。「理由は十分あるはずなのに解雇が無効になった」というケースの多くは、手続きの問題です。
5.1 指導・改善を試みる
問題行動や能力不足が見られる場合は、まず具体的な注意・指導を行い、改善の機会を与えることが大前提です。
指導の内容(いつ・誰が・何を指示したか)と従業員がどのように反応したかを文書として記録に残しておきましょう。
このプロセスが、解雇の有効性を裁判所に示す上で最も重要な根拠となります。口頭での指導だけでは「言った、言わない」になりかねず、書面での指導書・注意書の交付が推奨されます。
5.2 客観的な証拠を集める
注意指導の記録、出勤簿・タイムカードの写し、業務上のミスを記録した書類、面談の議事録など、問題行動や能力不足を証明できる客観的な資料を保存しておくことが重要です。
「漠然とした能力不足の印象」では裁判では通用しません。第三者が見ても納得できる具体的な事実の積み重ねが不可欠です。証拠の収集は解雇を決断する前から始めておくことが、後のトラブル防止につながります。
5.3 30日前の予告(予告手当の支払)
試用期間開始から14日を超えて雇用している従業員を解雇する場合、労働基準法20条 に基づき、少なくとも30日前に解雇予告を行うか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。
なお、雇い入れから14日以内であれば、解雇予告も予告手当の支払いも不要とされています(労働基準法21条 )。ただし、解雇するための「客観的に合理的な理由」が必要である点は14日以内であっても変わりません。
5.4 通知書の交付
解雇の意思表示は口頭でも法律上有効とされていますが、後の「言った、言わない」というトラブルを防ぐため、書面(解雇通知書)で行うことを強く推奨します。
通知書には、解雇対象者の氏名、解雇日、解雇理由を具体的に記載し、本人が確実に受け取ったことを確認できる形(手渡しと受領サインなど)で交付してください。
また、従業員から請求があった場合は、解雇理由を記載した証明書を遅滞なく交付する義務があります(労働基準法22条 )。
5.5 離職票発行などの手続き
解雇後は、社会保険・雇用保険の資格喪失手続きを速やかに行い、従業員から請求があれば離職票を交付してください。
離職票は、退職した従業員が失業給付を受けるために必要な書類です。また、源泉徴収票の発行や住民税の切り替え手続きも忘れずに行いましょう。

6. よくあるご質問
ここでは、試用期間中の解雇や本採用拒否についてよくいただくご質問にお答えします。
6.1 試用期間中の解雇では、解雇予告手当は必要?
雇い入れから14日以内であれば、解雇予告も解雇予告手当の支払いも不要です(労働基準法21条 )。この14日間の計算は入社日を1日目として数えます。
ただし、15日目以降は通常の解雇と同様に、30日前の予告または30日分以上の平均賃金の支払いが必要になります。
6.2 試用期間の一般的な長さは?
一般的には3か月から6か月程度に設定している企業が多いです。
業種や職種によって異なりますが、「従業員の適性を十分に見極めるのに必要かつ合理的な期間」として設定することが重要です。根拠なく長期間に設定することは、公序良俗違反で無効となるリスクにつながります。
6.3 試用期間に上限の長さはある?
労働基準法上、試用期間の長さに関する具体的な制限は設けられていません。ただし、判例法理によって「合理的範囲」という枠組みで上限が画されています。
裁判例によれば、試用期間中の労働者は解約権が留保された不安定な地位にあるため、労働能力や勤務態度を評価するのに必要な「合理的範囲」を超えた長期の試用期間の定めは、公序良俗(民法90条 )に違反し無効であると判示されています。
たとえば、見習社員として最長1年3か月、その後試用社員として最長1年という、合計最長2年3か月に及ぶような制度が無効と判断された例があります。
実務上の目安としては、当初の期間と延長期間を合算して最長でも1年以内にしましょう。1年を超える場合は、その必要性について合理的な説明ができるよう準備しておくことが紛争予防の観点から重要です。
6.4 試用期間を延長できる?
試用期間の延長は、一定の要件を満たす場合に認められますが、会社が自由に行えるわけではありません。
延長が認められるのは原則として、就業規則や労働契約に「延長の可能性」「延長事由」「延長期間」が明記されている場合に限られます。
また、就業規則や労働契約に規定がある場合でも、延長には合理的な事由が必要です。裁判例では、病欠などにより当初の試用期間内では適格性の判断を尽くすことが困難であった場合や、即座に本採用拒否とするのではなくさらに改善の機会を与えて適格性を見出そうとする場合などが、合理的事由として認められています。
一方、会社側が十分な調査を尽くしていない状況での安易な延長は認められないと判断されるケースもあるため、注意が必要です。
延長期間の上限については、当初の試用期間と延長期間を合算して通算1年以内に収めることが、公序良俗違反を避けるための実務上の目安です。延長を行う際は、延長期間・延長理由・評価基準を書面で従業員に明示することが、後のトラブル防止の観点から強く推奨されます。
6.5 通常の解雇と試用期間中の本採用拒否はどちらが認められやすい?
試用期間中の本採用拒否(解雇)は留保解約権の趣旨から「通常の解雇よりも広い範囲で認められる」とされています。
しかし実際には、能力不足を理由とした試用期間中の解雇が無効とされ、会社が多額の賃金支払いを命じられるケースも少なくありません。
「試用期間中であれば解雇は簡単」という認識は危険です。
なお、解雇がリスクの高い選択肢となる場合には、退職勧奨(任意の退職を促す方法)を検討することも有効です。ただし退職勧奨にも適切な進め方があり、行き過ぎると違法なパワハラと認定されるリスクがあるため、実施前に弁護士に相談することをおすすめします。
7. まとめ:悩んだら弁護士に相談
試用期間中の解雇(本採用拒否)は会社に認められた権利ですが、その行使には法的なリスクが伴います。特に期間途中の解雇はハードルが高く、客観的な証拠が不十分なまま進めると、労働審判や訴訟に発展し、解雇無効・バックペイの支払い命令という最悪の結果につながりかねません。
解雇を有効に行うためには、①具体的な問題行動の記録、②十分な指導・改善機会の付与、③適切な解雇手続き、という三つのステップを確実に踏むことが不可欠です。一つでも欠ければ、たとえ正当な理由があったとしても法的な効力が否定されるリスクがあります。
「この従業員を本採用してよいか判断に迷っている」「解雇に踏み切る前に法的リスクを確認したい」「すでにトラブルが生じてしまった」といったお悩みをお持ちの方は、早めに弁護士にご相談ください。
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